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密かな楽しみ~孝史と香奈~ 総合
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:痴漢 官能小説   
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1:密かな楽しみ~孝史と香奈~ 総合
投稿者: 自治厨
ここに続編とかレスしてもらえると、文句も出ないし、待ち望んでる人も喜
ぶ。
というわけで、いままでのを全部レスに入れときます。
 
2009/04/09 02:05:36(fb/4vYbM)
27
投稿者: 自治厨
【26】
「なんだか久し振りによく眠れた気がする・・・。」

翌朝、孝史は何時もとは違う、何かスッキリとした気分で目覚めた。

決して問題が片づいた訳では無いが、事態を収束させる方向性を決めたこと
が孝史の憂鬱を幾分か軽減し、閉塞感を無くしたのだろう。
やるべき道筋、自分が進む方向を決断すれば、意外と悩みなどは消えるもの
だ。


昨日の夜、警察署から陽子を連れて帰ってきた孝史は、泣き続ける陽子に何
も聞かなかった。
時間を置くべきだと思ったからだ。
同僚の村田に電話を掛け、訳を話して会社を休むと伝えてからベッドに横に
なった時、意外に冷静でいる事に自分でも驚いた。


「なんだか色々ありすぎて、昨日のことが夢みたいだ・・・。」
孝史はそう呟くと起き上がり、寝室を出て洗面所へ向かった。

キッチンから音がする。
陽子が朝食の用意をしているようだ。

孝史は洗面台で顔を洗った後、ふと鏡を見た。
「ヒドい顔してるな・・・。」
鏡に映る自分の顔をまじまじと見てみる。
髪も髭も伸び過ぎ、目尻や口元にはシワが寄り、頬は少しこけて、やつれた
ようだ。

顔を洗い終えた孝史はキッチンに向かい、無言のまま陽子と二人で朝食をと
った。

孝史は、着替えると居間のソファーに座り、陽子が片づけ終えるのを待っ
た。


「・・陽子・・ちょっといいかい。」

片付けを終えた陽子を居間に呼ぶと二人はテーブルを挟み向かい合って座っ
た。

「・・・いつからだったんだ?」
孝史は伏し目がちに陽子に聞いた。
陽子も目を伏せ、しばらくしてからゆっくりと口を開いた。
「・・3ヶ月程前から・・。あなたが仕事で帰りが遅くなって・・会話もし
なくなって・・寂しくなって・・・。」
「・・・そうか。仕事は・・パートは行っていたのか?」
「パートは週に3日だから・・。」
孝史はその事を初めて知った。
いや、多分聞いていたんだろうが覚えていなかった。
陽子のパートのシフトなど気にもしていなかった。
『俺は・・なんで覚えてないんだろう?なんで陽子の休みの日すら知ろうと
しなかったんだろう?』

孝史は、自分の陽子に対する無関心さを痛感した。

愛している。
愛していた。

しかし、結婚してからは全くの根拠のない安心感を持ち、妻の出勤日すら知
ろうともせず、ただ自分のスケジュールだけしか考えずに過ごしてきた。

『その結果が・・これか。』

孝史は陽子を責める気が無くなった。
淡々と今までの経緯を聞き、ただ頷くだけだった。
自分に否があったとまでは思わないし、陽子の浮気を許すつもりも無いが、
もう何も言う気も起こらない。
あれほど嫉妬心を持っていたのに、相手の事を聞いても何とも思わなくなっ
ていた。

陽子の浮気相手、「神村明宏」とはパート先で出会ったらしい。
半年ほど前、孝史の帰宅が遅くなりだした頃、アルバイトとして同じ部署で
働くようになったという。
明宏は、見た目も良く、話も面白く、特に陽子になついてきていたらしく、
仕事仲間達との飲み会の時に関係を持ち、明宏がアルバイトを辞めた後も関
係を続けていた。
しかし、口では愛していると言う明宏に女の影を感じて、パートの休みの
日、つまり昨日、アパートへ押し掛けてみると、前日に自分と会っていたに
も関わらず若い女が部屋にいて、頭が真っ白になり、その後はよく覚えてい
ないという。
まるで昼間のドラマのような話だが、現実にそれは孝史の妻である陽子が起
こした事件であり、平凡な日常を当たり前のように感じていた孝史には、お
およそ想像もつかない出来事だった。

ひと通り話を聞き終えた孝史は陽子に言った。
「俺は離婚するつもりはない。子供たちがある程度大きくなるまでは、俺か
らはその話はしない。それは、俺やお前の為ではなくて、子供達の為だ。」
陽子は俯いたまま頷くと、肩を震わせ嗚咽を漏らし始めた。
孝史は黙って立ち上がると寝室に戻り財布と携帯を持って家を出た。


孝史の頭の中には、もう陽子の事は無かった。先程の話し合いで、既に孝史
にとっては解決した問題となっていた。
後は、あの少女を探し出さなくてはいけない。
あの少女に会って、謝らなければいけない。

孝史は行きつけの美容室へ電話をかけ予約を入れた。
そして、予約の時間まで買い物をする事にしてバスで市街へ向かった。
とにかく心機一転となるように身なりを整えたかった。
駅前のビルでブーツとジーンズとシャツ、カットソーにコート、それとベル
トにライダースジャケットを買い、それらを駅のロッカーに入れると、美容
室に向かい、長く伸び過ぎた髪を綺麗に揃え、緩いパーマを当て、髭を剃っ
た。

それから昔よく通っていたバイクショップに行き、程度の良い中古のヤマハ
の単気筒を買った。
現金は僅かしか持たなかったので、洋服はカード、バイクはローンで買っ
た。
決して裕福ではなく、そんな出費など普段なら絶対にしないのだが、今だけ
は生まれ変わる為の儀式のようなものだと考え、散財を惜しまなかった。

バイクショップの馴染みの店員に、すぐに乗って帰りたいと言い、整備もほ
どほどにバイクに跨ると市街を走り回った。

しばらく走り回ると、帰路につき、あの国道を通ってみた。
『あの少女は、またここを通るだろうか。学校の行き帰りはこの道しかない
筈。この道を探していれば、いつか会えるかもしれない・・・。』
孝史はそう考えながら夕日が射し始めた国道をゆっくりと走った。

09/04/09 02:19 (fb/4vYbM)
28
投稿者: 自治厨
【27】
「香奈!どうしたの!何があったの!ここを開けて!」
「何でもないったら!ほっといてよ!!」
「何でもないワケ無いでしょ!いいからここを開けて!!」
「もう!うるさい!!ほっといてって言ってるでしょ!!」
「・・・ホントに・・もう。」
そう呟いた母親は溜め息をつき、諦めて階段を降りると、居間でテレビを見
てニヤニヤしている父親に向かって怒ったように言った。
「あなた!テレビなんか見てる場合じゃないでしょう!?今日で三日目よ!
絶対に学校で何かあったのよ!」

「・・まあ、何だ・・アイツも年頃だし、そりゃあ色々あるだろ。友達と喧
嘩したかもしれないし、振られたのかもしれない。今まで反抗期もなく真面
目でいい子でいたんだ。少しくらい鬱憤が溜まってたっておかしくない。そ
っとしといてやれ。明日、まだ部屋から出て来ないようなら俺が話をするか
ら。」
ソファーに座って晩酌をしながらテレビを見ていた父親は、面倒臭そうに姿
勢を正し母親の方を向いて冷静な口調で言うと、またテレビの画面へ向き直
りビールに口をつけた。

「何だよ。香奈の奴、まだ部屋に閉じこもってんの?」
風呂から出てきた兄が冷蔵庫からビールを取り出しながら言った。
「そうなのよ。あたしたちがいない時にご飯は食べてるみたいだけど・・。
ねぇ、お兄ちゃんからも何か言ってよ。」
父親が頼りにならないと感じたのか、母親は台所から居間に向かう兄の後を
ついて回りながら言った。
「どうせ男に振られたか何かだろ?ほっときゃいいんじゃない?俺らが騒い
だって逆効果だろ。」
「それくらいの事ならいいけど・・。」
テーブルにビールを置いて床に座りながら投げやりに言う兄に、母親はまた
溜め息をつきながら呟いた。



紗耶香との事があった後、香奈は部屋に籠もり鍵をかけて家族とも会おうと
しなかった。
家族が出掛けた後、昼間に食事をとってシャワーを浴び、あとは部屋で本を
読んだりネットをしたりして過ごしていた。
なるべくあの忌まわしい痴漢の事や紗耶香の事を考えないようにしていた
が、気を緩めると頭の中にそれらの事が浮かび、香奈を苦しめた。

『はぁ・・いつまでもこうしてる訳にはいかないよね・・。』
部屋にある本を片っ端から読んでいた香奈は、最後に残しておいた「海辺の
カフカ」を読んでしまうと、ベッドの上で体を起こし呟いた。
『少し気持ちを整理してみよう。』
そう思った香奈は、逃避していた心を現実に引き戻そうと試みた。


あの夜、痴漢に遭った事。
それは恐怖と不快感を体に刻み込んだが、今はそれほどショックは残ってい
ない。
犯された訳でも無く、純潔は保たれている。
時間がたてば忘れる事が出来たはずだった。
しかし、その翌日に紗耶香から受けた陵辱とも言うべき行為が、香奈の傷口
を広げ、さらにその紗耶香から自分の恥ずかしい行為、教室での自慰を見ら
れていた事を告げられ、それらの事実が絡み合わさり、結果として他人から
性的な行為を受ける事への嫌悪感を抱かせ、香奈の心を深い闇に閉じこめよ
うとしている。
その深い闇は、香奈に自分以外の人間との接触さえ拒ませていた。

何よりも紗耶香に会いたくなかった。
決して紗耶香が憎いわけではないし、恨みなど無い。
客観的に見ればタイミングが悪すぎたのだ。
勿論、香奈には紗耶香に対して恋愛感情など持っていない。
だから同性でのそういう関係には、なれるはずは無いのだが、あの痴漢にさ
え遭っていなければ、もっと違う結果になることだって出来たのかもしれな
い。
しかし、最悪のタイミングでの紗耶香からの告白は、その紗耶香から受けた
陵辱により、香奈の心に傷をつけただけだった。
それに自分に恋愛感情を抱いている事を知ってしまった以上、紗耶香を今ま
でと同じように親友として見る事は困難に思えた。


香奈は考えるのを中断した。
いくら考えてみても、気持ちを整理する事が出来ない。
深い闇は香奈の足に絡みつき、この暗い部屋に閉じ込めておこうとする。

香奈はベッドから立ち上がりロフトの階段を降りるとパソコンのモニターの
電源を入れ、テレビをつけてソファーに座った。
暗闇の中でモニターが光っている。
画面の中でよく知らないタレントが口を開けて笑いながら何か喋っている。

つまらない・・・。

香奈は立ち上がりモニターの電源を落とすと暗い部屋の中を見回した。

机の上に携帯がある。
二日前に電源を切っておいた。
香奈は携帯を手に取ると電源を入れ、メールの問い合わせをしてみた。

一件のメールを受信した。

『聡美からだ・・。』


-from聡美-

どうしたの?三日も学校休んで。
風邪?
由美も紗耶香も来ないし・・。
アンタたちなんかあったの?
みんな心配してるよ?

あ、そう言えば今日ね、部活が終わった後、中村君と住田君から話しかけら
れちゃった。
(☆▽☆ )

ヤッターって思ってたらアンタのメアド教えてだって・・。
ぐやじいぃぃぃぃ!!
°・(ノД`)・°・

とりあえずさ、教えちゃったw

メールあるかもよ?

じゃ、早く学校出てきてね!




『・・みんな・・心配してくれてるのかな・・。』

香奈は携帯を閉じると学校の事を思い浮かべた。

日常を取り戻したい。
この鬱屈した気持ちを晴らして、またいつものように学校に行きたい。

そう思い始めた香奈は、一つの決断をした。
『もう・・今までの事をリセットして、変わろう。済んだことを悔やんでも
仕方ない。前に進まなきゃ。あたし・・変わろう。そしたら、なるようにな
るよ。』


香奈は携帯を開くと聡美に返信した。



-from香奈-

心配かけてゴメンね。
明日までは休むけど、明後日から学校に来ます。


メールありがとう。

09/04/09 02:19 (fb/4vYbM)
29
投稿者: 自治厨
【28】
「おはよう、お母さん。」
「あ・・お・・おはよう・・。」
いつもと変わらず、制服を着て朝の挨拶をする香奈の姿を見て、母親は持っ
ていた菜箸を落としてしまった。
「あ・・あの・・香奈?もう・・大丈夫なの?・・学校に・・行くの?」
不安と驚きの混ざった表情で心配そうに尋ねる母親を見て、香奈はなるべく
明るく振る舞いながら答えた。
「ゴメンね、お母さん。ちょっと色々あって悩んでたんだけど、もうスッキ
リしたから。」
「そ、そう・・。それなら良かった。あ!朝ご飯・・?」
突然の香奈の変化についていけないような困惑した表情の中に僅かな安堵の
笑みを浮かべながら母親が聞いた。
「いい。今日は早く出るから。行ってきます!」
そう言うと香奈はさっさと玄関を出て行った。


家を出た香奈は近くのバス停に向かい、駅前行きのバスに乗った。
駅は香奈の学校をだいぶ通り過ぎた所にある。

香奈は学校に行くつもりは無かった。
今日一日、街を歩き周り気分を変えようと決めていた。
部活のバッグの中には私服と外出用のバッグを入れてきた。
まだ早い時間の為、学生達はバスに乗って来ない。
バスは、まだ車の少ない国道をゆっくりと走る。
香奈は窓から見える空を眺めた。
灰色の雲に覆われているが所々に薄青の空が覗き、柔らかい日射しが差し込
み始めている。
初冬の空。
風は無く、冷たく乾燥した空気を割きながらバスは駅前へと走っていく。
香奈は、久々に外に出た爽快感と学校をさぼって市街へ向かう罪悪感に幾分
かの興奮を覚え、憂鬱な気分が少しだけ晴れていくような気がした。


バスは駅前に到着した。
香奈はバスを降りると、急ぎ足で駅の構内のトイレに向かった。
取り敢えず用を足すと、バッグの中から私服を取り出し着替え始めた。
私服といってもスキニージーンズとニットにカーディガン、モッズパーカー
というボーイッシュなもので、香奈の私服の殆どはそのようなカジュアルな
ものが大半を占めていた。
制服を丁寧に畳んでバッグに入れると、財布と携帯、ハンカチ、ティッシ
ュ、リップクリーム等を赤い革製の手提げ鞄に入れ、個室を出てコインロッ
カーに向かい学校の鞄とバッグを入れた。

制服を脱いでしまうと何故だか開放感を感じてきた。
少しお腹が空いたので駅の構内にある何だか聞いたこともないハンバーガー
ショップに入り、チーズバーガーとオレンジジュースを注文し、通路側の席
に座って食べた。
ガラスの向こうでは人々が慌ただしく行き来している。

この人達は、これからそれぞれの会社や学校に向かうんだろう。
そして、それぞれの時間を過ごすんだ。
そこには様々な出来事があって、泣いたり笑ったりするのだろう。
そして、夕方になれば、その日の思い出を持って、またここを通り過ぎて行
くんだろう。
まるでベルトコンベアーに乗って運ばれる荷物のように、規則的な流れに乗
って決められた動きをしているように見えるけども、そこには多種多様の思
いがある。

行き交う人達を眺めながら香奈はそんな事を考えていた。

『あたしも明日からこの流れの中に戻る。戻りたい。でも、今日は自由なん
だ。』

香奈はしばらくガラス越しに通路を眺めていた。
だが、余り長居していると知り合いに会うかもしれないし、何より補導され
るのが怖い。
香奈はトレイを戻すと、そそくさと駅を出て、近くのネットカフェに向かっ
た。
殆どの店は10時オープンだろうから、それまで漫画でも読んで時間を潰す
つもりだった。

無愛想な冴えない眼鏡を掛けた若い男の店員が上目遣いに香奈をジロジロ見
ながら利用条件を聞いてきた。
香奈は人に見られないよう個室を選び、別の店員に案内され個室に入った。
荷物を置いてから外に出て数冊の漫画を適当に選び個室に置くと、今度はカ
ウンターでチョコレートを買い、ドリンクコーナーでコーヒーを注いでから
また個室に戻り、リクライニングに深々と腰掛けてから漫画を読み始めた。


しばらく漫画を読むのに没頭していたが、ふと顔を上げ冷めてしまったコー
ヒーを啜っている時、隣の個室から男女の声が聞こえた。
それは小さく囁くような声だったが、小さく流れるBGMに時折かき消されなが
らも香奈の耳に届いてきた。
「やだ・・やめてよ・・こんなトコで・・見られたらどうすんのよ。」

「誰も見やしねーよ。」

「だって・・誰か通ったら丸見えじゃん。」

「ばーか。だからいいんじゃん。」

「だめだって・・・あっ・・・。」


『やだ・・何してるの・・こんな朝から・・。』
香奈は隣から漏れてくる囁きと衣擦れの音に大体の察しはついたが、よりに
もよってこんな朝早くから若い男女が隣の個室でそんな事をするとは思いも
よらず、ついつい耳を済まして聞き入ってしまっていた。
しかし、今までの香奈であれば性的な興奮を覚えていたはずだが、ここ最近
の出来事のせいで体は拒否反応を示すようになっており、隣で行われている
行為に嫌悪感すら抱き始めた。

『気持ち悪い・・。』

聞こえてくる小さな甘い吐息が香奈には不快感を与え、モニターの横に掛け
られたヘッドフォンを掛け耳を塞いだ。

『やめてよ!こんなとこで・・他の人の迷惑くらい考えてよ!』

しばらく聞こえないようにヘッドフォンで耳を塞いでいた香奈は、腹立たし
さを覚え、立ち上がるとワザと音を立てながら申し訳程度についている小さ
なドアを開けると、飲み物を取りに個室を出た。
隣の個室からはバタバタと慌ただしい音と共にクスクスと笑う声が聞こえ
た。

暖かいココアを注いで戻った香奈は、椅子にもたれ掛かると背を倒し、ヘッ
ドフォンを掛けてテレビをつけ、普段なら見る事のない朝の情報番組をしば
らくぼーっと眺めていた。
ふと携帯をバッグから取り出し、時間を見た。
8時48分。
まだそれ程時間は経っていない。
香奈は目を瞑った。
不規則な生活をしていた為か、今朝早起きしたせいか、眠気が襲ってきた。
香奈は、ぼーっとする頭で学校の事を考えた。
今頃みんなは一限目の授業の最中だ。今日は金曜だから一限目は古典のは
ず。
『退屈だろうな。メグミは、きっとまたノートに落書きでもしてるんだろう
な。住田君は頭いいし、真面目だからちゃんと聞いてるかな。中村君は・・
やっぱり寝てるだろうな。』

クラスメート達の事を想像してみる。
しかし、意識は中村の事に集中していく。
中村の屈託のない笑顔。広い肩幅。
滑舌の良い歯に布を着せぬ口調。
そして、時折見せる切なげな表情。

『中村君に会いたい・・・。』

もし、今隣の個室にいる男女が自分と中村だったら・・。
もし、ここに中村がいたら・・。

香奈は目を瞑ったまま想像した。

悪戯っぽく笑いながら、自分の肩に手を掛け、引き寄せられる。
唇を奪われながら乳房をまさぐられる。
その手は下腹部へと移動し、ジーンズのボタンをはずし始める。


先程まで感じていた性的な事に対する不快感は不思議と感じなく、寧ろ興奮
を覚えだした香奈は、右手をジーンズのファスナーから股間に入れ愛撫し始
めた。
下着の上から陰部を擦ると久々の快感が股間を熱くし、下着の脇から指を入
れ、割れ目にそって動かすと確かにそこは濡れていた。

『そっか・・好きな人の事を考えると気持ち良くなれるんだ・・・。』

香奈は中村とのセックスを想像しながら夢中で股間を愛撫した。
スキニーのジーンズが肌にピッタリと張り付いていて指の動きが制限され、
ひどくもどかしかったが、この場所で脱ぐわけにはいかず僅かにもぞもぞと
指を動かしながら、それでも絶頂へ近付いていった。

ふいに隣の個室からガタガタと大きな音がして、香奈は我に返り急いで姿勢
を正すと、慌ててジーンズのファスナーを閉めた。
どうやら隣の男女が出て行ったようだ。

水を差された香奈は、大きく溜め息をつくと、携帯を開けて時計を見た。
9時47分。

そろそろ駅前のファッションビルが開店する時間だ。

香奈は鞄を持つと個室を出て会計を済ませ、再び駅の方へ歩いていった。
09/04/09 02:20 (fb/4vYbM)
30
投稿者: 自治厨
【29】
『これ可愛いな・・・。』

ショーウインドウに飾られた白いニットのワンピースを見ながら、香奈は自
分が着た姿を想像してみた。

『・・うーん・・丈が短すぎるし、体型がはっきりするから・・・あたしに
は無理だな・・・。』

香奈は自嘲するように笑みを浮かべると、また店内を歩き始めた。

中学生の頃からスカートはあまり履かなくなった。
肌を見せるのに抵抗があったわけではないし、自分の足はどちらかといえば
細いほうだと思っていたが、動きやすくて安心していられる方が良かったの
でジーンズが定番だった。
別に洋服に興味がないのではなく、自分を着飾ることに対しての重要性が感
じられなかった。
学校と家の往復以外に行く所といえば図書館か本屋で、着飾って何処かに出
かけたりすることも殆どなかった。
何より、こんな地味な顔の自分に可愛い服を着せたって滑稽なだけだと思っ
ていた。


店内は平日の朝ということもあってか人影はまばらだ。
香奈がここにくる時は大抵友人の買い物に付き合わされた時で、いつも友人
の背中を見て歩いていたためかとても新鮮だった。
たくさんのテナントが入った店内の殆どは女の子向けのショップだ。
香奈は、通路を歩きながらウインドウに飾られた流行の服をキョロキョロと
見回しながら歩いた。
ふと前を見ると鏡張りの柱に映る自分の姿があった。
香奈は立ち止まり自分の姿をまじまじと眺めてみる。

『なんだかなぁ・・あたしって今風の女の子っぽくないよねぇ・・・。』
太ってはいない。
やせすぎでもない。
胸はそんなに大きくないけどそれなりのスタイルだと思う。
身長も高くも低くもない。
顔は・・・やっぱり地味だ。

『髪型・・変えてみようかな。』

案内板のあるエスカレーター付近に行き美容室を探してみた。
7階がエステや美容室の入ったフロアらしい。

香奈はそのままエスカレーターで7階まで上ると、少し通路を歩いた先にガ
ラス張りの美容室を見つけた。
普段は近所の通いなれた美容室にしか行ったことはなく、こういうちょっと
洒落た感じの店に入った事はない。
少しだけドキドキしながらも、その美容室に入ってみた。

「あ・・あの・・予約・・してないんですけど・・。」

カウンターにいた派手な髪の色をした店員に恐る恐る聞いてみる。

「あ・・大丈夫ですよ。空いてます。お客様、当店は初めてでしょうか?」

見た目からは想像もつかないようなしっかりとした丁寧な受け答えをする店
員は、香奈に必要ないくつかの質問をするとカルテのようなものに書き込ん
でいった。
しばらく待つように言われた香奈は、ソファーに座るとテーブルの上にあっ
たファッション誌をパラパラとめくりながら、ある重大なことに気がつい
た。
とにかく「髪型を変える」という目的でこの美容室に入ったが、どんな風に
するかなんて考えてもいなかった。

「お待たせしました。岡本様こちらへどうぞ。」

さっきの店員が案内しにやってきた。
香奈はあわてて立ち上がると案内された方向へそそくさと歩いていく。

『ああ・・どうしよう・・なんて言って切ってもらおう・・あたし・・バカ
だよ。』

そんな風に考えながら不安な表情を浮かべ俯く香奈を別の店員が迎えた。

「どうぞ~。こちらへお掛け下さ~い。」

「あ・・あの・・!」

そう言って顔を上げた香奈の目の前には茶色い髪にゆるいパーマをかけた綺
麗な女性が立っていた。
化粧は多少濃いけども、今風のナチュラル系な感じで優しげな笑みを浮かべ
ている。

「すいません・・あの・・あたし・・髪型・・変えたくって・・でも・・ど
ういう風にしたらいいかわからなくって・・それで・・あの・・。」

しどろもどろに上目遣いで喋る香奈を見て、店員は一瞬困ったような顔をし
てからにっこりと笑いながら言った。

「えっと・・とりあえず座って下さい。」

香奈は言われるままに椅子に座り、鏡に映る店員を恐る恐る見た。

「う~ん、そうねぇ。今はショートで前髪が眉にかかって少し重たい感じだ
から、パーマ当てて前髪にAライン作って・・あと少し鋤いてから軽くしよっ
か?予算大丈夫?」

「あ・・はい・・大丈夫・・です。お願いします・・。」
そういう香奈に店員はにっこり笑うと用意を始めた。

『あぁ良かった・・。でも・・どんな風になるんだろ・・?』

店員が言った髪型のイメージが香奈にはイマイチぴんとこなかったが、もう
椅子に座ってお願いしてしまったのでなるようになるだろうと楽観的に捉え
ることにした。

それから店員はいろんな話をしながら手早くパーマをかけ始めた。
香奈はパーマなんて初めてだったので、その刺激臭と頭の上をぐるぐると回
るヒーターに多少の違和感を覚えながらも自分がどう変わるのかドキドキし
ていた。

しばらくするとその綺麗な顔の店員は香奈の髪に巻かれた銀色の髪を解き、
くるりと椅子を回転させると念入りにシャンプーをした。
その指の感触が心地よくてウトウトしかけたとき、クスッと小さく笑いなが
ら店員が耳元で囁いた。

「岡本さん。チャック・・半分開いてるよ!」

なんのことだろうと香奈は一瞬考えた後、あっと小さな声を上げ股間に手を
伸ばした。

『あの時・・ネットカフェであわててチャックを上げたつもりが閉まってな
かったんだ!』

あわてて閉めようとするが掛けられたビニールのシートやお腹の上に乗せら
れたタオルを掴んでしまい余計にあせってうまく閉められない。

そのとき、チーッいう音とともに下腹部に触れられた感触がした。

「はい。閉めといたよ。」

綺麗な顔の店員は悪戯っぽい笑みを香奈に向けながら、また優しく囁いた。

「・・あ・・ありがとう・・ござい・・ます・・。」

香奈は真っ赤な顔で店員の顔を見ながらお礼を言った。
チャックが半分開いたまま街中をウロウロしていた事も恥ずかしかったが、
その店員から閉められたのが香奈に追い討ちを掛けた。

「気にしなくていいよ、見えてなかったし。あたしなんかこの前スカートの
ファスナー全開でお店に立ってたからね。」

ニコニコしながら店員が話してくれる。自分を気遣ってくれてるのがよくわ
かってしまい自然と笑みがこぼれた。

椅子を起こされ、カットに入った時、ふと鏡を見てみる。

まだ髪が濡れてて良くわからないがゆるいパーマがかかってるのが解る。
目線を店員に移す。
なんだか顔つきが真剣だし、チラチラと自分の顔を見ているようで何度も目
が合う。
気まずいような恥ずかしいような気がして目を逸らしたとき、店員がボソッ
と呟いた。

「・・・キレイ・・。」

「えっ・・?」

香奈は鏡越しに店員の顔を見る。

「あ・・あのね・・キレイだなって思ったの。こう・・まじまじと顔を見な
がらねカットしてたらね、どんどん雰囲気が変わっていって・・。岡本さん
もともと美人だったのよ。ほら、見てごらん。」

そう言われて鏡の中の自分を見てみる。

『確かに・・髪型は変わったみたいだけど・・雰囲気も変わったみたいだけ
ど・・あたしが・・キレイ・・?』

香奈は見慣れた顔がそこにあるだけでお世辞を言われてるんだと思った。
首をかしげる香奈を見て店員が言った。

「まぁ・・自分のことなんて客観的には見れないからね。よほどのナルシス
トでもない限り自分の気に入らないところばっかり見えてしまうものだか
ら。でもね・・岡本さんはキレイだわ~。なんていうか独特の雰囲気があっ
て・・なんかモデルさんみたい。」

「あ・・・あのそんなワケない・・けど・・ありがとう・・ございます。」

こうまで褒められると悪い気はしない。

『そういえば中村君も同じようなこと言ってた。あたし・・少しくらい・・
自信もっていいのかな・・。』
そんな風に香奈は考えたけども、やはり生来の臆病さからか、とても自分に
自信を持つには至らなかった。

すべての作業を終えた店員は、香奈の隣に顔を近づけると、鏡に映る姿を見
つめた。
鏡の中では店員と香奈が顔を並べお互いの目を見ていてなんだか可笑しかっ
た。

「うん。今までで一番の自信作だわ。」

店員はそういうと椅子をクルリと回転させ

「お疲れ様でした!」

と元気よく言った。




帰り際に、またあのきれいな顔をした店員が来て一言だけ香奈に言った。

「化粧はしたほうがいいよ、薄くていいから。またきてね。」

香奈はその店員に笑顔を返しエスカレータで下の階へ向かった。


『気のせいだろうか、すれ違う人たちが自分を見ているような気がする。
いや絶対気のせいだ。髪形変えたくらいであたしが人から見られるような美
人になるわけがない。思い上がりだ。でも・・それは気のせいだとしても、
なんだか世界が変わって見える。あたしは何も変わってないけども、気分を
変えるには良かったんだな・・。そう・・あたし・・変わるって決めた
し。』

そう思った香奈は、財布の中身を確認した。
さっきの美容室代は痛かったけども、自分の気持ちを変える効果はあった
し、この際だからパーッと買い物をしようと考えた。



それからは、店内をあちこち歩いて、いろんな買い物をした。

あのワンピースや、それに合うコート、化粧品。
それから少し大人っぽい上下セットの下着も数枚買った。

たくさんの荷物を持ってビルを出た香奈は、すぐ横のコーヒーショップによ
って店の前に置かれたテーブルに荷物を置き、道行く人たちを眺めながらコ
ーヒーを飲んだ。

「やっぱり甘いやつにすればよかったな・・・。」

買い物を済ませ気分の良かった香奈は、いつものカフェ・ラテでは無く、普
通のコーヒーを頼んでしまったことを悔やみながら苦いコーヒーを啜った。



目の前を一台のバイクが通り過ぎていく。
なんだかバタバタとうるさいエンジンの音だ。
スーツを着てるくせにそんなうるさいバイクに乗って仕事してるんだろうか
と不思議に思い、そのバイクを目で追った。

しかし、そのバイクは急にブレーキをかけ音を立てて路肩に止まると、乗っ
ていた男が慌てたようにバイクを降りてこちらへ早足で歩いてきた。


『なんだろ・・落し物でもしたのかな・・やだ・・ちょっと・・なんで・・
あたしの前に来るの・・怖い・・え・・なに!?』


バイクから降りた男は香奈の目の前に来ると、何か言いかけて慌ててヘルメ
ットを脱いだ。



香奈は目を疑った。

それとともに全身に鳥肌が立ち、ガタガタと震えだした。

香奈の目の前に立っている男。




まぎれもなく、あの時の痴漢だった。
09/04/09 02:20 (fb/4vYbM)
31
投稿者: 自治厨
【30】
『いや・・・いや・・・なんで・・・近寄らないで・・いや!!』

香奈はガタガタと震えながら目の前にいる男を凝視していた。
なぜこんなところにあの男が現れるのか?
なぜ再び自分の前に姿を見せるのか?
もう少しで忘れる事が出来そうだったのに・・・。
香奈の脳裏にはあの時の恐怖と屈辱が思い出された。

今すぐにでも逃げたい。でも体が震えて動けない。
ただただ、怯えた目で男を見ることしか出来なかった。



「やっと会えた・・ずっと探してたんだ!!」

男が大きな声で言っている。

『何を言っているの?あたし?あたしに言ってるの?いや・・聞きたくな
い・・あっちへ行って・・怖い・・怖い・・誰か・・助けて!!』

香奈は目に涙を浮かべ、ガタガタと震えながらゆっくりと椅子を引き立ち上
がろうとする。

『逃げなきゃ・・逃げなきゃ・・逃げなきゃ・・。』

しかし、香奈の腰は少し浮いたかと思うとまた椅子に降りる。
何度立ち上がろうとしても力が入らずに椅子から動けない。

カタンと音がした。

恐る恐る音の下方向を見てみる。
地面にヘルメットが転がりコロコロと転げている。

突然、男は両手を地面に付き、頭を地べたに擦り付けんばかりに下げて叫び
だした。

「すまない!!ほんとうにすまない!!僕は酷いことをした!!誤った手す
まないと思っている!!君の前に姿を現すべきではなかった!!でも・・ど
うしても・・どうしても謝りたかったんだ!!許してもらおうなんて思って
いない!!償えるとも思っていない!!だから・・僕は何でもする!!警察
だってどこにだって行く!!だから・・そんなに・・そんなに・・怯えない
でくれ・・・ああ・・・俺はとんでもないことを・・・くぅっ・・・ひ
っ・・・・。」


目の前の男が地面に突っ伏して泣いている。
店の客や店員、通りすがりの人達が何事かと足を止め見ている。

『なに・・?なんなの・・?この人?・・泣いてるの?謝ってるの?』

いつのまにか香奈の震えは止まっていた。
ただ呆然と目の前で土下座して泣いている男を眺めていた。
ふと周囲を見回してみる。
人だかりが出来て、好奇の目で自分と男を見ている。

香奈はあわてて荷物を持つと立ち上がり、人だかりを押し分けて走り出し
た。
ワケが解らなかった。
自分はただあそこでコーヒーを飲んでいただけなのに、急にあの時の痴漢が
現れて・・・気が付けば自分の前で土下座して泣いていた。

『なんなの・・?いったいなんなのよ!?』

香奈は立ち止まって振り返った。
人だかりの中で、あの男はまだ地面に突っ伏している。

『知らない・・あたしは知らない・・いや・・・もう関わりたくない。』

そう思ってまた走り出そうとするが、あの男の地面に突っ伏した姿が目に焼
き付いて離れない。

『関わりたくないのに・・・。』

香奈は、また振り返ると男の元へ駆け寄った。

「ちょっと・・あの・・顔を上げてください・・人が見てるし・・あの・・
とにかく・・立って!!」

香奈は男にそう言ってまた歩き出した。

男は驚いたような顔をして地面にひざをついたまま香奈の後姿を見ていた
が、慌てて立ち上がると香奈の後を追った。




「ほんとうに・・すまないと思ってる。君の・・体に・・心に一生消えない
傷をつけてしまった。謝ったって許してもらえるとは思ってないし・・許し
てもらおうとも思っていない。ただ・・ケリつけたかったんだ。自分勝手で
申し訳ない・・・。」

俯き目を伏せて話す男の声を、香奈も同じように俯きながら聞いていた。
どうしても話がしたいという男を、香奈はこの店に連れて来た。
沙耶香や由美と何度か着たことのある喫茶店。
すぐ近くだったし、ここなら周りに人もいるし安心だと思ったからだ。
二人は同じテーブルに向かい合わせで座っている。
奇妙な感じだった。
あの夜、自分に痴漢をはたらいた男が今、目の前にいる。
そしてその話を聞いている自分がいる。


「ほんとに・・申し訳ないことをした。警察に突き出してくれてもかまわな
い・・・。」

「そんなこと・・出来るわけ無いじゃないですか・・あたしは・・恥ずかし
くて・・・そんなこと・・誰にも知られたくないんです。あなたは・・それ
で気が済んでも・・あたしはどうなるんですか・・・。」

香奈は怒りがこみ上げてきた。
この男は結局自分のことしか考えていない。
贖罪の為に自分の前に姿を現したけれども、それはせっかく忘れようと決め
た記憶を呼び覚まし、なおも自分に恥をかかせようとしている。
そんな風に思えてしまった。


「・・・君の言うとおりだ。僕は・・罪の意識から逃れたかった。その為に
また君を傷つけてしまっている・・・。なんて浅はかなんだろう・・・。す
まない。僕には・・謝る事しか出来ないなんて・・・。」

「・・・いくら謝られても・・許すとか・・そんなんじゃなくて・・忘れた
いんです。だから・・・。」

そう言って香奈はその男を見た。
うなだれて目に涙を溜めている。

「すまない・・・・。」

男はテーブルにぶつかるくらいに深々と頭を下げて言った。


香奈はもうこれ以上話す事は無いと思い、立ち上がろうとしたが、いくつか
の疑問が頭の中に浮かび、座りなおすと男に問いかけた。

「あなたは・・・どうしてあんなことをしたんですか?どうして謝ろうと思
ったんですか?」


「本田・・・本田孝史というんだ・・・僕の名前。」

そういって男は懐から名刺をとりだし香奈の前に差し出した。

「妻が・・あ・・いや・・言い訳になってしまう・・・。つまり・・なんて
いうか・・あの時・・・君をはじめて見た時に・・すごく気になって
て・・・あれは僕の趣味というか性癖みたいなもので、ああいう場所で人に
見られながら・・オナニーをするのが好きで・・たまたま君がその行為を見
てて・・それで・・すごく気になってて・・妻が浮気をしてて・・正気じゃ
なかったんだと思う・・でも君をもう一度見かけたときにどうしても・・・
君が欲しくなって・・あんなことするつもりじゃなかった・・いや・・ゴメ
ン・・嘘だ。あの時から・・君が欲しくて仕方なかったんだと思う。」

香奈は俯いてボソボソと話す男をじっと見つめた。
傍から見れば痴漢をはたらくようには見えない。
実直そうな感じで、身なりもキチンとしている。
女性に不自由しているようにも見えず、むしろモテそうな感じだ。

『どうしてこんな人があたしにあんなことを・・・。たまたまあたしがこの
人のオナニーを見てしまったから?あたしが気になってた?欲しくて仕方が
無かった?やめてよ・・そんなこと言うの・・。』

少しの嫌悪感と「欲しかった」といわれたことに対する恥ずかしさで香奈の
顔は赤くなっていった。

「娘がいるんだ。まだ五歳だけど・・。その子がもし・・僕が君にしたよう
なことをされたらと思うととてつもない罪悪感に苛まされて・・・。それ
に、妻が浮気相手の彼女を殴っちゃってね。警察のご厄介になったんだ。君
と同じくらいの年の女の子に怪我を負わせて・・・。妻は、警察でお咎め食
ったけど僕は君にあんなことをしても何の罰も受けてないから・・・。で
も・・・多分、僕は自分の心を救いたかったんだろう。勿論、君に謝って君
が気の済むようにして、それで君の傷が癒えるんであれば僕はなんだってす
るつもりでいたんだ。キミには信じてはもらえないかもしれないけど。」

いい大人が、たかだか16歳の女に向かって丁寧に遠慮がちに話している。
その姿が滑稽で、香奈は、この人は嘘を言っていないと思った。

「岡本・・・岡本香奈です・・あたしの名前。」

その言葉に孝史は驚いて香奈の顔を見た。

「どうして・・僕に名前を・・・?」

「もういいです。本田さんの言ってる事は解りました。ただ・・あたしは、
許すなんて事が出来るほどいい人間じゃないです。ただ・・今は・・あの時
の事は忘れたいんです。それに・・あたしの気が変われば本田さんを警察に
突き出す事だって出来るし・・もう隠すことなんて無いですから。」

香奈はきつい口調で孝史に言った。

「解ってる。僕はあの時からいつでも覚悟している。」

唇をかみ締めて自己嫌悪に陥っている孝史の姿を見た香奈は幾らか気持ちが
軽くなったのを感じた。
それは、自分を汚した男の正体がはっきりしたから。
そして、その男は真っ正直に自分に謝罪し、罰を受ける覚悟が出来るほどの
実直な人間であることを知ったからだった。

「奥さん・・・浮気してたって・・・警察に捕まっちゃったって・・こんな
ことしてる場合じゃないんじゃないですか?」

ふいに香奈は口走った。

『なぜあたしはこんなこと聞いてるんだろう・・?』

香奈は自分の口から出た言葉が不思議に思えた。
この男の家庭がどうなろうと自分の知ったことではないのだが、この本田と
いう男を見ているとその実直さから何かを犠牲にして無理をしてるのではな
いかとさえ思えて心配になったからだろう。

孝史もなぜ香奈がそんな心配をしてくれるのかと怪訝な顔をしたが、素直に
聞かれたことに対して答えた。

「妻は・・結局告訴されずに家に戻ったよ。相手の子も妻の浮気相手の部屋
に泊まったりしてたから・・親御さんが大事にしたくないということで
ね・・。君の知り合いじゃないと思うけど・・白坂って子だった。」

「白坂・・!?それ・・いつの事です!?名前は!?」

「え!?・・いつって・・君に・・だからご5日前だよ・・。名前は・・白
坂・・白坂由美って。」

「・・・由美・・・そうだったんだ・・・。」

不思議な縁だと思った。
決していい縁ではない。

『あたしはこの人に痴漢されて・・・由美はこの人の奥さんに殴られ
て・・・。でも・・それはこの人の奥さんだけが悪いわけじゃないけ
ど・・・。』


「帰ります・・・。」

香奈は荷物を持つと立ち上がった。
孝史も立ち上がり立ち去ろうとする香奈の背中に向かって言った。

「岡本・・さん。僕は・・何でもする・・君の気が済むまで・・何でもす
る・・。今日は・・ほんとに済まなかった!!」


香奈は振り返らず黙って店を出て行った。

『あたしたちって・・つくづくツイてないよね・・由美。』

そう心の中で呟いたとき、一瞬沙耶香の顔が思い出された。
しかし、香奈はその沙耶香の顔をかき消した。
今は沙耶香のことは考えたくない。
孝史に再度会った事で、確かに幾分かの鬱積した重い気持ちは晴れたけど
も、孝史とその妻との奇妙な関係が新たな憂鬱を感じさせた。
由美のことも心配で、様々な心の不安を打ち消してくれるものを探したと
き、それは中村の笑顔だと確認し、何より早く中村に会いたくなった。

孝史とのあの忌まわしい記憶が緩和されたように、沙耶香との記憶も中村の
笑顔を見れば少しは緩和されるのではないか、今よりも心が軽くなって何か
しらの解決方法が見つかるのではないかとういう根拠の無い希望にすがっ
た。

初冬の夕暮れは風が冷たく、香奈はその根拠の無い淡い期待を胸に家路に着
いた
09/04/09 02:21 (fb/4vYbM)
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