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1:悪魔のような男
投稿者:
花音
悪夢は、一本の電話から始まりました。それは夏の、ものすごく暑い金曜日の夕方、夫からの電話でした。「なあ・・・突然なんだけど・・・」電話口の夫の口調は、いつになく暗い調子でした。その内容をかいつまんで説明すると・・・「10年ぶりに高校の頃の一つ上の先輩から携帯に電話が入った。勤め先が私たちが住んでいる町に変わり、たまたま仕事先で夫のことを聞いたので懐かしくなって電話をかけてきた。久しぶりだから一緒に飲みたい。昔を思い出しながら一晩、飲みあかそうとまで言っている。今晩は遅くなるかもしれない。」というものでした。夫が飲んで遅くなるというのは、たいへん珍しいことだったので、私はてっきり、相手の先輩というのは、夫にとって大切な人なのだろうと勝手に想像していました。その日は早々に夕食を6歳になる娘の香奈と済ませ、娘を寝かしつけた後、居間でテレビを観ながら、夫の帰りを待っていました。そして、玄関のチャイムが鳴ったのは、午前0時をまわった頃だったと思います。玄関のドアを開けると、そこには見知らぬ男性に肩を抱かれた夫が立っていました。「美穂、こちらが高校の佐藤先輩だ。」今までに見たことのないくらい酔っ払っている夫が、シドロモドロの口調で言いました。「奥さん、夜分遅くにスイマセンねえ・・・久しぶりに再会したもんだから、ついお互いに話とお酒がすすんでしまって・・・本人は大丈夫だって言うんだけれど、この調子だから、ほおって置けなくて・・・」夫を支えるように立っていた大柄の男は、一瞬、私の全身に這うような視線を送ってきながらも、申しわけなさそうに言いました。「はあ・・・こちらこそ、お世話をかけてしまってスイマセンでした・・・」「いやあ、先輩、スイマセンでした・・・美穂、これから先輩と飲みなおすから、お酒、用意してくれ・・・」「なに言っているんだ・・・こんなに酔っているくせに・・・奥さんだって迷惑がっているじゃないか・・・」「いえ・・・迷惑だなんて・・・もしよろしかったら、どうぞ、お上がりください・・・」「いいですか・・・こんな遅くに・・・」「こんなに主人が気分よく飲んでいる姿をみるのは久しぶりなんです・・・ろくなおもてなし、できませんが・・・どうぞ・・・」「そうですか・・・それじゃ・・・すこしだけ・・・おじゃまします・・・」こうして、私はこの男を自宅にあげてしまいました。このことが、やがて、私たち夫婦にとっての破局の道につながることなど、この時の私は知る由もありませんでした。
2018/11/23 16:07:47(NzvDOjP4)
投稿者:
花音
翌朝の4時、目覚ましの音で二人は目を覚ましました。冬のこの時間、外はまだ真っ暗です。私は、異様な興奮から熟睡することができませんでした。私が起き上がろうとした時、佐藤に再び、布団に引きずり込まれました。「何?・・・ううん・・・」佐藤は私の唇を奪いました。やがて舌が絡み合う熱いキスになりました。3分ほど経って、ようやく佐藤が唇を開放してくれた時、「もう、おしまい・・・タクシーに乗り遅れちゃう・・・続きは・・・後で・・・ね」私は佐藤の目を見つめながら言いました。「・・・そうだな・・・」私は、起き上がりました。枕元には、昨夜用意した大きな旅行かばんが二つ、置かれています。『私たち・・・本当にこれから逃げるんだわ・・・』私は、顔を洗い、お化粧を始めました。佐藤もようやく起き、仕度を始めました。気がつけばあっという間に、時計の針は4時30分をまわっていました。5時に近づくにつれ、私は胸の鼓動が高まってきました。『果たして、本当に逃げ切れるのだろうか?』そんな私の不安の気持ちを遮るように佐藤が言いました。「さあ、そろそろ時間だ・・・行くぞ・・・」私も意を決して頷きました。玄関のドアを開けると、一気に外の冷気が部屋の中に入ってきました。空は真っ暗、アパートの階段の下を見ると、街灯に照らされて、一台のタクシーが停車していました。「もう、来ているわ・・・」「ああ・・・そのようだ」私たちはできるだけ音をたてないように注意して、アパートの階段を下りました。そして、ゆっくりとタクシーへと歩いていきました。二人の口からは、ハアハアと白い息だけが出ています。そしてタクシーまで10mほどの距離になった時でした。
18/12/16 19:05
(szRl0Oi6)
投稿者:
花音
「佐藤和也だな」私たちの足は、突然、背後から聞こえてきた声で止まりました。私たちは咄嗟に声がする方を振り返りました。そこには2名の明らかに警察官とわかる男が立っていました。「逃げて!」私は大声で叫びました。しかし、佐藤はすでに堪忍したように動きませんでした。「佐藤和也、一緒に署まで来てもらう」1人の警察官が佐藤に近寄り、腕をつかみました。「オレは大丈夫だ・・・美穂、待っていてくれ・・・必ず戻ってくるから・・・」佐藤は私にむかってそう言うと少し離れた所に停車していたパトカーに乗せられていきました。もう1人の警察官は、停車していたタクシーの運転手としばらく話していました。やがて、私たちが乗るはずだったタクシーは、誰も乗せることなく、発車しました。私は、タクシーの後ろ姿をただ茫然と見送りました。「山中美穂さんですね。少しお話を伺えますか?」タクシー運転手と話していた警察官が、近寄ってきて言いました。そこへ、暗闇からもう一人の男が近づいてきました。それは弁護士の常田でした。常田は、丁寧に警察官と挨拶を交わすと「奥さん、ここは寒いから、家の中で話しましょう。警察官も同意しているから・・・」そういうと、常田は私の意思を確認することなく、佐藤が持っていた旅行カバンを持って、階段を上がり始めました。仕方なく、私はその後に従いました。それから、約30分程度、部屋の中で警察官による事情聴取が行われました。とにかくその時の私は佐藤のことが気がかりで、警察官の質問にしっかりと向き合える状態ではありませんでした。その場の状況を察した常田が、山中家の弁護士として、当たり障りなく私と警察官の間に入って、何とか警察官が、その時点で納得できる聴取として終わらせることができたようでした。警察官は帰っていきました。
18/12/16 19:55
(szRl0Oi6)
投稿者:
花音
「奥さん・・・あんた馬鹿だよ・・・せっかくチャンスをやったのに・・・」警察官が帰ると、常田は急に態度を変えて、そう言いました。そして、胸元からスマホを取り出すと電話をかけ始めました。「ハイ・・・終わりました・・・家にいます・・・わかりました・・・待っています・・・」常田は電話を切ると、再び、椅子に腰かけました。「もう、佐藤とは終わりだな・・・というか、あなた・・・すべて終わりになるよ・・・」やがて、常田は立ち上がると、部屋を歩き回り始めました。しばらく、何かを探していた常田は「ああ・・・ここだ・・・」と言いながら、テレビの後ろから何か黒い小さいものを取り出しました。「あんた、何で今朝、警察がいたのか・・・不思議に思っただろう?まるで、あんたらの行動が全部ばれて、警察が待ち伏せしていたように・・・」気が動転して、正直、そこまで考えていませんでしたが、言われてみれば確かに常田の言う通りです。「これだよ・・・これ、何だと思う?・・・わかるかな?」常田は先ほどの黒いボックス状のものを手にとりながら言いました。よく見ると、それはコンセントのようなものでした。「これ、盗聴器だよ・・・つまり、この部屋の会話は全て筒抜けだったということ・・・だから、あんた達の計画は全て、わかっていたというわけ。」何と言うことでしょう・・・今考えると、一昨日、夫がいきなりこのアパートを訪ねてきた時、私が混乱していることをいいことに、夫が仕掛けたものだと思います。そして、計画を知りつつ、わざと朝まで待った、そして行動させ、それを動かぬ証拠にして、私の目の前で佐藤を逮捕まで追い込む・・・いかにも夫らしい狡猾なシナリオです。私たちは、夫の仕掛けた罠にまたしてもかかってしまいました。
18/12/16 20:17
(szRl0Oi6)
投稿者:
花音
花音です。いよいよ、物語はラストが近づいてきました。最後まで頑張ります!もうしばらく、お付き合い下さい。
18/12/16 20:37
(szRl0Oi6)
ありがとうございます。
最後まで読みたいです。 先回より、臨場感があり 楽しく読ませていただいてます。 大変でしょうがよろしくお願いします。 陳腐な感想ですみません。
18/12/16 22:58
(RY2JXEXk)
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