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妻として、母として 教習所編
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:人妻熟女 官能小説   
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1:妻として、母として 教習所編
投稿者: マイペース ◆03ZKtqlKtw
【1】
地方のとある田舎町。
不況の煽りを受け、田舎は人口減少により何処も過疎地となっている。
一昔前には繁盛していた企業も、今では倒産や閉店となり活気が失われていた。
そして、この田舎町にある自動車教習所も例外ではない。
やはり人口減少に伴い、生徒が激減した影響で経営状況はどんどん悪化していた。
とはいえ、意外にも最盛期は昔ではなく数年前の事だ。
それは、たった1人の人物の存在が巻き起こしたものだった。
だが、ある出来事が原因でその教習所は一気に経営不振に陥る事となる。
正に閑古鳥が鳴く状況で、いつ破綻してもおかしくなかった。
噂によると、このままではもって数年だろうという話だ。
森浦町(もりうらちょう)の森浦教習所、それがこの物語の舞台。
田舎町らしく海と山に囲まれた風景の中、山を切り開いた場所にその教習所はある。
現在の教官人数はピーク時の半分以下で、10名にも満たない。
他には、女性事務員が2名。
教官は全て男性で、地味で特色の無い教習所の印象を更に引き立たせていた。
もっとも、以前は女性教官も居たのだが・・・。
そんな森浦教習所に転機が訪れたのは、桜が咲き始めた3月。

時刻は夕方17時、早番の中には帰り支度を始める者達もいた。
森浦教習所のシフトは早番8時~17時、遅番11時~20時。
最盛期だった頃は就業時間を過ぎても残業など当然だったが、生徒が激減した現在はシフト通りに帰宅できている。
そしてここにも1人、業務を終えて帰宅準備をする者がいた。
「それじゃあ恭子ちゃん、悪いけど残りの会計処理お願いするわね。」
「はい、牧元さん。お疲れ様でした。」
教習所の事務室には、教官などのデスクや事務員が事務作業を行うデスクもある。
その事務室から、後輩と思われる女性事務員に残りの業務を託して1人の女性事務員が出てきた。
何やら楽しみな事でもあるのか、表情は明るい。
すると、その人物に声を掛ける者がいた。
「お~い、幸子。」
「あらっ、あなた。どうしたの?」
「帰るんだろ?
俺も急いで終わらせるけど、先に始めててもいいからな。」
「えぇ、分かったわ。
でも、あまり遅れないでね。
今日の主役を怒らせたら、大変だわ。」
「あぁ、そうだな。なるべく早く戻るよ。」
笑みを浮かべながらの会話で、2人の仲睦まじさが十分に伝わってくる。
この親愛に包まれた空間を、他者が侵す事など許されるはずがない。
しかし、その光景を無遠慮に汚す者が現れた。
「ほぅ、随分楽しそうじゃないか。
私も仲間に入れてもらおうかな。」
一転して、女の表情が険しくなった。
「あっ、お疲れ様です所長。
いやぁ、他愛もない夫婦の会話ですよ。ハハッ。」
「そうか・・・夫婦の、ね。
・・・・・あぁ、そういえば牧元君。
小川君が探していた様だが、早く行った方がいいんじゃないか?」
「えっ、本当ですか?
すいません所長、教えて頂いて有り難うございます。
それじゃあ幸子、また後でな。」
「あっ、ちょっ・・・。」
女が引き止める間もなく、男はその場を去ってしまった。
すると、残ったもう一方の男はここぞとばかりに女へ話し掛ける。
「済まなかったね、幸子君。
どうやら、私は2人の邪魔をしてしまった様だ。」
「いえ、そんな事はありませんわ。
お気になさらないで下さい。」
言葉の割に、表情は冴えない。
この状況を煩わしく思っているのは、確かだ。
だが、男は会話を止めようとはしなかった。
「ところで、事務職はもう慣れたかな?
聞いた話によると、幸子君が事務員になってから作業が捗ってるらしいじゃないか。
古川君より仕事が早いって、みんな褒めてるよ。」
「また、ご冗談を・・・。
恭子ちゃんのフォローが無ければ、私なんてまだまだです。」
女の返答は、素っ気ない。
早くこの場から立ち去りたい、女の憂鬱な様子が伝わってくる。
しかし、男は構わず続けた。
「でも、本当に良かったよ。
君に事務職を勧めたのは、やはり間違いじゃなかった。
・・・あの時はどうなる事かと思ったが、もう大丈夫だね。」
その言葉に、女の表情は更に曇った。
「おや、思い出させてしまったかな。申し訳ない。
だがね、幸子君。
ここには君のご主人だっているし、私だっているんだ。
何かあれば絶対に君を護るから、安心したまえ。」
「・・・有り難うございます。
所長には主人共々よくしていただいて、本当に感謝していますわ。
これからも、よろしくお願いいたします。」
もちろん、本音とは程遠い社交辞令なのは間違いない。
この男といつまでも同じ空間に居たくない為、何とか会話を終わらせようとしているだけだ。
何故、そうまでしてこの男を避けるのか。
ただ人間性に問題があるだけなら、ここまで警戒する事は無いだろう。
この男を頑なに避ける理由、それは先程から送られてくる視線がいつもと同様の淫らなものだったからだ。
2022/04/30 16:55:25(DT9iellc)
2
投稿者: マイペース ◆03ZKtqlKtw
【2】
男の視線は、全身を這う様に送られている。
耐え難い感覚は、不快そのものだ。
だが、男は卑猥な視線を送り続けた。
「しかし、幸子君が来てからもう3年になるか。
あっという間だったが・・・・・君の美貌は変わらないなぁ。
いや・・・むしろ、ますます魅力的になっているよ。」
男の淫らな言動と視線が、より一層目の前の女へ向けられた。
牧元幸子(まきもとさちこ)、38歳、森浦教習所で働く事務員、夫と息子の3人家族。
それだけを聞けば、どこにでもいる様な妻であり母だ。
至って、普通の年増の女性だろう。
ところが、幸子は他の女性達と決定的な違いがあったのだ。
性格は、気が強く勝ち気。
理不尽な事には、誰であっても泣き寝入りしたくないという負けん気の強さを人一倍持っていた。
声にも、それは表れている。
どちらかといえば低めの声で、相手を言い負かすには十分な声質だ。
更に表情からも、その性格が滲み出ていた。
気が強そうな顔立ちは、威圧感すら漂っている。
しかし、他の女性達との決定的な違いは別にあった。
幸子特有の美貌と扇情的な身体、それこそが別格なものだったのだ。
芸能人で言うなら飯島直子似だが、幸子の美貌には敵わないだろう。
そして、その美貌を引き立たせる様に主張しているのが、肉感的な身体だ。
この日の服装は、上半身が濃紺のスーツで中に白いYシャツ。
下半身がスーツとセットの濃紺のスカートで、中にベージュのストッキング。
靴は、黒いハイヒールという出で立ちだった。
事務員であれば、何の変哲もない普通の服装だろう。
だが幸子という女は、そんな姿も扇情感で溢れていた。
中でも際立っているのが、豊乳とも言うべき大きな胸だ。
ボリューム感のある2つの盛り上がった膨らみが曲線を見事に描き、主張している。
着込んでいても、包み隠す事が出来ない様だ。
露わになった豊乳はどんな光景なのか、想像するだけで性欲を掻き立てられる。
また、当然だが幸子の類い稀な身体は豊乳だけではない。
下半身の肉付きも、もちろん生唾物だ。
ストッキング越しから見えるふくらはぎはムッチリと張り、上に続く肉感的な太ももを想像させる。
皿に、その上へと続く刺激的な臀部も格別だ。
スカートの上からでも豊かに膨らんでいるのが確認出来る様は、まさしく肉尻と呼ぶに相応しいだろう。
恐らく幸子という女は顔や身体が性格を引き立たせ、性格が顔や身体を引き立たせているのかもしれない。
つまり幸子が醸し出す魅惑的な香りは唯一無二で、他の女達とは比べ物にならないというわけだ。
しかし本来なら女性として誇るべきものが、幸子にとっては逆に苦悩するものとなっていた。
何故なら、淫獣とも言うべき男達に狙われているからだ。
幸子は、昔から男達の淫らな欲望に悩まされてきた。
近付いてくる男達は邪な魂胆が見え見えで、誰も幸子に純粋な恋愛感情を持っていなかった。
それは、まるで只の性の捌け口としか見ていない感覚である。
更に幸子自身は気付いていないのかもしれないが、幸子の肉感的な魅力は劣化するどころか年々増していたのだ。
20代の頃には無かった大人の成熟した魅力が溢れ出し、まさに今が女盛りなのかもしれない。
だからこそ大人の女の色香も漂い始めた数年前、ある事件が起こってしまったのだった・・・。
とにかく、これまでにはそんな経緯があった事で、幸子はより一層気が強い性格になったのだ。
そして今、目の前に居る男も幸子には警戒すべき人物だった。
矢島吉満(やじまよしみつ)、60歳、森浦教習所の所長、独身。
しかも、この森浦町の議員まで務めている。
つまり、この教習所で実権を握る存在であり幸子の上司だ。
幸子が森浦教習所に勤め始めたのは、約3年前。
その時から、矢島の卑猥な視線に襲われていた。
本来なら睨みつけて威圧でもしたいが、相手が上司では幸子もあまり無下には出来なかった。
その為に、矢島が無遠慮に淫らな視線を送ってきても幸子は何も言えなかったのだ。
「幸子君は、今38歳だったね?」
「えっ、えぇ。」
「・・・・・。」
自分から聞きながら、矢島は何も言わなかった。
ただ、幸子の肉感的な身体を眺めて堪能しているだけの様だ。
肥満体で薄い頭頂部、見た目からも下劣な雰囲気を感じさせる。
さすがに、幸子も限界だった。
「所長、申し訳ありません。
急ぎますので、失礼します。」
矢島の視線から逃げる様に、幸子はその場を後にした。
建物を出て、自身の車に乗り込む幸子。
眉間に皺を寄せて深い溜め息を吐く姿から、今日1日の仕事で溜まった疲労感が分かる。
しかし、それ以上にストレスを感じたのは矢島とのやり取りだろう。
幸子は、矢島と毎回接する度に憂鬱になっていた。
表情も、変わらず険しいままだ。
とはいえ、この日は幸子にとって大事な日である。
いつまでも、浮かない表情のままではいけない。
幸子は、車を走らせて教習所を去った。
普段通りスーパーに立ち寄って買い物を済ませるが、今日は少しだけ奮発している。
他にも立ち寄る所があるらしく、幸子は慌ただしそうだ。
ようやく自宅に着いた頃には、時刻は6時を回ろうとしていた。
「ただいま~!」
幸子の声が、家中に響いた。
すると、ある人物がそれに反応した。
22/04/30 22:16 (DT9iellc)
3
投稿者: マイペース ◆03ZKtqlKtw
【3】
「おかえり~、遅いよ母さん。もう18時だよ。」
「ごめんね、晶。色々あって、帰ってくるのに手間取っちゃったのよ。
すぐ準備するから、待ってて。」
牧元晶(まきもとあきら)、小学6年生、幸子の1人息子で4月から中学生になる。
幸子にとって、かけがえのない存在だ。
晶の為なら、どんな事でも耐えられる。
幸子は、本気でそう思っていた。
そして、今日はその晶の誕生日なのだ。
幸子の中でも、大イベントといっていいだろう。
自室へ行き、スーツ姿から普段着に着替える幸子。
黒いセーターに濃い目のジーンズ、扇情的な肉付きは相変わらず隠せないが主婦としての一面が垣間見える。
肩まで伸び、ボリューム感のあるウェーブが緩やかに掛かった茶褐色の髪。
その髪も後ろで結び、臨戦態勢は整った。
仕事モードから母親モードに、気持ちを切り替えた様だ。
今夜の料理は、晶の大好物ばかりである。
晶の笑顔を見れば、疲れも吹き飛ぶだろう。
幸子は、慣れた手付きでどんどん料理を作った。
小一時間で、何品もの料理がテーブルに並べられていく。
残るは、もう1人の登場を待つだけだ。
すると、車のエンジン音が聞こえてきた。
どうやら、到着したらしい。
急いだ様子で玄関が開くと、なだれ込むように台所へ入ってきた。
「ごめん、ちょっと時間が掛かり過ぎた!
準備は・・・・・もう終わったみたいだな。」
「まぁ、副所長さんですものねぇ。
忙しくて帰りが遅くなるのも、仕方無いわよねぇ。」
皮肉めいた言葉をかける幸子だったが、笑みを浮かべた顔は愛情に満ちている。
「悪かったよ、後片付けは俺も手伝うから。
おっ、美味そうな料理だ。早く食べたいな。」
幸子が怒っていないのを知りながら、わざと機嫌を窺う素振りを見せる男。
相思相愛の仲である事は、2人の会話でよく分かった。
牧元由英(まきもとよしひで)、48歳、森浦教習所副所長、晶の父親であり幸子の夫、つまり幸子とは同じ職場に勤めている。
先程、幸子が教習所から帰宅する時に会話していたのは由英だった。
幸子にとって、由英と晶の存在は何よりも大切な絆だ。
2人の笑顔を見続けたい、幸子は常にそう思っていた。
今夜は、その笑顔が多く見れそうだ。
由英が帰宅し、晶も揃うと誕生日パーティーが始まった。
幸子の作った料理を、美味しそうに頬張る由英と晶。
ひと通り食べ終えると、誕生日には欠かせないケーキが登場した。
幸子が帰りに立ち寄ったのは、頼んでいた誕生日ケーキだったのだ。
晶の12歳の誕生日、今年も喜んでくれたらしい。
幸子と由英は2人で顔を見合わせ、息子の誕生日パーティーの成功に安堵した。
その後、誕生日パーティーはお開きとなり、晶は自分の部屋に籠もっていた。
早速、誕生日プレゼントのテレビゲームをしている様だ。
台所は、由英の手伝いもあって案外早く片付け終えた。
「お茶でも淹れようか?」
由英の気遣いに、幸子は甘える事にした。
温かいお茶を飲み、ようやく一息つく幸子。
「お疲れ様。仕事と家事の両立は、大変だよな。」
「そうね、予想以上だったわ。
でも晶も中学生になって、これからは手も掛から  なくなると思うとちょっと寂しいわね。
それに、あの笑顔を見たら疲れも吹っ飛んだわ。」
「ハハッ、頭が上がらないな。
俺は幸せ者だよ、こんな女性を嫁にもらって。」
「あら、褒めても何も出ないわよ。」
笑みを浮かべる幸子に、由英は少し真剣な表情を見せた。
「本当だよ。・・・幸子には、色々辛い目に遭わせてしまった。」
由英の言葉で、2人は自ずとこれまでの出来事が脳裏に蘇ってきた。
元々、2人が出会ったのは別の教習所である。
由英が既に教官として働いていたところへ、幸子も教官として勤務したのだ。
そこで、2人は惹かれ合った。
以前から男達の卑猥な視線や感情に苦しめられていた幸子にとって、由英は新鮮な存在だった。
幸子を1人の女として見ており、心から愛している。
それが、幸子にも伝わったのだ。
しばらくして、2人はめでたく結婚となる。
転機が訪れたのは、晶の出産だった。
育児が落ち着いたら、職場復帰するつもりでいた幸子。
だが、当時は由英1人でも家族を養えるだけの十分な収入があった。
それに、由英には以前から夢があったのだ。
家族が出来たら、自然に囲まれた土地で暮らしたい。
ゆとりのある生活、由英の憧れだった。
幸子は田舎での暮らしに少し不安はあったが、最終的には由英の気持ちを尊重した。
由英を愛し、信頼しているからこそやっていけると判断したのだ。
そして2人は当時の教習所を退職し、教官を募集していたこの森浦町へ移り住んだというわけだ。
自然に囲まれた暮らしも悪くない、幸子も最初は満足していた。
しかし、田舎暮らしはそう甘くなかった。
22/04/30 22:30 (DT9iellc)
4
投稿者: マイペース ◆03ZKtqlKtw
【4】
都会に比べて田舎の教習所は経営が厳しく、収入は徐々に減り以前の7割程にまで減少したのである。
このままではジリ貧状態となり、生活が苦しくなるのは時間の問題だ。
何とか、打開策を見つけなければならない。
そこで、また転機が訪れた。
偶然、森浦教習所で教官に空きが出たのだ。
晶は小学校の中学年に進級し、成長している。
悩んだ結果、3年前から幸子も森浦教習所で働く事となった。
とはいえ、晶もまだ小学3年生。
夜は、なるべく自宅に居た方がいい。
その事を考えて、幸子は早番シフトで固定してもらった。
2人で働く成果は、すぐに表れた。
家計は楽になり、生活に多少の余裕が出てきたのだ。
これなら、安定した暮らしが出来る。
それに、幸子自身も働く喜びを感じていた。
主婦としてよりも、働く方が性に合っていたのかもしれない。
だが、順風満帆というわけではなかった。
当初から、矢島や他の教官の卑猥な視線を浴びていたからだ。
何度味わっても、不愉快な感覚だった。
それでも耐えれたのは、由英と同じ職場であった事と家計を楽にしたいという目標があったからだろう。
すると、その想いが届いたのか幸子は教習所に大きな変化をもたらした。
幸子が働き始めてから、教習生が激増したのだ。
それまでの教習生の割合は男女5:5だったが、幸子が働いてからは圧倒的に男の教習生が著しく増えて約8:2と明らかに偏った。
幸子の噂が瞬く間に広まったらしく、幸子目当てなのは明白だった。
以前の教習所でも同じ現象はあったが、やはり熟した幸子には特別な魅力があるのだろう。
もちろん他の女性教官は妬んでいたが、教習所は過去最高の利益を上げて教官達も潤った為に何も言えなかった。
一方、実は幸子が働く事を素直に喜べない者がいた。
幸子の夫、由英だ。
そもそも、幸子に以前の教習所を辞めてもらったのは自身の収入が安定していたというよりも、今回の様に幸子目当ての教習生が多く居たからだ。
少なくとも幸子を誘う者達が居たのは由英にも分かっていたし、幸子自身もうんざりしていた。
働いてほしくないが、家計も余裕があるとは言えない。
田舎に暮らしたい、という考えが甘かったと認めざるを得なかった。
そして、由英の嫌な予感は的中する事となった。
幸子が働き始めてから約1年後、事件はいきなり起こる。
その日も、幸子は教官として車に同乗していた。
いつもの様に、教習所内のコースを教習生に走らせていた幸子。
その時、たまらず教習生が幸子に襲い掛かったのだ。
豊乳や下半身は何とか守ったが、首筋には吸い付かれてしまった。
その時の気色悪い息遣いや感触を、幸子は今でも忘れていない。
更に、唇も奪おうとする男。
しかし、幸子は何とか必死の思いで車から脱出して助けを求めた。
結局、男はすぐに取り押さえられて警察に連行された。
こんな目に遭っては、さすがの幸子も動揺を隠せない。
幸子は、辞める決断をした。
だが、そこで矢島に引き留められた。
教官としてではなく事務員としてなら、教習生と接する必要が無い。
矢島は、あの手この手で幸子を説得した。
本当は教習所に居るのも気まずいし、嫌な記憶を思い出してしまうかもしれない。
とはいえ、現実を考えれば田舎周辺の他の仕事に比べると、教習所の方が給与は多かった。
家族の生活の為に、先立つものは必要である。
由英は難色を示していたものの、最終的には本人の意思を尊重し、幸子は事務員の仕事を引き受ける事にした。
ところが、心機一転とはならなかった。
幸子が教官として働かなくなった影響で、あっという間に教習生が減ってしまったのだ。
その結果、経営状況は以前の様に厳しいものとなった。
当然ボーナスなども減らされ、教官達は別の教習所へ移ったり辞めさせるしかなかった。
それから約2年が経ち、現在に至るというわけだ。
あの忌々しい出来事も家族のお陰で吹っ切れ、幸子は平穏を取り戻していた。
しかし、悩みの種が無くなったわけではない。
「・・・やっぱり、このままだと難しいんでしょ?」
幸子が案じているのは、教習所の行く末だった。
教官達の間でも、今の経営状況では2、3年で破綻するだろうと専らの噂だったのだ。
それどころか、今年の決算次第では早まるという話まで聞こえていた。
もしも教習所が潰れたら、生活はどうなるのだろう。
晶に、不安な思いはさせたくない。
幸子は、家族の笑顔が失われる事を何より危惧していた。
だが、由英がこの重苦しい空気を変える。
「大丈夫だよ。そんなに心配するなって。
4月になれば、何とかなるさ。」
「・・・森浦町に、新しい相談役が来るって話?」
そんな話が出てきたのは、年明け辺りからだった。
どうやら町議員である矢島が、独自の人脈を使って探してきたらしい。
聞くところによると政財界に精通し、他の破綻寸前だった町を立て直した程のやり手だと評判だった。
教習所の存続はもちろん、町の景気自体も回復するのではと期待されている。
ただ、これには異議を唱える者達も居た。
それだけの影響力があるなら、町長も逆らえない存在になるのではないかと危ぶむ声も一部から噴出していたのだ。
幸子も、どちらかといえば楽観視する考えには懐疑的だった。
権力を持つ者は、得てして手がつけられないエゴイストが多い。
他者の意見にも耳を傾けず、やりたい放題すると相場は決まっている。
そもそも、矢島と繋がりのある人物というのが幸子は引っ掛かっていた。
きっと、矢島に似た傲慢な一面がある者ではないのだろうか。
教習所の経営に関与すれば、自分達を蔑視するに違いない。
しかし、今はそれに期待するしかないのが現実だった。
「あれ?2人共どうしたの、辛気臭い顔して。」
2人は、思わず笑ってしまった。
いきなり現れた晶の言葉に、それまでの陰鬱な雰囲気が吹っ飛ぶ。
「晶、いつの間にそんな言葉使う様になったんだ?」
「まぁ、来月には中学生になるんだから当然といえば当然よね。
・・・ところで、何か用があって来たんじゃないの?」
「あっ、そうだ。ジュースこぼしちゃったから、雑巾を取りに来たんだった。」
「もう、前言撤回ね。
まだまだ手が掛かりそうだわ。」
そう言いながら、幸子は笑みを浮かべて雑巾を取りにいく。
家族のムードメーカーに、幾度となく救われてきた由英と幸子。
より一層、家族の為に頑張ると幸子は決心した。
22/04/30 22:47 (DT9iellc)
5
投稿者: マイペース ◆03ZKtqlKtw
【5】
4月初旬の木曜日、中学生になった晶は楽しく過ごしている様で、幸子も晴れやかな気分に浸っていた。
山を切り開いた場所にある森浦教習所は、周りに木々が生えている。
この時期になると、毎年少しずつ新緑の香りが漂い始め、何とも心地よい。
日曜日は、家族で何処かに出掛けよう。
気持ちが逸り、幸子は週末の予定まで立てていた。
春の訪れに、つい心が弾んでしまう。
翌日の金曜日、そんな幸子の運命を変えてしまう人物はいきなり現れた。
この日はグレーのスーツとセットになっているグレーのパンツ、中に白いYシャツとベージュのストッキング、黒のハイヒールという出で立ち。
豊乳の存在感は当然だが、パンツスタイルは下半身の肉付きが明瞭に表れる。
特に肉尻の量感は、淫獣の恰好の的といっていい。
昼下がりの午後、事務室でいつも通り事務作業をしていると、急に教習所内が慌ただしくなった。
「何かあったのかしら。
恭子ちゃん、知ってる?」
「いえ、でも只事じゃなさそうですね。」
事情を知らない幸子達も、異変に気付いた。
教習所コース内で事故でもあったなら、一大事だ。
状況が気になり、仕事に手がつかない。
だが、真相は全く違うものだった。
「幸子っ!!」
由英が、焦った様子で幸子に話し掛けてきた。
「あなた、どうしたの?もしかして、事故?」
「いや、その心配は無用だ。
実はな、今から相談役が来るらしい。」
「えっ、相談役?今日、そんな予定は入ってないわよね?」
「あぁ、だから驚いてるんだよ。
一応、ただ視察するだけって言ってるみたいだけどな。」
確かに、教習所存続の件で視察するという話は聞いていた。
しかし、予定ではまだ先だったはずだ。
あまりにも、突然過ぎる。
やはり、身勝手な性格の様だ。
「でも、念の為に昨年度の決算書は用意しておこうと思ってさ。
資料室に、全部保管してるんだよな?」
「えぇ。重要書類のファイルは、まとめて資料室に保管してあるわ。」
「分かった。あっ、2人は普通に仕事してていいからな。」
由英は、小走りで資料室へ向かった。
「何だか、いきなり忙しくなってきたわね。」
もうじき到着するであろう人物に、幸子は苦笑いを浮かべながら呆れていた。
そして数分後、教習所内にざわめきが起こる。
人騒がせな相談役が、やってきた様だ。
応対は、所長の矢島と副所長の由英がするらしい。
副所長という立場だから仕方無いのかもしれないが、こんな面倒事まで対応しなければいけない由英に、幸子は同情した。
とはいえ、自分の仕事もまだ残っている。
幸子達は、事務作業を続けた。
「ここにも、入ってきますかね?」
「来るんじゃない?まぁ、そこまで畏まる必要も無いでしょ。」
幸子の予想通り、程無くして事務室の扉が開いた。
由英と矢島の後ろから入ってくる人物に、一瞬だけ視線を送った幸子。
原井稔雄(はらいとしお)、63歳、名前と年齢は既に聞いている。
顔も、町が発行している広報誌で見た時にある程度は覚悟したが、眼前にすると更に鬼畜な印象だった。
悪相な顔付きで、他人を侮辱する我欲の塊の様な雰囲気が漂っている。
体型は、矢島とほぼ同じ肥満体。
高そうなスーツを着ているが、似合っていない。
きっと、私腹を肥やしてきた賜物だろう。
こんな男にすがるしかないのかと思うと、先行きが不安でたまらない。
すると、辺りを見回していた原井と目が合ってしまった。
その瞬間、幸子は激しい悪寒に襲われる。
まるで、品定めでもしているかの様な何ともいえない不快な視線だった。
この男と関わってはいけない、女としての危機感がそう伝えているのだろうか。
だが、それを救ったのは由英だった。
「では、応接室へご案内致します。」
やはり、幸子にとって由英は救世主の様だ。
原井の視線は、耐えられるものではない。
しかし、由英は幸子の心情を察したわけではなかった。
むしろ、今の由英にそんな余裕は無いだろう。
原井が機嫌を損ねれば、教習所存続の話も白紙になる可能性だってあるかもしれない。
副所長として、対応を間違ってはいけないのだ。
それでも、由英は無意識にまた幸子を助けた。
「恭子ちゃん、悪いけど応接室にお茶を運んできてくれないかな。」
由英にしてみれば、その言葉に深い意味は無い。
誰であっても、来客にお茶を出すのは当然である。
恭子に頼んだのは幸子よりも後輩だし、若い女性がお茶汲みをした方がいいのではと思っただけだ。
とはいえ、結果的に幸子は安心した。
原井と接するのは、出来るだけ避けたい。
教習所の命運を握る人物と関わらないわけにはいかないが、なるべく接したくはなかった。
今日は、このまま顔を合わせずに帰ってほしい。
だが、幸子のそんな切実な想いを1人の男が阻んだ。
「いや、古川君にはこれから町役場に書類を届けに行ってもらうんだ。
幸子君、お願いしていいかな。」
「えっ・・・・・はっ、はい。」
矢島の指命に、困惑する幸子。
別に、町役場に書類を届けるのはどちらでもいいはずだ。
幸子は、腑に落ちなかった。
だからといって、断る選択肢も無い。
夫の立場を、悪くするわけにもいかないのだ。
由英達が応接室に向かうと、仕方無くお茶を淹れた。
「それじゃあ牧元さん、町役場に行ってきます。」
「えぇ、行ってらっしゃい。」
幸子は気が進まなかったが、事務室を出て奥に進んだ。
廊下は狭くなり、1番奥に職員専用の裏口がある。
幸子達職員は、そこから出入りしていた。
その手前にあるのが、応接室だ。
向かいには、教習生との共有トイレが男女別にあった。
お茶を運ぶ幸子は、応接室の前で立ち止まる。
そして、ノックをすると室内へ入っていった。
22/05/01 20:56 (aXMuuJQO)
6
投稿者: マイペース ◆03ZKtqlKtw
【6】
応接室は、割りとシンプルな内装だ。
部屋の角に台座を置き、その上に造花を生けた花瓶がある。
壁には時計が掛けられているが、至って普通の時計だ。
目立っているといえば、ガラス製のテーブルぐらいだろう。
入口から見て部屋の中心に大きなガラス製テーブル、そのテーブルを挟んで左右に横長ソファーが置かれていた。
一方に由英と矢島、もう一方に原井と側近らしき人物が座っている。
その男とも、目が合った瞬間の視線は邪な感情が入り交じっていた。
由英と、同年代ぐらいだろうか。
原井や矢島ほど肥満ではないにしろ、醜怪な雰囲気は垣間見えた。
警戒せずにはいられなかったが、幸子は冷静を装い近付いた。
「失礼します。」
一声掛け、テーブルの上にお茶を置く幸子。
お茶を置く時の中腰になる体勢は、グレーのパンツが下半身に張り付いている。
下半身の肉付きは際立ち、全身の肉感的な姿を象徴していた。
勘違いかもしれないが、視線が集まっている気がしてならない。
ここから、さっさと退出した方が良さそうだ。
お茶を全て置いた幸子は、出入り口へ向かう。
しかし、矢島に呼び止められてしまった。
「あぁ幸子君、ちょっと待ちたまえ。
原井相談役、彼女は牧元幸子と言いまして、うちの優秀な事務員なんです。
さぁ、ご挨拶させていただきなさい。」
原井に、幸子を紹介する矢島。
何故、頼んでもいないのに挨拶をしなければいけないのか。
ただの事務員が、そこまでする必要があるのか。
余計な事をした矢島に、幸子は思わず苛立った。
とはいえ、この状況で挨拶をしないわけにもいかない。
幸子は、嫌々ながら原井に挨拶した。
「牧元幸子と申します。
よろしくお願い致します。」
もしかしたら不粋な挨拶と捉えられるかもしれないが、幸子は敢えて簡素的なものにした。
単なる事務員が、長々と喋るのもおかしいと思ったからだ。
これで、応接室から出ていける。
幸子は、ホッと溜め息を吐く。
だが、原井からは何の返答もなかった。
何故なら、その原井は幸子を夢中で眺めていたからだ。
至近距離で、顔から身体まで舐め回す様な視線。
特に、豊乳と下半身には釘付けだった。
日常茶飯時とはいえ、この視線はどうしても嫌悪感を抱かずにはいられない。
すると、ようやく原井が発した。
「・・・・・綺麗な奥さんじゃないか。」
不敵な笑みを浮かべ、由英に話し掛ける原井。
声質も粗野で、見た目通り高圧的な雰囲気を感じさせた。
しかし、それよりも引っ掛かった事がある。
「あれ、どうして私達が夫婦だと思ったんですか?」
そう、なぜ夫婦だと知っているのか。
由英が尋ねたという事は、由英は教えていない様だ。
もちろん、幸子も言うわけがない。
原井の言葉は、幸子に猜疑心を持たせるのに十分だった。
ところが、その疑問をある人物が推論する。
またしても、矢島だ。
「牧元君と幸子君の苗字が、同じだからだよ。
牧元君は、最初の挨拶で名乗っただろう。
それで、夫婦だと直感した。ですよね?」
「・・・あぁ、そうだ。」
先程と変わらぬ謎めいた笑みを浮かべ、原井も同調する。
確かにその理屈は納得も出来るが、幸子はどうしても妙な違和感を拭いきれなかった。
何だか、担がれている様な感覚だ。
だからといって、それを追求するのもおかしい。
由英と夫婦である事を知っていたとしても、原井に何の得があるというのだ。
男達に対して、警戒心が強すぎなのかもしれない。
幸子は、その疑問をそれ以上考えなかった。
すると、矢島は更に幸子の話を続ける。
「教習所内でも、おしどり夫婦で有名でしてね。
夫を支える良き妻、といったところでしょうな。」
盛り上がるなら女の話題だろう、という矢島の単純な思考が感じられた。
「本来は教官として働いていたんですが、その時から評判が良くて教習生にも人気があったんですよ。」
「・・・ほぅ、教官をね。
そんなに優秀なら、なぜ事務員になったんだ?」
原井の言葉に、幸子の表情は強張った。
事務員になった理由は、思い出したくない。
もちろん、教習生に襲われた出来事が原因だからだ。
当時は新聞でも小さな見出しで取り上げられたが、名前も出ていないし既に忘れられている。
原井が、何も知らないのは当然だ。
そもそも、その話は教習所内でも禁句であり外部に詳細は洩らさない事になっていた。
田舎だと噂がすぐに広まるという懸念もあるが、何より息子の晶に知られない為だ。
小学生の子供に、自分の母親が他の男に襲われたという事実はショックが大き過ぎる。
その為の配慮として、外に洩らす事は一切厳禁となった。
幸子が事務員として働ける環境をつくる為に、矢島が作った暗黙のルールである。
他の男性教官達も積極的に協力し、この事件の風化に一役買ったのは言うまでもない。
そんな暗黙のルールのおかげで、幸子は引き続き教習所で働く決断が出来た。
それなのに、その矢島が蒸し返すきっかけを作ったのだ。
幸子自身、吹っ切ったつもりでいても完全に忘れる事は出来ない。
当時の記憶が、再び蘇ってくる。
しかし、それにすぐ反応したのは由英だった。
「あっ・・・そういえば、早く片付けなきゃいけない仕事を頼んでたよな?
もう、戻った方がいいんじゃないか?」
「えっ・・・えぇ。」
幸子は、由英が気を利かせているのだと察した。
妻の窮地を、何度も救ってくれる。
由英に目配せで伝え、幸子は応接室を出ようとした。
これ以上、さすがに引き留められはしないだろう。
応接室の扉を開け、安堵する幸子。
ところが、廊下に出る直前だった。
「あぁ、幸子君と言ったか。
これから、長い付き合いになるんだ。
よろしく頼むよ。」
原井の言葉に、幸子は軽く会釈して部屋を出た。
その日の夜、食べ終えた晩御飯の片付けを済ませた幸子は、由英から話し合いの詳細を聞かされた。
22/05/01 22:25 (aXMuuJQO)
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