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1:”澪と雫“恋するマーメイドたち
投稿者:
あんぽんたん
「よ~し!」
「もう一本!! いくよ~!」 「準備はいいか?」 コーチの男性らしき人物の声が場内に響く。 ここは、その彼が通う大学のプールである。 そして、その指示を受けた一人の少女が長水路のスタート台にクラウチングポーズを取って、今か今かとタイミングを計っていた。 少女の小さな顔にはゴーグルがしっかりと装着して有り、涙などが流れ落ちる筈も無いが、屈んだ体勢の小振りで流麗な顎からは止めども無く水滴が滴り落ちている。 その落ちて行く雫は汗なのか?。 それとも悔し涙なのであろうか。 いずれにせよ、それらは強い照明を受けて、まるで宝石の様にキラキラと光り瞬いていた。 「パンッ!!」 と云うピストル音が場内に響くと、彼女は全力でスタート台を蹴って行く。 その、か細い少女がしなやかな肢体を極限にまで伸ばした姿は、まるで獲物を狙う若き女豹の様でも有る。 そして、そのままの体勢でザブンッ!!と水中に飛び込むと、彼女の姿は一瞬では有るが確認出来なくなる。 「よ~し! 思いっ切り行け~!!」 彼が控え目な声で声援を送ると、彼女が片手を後ろへ強く掻きながら水面へと現れる。 彼女の名は”相原雫“(あいはらしずく)と云う。 現在に於いて、世界レベルから大きく引き離されている女子水泳自由形短距離のホープとして注目されている少女である。 彼女は身長が153CMとそれ程高くは無いが、均整の取れたプロポーションは抜群である。 専門は”フリー“の50と100メートルであった。 彼女は彼の期待を背に、美しく完成されたフォームで泳いで行く。 そして折り返しで、クルリと縦に回転して水中の壁を勢い良く蹴ってターンを決める。 そのタイミングや動作は全て計算し尽くされた動きである。 そして最後に全力でフィニッシュを纏めて行く。 そのタッチ迄の間に無駄に流れた時間は殆ど無く、およそ完璧な泳ぎを実践出来た。 正に彼女自身が、その手応えを感じている筈である。 雫「ぷっ!はぁ~!!」 「・・・っ、はぁぁぁ~・・・」 彼女は、ぜいぜいと息を荒げながらコースロープの黄色い浮き球に両脇を載せて、プールサイドの彼を見上げて居る。 雫「はあっ! はあっ! はあっ!・・・」 「・・ねえ?・・何秒?・・」 いかにも自信有り気に、にんまりと笑顔を見せながら彼にタイムを聞く。 その問いに彼は落ち着いた声で答えた。 「54,6秒って処、かな?」 雫「54,6?~!!」 「・・・・・」 散々に練習を重ねて自らを追い込み、ベストの体調を維持して試合を想定した上でのタイムである。 単独での挑戦と云う条件を加味したところで、自己ベストにさえ到底及ばない。 彼女には絶対に受け入れられない記録であった。 雫「・・・・・」 「・・何で?・・」 「どうして・・そんな・・」 「なんでなのよっ!!」 にこやかな笑顔から一転、険しい表情に変わった彼女の顔には潤んだ瞳が有った。 雫「わたし・・」 「帰る!!」 彼女はプールサイドによじ登ると、すたすたと出口へ向けて歩き出す。 「待ちなよっ!!」 「まだ二本目だろっ!!」 「なぁ!待てって!!」 彼は必死になって彼女を引き止めるが、当の彼女は聞く耳を持たなかった。 雫「お疲れ!」 「臨時コーチさん!」 彼女は、そう一言だけ言い残して、さっさと引き揚げて仕舞う。 彼にはそれ以上何も出来なかった。
2018/01/20 06:03:28(Dhe.vXZm)
投稿者:
あんぽんたん
いきなり彼女から”赤ちゃん“と云う生々しい言葉を聞いて、彼のペニスは小さな拍子でピクンっと反応をする。
C2の彼にとって、子孫を繋げて行く行為等は全くの未知なる世界である。 しかし、既に男としての精通を果たしている彼の身体だけは、目の前に在る完成された美しい女性の身体に熱く共鳴して仕舞う。 正章「僕・・と、やすこさんの・・・」 「・・あかちゃん?・・」 康子「貴方がOKなら・・・」 「・・私、産みたいの!」 「まちゃの赤ちゃん!!・・を!」 彼女は水泳と云う競技に魂を打ち込む傍ら、数々の恋愛を経て現在に至っている。 時には生涯の伴侶と決めて掛かる様な相手にも巡り合って来た。 だが、その想いは長くは続かなかったのだ。 何故なら彼女は、重度のショタコンである事が判明して仕舞ったからであった。 康子「私ね!・・恐らく、この後一生・・」 「結婚なんて、しない儘かも知れないの」 「・・多分・・・きっと、ね!・・」 彼女は、その時々の交際相手と何度も性交渉を持とうと試みて来た。 しかし、いざ、その段になるとどうしても体と心が云う事を聞いてくれなかった。 青年男性が持つ、素の身体を見ただけで身体が竦んで仕舞う。 否、それどころか自らの身体の表面に鳥肌が立ち、成熟した男性の身体に嫌悪感さえ覚えて仕舞う。 康子「心の病気・・なのかな?」 「・・・・・」 「もう、私には何も出来る事が無いのよ」 「・・・・・」 「私の事・・・」 「・・気持ち悪い、かな?・・」 彼女は悲しそうな微笑みを浮かべながら、彼に向かって自らの真実を隅々まで暴露して行く。 正章「そんな・・」 「そんな事、無い!!」 「康子さんは魅力的な女性です!!」 康子「ふふっ!(辛笑)・・・」 「・・ありがと! まちゃ!!」 正章「・・・・・」 彼女はそう言って彼の唇を優しく、チュッと奪って行く。 正章「・・・じゃあ?・・・」 「・・それじゃあ、僕は何をすればいいんですか?」 「僕に出来る事なら何でも言って下さい!!」 「お願いします!!」 彼の真摯な訴えに彼女の心は温かく絆されて行く。 康子「ぅふっ!(笑) 貴方は何もしなくていいのよ!」 「只、私と云う変な女を、少しの間 ちょっとだけ、受け容れてくれればいいの」 「・・それだけ・・只、それだけの事・・」 正章「はい!・・僕、何でもしますから!!」 「やすこさんの言う事、何でも聞きますから!!」 康子「まちゃっ!!」 正章「やすこさんっ!!」 彼女は自らの想いと隠し事の全てを彼に話す事が出来た。 後は思う存分に彼の遺伝子を受け容れて、その結晶たる子孫を残すだけである。 だがしかし、彼女には彼にも伝えられない最後の憂いが残されていた。 それは彼女自身にもよく分からない、霧の向こう側に在る不確かな心の陰であり、彼女にもはっきりと確認する事は難しかった。
18/02/19 15:23
(oB3vgRJd)
投稿者:
あんぽんたん
澪「うんっ!・・うん、ぅんっ!」
「ねえ?正章くん?・・」 「貴方、最近メキメキ腕を上げているけれど」 「何か、有ったの?!!」 正章「べっ、別に?・・」 「何も無い、けど・・」 彼は康子との子作りと云う大事業を始めてからと云うもの、不思議な程に精神が澄み切って、本来の目的である水泳の鍛錬にも大きく身が入って居る。 澪「だって、ちょっと前迄、幾ら頑張っても出来なかった事が 簡単に出来る様になったのよ!」 「それって・・不思議過ぎる!」 正章「そっ、そうかな?・・」 「ははっ!(苦笑)・・」 澪(なに?・・この子?・・) (な~んか怪しい!) 澪は彼の変貌に一抹の不安を抱えて居た。 何故なら彼と北川コーチの間には、変に余所余所しい空気が立ち込めているからであった。 康子「は~い!!・・終了~!!」 そして康子の晴れ晴れとした声が場内に響く。 最近の康子はファッションと云い、やけに明るい表情と云い、澪から見ても妙に色っぽく艶が有り、その女性としての魅力を倍増させている。 そんな思いを抱いている澪は、常に彼女の傍に居る彼の小さな変化さえ見逃す筈が無かった。 練習後の会議室で。 康子「今日で正章君の合宿はお終い!」 「これからは、大会に向けての調整に入るわよ!」 澪「はい!質問です!」 澪が真剣な面持ちで片手をスッと挙げる。 康子「何かしら?・・花村さん?」 澪「あの、彼のここ数日間の上達振りは 少し、奇妙に感じるのですが?」 「コーチの御見解は?」 澪は納得の行かない事が無性に嫌いであった。 康子「奇妙?・・」 「さあ?・・どうかしら?・・ねえ?」 「誰しもが伸び盛りの期間を 経験しているんじゃな~い?」 「貴女だって、そうでしょ?」 「ねえ?・・花村さん?」 澪は康子の勝ち誇った様なしたり顔が気に障ったのか、この後も執拗に彼女へと質問をぶつけて行く。 澪「そんな?!!」 「スポーツ選手が感覚で物事を言って居たら スランプに成って仕舞った時に解決策が 分からなくなって仕舞います」 「それをどう思います?・・コーチは?」 C3のひよっこに精神論やらスポーツ理論やらを薀蓄(うんちく)されて、康子の方も少々感情的になる。 康子「あのね!こう見えても私は大学で スポーツ生理学を修得しているのよ!!」 「気合と根性で押し切る時代の 申し子とは根本的に違うの!!」 「貴女の言っている事位、分かっているわよ!!」 澪「では何故彼の分析を拒むのですか?!!」 康子「はあぁ~?!!」 「私が科学的な分析を拒んでるって云うの?!!」 「なに?・・もしかして?」 「貴女!私が何も知らない筋肉バカとでも?!!」 澪「私はそんな事を言ってるんじゃありません!!」 康子「言うわね~?!!」 「それって、嫌味?!!」 澪「嫌味なのはコーチの方ですっ!!」 康子「なんですって~?!!(怒)」 澪「そちらこそ~!!(怒)」 二人の激しい論争は留まる処を知らなかった。 そんな惨状を見かねてか、彼がのこのこと間に割って入って来る。 正章「まあ、まぁ!」 「二人共仲良く行きましょうよ!」 「ねっ?!」 康子・澪「はああぁぁ~~??!!」 「貴方は黙ってなさいっ!!」 正章「はっ、はいぃ~!!」 彼は二人の猛女に瞬殺されて仕舞った。
18/02/19 17:07
(oB3vgRJd)
投稿者:
日本茶々!
100レス間近いですね♪続きお願いします!
18/02/20 09:56
(9gTY8b1o)
投稿者:
あんぽんたん
彼の将来に向けて建設的な意見を交わす筈で在ったミーティングが一転した。
それは一人の男を巡って、怖すぎる女たちの恐ろしい迄の修羅場と化して仕舞ったのだ。 康子(この、小娘がぁ~!!) (遠慮もせずに言いたい放題!!) (一体全体、如何してくれようか?!!) そして、特に康子にとっては譲れない一線に、ずかずかと足を踏み入れられる様な感覚が強く感じられた。 それは康子と正章が、その愛を確かめ合って生身の身体を繋ぎ合わせ、子作りに励み始めた矢先の出来事だったからである。 澪(なんなの?この二人?!!) (絶対!!、ぜ~ったいに、怪しい!!) 練習に於ける彼の好収穫も、二人の愛による結果だと思わざるを得ない。 だがしかし、その事は二人による二人だけの決して漏らす事の出来ない秘密であった。 そんな状況で在れば第三者である澪に対して、かくかくしかじかと説明をする訳にも行かない。 かくして康子は八方塞がりとなり、思わず感情的な態度を取って仕舞った。 康子「花村さん?・・」 「・・ふふんっ!!(嘲笑)・・」 「貴女は所詮、私たちの”お手伝い“なのよ!!」 康子がまた、勝ち誇った態度で巻き返して来る。 そしてそんな態度を見せ付けられた澪は、珍しく感情的な態度で応酬した。 澪「貴女が出来ない事を私が代わりに やってあげてただけなのに・・」 「お礼の一つも無いなんて・・」 「サイッテ~!!」 康子「はあぁ?!!」 「それがコーチに、あっ!否!」 「メダリストに向かって言う言葉?!!」 「礼儀の欠片も無いわ!!」 澪「な~にがオリンピックよっ!!」 「今じゃ、只のオバサンじゃない?!!」 康子「何ぃ?・・」 「依りによって、おばさ・・・」 「・・そこ迄言うなら勝負よ!!」 澪「喜んでっ!!」 「掛け値無しの真剣勝負でお願いしますっ!!」 かくして二人の熱い女性による、水泳と云う意地の張り合いを舞台とした幕は華々しく切って落とされた。
18/02/21 14:45
(XCuOv0qe)
投稿者:
あんぽんたん
康子「良い?・・」
「勝負は100のブレストの一本勝負よ!!」 澪「はい!結構です!」 二人は共に水着へと衣替えをしてプールサイドで睨み合っている。 しかし康子の場合は少々条件が厳しい。 幾ら過去に実績が有ろうとも、現役のトップスイマーに敵う訳も無い。 「あれ?北川コーチ・・」 「随分と久し振りの水着姿じゃない?」 「そうだなぁ、何年ぶりだろ?」 「ここで泳ぐのなんて?」 「んっ?・・5年振りかもって?」 「でも相変わらず、決まってるわぁ~!」 「ホント、カッコイイ!! あの水着姿!憧れちゃう!」 「流石、ねっ!!」 場内のざわめきが段々と大きく成って来る。 そんな注目の的である康子は、意外と落ち着き払っていた。 現役スイマーであった頃の姿は見るべくも無いが、充分に引き締まっている身体はアスリート体型を見事に維持している。 康子「準備は良いわね?」 「花村さん?」 澪「何時でも、OKです!」 康子「それじゃあ、正章君?」 「スタートの合図をよろしく!」 正章「は、はい!」 そんな康子は只ひたすらに集中力を高めて行く。 そして澪は彼女を見ながら警戒心が募って来る。 康子(スタート!・・スタートさえ決まれば) (後は、何とかして・・) 澪(幾ら引退後のキャリアが無いって云っても オリンピックメダリストの名は伊達じゃ無い!) (絶対に何かを仕掛けて来る筈!!) 二人はスタート台に登って身体を前方に屈めて行く。 正章「では行きます!!」 「・・・・・」 「・・・よ~い!・・・」 康子と澪は真剣な表情でダッシュの体勢を決める。 正章「パンッ!!」 彼の放つピストル音に弾かれて、二頭の美しいマーメイドはザブンッと云う水音と共に水中へと消えて行く。 そして流麗な身体を長く伸ばした後、それぞれがそれぞれのタイミングで強く脚を蹴って行く。 すると先に水面へと現れたのは康子の方であった。 康子(あれっ?・・) (出し抜かれちゃっ、た?) 澪は彼女の数十センチ先を、コンマ数秒程リードして水面へと浮かび上がって来る。 この時点で二人の差は歴然としていた。 澪(行ける!!) (ってか・・思いの外、手応えが無い?・・のか、な?・・) 二人は更に別々のタイミングでターンを決める。 その差は最早決定的であり、後は只単にペースを維持するだけの単純なレース運びと成って仕舞った。 正章「ゴ~ルっ!!」 「勝ったのは・・・」 「・・澪、さん・・」 康子は彼女から数秒遅れでゴールインした。 澪「はぁっ!! はあっ! はぁっ!!・・・」 「・・・・・」 「・・こっ、コーチぃ?・・」 澪は自分との歴然とした差を満場に披露して仕舞った彼女の心をおもんばかる。 康子「んっ!はあぁっ!! はぁっ!! はぁっ!!」 康子は息も絶え絶えに苦しそうな表情を見せている。 しかしその顔には晴れ晴れとした笑みが見受けられる。 彼女はこの勝負に負けて、何かを掴んだ様にさえ感じられた。 康子「はぁ、はぁ、はぁ・・・」 「はな、むら・・さん?」 「はぁ、はぁ・・良い泳ぎ、だったよ!!」 「これな、ら・・彼を安心して、任せられるな!」 澪「・・コーチ?・・」 康子はゆっくりとプールから上がると、場内の者達全てに何度となく深いお辞儀をした後、確かな足取りでその場から去って行った。
18/02/21 16:26
(XCuOv0qe)
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