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妻として、母として 教習所編
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:人妻熟女 官能小説   
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1:妻として、母として 教習所編
投稿者: マイペース ◆03ZKtqlKtw
【1】
地方のとある田舎町。
不況の煽りを受け、田舎は人口減少により何処も過疎地となっている。
一昔前には繁盛していた企業も、今では倒産や閉店となり活気が失われていた。
そして、この田舎町にある自動車教習所も例外ではない。
やはり人口減少に伴い、生徒が激減した影響で経営状況はどんどん悪化していた。
とはいえ、意外にも最盛期は昔ではなく数年前の事だ。
それは、たった1人の人物の存在が巻き起こしたものだった。
だが、ある出来事が原因でその教習所は一気に経営不振に陥る事となる。
正に閑古鳥が鳴く状況で、いつ破綻してもおかしくなかった。
噂によると、このままではもって数年だろうという話だ。
森浦町(もりうらちょう)の森浦教習所、それがこの物語の舞台。
田舎町らしく海と山に囲まれた風景の中、山を切り開いた場所にその教習所はある。
現在の教官人数はピーク時の半分以下で、10名にも満たない。
他には、女性事務員が2名。
教官は全て男性で、地味で特色の無い教習所の印象を更に引き立たせていた。
もっとも、以前は女性教官も居たのだが・・・。
そんな森浦教習所に転機が訪れたのは、桜が咲き始めた3月。

時刻は夕方17時、早番の中には帰り支度を始める者達もいた。
森浦教習所のシフトは早番8時~17時、遅番11時~20時。
最盛期だった頃は就業時間を過ぎても残業など当然だったが、生徒が激減した現在はシフト通りに帰宅できている。
そしてここにも1人、業務を終えて帰宅準備をする者がいた。
「それじゃあ恭子ちゃん、悪いけど残りの会計処理お願いするわね。」
「はい、牧元さん。お疲れ様でした。」
教習所の事務室には、教官などのデスクや事務員が事務作業を行うデスクもある。
その事務室から、後輩と思われる女性事務員に残りの業務を託して1人の女性事務員が出てきた。
何やら楽しみな事でもあるのか、表情は明るい。
すると、その人物に声を掛ける者がいた。
「お~い、幸子。」
「あらっ、あなた。どうしたの?」
「帰るんだろ?
俺も急いで終わらせるけど、先に始めててもいいからな。」
「えぇ、分かったわ。
でも、あまり遅れないでね。
今日の主役を怒らせたら、大変だわ。」
「あぁ、そうだな。なるべく早く戻るよ。」
笑みを浮かべながらの会話で、2人の仲睦まじさが十分に伝わってくる。
この親愛に包まれた空間を、他者が侵す事など許されるはずがない。
しかし、その光景を無遠慮に汚す者が現れた。
「ほぅ、随分楽しそうじゃないか。
私も仲間に入れてもらおうかな。」
一転して、女の表情が険しくなった。
「あっ、お疲れ様です所長。
いやぁ、他愛もない夫婦の会話ですよ。ハハッ。」
「そうか・・・夫婦の、ね。
・・・・・あぁ、そういえば牧元君。
小川君が探していた様だが、早く行った方がいいんじゃないか?」
「えっ、本当ですか?
すいません所長、教えて頂いて有り難うございます。
それじゃあ幸子、また後でな。」
「あっ、ちょっ・・・。」
女が引き止める間もなく、男はその場を去ってしまった。
すると、残ったもう一方の男はここぞとばかりに女へ話し掛ける。
「済まなかったね、幸子君。
どうやら、私は2人の邪魔をしてしまった様だ。」
「いえ、そんな事はありませんわ。
お気になさらないで下さい。」
言葉の割に、表情は冴えない。
この状況を煩わしく思っているのは、確かだ。
だが、男は会話を止めようとはしなかった。
「ところで、事務職はもう慣れたかな?
聞いた話によると、幸子君が事務員になってから作業が捗ってるらしいじゃないか。
古川君より仕事が早いって、みんな褒めてるよ。」
「また、ご冗談を・・・。
恭子ちゃんのフォローが無ければ、私なんてまだまだです。」
女の返答は、素っ気ない。
早くこの場から立ち去りたい、女の憂鬱な様子が伝わってくる。
しかし、男は構わず続けた。
「でも、本当に良かったよ。
君に事務職を勧めたのは、やはり間違いじゃなかった。
・・・あの時はどうなる事かと思ったが、もう大丈夫だね。」
その言葉に、女の表情は更に曇った。
「おや、思い出させてしまったかな。申し訳ない。
だがね、幸子君。
ここには君のご主人だっているし、私だっているんだ。
何かあれば絶対に君を護るから、安心したまえ。」
「・・・有り難うございます。
所長には主人共々よくしていただいて、本当に感謝していますわ。
これからも、よろしくお願いいたします。」
もちろん、本音とは程遠い社交辞令なのは間違いない。
この男といつまでも同じ空間に居たくない為、何とか会話を終わらせようとしているだけだ。
何故、そうまでしてこの男を避けるのか。
ただ人間性に問題があるだけなら、ここまで警戒する事は無いだろう。
この男を頑なに避ける理由、それは先程から送られてくる視線がいつもと同様の淫らなものだったからだ。
2022/04/30 16:55:25(DT9iellc)
7
投稿者: マイペース ◆03ZKtqlKtw
【7】
単刀直入に言うと、教習所は何とか存続の方向で決まるそうだ。
原井は、町の施策をほぼ一任されている。
どうやら、町の予算から教習所に補助金を支給する様だ。
矢島とは旧知の仲、というのが決め手らしい。
幸子は、その理由に対して素直に喜べなかった。
それに、簡単に補助金が出せるのだろうか。
原井は自分の権限があれば何とかなると言っていたらしいが、本当に大丈夫なのか・・・。
とはいえ、森浦教習所の即閉鎖を回避出来る可能性が高まったのは、とりあえず一安心といったところだろう。
だが、やはりというべきか原井は条件を出してきた。
今回は補助金を支給するが、もちろん幾らでも出せるわけではない。
また、補助金では一時凌ぎにしかならないし、どちらにしても数年後の閉鎖は免れないのが現実。
つまり、これからは原井も教習所経営に介入する、といったものだった。
実際、財政問題に長けているのだから原井が関われば心強いかもしれない。
あまり原井と接する機会は増えてほしくないが、こればかりは仕方無いだろう。
そして原井は早速、改革に打って出た。
まず、手始めに週明けの月曜日に行われるのが教官のスキルチェックだ。
原井自身が教習生役として乗り込み、教習生に接する態度や指導法を査定するのが目的だという。
確かに、近年人気の教習所は教官の指導法に定評がある。
原井が教習生役では誰もが萎縮するだろうが、最初の取り組みとしては間違っていないかもしれない。
しかし、全教官ではなく代表として1人だけを見極めるというものだった。
また、その代表は副所長である由英だというのだ。
人当たりも良く運転技術は全教官の中でも1番だから、心配無いとは思う。
問題は、原井の人間性だ。
難癖をつけそうな様相が、原井からは窺い知れる。
幸子は、それだけが心配だった。
だが、由英は幸子の不安を一蹴する。
「まぁ、確かに近寄りがたい雰囲気はあるよな。
でも、それとあの人が今まで成し遂げた事は別だろ?
実際に話してみて、やっぱり経済学に関しちゃ本物だなぁって思ったよ。
彼なら、教習所を立て直してくれるんじゃないか。
それに、スキルチェックはあくまで形式的なものだって原井さんは言ってたし。
幸子が思ってる程、悪い人じゃなさそうだけどなぁ。」
幸子が応接室を去った後、どんな話し合いが行われていたのかは分からない。
由英の報告を聞いた限りでは、教習所存続に向けた打ち合わせだけでプライベートな話は無かったそうだが、きっと原井の実績に感銘を受けたのだろう。
「幸子、たくさん苦労をかけてきたけど俺もまだまだ頑張るから。
神様だって、俺達を見放したりしないさ。
晶も中学生になったし、父親として格好いい所を見せないとな。
あっ、夫としてもな。」
「もう、こんな時に何言ってるのよ。」
今のままでも、十分過ぎるほど素敵な夫だ。
幸子の顔が、それを物語っていた。
「さぁ、これから忙しくなるぞ。
風呂に入って、英気を養うとするか。」
由英は、そう言って風呂場へと向かった。
晶だけでなく、由英の笑顔にも日頃から元気をもらっている。
幸子は、改めて夫を支えていくと決心した。
ただ、無視出来ない気がかりな事もある。
応接室を去る際、声を掛けられた時に見た原井の表情だ。
底気味悪い笑みで、こちらを眺めていた顔。
それが、どうしても忘れられない。
取り返しのつかない事態に、陥らなければいいが・・・。
幸子はあの顔が頭から離れず、その度に危惧せずにはいられなかった。
そして、それは刹那の如く現実となったのだ。


翌朝、いつもの様に誰よりも早く起きる幸子。
朝食を作っていると、由英も台所へやってきた。
「おはよう。」
その言葉で、普段通りの1日が始まる。
幸子の料理を美味しそうに食べる由英の姿も、何気無い日常の光景だ。
変わった事といえば、幸子の様子が落ち着いているという事だろう。
毎朝、この時間は慌ただしく動いていた。
朝食を作り、家事を出来るだけ済ませる。
皆が食べ終えた後、皿洗いをしてから着替えて出勤。
そんな朝を毎日過ごしていたが、今日は違う。
何故なら、この日は由英が早番で幸子が遅番となっていたからだ。
晶が中学生になったので、幸子もこの春から適度に遅番が組み込まれる事になったのだ。
副所長である由英の立場を考えて、幸子が自ら申し出たのだった。
森浦教習所の営業時間は、朝9時~夜20時。
しかし、土曜日は18時までと短縮されている。
元々は平日と同様の20時までだったが、教習生の減少により土曜日は18時に繰り上げられたのだ。
遅番の就業時間は1時間後の19時までなので、幸子が自宅に着くのは大体19時半だろう。
晩御飯に関しては、由英が簡単に作れる程度まで幸子が出勤前に下ごしらえをしておくので、支障は無かった。
「行ってらっしゃい。」
由英を見送った後、幸子はゆっくりと家事をこなした。
早番の時には断念する掃除も、何とかなりそうだ。
着替えはもちろん、化粧をする時間にも余裕がある為、思わずいつもより入念に整える。
類い稀な美貌を、更に引き立たせた。
「それじゃあ、行ってくるからね。
昼食は冷蔵庫に入ってるけど、野菜も残さず食べるのよ。」
「分かってるって。行ってらっしゃい。」
土曜日で、休日の晶。
その息子に見送られ、幸子は家を出る。
遅番の出勤時間である昼前、幸子が教習所に到着した。
22/05/01 22:42 (aXMuuJQO)
8
投稿者: マイペース ◆03ZKtqlKtw
【8】
この日の服装は濃紺スーツで中に白いYシャツ、スーツとセットの濃紺スカートにベージュのストッキング、靴は黒いハイヒールという出で立ち。
教習生と関わる機会は無くなったが、矢島はもちろん他の男性教官達からの豊乳や肉尻に向けられる淫らな視線は、本日も相変わらずだ。
出勤早々、不愉快な気分だったが1人の人物によって幸子は笑顔を見せた。
「お勤めご苦労様です、幸子。」
「たった今、出勤したばかりよ。」
当然、由英だった。
ちょうど、昼休憩に入るところだったらしい。
由英とのおどけた会話で、幸子は憂鬱な気持ちが吹き飛んだ。
仕事にも気合が入り、自分のデスクに向かうと隣には既に恭子が居た。
同じ事務員で、幸子自身を除けば職場内の女性は恭子だけである。
古川恭子(こがわきょうこ)、30歳、独身で外見は幸子に遠く及ばない。
幸子が森浦教習所に勤め始めた翌年、入社。
事務員としては幸子より長いが、幸子にとっては可愛い後輩だ。
他の男性教官は幸子に対してと違い邪険に扱っているが、幸子と由英は優しく接していた。
事務作業も丁寧に教えてくれたり気遣いも出来て、男達だらけの職場の中で幸子には必要不可欠な存在だ。
この日の恭子は早番で、17時までとなっている。
由英と恭子が居ない残りの時間は警戒対象者ばかりで少々不安だが、2時間位なら何とかなるだろう。
幸子は普段と変わらない日常が約束されていると信じ、事務作業に没頭した。
そして、あっという間に17時を迎えた。
由英は、報告書作成等のデスクワークをしている。
そろそろ終えて、帰宅するはずだ。
恭子も、もうじき終わるだろう。
すると、矢島がやってきた。
「古川君、済まないんだが少し残業してくれないか。」
こんな帰る直前で、何を言うのだろう。
聞いていた幸子も、呆気にとられた。
「所長、何かあったんですか?」
近くに居た由英も、気になった様だ。
「あぁ。たった今なんだが、原井相談役から連絡があってね・・・。」
その内容に、幸子は更に唖然とした。
事の顛末は昨日、応接室で決算書を見た時らしい。
町の予算から補助金を出すとはいえ、勝手に決めてしまうのは幾ら相談役の立場でも難しい。
施策はほぼ一任されているが、押し切ってしまえば問題になるのは必至。
つまり、他の町議員や町長を納得させなければいけない。
そこで原井が考えたのは、重要書類を町議員と町長に開示するというものだった。
教習所内に保管している決算書等を見せ、不透明な部分を無くせば追及されない。
後は原井が説き伏せ、認めさせるというのだ。
要するに、そのきっかけを作ればいいらしい。
だが、原井の指令はここからだった。
「昨日、決算書を見た時に破れてる箇所がいくつかあったそうでね。
資料室にあるファイルを見せるつもりなんだが、破れてる書類は廃棄して、新しくコピーしたものをファイルにまとめてほしいんだ。
そういった重要書類の保存状態がしっかり出来ていないと、経営状態までデタラメだと思われてマイナスに働くらしい。
来週の月曜日に、適正テストが行われるだろ?
その時に、チェックしたいと仰ってるんだ。」
原井の言う事は、確かに一理ある。
綺麗に整理出来ていないと、疑われるのは当然だ。
それに、決算書の破れた書類を取り替える位なら何とかなるだろう。
残業とはいっても、長時間にはならないはずだ。
自身も手伝って早く終わらせようと、幸子は矢島に確認した。
「決算書は、何年前から調べればいいんですか?」
「ん~、それなんだがね。
月次決算と年次決算、それから会計帳簿と経費の支払証明書。
教習所の保管分、全てを見てもらうらしい。
だから、幸子君にも手伝ってほしいんだ。」
「えっ、全部ですか!?10年ありますよ!!」
幸子は、つい口調が強くなってしまった。
それも、当然の反応だ。
教習所は、重要書類を10年保管しているのだ。
破れた書類を新しくコピーすればいいだけとはいっても、10年分はあまりにも多過ぎる。
ただでさえ、通常の事務作業だってあるのだ。
明日は日曜日だし、終わらせるには今夜しかない。
恭子と2人で今から始めても、数時間は掛かるだろう。
どうして、もっと早く言わないのか。
そもそも、補助金は町長や町議員に確認をとる必要は無いと自分で言ったはずだ。
やはり、昨夜の不安は的中した。
こんな所にも、原井のいい加減さが表れていた。
とはいえ、やるしかない。
やらなければ、教習所存続の件を白紙にする可能性だってあるのだ。
幸子は苛立ちを抑え、恭子と決算書等が保管してある資料室へ向かおうとした。
しかし、矢島が意外な言葉を由英に掛ける。
「牧元君、もう自分の仕事は終わったんだろ。
君も、一緒に付いて行ったらいいんじゃないか?
資料室から諸々の書類を全部持ってくるのは、重いだろうしね。
奥さんに、協力してあげるといい。」
由英を加え、幸子と恭子の3人は事務室を出た。
すると、廊下を出るなり幸子は我慢出来ずに愚痴をこぼす。
「一体、何様のつもりなのよ!!
こっちの都合なんて、眼中に無いのかしら!?」
「幸子さん、所長に聞こえますよ。
一応、所長の知り合いなんですから。」
笑いながら、幸子を宥める恭子。
幸子も、信頼している2人の前では本音が出てしまう。
「あっ、すいません。先に行ってて下さい。」
恭子が小走りで向かった場所は、どうやらトイレらしい。
「俺も手伝うよ。1人でも多い方がいいだろ?」
そう言ったのは、由英だ。
確かに、3人居れば早く終わるかもしれない。
しかし、幸子にはそれ以上の心配事があった。
「晶の晩ご飯、どうするの?
あの子は、まだ1人じゃ作れないでしょ。」
「そうだ、忘れてた。
でも、なかなか大変な作業だぞ?」
「まぁ、恭子ちゃんには悪いけど2人で何とか頑張るわ。
あっ、今夜はハンバーグよ。
下味は付けてるし、後は焼くだけの状態で冷蔵庫に保存してあるから。
それと、晶に野菜をちゃんと食べさせてね。」
「はいはい、分かってるよ。
これじゃあ、お前が居なくても好き嫌いなんて出来ないな。」
由英の言葉に、幸子は笑顔で応える。
残業を考えると憂鬱だったが、家族の事を想えば頑張れるというものだ。
その後、恭子もやってくると資料室から大量のファイルを運び出した。
22/05/01 22:55 (aXMuuJQO)
9
投稿者: マイペース ◆03ZKtqlKtw
【9】
10年分ともなると、やはり重い。
由英が居なければ再び往復するハメになっていただろうが、もう少しで事務室に着きそうだ。
目的地の扉を視認し、安心する幸子。
その扉から、ある人物が出てきた。
「おぉ、重そうだね。これは、時間が掛かるな。」
矢島の他人事の様な言葉に、幸子はまた腹が立つ。
そんな言葉は、更に続いた。
「済まないが、よろしく頼むよ。
おっと、もうこんな時間か。
私は、これから打ち合わせがあるんでね。
先に帰らせてもらうとするよ。」
幸子に伝えると、矢島は去った。
どうせ、打ち合わせと称した宴会だろう。
恐らく、原井も一緒かもしれない。
気楽なものだと、幸子は呆れる。
だが、少し意外でもあった。
職員のシフトは、矢島が決めているからだ。
遅番に組んでもいいと申し出たのは幸子本人だが、不安もあった。
矢島が淫らな感情を向けているのは、知っている。
由英を早番に組むと、邪魔者は居なくなる。
つまり、今日は幸子に卑猥な欲望を仕掛けるチャンスなのだ。
恭子にしても邪魔な存在であるはずなのに、残業させている。
もちろん、原井の機嫌を損ねてはいけないというのはあるだろう。
何としても、今日中に完成させる為に恭子を残したと考えれば納得は出来る。
しかし、それだけではない。
由英を一緒に資料室へ行かせた事も、不可解だった。
いつも由英と会話していると、矢島は決まった様に割り込んでくる。
書類が多いから自分も手伝う、と幸子を独り占め出来たはずだ。
拍子抜けしたといえばおかしいが、いつもの矢島とは違っていた。
普段の矢島は、あくまで所長として部下を気遣っていただけなのか。
自分は少し自惚れ過ぎなのか、と幸子は少し恥じらった。
とはいえ、矢島が嫌悪対象な事に変わりはない。
その矢島が居ないなら、面倒な作業でも打ち込める。
由英に優しい言葉を掛けられ、幸子と恭子は作業に取り掛かった。
だが、最後に見せた矢島の視線はやはり尋常ではなかった。
あの視線が、いつにも増して淫らなものに思えてならない。
女としての勘なのか、何ともいえない違和感を抱きながら幸子は作業を進めた・・・。


19時を過ぎ、由英が帰ってから2時間が経った。
遅番の就業時間も終わり、他の男性教官達は既に帰った様だ。
恭子の存在もあってか、幸子に接触を試みる者は居なかった。
教習所には、幸子と恭子の2人だけである。
肝心の作業だが、確認してみると破れた書類はかなりあった。
それも、ほとんどが少しずつだ。
何だか奇妙な破れ方に、幸子は不審に思っていた。
以前見たのは、ほんの数日前だ。
その時は、ここまで破れていなかったはずだ。
誰かが破ったわけじゃあるまいし・・・。
怪訝的な現象だったが、幸子は余計な事を考えずに黙々と作業を続けた。
手を休めれば、いつまで経っても終わらないのだ。
休憩もせず、作業を進めた幸子達。
その甲斐もあってか、ようやく終わりが見えてきた。
恐らく、30分程あれば完了するだろう。
「この調子なら、20時前には終わるんじゃない?
恭子ちゃん、残業してもらって悪かったわね。」
幸子からすれば不可抗力だが、恭子には申し訳なかった。
「気にしないでください。
1人でこんな作業してたら、深夜になっちゃいますよ。
それに残業代も出るし、明日は休みですから。
私より、幸子さんの方が早く帰りたいんじゃないですか?
お家で、優しい旦那さんと可愛い息子さんが待ってるんだから。」
「こら、からかわないの。
とにかく、早く片付けて帰りましょ。」
恭子の人懐っこい性格に、幸子は助けられた。
もう少し頑張れば、家族が待つ家に帰れる。
幸子は家族を思い浮かべて、もう一息だと気合を入れた。
しかし、その時だった。
電話の着信音が、鳴ったのだ。
教習所の固定電話でなければ、幸子の携帯電話でもない。
どうやら、恭子の携帯電話だ。
だが、携帯電話の画面を見て相手が分かると恭子は当惑した表情を見せた。
「えっ、何だろう。」
一言ボソッと発し、恭子は電話に出た。
「もしもし、お疲れ様です。
・・・・・えーっと、あと30分位で終わると思います。
・・・・・はい、幸子さんも居ます。
・・・・・えっ、はい。
ちょっと、待ってください。」
恭子は、立ち上がると矢島のデスクに向かった。
「・・・・・あっ、ありました。
・・・・・今からですか?
・・・分かりました。」
不服そうな表情で、電話を切る恭子。
電話の内容を聞いて、幸子は納得した。
「誰からだったの?」
「所長からで、作業の進捗状況を聞かれました。」
「全く、呑気なものね。
どうせ、まだ宴会中なんじゃない?」
「みたいですね。
それで、ちょっと申し訳無いんですけど・・・少しだけ抜けてもいいですか?」
恭子は、済まなそうな顔で幸子に尋ねた。
「何かあったの?」
「どうも、接待中の相手に今すぐ見せたい書類があるらしくて。
でも、デスクの上に置いたまま忘れていったそうなんですよ。」
「だから届けてくれないか、って事?
もう、どこまで勝手なのかしら。
・・・それで、宴会場は何処なの?」
「いつもの旅館みたいです。」
「森浦旅館ね。」
田舎町だが、他県からも宿泊に訪れる程の人気旅館だ。
風情のある佇まいで、宴会には最適な場所である。
決して安くはない場所で、宴を楽しむ矢島。
一方、教習所で遅くまで残業をする幸子と恭子。
これが現実かと思うと、幸子は虚しくなった。
何より、恭子が可哀想だ。
朝から夜遅くまで仕事をしているのだから、相当疲れているに違いない。
すると、幸子はある事に気付いた。
「その書類、恭子ちゃんに頼んだのよね。」
「はい。」
「じゃあ、書類を渡したらそのまま帰っていいわよ。」
「えっ、でもまだ終わってませんし。
あと少しだとしても、1人じゃ大変ですよ。」
「ここまでやれば、さすがに1人でも20時位には終われるでしょ。
ファイルもほとんど資料室に戻したから、後片付けは簡単だし。
もう、充分助けてもらったわ。」
恭子を、妹の様に感じている幸子の気遣いだった。
「本当に、大丈夫ですか?」
「えぇ、問題無いわ。
ほら、早く行かないと所長に嫌味言われるわよ。」
恭子は、幸子の優しさに甘える事にした様だ。
「それじゃあ、お先に失礼します。」
「お疲れ様。」
外に出た恭子の車のエンジン音が、聞こえている。
そのエンジン音が、小さくなっていく。
正直、この時間に教習所で1人は不気味だった。
山の中腹で、周りに建物は無い。
しまいには、雨まで降ってきた。
外から聞こえるのは、雨音だけである。
早く終わらせようと、幸子は作業を急いだ。


「・・・やっと終わった。」
20時に迫ろうとしていた頃、ようやく全て終了した。
22/05/01 23:10 (aXMuuJQO)
10
投稿者: マイペース ◆03ZKtqlKtw
【10】
さすがに3時間も休憩無しで作業をすると、疲労困憊だった。
こんな時は、家族の笑顔に限る。
由英と晶の顔を見れば、疲れも吹き飛ぶだろう。
それに、明日は家族で出掛ける予定だ。
原井の無茶な指令のせいでこんな大変な目に遭ったが、そのご褒美だと思えば良しとしよう。
明日の仲睦まじい光景を思い描きながら、幸子は帰り支度をした。
戸締まりと電気の消し忘れも確認したので、問題無いだろう。
事務室の明かりも、忘れずに消す。
建物内で点いているのは、職員専用裏口へ続く狭い廊下の照明だけだ。
裏口に着くと外灯の明かりを点け、幸子は廊下の照明を消した。
建物内が真っ暗になり、異様さが一段と増す。
さっさと帰ろうと、外に出て鍵を掛ける幸子。
すると、その時だった。
「ほぉ、今お帰りかな?」
後ろから声を掛けられ、幸子は驚いて振り返る。
聞き覚えのある声に、まさかとは思った。
それは、最も招かれざる者と言っていい人物だ。
幸子がこんな時間まで働かされる羽目になった元凶であり、初めて会った時から危険人物として警戒せずにはいられなかった。
矢島と同様の淫醜な空気を醸し出す男、原井だったのだ。
どうしてこの男がここに居るのか、ましてやこんな時間に・・・。
雨音のせいで、車のエンジン音にも気付かなかったらしい。
確実に言える事は、原井と2人きりのこの状況は絶対に避けたかった最悪の事態だ。
幸子は、言葉が出ない。
そんな幸子に、原井はもう一度問いかけた。
「おや、私の声が聞こえなかったのかな?
帰るのか、と言ったはずだがね。」
原井の表情が、変わった。
すぐに返答しなかったのが、気に入らなかったらしい。
やはり、人格はかなり厄介だ。
機嫌を損ねない様に、幸子は慎重に話し掛けた。
「はっ、はい。残業をしてたもので。」
「なに、こんな時間まで残業?
それは、ご苦労だったねぇ。
だが、過重労働はいかん。
矢島くんに、しっかり言い聞かせないとな。」
残業の原因を言ってやろうか、と幸子は腹を立てたが何とか抑えた。
それよりも、今はここへ来た理由だ。
「とっ、ところでどうしてこんな時間に?」
「どうしてって君ねぇ、おかしい事を聞くじゃないか。
例の、教官適性チェックの為に決まってるだろ。」
「えっ?そっ、それって月曜日のはずでは?」
「どうしても外せない予定が入ったんだ。
だから今晩にしようと伝えたんだが、どうやらすっぽかされたらしいね。」
いくら予定が入ったとはいえ、何故わざわざ見えづらい夜に変更したのかは疑問だ。
しかし、気になるのはそのすっぽかしたという人物である。
大方の予想はつく。
そんないい加減な人物といえば、矢島しかいない。
分かってはいたが、幸子は原井に尋ねた。
「一体、誰がそんな失礼な事を?」
「何を言ってるんだ。
君の旦那しかいないだろう。」
「えっ!?」
驚くのも、当然だ。
由英から、今夜に変更になったとは一言も聞かされていないからだ。
何より、約束をすっぽかす様な無責任な人ではない事は幸子がよく分かっている。
きっと、原井が勝手に勘違いしているに違いない。
再び腹が立った幸子は、思わず口調が荒くなった。
「お言葉ですが、主人はそんないい加減な人ではありません。
本当に、連絡を入れたんですか?」
我慢出来ず、原井に反抗的な言葉をぶつけてしまったが、妻として許せるわけがなかった。
こんな状況でも、由英の潔白を主張する幸子。
まさに、夫婦の絆の証といえる。
だが、やはり原井はこの態度に黙っていなかった。
「まさか、君は私が勘違いしているとでも言うんじゃないだろうね。
随分、嘗められたものだな。」
傲慢な姿が、更に増した様だ。
そして、次に原井の口から出た言葉は思いもよらぬものだった。
「それじゃあ、証拠を見せようじゃないか。
旦那のパソコンを調べてみろ。
私の送ったメールがあるはずだ。
それと、旦那の返信メールもな。」
原井は、証拠があると言い切った。
確信がなければ、普通はありえない反応だ。
しかし、幸子も由英に限って約束をすっぽかすとはどうしても思えなかった。
こうなったら、由英のパソコンを調べるしかない。
「分かりました。
主人のパソコンを確認してみます。」
幸子の言葉に、ほくそ笑む原井。
「ではその間、私は応接室で待つとしよう。
いいね?」
幸子は頷き、再び鍵を開けて建物内へ戻る事になった。
原井を応接室へ案内し、事務室に向かおうとした幸子。
すると、原井に呼び止められた。
「念の為に言っておくが、メールが確認出来た時は・・・・・それなりの処分は覚悟しておきたまえ。」
その瞬間、幸子は身の毛がよだつ感覚に陥った。
見え隠れしていた原井の本性が、顕著に表れたからだ。
これまでも、この男に苦しめられた者達は大勢いるに違いない。
普通の女なら、怯んでしまうだろう。
ところが、幸子の負けん気は人並み以上だ。
こんな男の高圧的な態度に屈するなど、絶対あってはならない。
原井の脅迫めいた言葉に、幸子は何とか怒りを抑える。
逆にメールが確認出来なかった時は、ふんぞり返った自尊心を批難してやるとさえ思った。
事務室の明かりを点けた幸子は、由英のデスクへ向かう。
デスクに着くと、由英のパソコンを起動させた。
どうせ原井の誤解だと思いながら、幸子はメールボックスを確認する。
だが、映し出されたパソコン画面に幸子は言葉を失ってしまった。
何故なら、そこには原井と由英のメールのやり取りがしっかりと残っていたからだ。
22/05/02 21:06 (IZQS07Vy)
11
投稿者: マイペース ◆03ZKtqlKtw
【11】
メールの日時は、今日の17時15分。
由英が帰ったのは、資料室から3人で大量の書類を運び終わった17時半頃なので、まだ教習所に居た時間だ。
『月曜日に予定していた適性チェックに関してですが、原井にどうしても外せない案件が入りました。
突然で申し訳ありませんが、今晩20時に変更させていただく事は可能でしょうか。  秘書石岡』
『了解しました。
では、今晩20時にお待ちしております。』
メールの内容からも分かる様に、由英は確認後に返信している。
秘書の石岡という人物は恐らく昨日一緒に来ていた男だろうが、そんな事はどうでもいい。
どうして由英は帰ってしまったのか、幸子の頭の中にあるのはそれだけだ。
帰り際の由英を思い返したが、気になる様子も無く普段通りだった。
本当に、うっかり忘れて帰ってしまったのだろうか。
どちらにしても、由英に直接聞いた方がいい。
幸子は、自身の携帯電話を取り出した。
連絡先は、もちろん由英の携帯電話だ。
耳元で、コール音が鳴っている。
しかし、いつもはすぐ電話に出る由英がこんな時に限ってなかなか出なかった。
(もしかして、入浴中?)
そう思った幸子は、すぐに電話を切る。
すかさず、次の連絡先へ電話をかけた。
同じ様に耳元でコール音が鳴っていると、今度は繋がった。
「もしもし、牧元です。」
聞き慣れた声の主は、幸子にとってかけがえのない人物、息子の晶だった。
携帯電話が駄目ならと、幸子は自宅に電話をかけたのだ。
本来なら、晶とゆっくり会話をしたい。
だが、今は一刻も早く由英に事情を伝えなければならないのだ。
「もしもし、晶。
お母さんだけど、お父さんにすぐ代わってくれる?」
「あっ、母さん。父さん?父さんなら居ないよ。」
「えっ、どういう事!?」
「1時間くらい前に、矢島さんて人から電話があってさぁ。
森浦旅館で誰かと一緒にお酒を飲んでるから、来てくれって言われたみたいなんだ。
父さんの話だと、仕事の用件を伝えるだけだって。
帰ってくるのは、多分21時くらいになるって言ってたよ。」
つまり、やはり由英は完全に忘れていたという事だ。
考えられない大失態だが、それが事実である。
とはいえ、しっかり者の由英だって人間だ。
最近の由英は、教習所存続の為に忙しく働いていた。
存続の目処が立った事で、気が緩んだとしても不思議ではない。
夫が尽力してきたのを近くで見てきた幸子だからこそ、由英を責める事は出来なかった。
携帯電話が繋がらなかったのは、きっと接待中で気付かないのだろう。
森浦旅館に電話して、由英に伝える方法も考えた。
しかし、幸子は思い止まる。
冷静になってみると、由英が急いでこちらに向かったとしても、手遅れだ。
原井は、約束をすっぽかした者を許しはしないだろう。
こうなった以上は、どうにもならない。
正直に話し、謝罪しよう。
妻として、夫の代わりに過失を詫びる事を幸子は決めたのだ。
当然、原井は憤慨するだろう。
先程の言葉も、頭をよぎっている。
それなりの処分とは、どの程度なのか。
町の相談役で教習所の経営にも関与する原井なら、余程の権限を与えられているに違いない。
冗談でそんな事を言う人物じゃないのは、承知済みだ。
補助金の話や、もしかしたら由英の減給や降格等、様々な事態を考えると悲観的になってしまう。
だが、そんな幸子を電話先の声が救った。
「もしもし母さん、大丈夫?」
「えっ?・・・あっ、何でも無いわ。大丈夫よ。
・・・・・そんな事より晶の方こそ、こんな時間に1人でお留守番してて平気なの?」
「母さん、俺もう中1だよ。
2、3時間ぐらいで怖がるわけないじゃん。」
「・・・そうね、子供の成長なんてあっという間よね。」
「何言ってんだよ、留守番ぐらいで。
それに、母さんだってもうすぐ仕事終わるんじゃないの?
帰る時に、また連絡してよ。
ハンバーグ温め直しておくからさ。」
「・・・えぇ、頼むわね。」
息子の晶の声で、幸子は平常心を取り戻した。
土下座をしてでも、原井に許しを乞わなければならない。
家族の生活を、守る為に・・・。
電話を切ると、幸子の表情は吹っ切れていた。
普通の女なら、こうはいかないだろう。
気丈な幸子だからこそ、こんな状況でも耐えられるのだ。
事務室を出て、応接室に向かう幸子。
扉の前に立ち、深呼吸すると意を決して扉を叩いた。
そして、地獄が待ち構える応接室へと入っていく。
太々しい態度で、ソファーに座っている原井。
幸子が部屋に入ってくるなり、怪しい笑みを浮かべている。
すると、原井は早速問い詰める様に幸子を尋問した。
「で、どうだったかな。
首尾を聞こうじゃないか。
まさか、この期に及んで私の勘違いだと言うんじゃないだろうね?」
当然、原井は確信している。
潔く非を認め、謝罪するしかない。
「仰る通り、主人のパソコンにメールのやり取りがしっかり残っていました。
完全に、落ち度はこちらにあります。
申し訳ありませんでした。」
幸子は、原井に頭を下げた。
「フン、随分と高い所からの謝罪だな。
まぁ、土下座をさせる趣味は無いがね。」
入口付近で立ったまま謝る幸子に、原井は皮肉な言葉で返す。
立場が悪い幸子は、何も言い返せない。
更に、原井は横柄な仕草で幸子に話し掛けた。
「とりあえず、そこに突っ立ってるのも何だ。
こっちで話そう。さぁ、座りなさい。」
幸子を手招きする原井の姿は、まるで独裁者だ。
不愉快なのは言うまでもないが、従うしかない。
幸子は怒気を抑え、ソファーへ歩を進めた。
22/05/02 21:15 (IZQS07Vy)
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