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祖母・昭子 その後
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:SM・調教 官能小説   
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1:祖母・昭子 その後
投稿者: 雄一
「凄い人ね…」
 「だから近場の神社でいいといったのに」
 「いいじゃない。あなたも私も東京っ子なのに、日本一の明治神宮に一度もお参りして
ないんだから。それに…」
 「え?何だって?」
 「来年の雄ちゃんに栄光がありますように」
 「栄光って?」
 「東大の入学試験に合格しますようにって、日本一の神様にお願いするの」
 「あ、あれはだな…ものの弾みでいっただけで…」
 「だめっ。指切りして約束したんだから」
 明治神宮の入り口から御社殿までの参道は、大晦日のこの夜、当然のように人、人、人
でごった返していた。
 紀子に無理矢理誘われて、僕は彼女が言うように、まだ一度も来たことのない明治神宮
に来ていた。
 一ヶ月ほど前、奥多摩の祖母の家で、初めて紀子を抱いた時、その後の寝物語で、
 「俺、まだ将来の夢なんて何もないんだけど、何かのテッペンに立ってみたいから、東
大でも狙ってみようかな?」
 と何の脈絡も、勿論、見込みもなしに、ぼそっと言ってしまったことを、紀子のほうが
真に受けてしまって、喜色満面の笑顔で僕に抱きついてきたことを、大晦日のこの日まで
引き摺ってきているのだ。
 後で、冗談だよ、と何度も訂正と取り消しの言葉を言ったのだが、紀子はまるで聞く耳
を持とうとしなかった。 
 今夜のここへの参拝をいい出したのも紀子で、まるで大奥のお局にでもなったように、
僕に自宅まで迎えに来させ、人で混雑するに決まってる大晦日の、中央線から山手線の電
車内でも、人混みと痴漢から自分を守れと言ってきたり、言いたい放題、したい放題の有
様だった。
 自惚れていうのではないが、紀子をほんとの女性にしてやったのは僕のほうで、もう少
ししおらしくなるのかと思っていたら、真逆の結果になってしまっていて、人生経験のま
だ浅い僕は、女ってわからん、と思うしかなかった。
 それにしても、この人の多さはまるで東京中の人が全部集まってきているような喧噪さ
で、僕は早く退散したい思いで一杯だったが、紀子のほうは僕の片腕を両手で痛いくらい
に掴み取ってきていて、
 「お前、そんなにくっついてくるなよ」
 とぼやきながら僕がいうと、
 「恋人同士だからいいじゃん」
 と悪戯っぽく白い歯を見せて笑ってくるだけだった。
 少し前にあった紀子の両親の離婚問題も、不倫騒動を起こした父親のほうの全面的謝罪
を母親が、娘のためにと渋々ながら許諾したことで、元の鞘に戻ったようで、その頃は半
泣き状態だった紀子も、生来の小煩い小娘に完全復活していた。
 紀子との東北への一泊旅行も滞りなく済ませていて、仙台のシテイホテルで、僕は彼女
とベッドを共にしていた。
 僕の祖母のように、長い人生を経験を踏まえた官能的な深さは無論なかったが、清流の
川で弾け泳ぐ若鮎のように清々しさに、他の女性の時にはないような感動にまたしても取
り込まれ、早々の撃沈に陥っていた。
 ひたすら陸上競技に打ち込んできている、紀子自身は自分の躍動的な身体の特性にはま
だ気づいてはいないようで、
 「私たちってまだ十六なのに、こんなことばかりしてたら、不純異性交遊か淫行罪で逮
捕されない?」
 などと無邪気な顔をして言ってきたりするのだ。
 押し競饅頭のような身動きできない人混みの中で、紀子は最後まで僕の腕を、両手で強
く掴み取ったまま、どうにか本殿の参拝所の前に辿り着き、僕は型通り五円玉を、紀子は
と見ると、硬貨で一番大きい五百円玉を惜しげもなく投入していた。
 騒然とした人の群れの声と熱気の中で、
 「これ、私からの雄ちゃんへの投資だからね。これから受験勉強頑張ってね」
 と横の何人かが振り返るような、大きな声を張り上げて言ってきた。
 そう言われても、半分は口から出まかせで出た言葉だし、僕には自信の欠片すらなかっ
たので、曖昧な笑顔を見せて曖昧に頷いてやるしかなかった。
 大鳥居を抜けようやく境内の外に出ても、駅のほうから歩いてくる人の波は引きも切ら
なかったが、僕はそこで奥多摩の祖母の顔を、はたと思い出した。
 毎年のことだが、大晦日の新年のカウントダウン前後には、いつも祖母に電話をするの
が僕の慣例になっていた。
 スマホで時刻を見ると、零時に七分前だった。
 「婆ちゃんに電話したい」
 まだ僕の腕から手を放さずにいる、紀子に独り言のように言って周囲を見廻したが、ど
こも蟻の群れのような人だかりで、静寂なスポットなどどこにもあるわけがなかった。
 かまわずに、スマホの画面に祖母の番号を出し、発信ボタンを押すと、やはり一回のコ
ールで祖母が出た。
 「雄ちゃん…」 
 周囲の喧騒の中でも、祖母のもう泣き出しそうな声が、はっきりと聞こえた。
 「婆ちゃん、今、明治神宮に来てる」
 片方の耳を抑えて、僕も精一杯声を張り上げて祖母に言った。
 横にいる紀子と初めて契りを交わした翌日に、雑貨屋の前の無人駅で言葉を交わして以
来、長い間、会ってはいない、祖母の色白で小さな顔が僕の脳裏に、懐かしくそして妙に
物悲しげに浮かんだ。
 あの時は紀子も一緒だった。
 二人はともに笑顔で言葉を交わしてはいたが、十六と六十代の女同士の瞬時の視線の交
錯に、鈍感な僕でも気づくくらいの、小さな火花のようなものが散っていたのを思い出し、
僕は思わず目を瞬かせた。
 若い紀子はともかくも、年齢を重ねている祖母の女の勘は鋭い。
 僕ら二人を駅で見送り、帰宅した祖母はきっと何かを嗅ぎ取るような、そんな気が僕は
していた。
 狭い歩道を歩く人だかりの中で、カウントダウンを叫ぶ声が合唱のように聞こえてきた。
 「婆ちゃん、おめでとう!」
 零時になった時、僕はありったけの声でスマホに口を寄せて叫び、横にいる紀子に目を
向けた。
 紀子の少し大人ぶって化粧した、艶やかな顔がいきなり僕の顔の前に近づいてきて、周
囲の人だかりを気にもせず、大胆にも唇に唇を強く押し当ててきた。
 耳に当てたスマホから、祖母のおめでとうの声がどうにか聞こえたが、紀子の思いがけ
ない行動に、僕の気持ちは完全に奪われていた。
 僕のマフラーの上に手を廻してきて、重なった唇は十秒近く離れなかった。
 唇が離れてすぐに、
 「冬休みの終わりに、また行くね」
 と祖母に声を張り上げて言って、僕はスマホのオフボタンを、慌てた素振りで押して、
改めて紀子の顔を見た。
 「おめでとう。これ私の新年のサービス。…それと」
 「何…?」
 「あなたのお婆ちゃんへの、小さなジェラシー」
 歩道の雑多な流れの一部を止めるように、紀子は少し上気した顔で、僕を本気とも冗
談ともつかぬ顔で見つめてきていた。
 祖母とのことについては、紀子には絶対に話せない、大きな秘密を抱えている僕は背
筋を少しヒヤリとさせながら、それでも普通の顔で彼女の目を見返した。
 「年越し蕎麦食べよ」
 紀子は明るい声でそう言って、まだまだ人通りの絶えない歩道を、原宿のほうに向か
って歩き出した。
 腕はしっかりと紀子の手で掴まれたままだった。
 若者の街といわれる原宿は、普段の平日でも夜の更けるのは、遅いのが当たり前なの
だが、大晦日のこの夜は、まさに老若男女を問わない人混みで、雑多なネオンも煌々と
していて、元旦の日の出まで、この喧噪は続けっ放しになるのではないかと思えるくら
いの賑やかさだった。
 僕にミノムシのように、しっかりとくっついている紀子からの声も聞き取りにくく、
こちらも大声を出さないと、会話が成り立たない。
 芋洗いの芋になって歩きながら、僕は虫と蛙の鳴き声しか聞こえない、、奥多摩の静
寂の夜をふいに思い出していた。
 綿入れを着込んで、蜜柑の置かれた炬燵の前で、一人静かにテレビの紅白歌合戦を見
入っている、祖母の小さな顔が、僕の目の奥のほうに続いて浮かび出てきて、この冬休
みの最後には、絶対に奥多摩へ行こうと、横の紀子には内緒で、そう決心した。
 
 この二日前の、二十九日の午後、僕は国語教師の沢村俶子の住むマンションにいた。
 前日の夜、高校教師で三十五歳の俶子から、生徒で十六歳の僕に、相談事があるので、
昼前に自宅に来て欲しいとのメールが入っていたのだ。
 (美味しいビーフシチューご馳走するから、明日のお昼前に来て)
 これまでにこのビーフシチューの誘いで、何回のに肉体労働を見返りに強いられてき
たか憶えてないが、続いてのメール送信で、私の結婚のことで…と書かれていたので、
僕は「りょ」と返信して、今、俶子の家のリビングに座っていた。
 「お話は食べてから」
 そういって、俶子はデミグラスソースのいい匂いのする、ビーフシチューと野菜サラ
ダの盛り合わせを目の前に置いてくれた。
 年明けの月末に、俶子は隣の市で同じ教師をしている五つ年下の男性と、晴れて華燭
の典を挙げるのだ。
 そのことは前から知らされていて、僕はこれまでの二人の関係を抜きにして、心から
の祝いの言葉を言って祝福していた。
 「私が高校の時の教頭先生の紹介で、昔風のお見合いみたいな場からお付き合いした
んだけど、高校では化学を教えている人で、真面目一筋で、誰かさんみたいな戸っぽい
面が一つもなくて…面白味には欠けるけど、私もそうそう贅沢言える顔でも年齢でもな
いし、この辺が年貢の治め時かなって思って、プロポーズ受けちゃったの」
 口ではそういいながら、眼鏡の奥の目を艶っぽく緩めたりして、僕に話していたのは、
ついまだ最近のことだった。
 「よかったじゃないですか。先生が幸せになってくれたら僕も嬉しい」
 いつもと違う丁寧語で、僕は俶子に祝福の言葉を送った。
 二人のこれまでの関係は、これで自然消滅ということになるのだったが、僕のほうに
は何の拘りも未練がましい思いもなかったので、
 「明日からは、沢村先生と一生徒に戻って、学校では仲良くしましょ」
 といってやると、俶子は目から涙をぼろぼろと零して、
 「そんなに明るくいわれると、逆にすごく寂しくなるじゃない」
 といって眼鏡を外して、ハンカチで目を拭ってきた。
 その俶子からの誘いが、目の間前のビーフシチューだったのだが、何故かあの時のよ
うな、恥ずかしながらも嬉しそうだった表情ではないようだったので、
 「何かあった?」
 と目ざとく僕は尋ねた。
 俶子の驚きの告白を聞くまで、多少の時間を要したが、話を聞いた僕も暫くは返答の
しようがなかった。
 結婚相手が今になってどうこうというのではなく、相手の父親の実の弟の顔を見て、
俶子は愕然としたというのだった。
 俶子が大学を出て高校の国語教師として、最初に赴任した高校の先輩教師と、何かの
教育セミナーで県外へ一泊二日で出かけた時、新人の彼女に優しく接してくれ、それが
きっかけで男女の関係に陥ったのが、今度結婚することになった相手の叔父になる人物
だったのだ。
 叔父という男は、俶子と関係を持った時にはすでに結婚していて、聡子もそれを承知
で、何年も肉体関係を続けたということのようだった。
 大学を出たばかりでまだ処女だった俶子に、男は縄で全身を縛り付けたりとか、蝋燭
を熱い蝋を身体に垂らしたりとかの、通常ではない行為で彼女を抱き続け、他にも野外
露出を強要したりとか、排尿や排便するところを見られたりと、恥ずかしいことを散々
に彼女の身体に沁み込ませた元凶のような男だった。
 女を女として扱わない、冷徹な甚振りや辱めに、何度も止めてくれるよう懇願し、つ
いには別れ話まで進展したのだが、それまでの恥ずかしい写真を種に、ずっと引き摺った
 その後に、その男は何の病気かは俶子にも記憶はないのだが、職場を休職し一年ほど
病院での入退院を繰り返し、交流は自然消滅のようになった。
 それから何年か後、俶子はある男性と結婚をしたのだが、どういう因果なのか、その
男も彼女の最初の男と同じ異常な性嗜好で、俶子自身は、男というのはみんな同じ性嗜
好者であるという曲がった思い込みが観念的に、身体にも心にも宿りついてしまってい
たということのようだった。
 十日ほど前に、俶子は婚約者から家族と親戚一同が介した集合写真を見せられ、その
時に、自分の処女を捧げた、相手の男の顔を見つけてしまったのだと、聡子は顔面を少
し蒼白にして、僕に話してきたのだ。
 婚約者にその男の今の素性を聞くと、現在は教職員を辞めて妻の父親が経営している
不動産会社に、専務という肩書で勤務しているとのことだった。
 俶子にとって、自分の女としての人生を捻じ曲げた、淫獣のような男が身内にいると
ころへ嫁いでいくのは、屈辱的な人身御供か、悪魔への生贄でしかないというのだった
が、話を聞いた聞いた僕もその通りだと思った。
 しかし、そのことを結婚式を一ヶ月後に控えた婚約者に、正直に告白する勇気は自分
にはないと俶子はいうのだったが、十六の僕には事情が重すぎて、何とも応える術も手
段も思い浮かばなかった。
 見ると、俶子は自分の前に置いたビーフシチューを、一度も口に入れていないようだ
った。
 「いいの。まだ若いあなたに、どうにかしてもらおうなんて思ってないから…ただ、
誰かに聞いて欲しいと思ったら、あなたの顔しか思い浮かばなかっただけなの。気にし
ないでね」
 無理そうな笑顔を見せて、俶子は逆に重々しく顔を沈ませている僕を、歳の離れた姉
のような口調で、慰めるように言ってきた。
 「で、でも、婚約者に黙ったまま結婚したとしても、きっと幸せな結婚生活にはなら
ないと思うけど…」
 正直な僕の気持ちを、僕は声を詰まらせながら、どうにか正直に言った。
 「そうね、余計な不幸者をまた作ってしまうだけかもね。ありがとう、雄一君。いい
意見を言ってくれて…私のこと真剣に考えてくれてるのが、すごく嬉しい」
 俶子のその声が、急に気丈な響きで聞こえてきたので、顔を上げると、
 「あなたの助言で、私、決めたわ。これからもあなたの下部で生きてく」
 と明るい声で言ってきた。
 それもどうか、といおうと思ったが、その時は僕は喉の奥にぐっと詰め込んだ。
 「あ、そうだ。あなた、東大目指すんだって?」
 「えっ、だ、誰に?」
 聞いた瞬間に、犯人が誰かすぐにわかった。
 あのバカ、と腹の中で僕は舌打ちしていた。
 「いいことよ、あなたなら一生懸命頑張ったら行けると思う。私も全面的に応援する
からね」
 「どうかな?…僕の学力は片輪みたいなものだから…」
 「数学がまるで弱いもんね」
 「弱いなんてもんじゃない。それにしても、あのクソバカ」
 「いいじゃない。彼女、すっごい嬉しそうな顔していってたよ」
 「女の口軽は最低だ」
 「未来の奥さんになる人を、そんなに言うもんじゃないわ」
 「えっ、そ、そんなことまで、あいつ」
 ほどなくして、僕と俶子はいつもの決まりごとのように、彼女の室のベッドにいた。
 どうしようもないお喋り娘への、僕の憤怒はまだ収まってはいなかったが、聡子のほ
うは、僕との対話で気持ちがすっきり振り切れたのか、
 「どこで誰と浮気してたのか、この僕ちゃんは」
 聖職の人とは思えないような、艶めかしい目をこちらに向けてきていた。
 着ていたセーターとスカートは、すでにカーペットの下に落ちて包まっている。
 紺色のブラジャーと揃いのショーツが、僕自身も久しぶりに見る白い裸身に好対照に映
えて、若い僕の下腹部の一ヶ所に集中し始めていることを知らされていた。
 「俺が欲しいか、叔母さん?」
 僕は徐に俶子が仰向けになっているベッドに駆け上がり、その場で身に付けていた衣服
のすべてを脱ぎ晒して、両足を少し拡げて仁王立ちの姿勢をとった。
 「叔母さん、そんなとこで偉そうに寝そべってんじゃないよ。お前の一番欲しいものに、
きちんと挨拶しろよ」
 急に芝居がかった声で言う僕の意を理解したかのように、俶子も眼鏡の顔を真顔に引き
締めてきて、おずおずとした動作で上半身を、ベッドから起こしてきた。
 どこでどういうスイッチが入ったのか、僕自身もわからないでいたが、俶子の身体への
嗜虐の衝動がどこからともなく湧き上がってきていた。
 十六の自分よりも二十近くも年上のこの女には、何をしても許される、という妙な自惚
れめいたものが、聡子と知り合った頃から漠然とだがあった。
 僕の二面性の性格の裏側にある、嗜虐の嗜好と、俶子のこれまでの、ある意味、不幸な
男性遍歴で知らぬ間に培われていた、被虐の思いが、歯車の歯が噛み合うように合致して
いるのかも知れなかったが、とにかく僕自身が淫猥な気持ちになってくるのは事実だった。
 ベッドに座り込んだ俶子の顔のすぐ前の、僕の下腹部のものはすでに半勃起状態になっ
ていた。
 俶子の両手がそこへ添えられてきて、間髪を置かず彼女の赤い唇が半開きになって、僕
の股間に迫ってきた。
 濡れて生温かい感触が心地よかった。
 俶子の身体を抱くのはいつ以来だろうと思い返しながら、僕は背中を少し屈めて、彼女
のブラジャーのホックを外しにかかっていた。
 室には暖房が入っていて温かかったが、聡子の背中はそれだけではない汗のようなもの
で肌は湿っていた。
 僕の下腹部のものは、俶子の口の中で早くも臨戦態勢を整えていて、学校のグラウンド
にある鉄棒のように固く屹立していた。
 満を持した態勢で、僕は俶子の口から刀を抜くように、唾液でしとどに濡れそぼった屹
立を抜き、彼女の上体をベッドに押し倒し、小さな布地のショーツを一気に剥ぎ取り、熟
れて脂の乗り切った太腿を大きく押し広げて、自分の身体をその間に割り込ませた。
 「ああっ…う、嬉しい!」
 感極まったような声でいいながら、聡子は僕の両腕を両手でがっしと掴み取ってきた。
 俶子の大きく拡げられた、股間の漆黒の下に目をやると、薄黒い肉襞が開いていて、そ
の中の濃い桜色をした柔らかな肉が、滴り濡れているのがはっきりと見えた。
 僕は固く怒張しきった自分のものに手を添え、狙いを定めるようにして、濃し全体を前
に押し進めた。
 「あ、ああっ…す、すごい!…は、入ってきてるわ…ああっ」
 久し振りに聞く俶子の咆哮の声は、室一杯に響くくらいに大きくけたたましかった。
 僕の腕を掴み取っている彼女の手の指も、痙攣を起こした人のように強い力が込められ
てきていた。
 じわりと締め付けるような圧迫の間に、三十五歳の女の身体から発酵したねっとりとし
た脂が潤滑油のようになって、俶子の胎内に僕のものは深く沈み込んだ。
 僕の腰が動くと、その潤滑油は温みのある摩擦を、僕のものに心地のいい刺激となって
与えてきて、俶子は俶子で僕の腰の淫靡な動きに幾度となく呼応し、眼鏡の奥の目を瞬か
せ、喘ぎと悶えの声を間断なく挙げ続けたのだった。
 「は、恥ずかしい…こ、こんな」
 「俶子の顔がしっかり見れるから、俺は好きだよ」
 僕はベッドに胡坐座りをして、俶子と胸と胸を合わせて重なるように抱き合っていた。
 俶子が汗に濡れそぼった裸身を晒して、僕の腰に跨り座っていて、重なった腰の下で、
列車の連結器のように、二人の身体は深く繋がっていた。
 顔と顔が否応もなく触れ合い、相手の息遣いまではっきりと聞こえるほどに密着してい
て、俶子の胸の膨らみの柔らかな感触が、汗に濡れた僕の胸に心地よく伝わってきていた。
 「あ、あなたの汗の匂いって、いい匂い」
 「俶子の女の匂いも、俺は好きだよ」
 「わ、私って、悪い女?」
 「どうして?」
 「の、紀子さんのこと知ってて…こんな」
 「そしたら、俺は大悪党だ」
 「大悪党でも好き!…キスして」
 お互いの歯と歯のぶつかる音が聞こえるくらいに、僕は唇を強く俶子の唇に重ねていっ
た。
 閉じた口の中に広がってくる、俶子の息が、燃え上った身体の熱の上昇を訴えるように、
ひどく熱っぽかった。
 結果を先にいうと、国語教師の俶子とその教え子の僕との、身体の交わりはその日が最
後になった…。



                          続く
 
 

 
 
 

 
 
 
 
 
 

 
 
 
2023/06/01 13:19:07(.AwPQuri)
42
投稿者: 雄一
多香子との待ち合わせ場所は、益美の家のある田園調布駅にした。
 それを電話で告げると、多香子は少し訝ったような声で、
 「えっ?」
 と言って、もう一度聞き直してきたが、
 「わかりました」
 と少し緊張したような声で返してきた。
 改札口で六時の待ち合わせだったので、三十分前に田園調布駅に行くと、多香子がもう先に
来ていたのには、僕も少し驚かされた。
 丈の短い、真っ白な毛皮のコート姿で、駅舎の柱の陰で、手袋をした手に息を吹きかけるよ
うに口に当て、少し不安そうな顔で改札口のほうを見ていたが、僕の顔を発見すると、子供の
ように破顔一笑して、駆け寄ってきた。
 モデルのような細身の体型で色白の、際立った綺麗さの多香子の顔を見て、何人かの乗降客
が思わず足を止めたり、目を瞬かせたりしているのが見えた。
 「やあ」
 気さくに手を上げて、多香子に近づくと、何とも言えない香水のようないい匂いが、僕の鼻
孔を柔らかく刺激してきた。
 「駅が表と裏と二つあるでしょ。どちらが表でどちらが裏かわからなかったから、とても心
配だったけどよかったわ」
 安堵したような声でそういって、無意識に僕の片方の手首を掴んでくるのは、どこか紀子に
似ていた。
 僕も無意識を装って、多香子の白いコートを抱くようにして、駅舎の外に出た。
 先に食事をということになって、駅前通りを歩き出したところで、
 「俺もね、場所をここにしたのはいいんだけど、実をいうとほとんど来たことないんで、美
味しいレストランとか、あまり知らないんだ」
 正直に告白すると、
 「一緒に歩いて探しましょ。こうして歩けるだけで、私嬉しい」
 陽は早くに沈み切っていて、冬の夜の冷気が降り注いできている感じだったが、多香子の香
水らしきいい匂いのせいもあって、あまり寒さを感じることなく、都心の繁華な駅前通りとは
趣のまるで違う通りを、僕と多香子は、まるで深い恋人同士のように歩いて、一軒の小洒落た
外装のレストランに入った。
 場所柄か、やはり木目と煉瓦をうまくあしらった、ヨーロッパ風の凝った内装のレストラン
で、メニュー表も横文字ばかりだったので、オーダーは、こういうことには慣れている多香子
に全部任せた。
 テーブルを前にして、真正面から多香子の色白の顔を見ると、どう見てもまだ二十歳前の年
齢とは思えないくらいに、大人びて見えた。
 多香子が注文した料理が運ばれてきたが、そのどれ一つも僕には料理名がわからなかったが、
味は格別なものだった。
 「ね、ワイン飲みましょうか?」
 白い歯を妖艶に見せて、多香子が悪戯っぽい顔で言ってきた。
 僕の身なりは青のダウンジャケットに、紺の丸首セーターにジーンズという、未成年そのま
まの出で立ちだったが、白地に明るい花柄模様の入ったワンピース姿の多香子は、誰が見ても
未成年には見えなかったので、
 「俺はいいから、飲んだら?」
 と返してやった。
 外に出るとすっかりと夜の帳が降りていて、通りの店々のネオンの灯りが、一層明るく映え
て見えた。
 益美の家の前まで来た時、多香子の目の表情が変わった。
 ここまで歩いてくる道すがらで、自分の母親の大学時代からの長い親友の家で、たまたまそ
の人が仕事もあって、今朝から北海道に一泊の予定で出かけたので、自分に留守番の用明が下
ったので、多香子との会う約束を、ここで果たすことにしたと、僕は昼間、学校で考えた嘘を
臆面なく喋り続けたのだ。
 玄関の鍵の置き場所は、前夜の益美との電話の時に聞いてあったので、そこから鍵を取り木
製の重厚な玄関戸を開け、僕は多香子を中へ招き入れた。
 多香子を広い応接間に通すと、
 「冷蔵庫に色々、飲み物入っているから、遠慮しないで出して飲んでいいよ。あ、俺にもミ
ネラル出してくれるかな」
 僕は鷹揚な態度でソファに座り込んで、まだ戸惑いの表情でいる、多香子の気持ちを和らげ
るように言った。
 「ここの住人って、女の人一人でね。僕も小さい頃からずっと来てて、今も月に一回は遊び
に来てるんだ」
 他人の家に来た多香子は、僕の言葉を鵜呑みにするしかなく、ダイニングに行って冷蔵庫か
らミネラルウォーターのペットボトルを出し、ガラスコップに入れて、ソファのガラステーブ
ルに置いて、僕の横にまだ多少、不安げな表情のまま座り込んできた。
 「多香子、もっと正直に話すね。…実を言うと、ここの住人の女の人と、俺の間には肉体関
係があるんだ。君には嫌われるかも知れないが、本当の俺を知ってほしくてな。ここの住人っ
て、年齢は四十五歳だ。二人の間に、さすがに愛とかいうそんなものはないが、その人は俺の
本性っていうか、人には話せない、嗜虐的な性格も理解してくれて、何をしても許してくれる
んだよ。こんな、たかだか十六の俺の言うことをだよ。とても君には話せないようなことまで、
俺はしている。そのことを君に知ってほしかった。結果的に、俺は君を騙し討ちにしたような
もんだ…」
 ここを先途として、僕は半分酔ったような気持で、滔々と喋り続けた。
 これで多香子が僕に幻滅を感じてくれたら、それはそれで彼女への仕置きにもなるのだと、
僕なりには達観していた。
 僕が多香子が用意してくれたミネラルを、喋りながら飲み干すまで、彼女は真顔になって、
食い入るような眼差しで聞き入ってくれた。
 僕の話を聞いて、多香子が幻滅と一緒に、嫌悪と憎悪の気持ちを抱いてくれて、そのまま
この家を出て行ってくれたら、それはそれで僕にとっては、一つの成果とも言えた。
 言うならば、自らの恥部を晒して実を取るという、肉を切らして骨を切る的な発想だった
が、ある程度を喋り終えて、多香子の目を見た時、僕は瞬間的にある種の違和感を抱くこと
になった。
 僕の横に座って、僕の顔を真横から見つめていた、彼女の目の黒く済み切った瞳から、何
かを思い詰めたような、異様な光が爛々と輝き出ていることに、僕はあるところで気づいた
のだ。
 それは自らの恥辱の弁を振るう僕への、当然にあるべき蔑みや嫌悪や愚弄の思いなど何も
ない、夢想か瞑想に酔うような、自分もまるで予期していなかった、多香子の表情だった。
 自分の目算の狂いに、僕は薄々ながら気づき出していたが、ここで気持ちを変えるわけに
はいかないと、心の中で奮起し、
 「…嘘でも何でもなく、本当の俺はこんなだからね。すべての男子の憧れの君なんかと、
どこも釣り合いの取れるところなんてないのさ」
 多少、捨て鉢な口調を織り交ぜて言って、改めて多香子に目を向けた。
 多香子の切れ長の、深い憂愁を称えたような目は、僕に何をどう伝えようかと思案してい
る感じに見えた。
 「こっちへ来てごらん」
 僕はソファから立ち上がり、戸惑いの表情をしている多香子の手首を取って、引き連れる
ように応接間から廊下に出た。
 廊下の突き当たりのドアを開けて、多香子の細い身体を押すように中に入れた。
 白いクロス壁に覆われた、十畳ほどのベッドルームで、以前に僕も使ったことのある室だ。
 多香子は怯えたような顔で僕を見つめてきたが、僕はかまうことなく、彼女の手を取った
まま、室の中にあるドアの前に行き、ドアノブを廻した。
 天井からの小さい蛍光灯があるだけで、家具も何も置かれていない殺風景な狭い室だ。
 壁の一面に広い窓があって、そこからさっき見た大きなベッドが丸見えだった。
 僕も入ったことのある覗き部屋だ。
 窓を指さし、
 「マジックミラーだよ。向こうは鏡になっている」
 口に手を当て慄きの表情を見せて、立ち竦んでいる多香子に、
 「ここの住人はね、この室に人を招いて、あのベッドで男に抱かれるんだよ」
 追い討ちをかけるように、僕は意地の悪い目でそういった。
 かたちのいい赤い唇を歯で噛み締めながら、多香子は身を細めるようにして、僕の傍で立
ち竦んでいたが、その黒い瞳の中には、応接間で見た時と同じの、コミックなどでよく描か
れる燃え滾る炎のようなものが、まだ内在している感じに見え、僕は心の中で少し狼狽した
が、それは億尾にも出さず、
 「この前は君の招きで軽井沢だった。言うなら、俺にはアウエーだったが、今日はホーム
だ。どうする?帰るんなら止めないよ」
 また意地悪い目でそう言った。
 「あ、あなたのことを、私に嫌いにならせようとしてるの?」
 少し震え気味の声で、多香子が尋ねてきた。
 「どうとろうと君の勝手だ」
 「じゃ、ここで私を好きなようにしてください」
 「強がってる?」
 返答の代わりに、多香子は細い首を二度ほど振ってきた。
 「わかった。乱暴なことは俺は嫌いだから、向こうのベッドへ行こう」
 僕は自分から先に、狭い覗き部屋を出て、広いベッドにどっかりと座り込んだ。
 おずおずと多香子が付いてきているのは、背中の気配でわかっていた。
 「脱いだら?」
 あっさりとした声で僕は言った。
 僕は表情には出さず、自分の頭の中のモードを正から邪に切り替えていた。
 為さぬ仲の益美のこの家を利用して、学校内で僕のことを、コソコソと素行調査を企てた細
野多香子に義憤を覚え、鉄槌をというのが、元々のきっかけになっていることを、僕は改めて
思い起こして、多香子に故意的に冷ややかな目を向けた。
 僕なりの魂胆と思いやりで、最初にこの室に入った時、暖房のスイッチはぬかりなく入れて
あった。
 ほんの何秒かの躊躇いだけで、多香子は怯えや慄きの表情は一切見せず、目を窓側のほうに
向けて、白地に赤い花柄模様のブラウスの、前ボタンを外しにかかってきた。
 濃い小豆色のブラジャーの肩紐が、抜けるような白さの肌と一緒に見えてきた。
 若気の至りで、僕の下半身は微かに微妙な反応を見せたが、顔だけは平静ぶって、黙ったま
まで多香子を凝視した。
 白過ぎる肌にくっきりと浮き出たように、濃い小豆色のブラジャーがはっきりとかたちを現し、
乳房の膨らみの谷間がはっきりと見えた。
 両方の肩から、ブラウスから滑るように落ちた。
 腰の括れが際立っている分、胸の隆起がマネキン人形のように映えて見えた。
 ブラジャーと対のショーツがパンティストッキングを透かせて、白い肌に小さな三角を、海に
浮かぶ小島のように見せていた。
 「それでいいや。ここに寝て」
 不良じみたような声で言って、僕はベッドの上の上掛け布団を乱暴に捲ってやった。
 多香子は言葉の一つも発さず、僕の横をすり抜けるようにしてベッドに上がり込み、目を少し
閉じ加減にして、仰向けに横たわった。
 多香子は多香子なりに気持ちを決めて、身を処しているという感じだった。
 そこへ僕は痛烈な一言を、敢えて放った。
 「そこで、オナニーして見せてよ」
 これには、それまで冷静そうな顔をしていた多香子の気持ちが、大きくどよめいたようで、キ
ッとした視線を、すぐに僕にぶつけてきた。
 「そ、そんなことしたこと…」
 微かな怒りを滲ませたような、きつい眼差しで僕を睨みつけながら、多香子はくぐもった声で
言ってきた。
 「言葉知ってるってことは、中味も知ってんじゃないのか?」
 冷徹に僕は多香子に問いかけた。
 多香子は反発の言葉に窮したというより、自身の決意を確認するかのような表情になり、何秒
か目を閉じて黙った。 
 「わかりました」
 睫毛の長い目をきりりと開けて、多香子は短く応えてきた。
 多香子の両手が背中のほうに廻り、ブラジャーのホックを外しにかかっていた。
 ブラジャーの布地が緩み、お椀のように丸く膨らんで、弾けそうな弾力が目にもわかる、乳房
が跳ねるように露呈した。
 多香子の片方の手が、露わになった乳房の膨らみに、細長い指を被せるように這わせてきた。
 開いていた目が、羞恥を隠すように薄く閉じられていた。
 赤いマニキュアをしている多香子の細い指が、乳房を下から救い上げるように這ってきていた。
 多香子の真横で膝を崩している僕の耳に、彼女が小さく吐き漏らす息の音が聞こえてきている。
 「お前の身体の匂い、好きだよ」
 耳元に顔を近づけて、僕は生意気な声で囁いてやった。
 その声に多香子は驚き、全身を若鮎のように跳ねさせてきた。
 「ああっ…は、恥ずかしい」
 多香子は、本当に恥ずかしそうに目を固く閉じ、白かった首筋と頬を、忽ち朱色に染めてきて
いた。
 「下のほう、俺が脱がしてやるよ」
 僕はそういうが早いか、多香子の剥き出しになっているパンティストッキングとショーツに両
手をかけ、そのまま一気に膝のところまで引き下ろしてやった。
 多香子の慌てようは尋常ではなく、悲鳴のような声を何度も挙げたが、真からの憤怒の声では
なく、少し強引過ぎた僕の動きへの、驚きの声のようだった。
 「悪かった、もう何もしないから、ゆっくりと自分で気分を昂めてくれ」
 恫喝と労わりを織り交ぜて、僕は多香子に言葉をかけ、どちらが本当の僕なのかわからないよ
うにあしらった。
 事前に考えていたことではない。
 スポーツ選手が勝利した時、身体が勝手に動いたというのと同じで、僕も身体と口が思いも寄
らず勝手に動いただけだ。
 多香子はベッドの上で全裸になっていた。
 ベッドの白いシーツよりも、もっと鮮やかな白い裸身が、奇麗な流線を描いて横たわっていて、
それを見ているだけで、自然に気持ちが昂ってくる感じだった。
 多香子は少し悲しげで恨めしそうな目で、横にいる僕を見つめてきていたが、僕は故意的に表
情のない目を返してやっただけだった。
 多香子の片方の手が、おずおずとした動きで、自分の下腹部の漆黒の繊毛の下に伸びていた。
 指のマニキュアが、柔らかそうな漆黒の茂みの下を、恐る恐るとまさぐるように、妖しげに蠢
めき出していた。
 もう一方の手が、自分の二つの乳房を交互に行き来させたりして、やはりマニキュアの指先で、
小さなサクランボの粒のように、つんと尖った乳首を摘まみ取ったりしていた。
 「ああっ…」
 かたちよく細く尖った顎を、幾度も上下させていた多香子の赤い唇から、昂ったような声が一
定の間隔を置いて、熱い息と一緒に漏れ出してきていた。
 室の暖房が効き出してきているせいか、多香子の額の辺りに汗が滲み出し、前髪の何本かが濡
れて絡んでいるのが見えた。
 多香子は昂った声が大きく高まらないように、口を幾度も閉じたりしていたが、
 「恥ずかしいか?」
 と僕が聞いてやると、
 「は、恥ずかしい」
 と縋るように、僕を半閉じの目で見つめながら応えてきた。
 「もっと俺を興奮させてくれよ。そんなもんじゃないだろ?」
 また意地悪に僕は言った。
 実際は自分のジーンズの中は、かなりの興奮状態になっていたのだが、僕はさらに多香子に過
激性を求めた。
 「続けてろ」
 そういって僕は傍らに小さく包まっていた、多香子の脱いだ小豆色のショーツを手に摘まみ取
って、自分の顔の前に翳した。
 それに気づいた多香子の顔が見る間に朱色に染まり、
 「い、いや…そ、そんなこと」
 と泣き出しそうな声で言って、朱色に染まった顔を、幾度も横に振ってきた。
 僕は多香子のその哀訴を無視して、小さく包まった布地を両手で拡げた。
 濃い小豆色の布地の一点に、濡れそぼったような滲みが見えた。
 濡れたその滲みを中心に、薄白い、やはり滲みが細い線状になって見えていた。
 「は、恥ずかしいっ」
 短く叫ぶように言って、多香子は乳房に置いていた手で顔を覆った。
 そのことが多香子の気持ちを変にしたのか、それからの彼女の自慰行為は、僕も少し驚くくら
いに大胆になってきていた。
 ベッドに仰向けになり、剥き出しの足を閉じ加減に、指を下腹部でまさぐっていたのが、次第
に足が開いてきていて、多香子のマニキュアの指先の動きが、はっきりと見えるようになってき
ていた。
 額に汗を滲ませた、顔の表情も微妙に変化してきていて、輪郭のはっきりとした赤い唇を歪ま
せたり、口を半開きにしたりしてきていた。
 多香子の身体と気持ちのどこかに、スイッチが入ったような感じになっていた。
 さらに足が開き気味になっただけでなく、奇麗な流線型をした上半身も、どこかがむず痒くな
ったように、右左への動きが盛んになり出してきている。
 喜悦の表情を露わにし出していた、多香子の身体が大きく動いてきた。
 身体を俯せにして、両足の膝を立ててきたのだ。
 四つん這いの姿勢で、かたちよく丸くて白い、臀部を突き上げるようにしてきた。
 身体をずらせて、多香子の背後に廻ると、丸く張り切った尻肉と、恥ずかし気に小さく窄んで
いる尻穴の下に、少し色の濃い左右の肉襞が左右に開いて、水滴のような滑りを滴らせて、桜色
の柔肉が垣間見えた。
 下のほうから、多香子の赤いマニキュアの指が、自らの股間を割るように伸びてきて、見え隠
れしている湿りを滲ませた柔肉を、妖しげに這うようになぞってきた。
 くぐもったような喘ぎ声が、多香子の身体の前のほうから聞こえてきていた。
 多香子のその声の妖艶さに刺激された僕は、自分の着ている衣服を忙しなげに脱ぎ出していた。
 最後のトランクスを脱ぎ捨てた時、若い僕の下腹部のものは、当然に臨戦態勢は整っていたが、
気持ちをぐっと引き締めて、目だけを多香子の臀部に集中させた。
 多香子のほうも気づかぬうちに、どこかからレッドゾーンに入っているようで、下腹部に伸ば
してきた、自分の手の動きに連動するように、喉の奥のほうから余韻の残る、喘ぎ声を漏らし続
けていた。
 「ね、ねぇ、雄一さん…み、見て…た、多香子の恥ずかしいところ」
 四つん這いのままの不自由な姿勢で、僕のほうに顔を向けながら、昂ったような声で多香子が
言ってきた。
 「あ、ああ、見てるよ。経験はだいぶんしているようだな?」
 「そ、そんなこと…」
 「結構サマになっていて、慣れた手つきだ。お前みたいな美人がどうして?周りにイケメンが
何人もいたろうに」
 「いや、言わないで。…だ、誰も、あ、あなたみたいに、私を熱くしてくれる人はいなかった
わ…あ、あなただけよ」
 「それは光栄なこった。俺みたいなガキのどこがいいの?」
 「…り、理由なんてないの。さ、最初にあなたの目を見た時と、最初に抱かれた時が…全部が
好きになったの」
 話しながらも多香子の赤いマニキュアは、自らの股間の中心を撫でたり、なぞったりの欲情的
な動きを--- 繰り返していた。
 と、多香子の指の這っている部分から、雨の降り始めの時のように、小さな水滴がシーツに零
れ落ちているのが、僕の目に入った。
 目を凝らして見ると、多香子の爪のマニキュアが、水を浴びた後のように濡れ滴っているのが
はっきりと見えた。 
 濡れているのはマニキュアだけではない。
 多香子の手の全部が、正しく水で洗った後のように濡れそぼっていた。
 そのことに多香子自身も気づいたのか、顔をまた苦し気に僕のほうに向けて、
 「ね、わ、私の…こ、こんな私のこと嫌いにならないで」
 今にも泣き出しそうな声で訴えてきた。
 「多香子がよけい好きになったよ」
 そう言ってやると、多香子は白い歯を覗かせ、ひどく安堵したような表情を見せた。
 僕のほうで、今日の多香子と会うことで、一つだけ考えていたことがあった。
 僕のその卑猥な思惑の視線は、多香子の小さく窄んでいる薄白い尻穴に向いていた。
 多香子が喘ぐ声を出すと、窄んだ尻穴がひくひくと、何かに慄くように震え動くのに、何気に
気づいた時、僕はふいに国語教師の俶子のことを思い出していた。
 いつだったか、俶子の尻穴を犯した時のことが、何の予兆もなく浮かび出てきたのだ。
 連鎖的にマヨネーズが、頭に思い浮かんだ。
 「ちょっと待って」
 慌てて僕はベッドから飛び降り、脱兎の如くダイニングに走った。
 室に戻ると、多香子がベッドから怪訝そうな顔で聞いてきた。
 「どうしたの?」
 ダイニングに取りに行ったモノを、腰の後ろに隠して、
 「何でもない」
 と惚けてベッドに上がった。
 幸いにというか、多香子はまだ四つん這いの姿勢だった。
 少し水を差した気がしたので、僕のほうから、多香子の突き出された臀部に顔を近づけていき、
肉襞で見え隠れしている桜色の柔肉に、押し付けるようにして舌を突き出していった。
 匂いのほとんどない多香子の滴りを、僕が舌で啜り取るようにしてやると、彼女は一際高い声
を挙げて、顔をベッドのシーツに埋め込んだ。
 「多香子が欲しい」
 少し大仰な声で僕はそういって、自分の姿勢を変え、多香子の臀部の前に膝を立てた。
 僕の下腹部の若い欲望は、早くから臨戦態勢のままで、萎えてはいなかった。
 「欲しい、あ、あなたが欲しいっ」
 多香子も応戦の気持ちは充分のようだった。
 多香子のその部分の、最初の柔らかな圧迫が、僕のものの先端を心地よく擽ってきて、続いて
の深い圧迫へ優しく誘ってくれている感じがした。
 圧迫が圧迫でなくなり、代わりに天にも昇るような快感に、僕の全身は包まれた。
 「ああっ…す、素敵っ」
 「う、うむ…お、俺もだよ」
 「き、気持ちいい…ほ、ほんとよ」
 半分泣き声のような嗚咽を交えながら、多香子は頭を左右に何度も振り続けて、細い全身を悶
え震わせていた。
 女優顔負けの若い美貌と、モデル顔負けのスタイルの良さと、女性としての欠点はどこにも見
当たらない多香子だったが、ことセックスに関しても、美貌ゆえの妖艶さも相俟って、非の打ち
どころがないと、半ば以上に僕は感心しながら、僕は腰の律動をたゆまなく続けていた。
 それでも僕は、初期の目的を忘れてはおらず、冷蔵庫から持ってきて、布団の下に隠し置いた
マヨネーズを手に取って蓋を開けた。
 「ああっ…そ、そこは!」
 シーツに顔を埋めていた、多香子の頭が跳ねるように上がった。
 僕の手の指が、多香子の尻穴を攻撃し出したのだ。
 指先を何度か、小さく窄み切った穴に向けて、僕が擦りつけると、多香子は露骨に嫌悪の表情
で首を振って、僕を睨みつけてきた。
 「い、いやっ、そ、そんなとこっ」
 切れ長の澄んだ目に憤怒を露わにして、声を強く荒げて拒んできていた。
 その視線を跳ね除けるように、つらぬいている腰の動きを強めてやると、多香子は高い声を挙
げて、喜悦の思いに顔を歪め、ベッドのシーツに汗に濡れた額を擦りつけてしまうのだった。
 そのことの繰り返しが、何回か続いた。
 多香子も僕の意図は、完全に看破しているはずだったが、拒みの態度は声こそ激しく大きかっ
たが、僕の淫猥な意向に強く逆らうのを、どこかで逡巡しているように見えた。
 その気になれば、多香子から四つん這いの態勢を崩して、ベッドから逃げることも可能だった
が、彼女は僕の前に突き出した、剥き出しの臀部を左右に揺り動かすくらいの抗いしかしてきて
はいなかった。
 「あっ…な、何をするの?…い、いや、こ、怖いっ」
 僕が手の指に付けたマヨネーズを、強引に多香子の尻穴に塗り込めた時、彼女はまた一際高い
声を挙げて怯えと狼狽えを露わにした。
 ここまで来たら、僕のほうも、身勝手な言い草だったが、引くに引けない気持ちになっていた
ので、マヨネーズを塗り込めた多香子の尻穴目がけて、固く屹立したままのものの先端を、強引
に当てがい、最初の一刺しをゆっくりと押し入れた。
 「ああっ…い、痛い…痛いわっ」
 多香子は本当に僕から逃げようと、膝を前に動かせてきたが、男の僕のほうが力は強く、彼女
の腰を両手でガッシと掴み取って、身体を前に押し進めた。
 おそらく多香子のほうは僕以上だったと思うが、僕にも強烈な圧迫が襲ってきていて、微かに
気が怯む思いも頭を過ったのだが、そのまま僕は前への動きは止めなかった。
 「ああっ…む、無理っ…お、お願い、ゆ、許してっ」
 半泣きの声で多香子は、
 「お、お願い…ゆ、雄一さん、う、動かないで…そのまま…ああっ」
 と哀訴の言葉を繰り返してきた。
 僕のほうへの刺激もかなりのもので、侵入が深くなればなるほど、きつく締めあげてくる圧迫
と同時に微熱を伴ったような摩擦感と、さらにもう一つ、独りよがり的かもわからないが、征服
感のようなものまでを、僕の全身と心に与えてきている気がした。
 僕の腰が少し動くだけで、多香子のしなやかな流線をした身体が、震えるように動き、声がた
ゆまなく続いた。
 四つん這いのままの、多香子の口から漏れ出る、声の質が微妙に変わり出してきたのは、それ
から間もなくの頃だった。
 一定のリズム感で、僕は腰の律動を続けていた。
 「ああ、雄一さん…わ、私」
 シーツから顔を少し上げて、長い髪の頭を何度か揺らしながら、多香子が明らかにそれまでと
は少し声質の違う声で言ってきた。
 「へ、変な気持ちに…え?…な、何?」
 狼狽えた声なのは明白だった。
 それまでは、痛い、の声が最初に出て、顔を苦痛に歪めていたのが、明らかに自分自身が自分
に戸惑い、驚いているような響きになっていた。
 「あっ…ああ、ゆ、雄一さん、私…変な、変な気持ちに」
 そういえば、あの俶子との時もそうだった、と僕は思い返していた。
 最初は同じように、激痛に顔を歪めていた俶子が、途中から性に飢えた牝犬のようになって、
悶え狂い、国語教師とは思えないくらいの、はしたない言葉を吐き続けた。
 「はぁ…あ、暑い、暑くなって来たわ、雄一さん…ああっ」
 「ど、どこが暑い?」
 「あ、あなたに、い、今、突かれているところ。…そ、そこが」
 「どこなんだ?」
 「あぁ…お、お尻、私のお尻が」
 「あ、ああ、俺の…俺のものも燃え焦がされそうだよ」
 「つ、突いて…雄一さん、わ、私を…こ、壊して」
 多香子からの圧迫と摩擦の威力は、年齢の差もあるのかも知れなかったが、俶子の時よりも
かなり強い刺激で、僕にも襲ってきていた。
 

声で
 学校に在籍中は、持って生まれた美貌と端正な容姿の良さで、マドンナとして学校中の憧憬の
的だった多香子を、今、こうしてはしたない姿勢をとらせて、正常とは違う箇所をつらぬき犯している
 
 
 
 
  
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
23/07/08 11:18 (2OEN17sg)
43
投稿者: 雄一
…俶子の時よりも、かなり強い刺激で、僕にも襲ってきていた。
 学校に在席中は、持って生まれた美貌と、端正な容姿の良さで、長い間、マドンナとして
学校中の憧憬の的だった多香子を、今、こうしてはしたない姿勢をとらせて、正常の性行為
とは違う箇所を、つらぬき犯している、自分を自分で振り返りながら、僕は少し不思議な気
持ちに陥っていた。
 特段にこれといって、人より優れたところは何もなく、極めて普通に高校二年生まで平凡
に生きてきている、自分のどこに、学校のマドンナと憧れられ、崇められてきた多香子のよ
うな美女を、いとも容易く篭絡させられる魔力があるのか、このことが当人である自分でも、
皆目わかっていないところが、自分ながらも不可思議なところだった。
 それでも現実として、僕は今、間違いなく、衆人の崇拝物存在でもある多香子を臥し倒し
て、通常の行為ではない箇所をつらぬいている。
 多香子への腰の淫靡な律動を続けながら、他へ気を廻そうと、僕はそんなことを頭の隅で
考えていた。
 「あぁ…ゆ、雄一さん、わ、私、ほんとに変になる。い、いえ、もうなってるかも?」
 多香子はのほうも、もう忘我の境地の、かなりのところまで陥っているようで、痛みを訴
える声は出なくなっていた。
 時間の経過のせいなのか、多香子の尻穴からの圧迫と摩擦が少し緩み出してきている感じ
がした。
 同時に、多香子の胎内への僕からのつらぬきが、滑らかな感触になってきている気がした。
 この家に来る直前まで考えていた、多香子への仕置きが、これだとしたら僕は、自分で自
分の甘さというか、未熟さを、蔑み愚弄するしかないと思った。
 僕に内緒で、学校内で僕の素行調査をしようとした、多香子に鉄槌をと目論んで、彼女の
品位を貶めるべく、尻穴を犯そうとしたのが、形勢的には完全に目論見外れなりそうだった。
 策士、策に溺れるではないが、多香子を辱めための行為に、自分までが溺れていたのでは、
何とも情けない事態というしかなかった。
 心の中で地団駄を踏みながら、僕はやにわに腰の律動を早め、多香子を責め倒しにかかっ
た。
 多香子の身体と声の反応が、忽ちにして大きく激しくなった。
 それが僕の、それまでの我慢の限界のダムを、一気に崩壊させ、堪えに堪え、溜まりに溜
まっていた白濁を、多香子の胎内深くに大量に放出させた。
 ベッドに仰向けに倒れ込んでいた僕の胸に、多香子は顔を載せるようにして、寄り添って
きていた。
 「なぁ…」
 汗ばんでも尚、心地のいい多香子の髪の匂いを鼻孔に感じながら、僕は白い天井に目を向
けながら切り出した。
 「俺って、ほんとに何にもない人間だけど、どうしてなの?」
 「え?」
 「どうして俺なんかと?」
 「私…理由が言えない」
 「何で?」
 「わからない」
 「わからないって…」
 「理由なんていいの。…好きでいさせて」
 「勝手で我儘だよ、俺」
 「私が好きになるんだからいいの」
 「そういう言いかた、嫌いだ」
 「ごめんなさい」
 「それと、俺には…」
 「…村山紀子さん?」
 「知ってるのか?」
 「この前、校庭で…」
 「あれでわかる?」
 「あなたより、村山さんの気持ちが…」
 「ふーん、そんなものかい?」
 「あの人の顔見て、負けたと直感した」
 「よくわからん」
 「わからなくていい。好きでいさせてさえいてくれたら」
 「見ての通り、俺はだらしなくて、節操ない」
 「たまに思い出して」
 「そうする」
 それだけの会話が終わった時、多香子が顔を上げてきて、ふいに唇を重ねてきて、僕もそ
れに応えた。
 「あなたの匂いを持って帰る」
 といって、多香子がシャワーを使わなかったので、僕も同じように言って、家の灯りと暖
房を消して、二人は玄関ドアを出て、寒い夜の帳の中を、身体を寄せ合って、駅までの道を
歩いた。
 駅で、恋人同士が別れるように手を振り合って、違うホームに向かった。
 電車の座席に座りながら、ベッドで多香子と語り合った会話だけで、自分の目論見のすべ
てが事足りたと思ったが、その後で、お互いの体温を確かめ合った、プロローグがあってこ
その、あの会話だったのだと、僕は改めて思い直した…。




                                    続く


  (筆者後記)
 何度も何度もの投稿ミスと、投稿遅延を改めましてお詫びします。
 沢山の愛読ありがとうございます。
 
23/07/08 22:16 (2OEN17sg)
44
投稿者: 雄一
「村山紀子さん…」
 益美の家の玄関度を閉めて、冷え込みの強くなった、駅までの道を、身体を寄せ合って
歩いていた時、多香子がポツリとした声で言った。
 「ん…?」
 僕は冷気で赤くなり出している、鼻を擦りながら、多香子に顔を向けた。
 「あなたとのことで、私、あの人には勝てないと思う」
 「何だい、急に?」
 「私にないものを、あの人は持っている」
 「何を持っているって?」
 「それが何かは、私も上手く言えないんだけど…うーん、あなたへの思い方って言うの
かな?」
 「何だい、それ?」
 「今まで、正直ね、私、他の女性の人って、何事でも意識したことなかったの。…でも」
 顔を前に向けて、何か達観したような声で、
 「村山さんの、あなたへの接し方って、全部が自然なのよね。変な作為もなくて、まる
で血の濃く繋がった者同士っていうか、それでいて姉弟って感じっでもない雰囲気があっ
て…」
 笑みを浮かべるように白い歯を覗かせ、穏やかそうな目で言ってくる多香子に、少しだ
け怖気を感じた僕だったが、
 「でも、あなたとこうなっても、不思議に嫉妬の気持ちが湧いてこないの。上手くは言
えないんだけど、それがあの人には勝てないって、思った原因の大きな一つだわ」
 と想定外の言葉を言ってきたので、
 「俺は多香子も好きだよ」
 と思わず、身勝手な言葉を返していた。
 「私といる時は…私だけのあなたでいて」
 多香子はそういって、暗い寒空の下で両頬を赤らめて、両手を僕の身体に廻してしがみ
ついてきた。
 遅い時間に帰宅して、玄関口で母親からの小言を一分近く聞いて、二階の自分の室に入
って、ベッドに倒れ込んだ時、思い出したのは、益美の家からの帰路で、多香子が吐露し
た、わかったようなわからないような言葉だった。
 多香子の言った言葉の意味を、もう少し掘り下げようと、思考態勢に入ろうとした僕だ
が、女の人の心の微妙さなど、単細胞の僕にわかるはずもなく、すぐに諦めてポケットか
らスマホを取り出した。
 電車の中で見た時には、入っていなかったメールが二件入っていた。
 紀子と奥多摩の尼僧の綾子からだった。
 いつもなら紀子のを先に見るのだが、多香子と内緒の時間を過ごしたこともあって、さ
すがに僕も、少し気が引けるところがあって、綾子からのメールを先に見た。
 綾子からは、どうせまた、会いたいとかいう未練がましい文面かと思っていたら、意外
な内容だったので、僕は二度読み返した。
 (早稲田大学の歴史学を研究しているとかいう、栗田教授という人から、突然に連絡を
いただき困惑しています。あなたが以前に、夏休みの宿題か何かで、お寺の古文書とか文
献を基に書いたレポートの中の、平家の武士の名前について、その古文書は今もあるのか
というお問い合わせでした。中味はわからないが、古文書はあるとだけ申しておきました
が、後日、あなたにも連絡させてもらうとのことでしたので、取り敢えずはご報告まで)
 読み終えた後、時刻を見たらもう十一時前だったので、返信は明日にすることにした。
 綾子からの、メールの意味がよくわからなかったこともあって、紀子からのメールを見
るのを忘れて、僕は風呂に入りそのまま眠ってしまった。
 あくる日の朝、校舎の玄関に行くと、僕の靴箱の真ん前で、紀子がほっぺたを膨らませ
て立っていた。
 紀子の不機嫌そうな顔を見て、僕は昨夜のメールを見ていなかったことを思い出した。
 「おはよう」
 僕のほうから、挨拶の言葉をかけていた。
 「昨日は随分とお忙しかったみたいね」
 多香子といたという弱みもあって、いつもなら反発する僕の口はおとなしかった。
 「あ、ああ、家で親父と色々話し込んじゃって」
 苦しい言い訳を言うと、それには取り合おうともせず、
 「奥多摩の、あなたのお婆ちゃんちへね、今度の土曜日に、私行くことにしたの」
 「えっ?」
 「残念だけど、あなたははぶけ。陸上部の友達二人を連れて、また、お婆ちゃんと、お
野菜を収穫することになったの。その二人がどうしても行きたいって言うから、お婆ちゃ
んに言ったら、招待してくれたの。それをメールしたのに、返信ないから、怒ったのかと
思ってたのに、その顔じゃ読んでもいないみたいね、さよなら」
 人の多い玄関で、また何人かの興味深々な視線を浴びながら、一方的にまくし立てられ、
そのまますたすたと遠ざかられ、僕はただ唖然と立ち尽くすだけだった。
 放課後までおもしろくない一日を過ごした僕が、帰宅部の本領発揮で誰より玄関に行く
と、運動着用のダウンのコート姿の紀子が、また待ち伏せしていたように一人で立ってい
た。
 朝の文句でまだいい足りなかったのかと、少し身構えた顔で相手を見ると、
 「さっきクラブの顧問から、この前から依頼がきてた、雑誌のインタビューや取材が取
りやめになったって。雄ちゃん、何かした?」
 唐突な問いかけに、僕は心の中の微かな動揺を隠し、
 「な、何にもしてねえよ」
 とぶっきらぼうに言うと、
 「だよね。そんな力のある人じゃないもんね。とにかくそういうことになったから」
 言うだけ言って、紀子はまたすたすたと僕から離れて行った。
 下校の道を一人で歩きながら、僕は多香子のことを思っていた。
 紀子への取材が中止になったのは、きっと彼女の差配であるのは間違いなかった。
 多香子の純な気持ちを、僕は無論理解したが、それはそれで、また後に尾を引くことに
なったのかと、ある意味、贅沢な悩みに一人で苦笑するしかなかった。
 区立図書館の芝生公園のベンチに座り、僕はスマホのディスプレイに尼僧の綾子の名前
を出し、ボタンを押した。
 「こんにちわ、お久しぶりです」
 「元気にしてたかい?」
 「ええ、あなたは?」
 「相変らずさ。歳にも似合わない悪さばかりしてる」
 「若い時は、何事も経験よ」
 「ところで、メールの件で驚いてるんだけど」
 「ご、ごめんなさい。私のほうも何が何だかわからないまま、変なことが起こってて」
 綾子自身がまだ戸惑いの中に、どっぷりっと使っているようで、しどろもどろな説明だ
ったが、要約すると、以下の通りだった。
 早稲田大学の、歴史学専門の栗田という教授から、突然の電話が奥多摩の高明寺に入り、
 「順序が違うのだが、平家伝説の古文書があるというのは本当か?」
 といきなり切り出されたというのである。
 自分は歴史学の、鎌倉時代の源平合戦を研究していて、壇ノ浦の合戦で源氏に敗北して、
日本中のあちこちに落人として逃亡した、平家の落ち武者の何人かを追跡研究している者
で、本来なら、その古文書を基に執筆したレポートの作者に、最初に連絡しなければなら
ないところを、どうしても先にその古文書の有無を確かめたくて、失礼を承知で寺のほう
へ連絡させて頂いた、とのことのようである。
 綾子のほうはその古文書の中味も何もわからないまま、あるとだけ応えたようなのだが、
その教授は、近々にそのレポートを書いた作者と連絡を取り合った上、ぜひ、その古文書
を見せて頂きたいというのだ。
 僕の書いた平家伝説に纏わる、勝手な憶測だらけのレポートは、国語教師の沢村俶子が、
都の教育委員会が主催した「高校生レポート作品展」に、勝手に応募して、佳作か何かに
選出されて、教育委員会が出版した雑誌に掲載されたと聞き、あの当時、僕のことをいつ
も小馬鹿にしていた母親に、どうだ、と自慢したという覚えがあるだけで、実を言うと、
レポートの内容に付いては、あまりよく覚えていないというのが実状だった。
 「うーん、まだ俺んとこへは何も連絡はないけど、その古文書って、ひょっとしたらと
んでもないお宝物だったりしてな。その教授から連絡あったら、電話するよ。余計なこと
に巻き込んでしまって悪かった」
 僕にとってもそれは確かに思いがけないことだったが、書いた本人が何を書いたのかも、
よく覚えていないというのでは、笑止千万なことだった。
 綾子のほうも、源平合戦とか古文書とかの話は、意識の中にあまりあるようではなく、
 「あなたとこうして、お話しできるだけで、私は嬉しいの」
 と女としての気持ちを、甘えたような声で吐露するするだけだった。
 そこへ絶好のタイミングというべきか、スマホにキャッチが入り、ディスプレイに未登
録の番号が浮かび出た。
 綾子にそのことを告げて、僕は初めて見る固定電話の番号の着信ボタンを押した。
 「ああ、上野雄一さん?」
 学者にしては野太い、大きな声が聞こえてきた。
 早口で喋る人で、一通りの自己紹介を終えると、
 「君の書いたレポート、たまたま見せてもらったんだが、歴史上でもなかなか興味深い
ことが書かれていてね。どうだろう、ぜひ一度会ってもらえないだろうか?」
 と強い物腰で言ってきた。
 「ああ、で、でも、先生が僕のレポートのどこが気に入られたのか知りませんが、僕は
あの古文書や文献を基にして、勝手に自分の想像を書いただけで、そんなに深くは掘り下
げて、何て言うか、研究なんかしてませんよ」
 あまりレポートの中味を、それこそ深く追及されると、僕のほうの記憶が忘却の彼方に
いっているので、やんわりと断りの意思表示を示したのだが、
 「聞けば、君はまだ高校二年だとか。そんな君に、あれだけの空想をさせる、あの古文
書には歴史の真実というか、重みのようなものが、内包されているということだよ」 
 栗田教授は一方的にそういって、僕がまだ高校二年のガキと侮ったのか、近いうちにぜ
ひ自宅へ来てくれと、また強引に話を進めてきて、多少の興味もなくはなかった僕はその
申し入れを受け入れて電話を切った。
 折り返して、途中で切った綾子に電話を入れて、栗田教授から連絡が、今、会ったこと
を報告してやった。
 「そのことで、あなたとまた会えるのだったら、私はそれだけで嬉しい」
 平家伝説の古文書の件は、綾子にとっては無用の長物で、僕に会うことだけが、女とし
ての切なる願いのようだった。
 公園のベンチの周りを見渡して、人がいないことを確認して、
 「綾子は今、何してる?」
 喉の奥に唾を一つ飲み込んで、僕は聞いてやった。
 「本堂の畳の拭き掃除終わって、居間でお茶してるところ。二日がかりで大変」
 「ああ、まだ守役の人いないのか?」
 「もう、お守役は沢山…」
 「竹野って言ったっけ、今でも思い出す?」
 「え…?」
 「恥ずかしいこと一杯されたから」
 「いや、そ、そんなこと言わないで」
 「今、ここで俺が竹野になってやる」
 「………」
 「聞こえてるのか?」
 「は、はい」
 「法衣姿だな?」
 「はい…」
 「帯を解いて、全部脱げ」
 「はい」
 電話に絹の擦れるような音が聞こえてきていた。
 僕のほうの淫靡な意図を、綾子は早くも承知しているようだった。
 「ブラジャーは?」
 「していません」
 「自分でやって、いい声聞かせてくれ」
 暫く、無言の間が続いた。
 「ああ…」
 小さな声が漏れ聞こえてきた。
 ベンチの周辺をもう一度見渡す。
 誰もいないのを目で確認して、
 「どこ触ってる?」
 と聞くと、
 「お、おっぱいを…ああ」
 「いい声だよ。そちらへ飛んでいきたいくらいだ」
 「き、来て」
 「いい声だよ、綾子」
 何かが動いてるような音が耳に入るが、綾子の声は聞こえなかった。
 「い、今…ショーツを」
 「脱いでたのか?」
 「は、はい…」
 「今はどこを?」
 「し、下のほうを…」
 「下って?」
 「ああっ…わ、悪い人」
 「綾子の口から聴きたい」
 「…お、おマンコ」
 「綾子のおマンコ、もう濡れてるんだろ?」
 「え、ええ…あ、あなたを思い出して」
 それからの綾子は、自分で自分の壺に嵌ったように、間断なく激しい喘ぎと悶えの声を
吐き続け、最後にはまるで、僕への当てつけのように、僕の名前を何度も呼び続け、
 「ああっ…ゆ、雄一さん、き、来て…は、早くここにきて、わ、私を抱いてっ」
 狂ったようにそういって、絶頂に達したようだった。
 「近いうちに、またそちらへ行って思いきり抱いてやる」
 と宥め労わるように言って、僕は電話を切った。
 電話の向こうでの、綾子の生々しく欲情的な声とは、全然裏腹に、緑の枯れきった芝生
公園は静かで清新な空気が漂っていた。
 帰ろうとベンチを立ち上がった時、ふいに祖母の顔を思い出した。
 僕はもう一回ベンチに座り直し、スマホを弄った。
 例によって一回コールで祖母は出た。
 「今度の土曜日に、紀子がそっちへ行くんだって?」
 挨拶もそこそこに、少し恨めしげな声で、僕は祖母に聞いた。
 「あ、そう、そうなのよ。学校のお友達二人連れてくるって」
 「そのこと、何で言ってくれなかったの?」
 「ああ、それは、紀ちゃんに、内緒にって頼まれてたからよ」
 悪びれる風もなく祖母は言って、
 「畑でお野菜の収穫が、どうしてもしたいんだって。都会の子たちねぇ」
 と笑いながら付け足してきた。
 「あいつ…」
 祖母に向かって、言うべきことではない言葉がつい出てしまった。
 「何?また喧嘩でもしたの?」
 「い、いや、何でもない」
 「あっ、そうだ。あなたに言わなきゃと思ってたことが」
 「何?」
 「今日の朝ね、ほら、あの吉野さんの無二の親友って言ってた、稲川さんって人から
お電話もらったの。ほら、あの古村さんが来て、料亭の女将にどうのこうのって話、今
度はその稲川さんって人が尋ねてくるっていうから、私、はっきり断ったんだけど、ど
うしても会いたいって言うから、私一人では会えませんって言ってやったの」
 「うん」
 「お孫さんの顔も見たいからぜひって、先に言われてしまって」
 「ああ、俺のほうは全然いいよ。婆ちゃんで、日を決めてくれたら」
 「どなたが来られても、答えはわかっているんだけどね」
 「婆ちゃんに会えるからいいよ」
 僕のその声に、祖母は声を詰まらせていた。
 祖母との電話を終わり、家までの道を歩きながら、
 「あいつめ…嘘つきやがって」
 と僕は口に出して、紀子の顔を思い浮かべて呟いていた。
 自分がもっと大きな嘘を、彼女についていることを、僕は完全に忘れていて、明日の朝、
自分が学校の玄関で待っていて、悪態をついてやろうかと考えたのだが、部活の早朝練習
で、紀子は七時半には学校に来ていることに気づき、それは止めることにした…。





                               続く
 
 

 
 
 
  
23/07/11 15:06 (DUTY2xZS)
45
投稿者: (無名)
最高です!!
息子がズボンが狭いと怒って読んでました。
アナルへのお仕置き?最高でした。美人のアナル、
この響きだけで想像力豊かになります。
続きを楽しみにしております!!

23/07/11 16:59 (8wgnhhyo)
46
投稿者: 雄一
昨日の夕方から夜にかけて、祖母と紀子の間で何らかの会話があったらしく、昼休みに
教室で、購買で買ったパンを食ってたら、紀子が廊下の戸から顔出してきて、チンピラが
人を呼びつけるように、手の指を振って、僕を見つめてきた。
 二、三人の男子生徒が、顔を見合わせて、興味ありげに僕のほうに目を向けてきていた。
 廊下に出ると、紀子はすたすたと、校舎の端にある階段の踊り場へ歩いて行った。
 「何?私だけが奥多摩へ行っちゃいけないの?」
 振り返るとすぐに、紀子は喧嘩口調だ。
 「何も俺、言ってねぇし」
 売り言葉に買い言葉で応える。
 「お婆ちゃんに、私のこと、あいつって言った?」
 「い、言ってねぇよ」
 「お婆ちゃんに、喧嘩してるの?って心配して聞かれた」
 「あ、つい口が勝手に滑ったかも」
 「そんなに気になるんだったら、あなたも行って、お野菜採りする?」
 「しないよ」
 ぶっきらぼうにそういって、僕はあることを思い出した。
 「な、頼みがあんだけど」
 「何?」
 「婆ちゃんちへ行くなら、持ってって欲しいものあるんだけど」
 この前母に頼まれて持っていった、手編みの毛糸の帽子を、祖母に渡すのを忘れたので、
代わりに渡して欲しいと頼むと、
 「わかった」
 と言って、紀子は急に笑顔になった。
 「それで、雄ちゃんと喧嘩してないって、わかるよね。明日、忘れないで持ってきてね」
 白い歯を見せて、そのまま背中を向けて、廊下を小走って行った。
 去り際に、世話のやける人、と捨て台詞を残していったが、だいぶん距離が離れてから、
どっちがだよ、と僕は声に出してぼやいた。
 放課後の下校時に、多香子からメールが入った。
 (帰宅部さん、今、お帰り中?…私、今もまだ身体が変。恥ずかしいからこのメール、
読んだら即、消してね)
 そのメールで、僕は益美にお礼の電話を入れるのを忘れてたのに気づき、駅の手前の道で
電話を入れた。
 「ああ、どうも、一昨日はありがとう。お礼言うの忘れてて」
 「あら、いいのよ。いい思い出できた?」
 大人らしい鷹揚な声に、僕は安堵の気持ちになって、
 「ああ、まぁ…」
 曖昧な口調で応えた。
 「次にお婆さんの順番廻ってくるの、いつかしらね?」
 益美の厭味に聞こえない声に、もう一度僕は安心して電話を切った。
 紀子が奥多摩へ行く明後日、僕は早稲田大学教授の、栗田氏の自宅を訪ねることになっていた。
 教授の家は靖国神社の裏側の九段二丁目とか言っていたが、灯台下暗しで、靖国神社には小学
校の低学年の遠足以来、僕は一度も行ったことがない。
 家に帰ってネットで、早稲田大学歴史学栗田教授とキーボードを打つと、十以上ものアプリが
出てきて、歴史学会ではかなり名の知れた人のようだというのがわかった。
 ウイキペディアを開くと、スーツ姿で蝶ネクタイの顔写真が出てきた。
 電話での声の通りで、学者にしてはいかつい顔つきで、丸い大きな目と圧し潰した団子のよう
な鼻が特徴的な感じだった。
 僕自身も歴史学は嫌いなほうではなくて、山岡荘八の徳川家康の、全二十六巻を中学三年の時
に読破していて、織田信長、豊臣秀吉も読んでいたが、生来の根気のなさのせいもあって、そこ
にのめり込むというところまではいっていなく、源平合戦の時代では、親鸞とか日蓮の本でしか
わからないくらいの知識しかなかった。
 名のある教授の自宅へ、ほとんど徒手空拳で尋ねようとしている僕だったが、ここでも能天気
な性格が頭を擡げ、ま、何とかなるだろうと、暢気に考えを締めくくった。
 机の上にあったノートパソコンを引き寄せて、起動スイッチを入れると、目が自然にメールア
プリにいく。
 同じ発信者からの、未読メールが四件になっていた。
 そういえば俶子の結婚式が、今度の日曜日だったことに僕は気づき、少し物思いに耽るような
目でまど外に目を向けた。
 結婚式の前に彼女の気持ちを動揺させたり、また彼女からの生々しい暴露的な私小説メールへ
の、反応メールも意識的に避けてきていた僕だったが、逃げているわけではないという奮起の思
いで、僕は未読メールの一つを開封した。
 晩飯はカレーライスだと母が言っていたが、僕のご飯は少なめになるかも知れないと思った…。





                               続く

 
23/07/12 09:30 (8nYnRC5w)
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