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1:囲ワレ者の少女
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J
◆WCdvFbDQIA
セッチャンハ、オキャンデ、マルデ男ノ子ミタイ・・で始まる有名な児童書が在るが、これはその児童書を地で往くような物語。 (今江祥智 小峰書店) それは昭和も残すところ二割に差し掛かった時期。 僕の名は弥生。 三月に産まれたからヤヨイ。 彼女の名は皐月。 五月に産まれたからサツキ。 二人は同級生である。 僕とサツキは小さな集落の川漁師の家にそれぞれ生を受けた。 両家は僅か数十メートルの距離しか離れておらず、同い歳の僕達は必然的に姉弟のように育つ。 勿論、過疎の集落には、子供が少ないことも大きな理由であった。 同い歳ではあっても、幼い僕達にとって一年近い生月の差は大きく、先に姉弟と表現したが、誰が見ても僕達は姉と弟にしか見えなかったし、サツキも僕のことは頼りない弟として扱った。 小学生になっても、僕はサツキに手を引かれるようにして学校に通い、引っ込み思案で口の重い僕が、上級生にイジメられていれば、何処からともなく現れて庇ってくれる。 内心忸怩たる想いを抱きながらも、彼女に頼らざるを得ない僕と、完全なる保護者然としたサツキ。 小学校時代の僕達を揶揄するように献上された仇名はフーフ、即ち夫婦だ。 小学五年生の初夏のある日、学校で子供同士のつまらない諍いがあり、勝気なサツキは上級生と口喧嘩を始める。 「何だ、お前らフーフのくせに!」 「フーフで何が悪い、ヤヨイは我(ワァ)の嫁になるんだからね!」 毒気を抜かれた上級生は退散し事無きを得たが、周囲は大爆笑。 地元の方言では男女問わずに一人称は『我(ワァ)』。 ちなみに二人称は『主(ヌシ)』だ。 しかも、である。 田舎の更に郊外とはいえ、テレビもラジオも普及している時代において、標準語は遍く普及しており、『我(ワァ)』や『主(ヌシ)』を使うのは老人か、もしくは感情が激した本気の発言の時だけだ。 売り言葉に買い言葉とはいえ、さすがに顔を赤くしたサツキ、だが真に居たたまれないのは僕だ。 フーフはまだいい。 『ワァの嫁』は有り得ない。 『嫁』かよ。 益々、有り得なかった。 無言で帰り支度をした僕は、独りで帰宅の途に着く。 とにかく独りになりたかったのだ。
2019/09/01 05:28:50(xY9nffsh)
投稿者:
J
◆WCdvFbDQIA
「本気か?」 「考え直さんか?」 あたしは集落から出たくないの一点張り。 頑固娘に業を煮やした長老と神主は、プリプリしながら帰っていく。 翌々日、ピンチヒッターとして神主の奥さんが訪ねて来た。 「よく聞いて考えて欲しいの・・・」 囲ワレ者が、どういったものか。 どういった儀式を経なければならないのか。 集落全体の共有財産であり、集落中の男に躯を開く義務があること。 子供を持つことは許されないこと。 想像を絶する屈辱を抱えて生きていかなければならないこと。 そして短命、いや自ら命を絶つものが多いこと。 「・・それでもワァは・・・」 この集落に居たい。 この集落以外では生きていけない。 「ね、理由を教えてくれない?」 言えなかった。 もしヤヨイが知ったら、ヤヨイは苦しむに違いない。 あたしは俯いて黙り込む。 「好きな人がいる、とか?」 ぴくり 思わず反応してしまった。 ・・女の勘って凄げぇ・・。 「その人に気持ちを伝えて、さ・・。」 ・・伝えてあるし・・・。 「相手の気持ちを確かめてさ・・。」 ・・確かめてあるし・・・。 「時々、会いに来れば?」 ・・分かってない・・。 会わなくなって、ヤヨイの気持ちが変わってしまうのであれば、仕方がない。 あたしが諦めれば済むことだ。 だが仮にあたしの気持ちが変わってしまったとしたら。 そんな可能性が少しでもあることが分かっていながら、その選択をするのであれば、それはヤヨイに対する裏切りだ。 そんなことになったら、あたしは自分を許さない。 絶対に許さない。 だからこそ、あたしはその選択肢をしたのだ。 「囲ワレ者になったら・・・」 改めて言うが、好むと好まざると集落中の男衆に定期的に、求められた時に躯を開かなければならない。 その事実は秘密でも何でもない。 「その人にも諦めてもらわなきゃいけないし、サツキちゃんだって諦めるしかないのよ?」 ・・分かってる・・。 ・・分かってるから困ってるんじゃないかぁ・・。 「後悔しない?ううん、きっと後悔すると思う。」 ・・・後悔なんか・・・ するに・・決まってるじゃないかぁ・・。 ヤヨイを失い、あたし自身は人並みの幸せを永遠に失うのだ。 何年後かにあたしは必ず後悔する。 それでも尚、優先すべきこと。 それは今、後悔しないことだ。 ・・ごめんね。何年か後のあたし・・。 溜め息をついて奥さんは言う。 「分かった。もう何も言わない・・。」 「・・・」 「話は変わるけど、サツキちゃんはオボコでしょ?」 オボコ、つまり男を知らない女。 悔しいが、それには絶大なる自信がある。 散々エロいことはしちゃったけど、そこだけは自信がある。 「自暴自棄にならず、大切にしなさい。」 もし、あたしがオボコであるのなら、それが奇跡を起こすかもしれない。 そう言って奥さんが帰っていった後、あたしは一人で考える。 どうせ好きでもない男に初体験を奪われるのであれば、無理矢理にでもヤヨイに奪って貰おうかと考えていた矢先のことだった。 ヤヨイも含む集落中の男衆に見られながら、好きでもない男に奪われるくらいなら、どんなに痛くてもその方が遥かにマシだ。 ・・奇跡? ・・奇跡って何? 奇跡でも起こらない限り、あたしは救われないことだけは分かっていた。 そして奇跡なんて起こるはずがないことも分かっていた。
19/09/18 12:36
(UqDTbx0r)
投稿者:
J
◆WCdvFbDQIA
冬が来た。 生まれてから十五年間で一番厳しかったあの冬。 いや、あたしの人生を通しても一番厳しい冬だったのは間違いない。 あたしは学校も休みがちになっていた。 好奇と憐憫に満ちた周囲の視線が煩わしい。 何よりもヤヨイと顔を合わせるのが辛かった。 誰とも会わず、家に閉じ篭ったあたし。 神主の奥さんだけが、ちょいちょい顔を出して世間話をしては帰っていく。 あたしの気が変わることを期待していることが、暗に仄めかされる。 心配してくれているのだ。 『囲ワレ者の儀』まで残すところ一ヶ月。 ある日、あたしは奥さんから小さな紙袋を手渡された。 生理の周期を調整する為の薬。 「・・子供は・・持てないの・・。」 ああ。 そういえば言ってた、な・・。 僅か数ヶ月の間に、あたしの人生から次々と可能性が削ぎ落とされていく。 最悪のシチュエーションで破瓜を経験し、集落の男衆全員の慰みモノとして子供を持つことすら許されない。 挙げ句の果てには早死にする可能性が高い。 正真正銘の共有財産、しかもその維持経費は決して歓迎されるものではない。 むしろ、その結末が早めに訪れた方が、集落にとっては有り難いのかもしれない。 ・・終わったな・・。 ・・散々、弄ばれて終わり、か・・。 ・・しかも早く片付けってか・・。 「ね。もう一度だけ考えてみてくれない?」 「・・・・。」 心底、あたしの事を心配してくれているのは痛いほど分かる。 誰が考えたって皆んなの言うことが正しい。 あたしだって理屈は理解している。 天秤の傾きは圧倒的なのだ。 だが、その天秤にヤヨイという要素が加わった瞬間、あたしにとって、その傾きは真逆になってしまう。 「・・・奇跡は・・起こるかな・・?」 あたしは切迫していた。 無け無しの可能性に縋るしかないのだ。 言葉が詰まった奥さんは視線を逸らす。 「・・・分からない・・・。」 有り得ないとは言わずに去っていく奥さん。 有り得ないから奇跡なのだ。 あたしは再び独りになった。
19/09/18 12:41
(UqDTbx0r)
投稿者:
J
◆WCdvFbDQIA
『囲ワレ者の儀』まで残り僅か。 久しぶりの来客はヤヨイだった。 嬉しい筈のヤヨイの訪問を辛く感じたのは初めてだ。 「・・これ。」 無愛想に差し出した手鍋には、あたしの好物である煮物が入っている。 あの時、お赤飯のお返しといって、ヤヨイの母親が大量に作ってくれたっけ。 「・・上がって・・。」 仏間に通したヤヨイは線香を上げる。 あたしは壁に寄りかかってヤヨイの後ろ姿を見つめていた。 あれ? ちょっとアンタ・・。 いつの間にかヤヨイの身長は、あたしに追いつきつつある。 ひょっとしたら、あたしより・・? いつものあたしなら、近付いて背比べを始めただろうが、とてもそんな気にはなれないかった。 何より近付いてヤヨイの匂い、体温を感じた瞬間、あたしはパニックに陥るに違いない。 お別れを言おう・・。 あたしの人生、終わったからさ・・。 「・・聞いた・・でしょ・・。」 辛かった。 堕ちていく自分を恥じていた。 気が狂いそうだ。 いや、いっそ狂ってしまえばいいのに。 そうしたら何も分からず生きていけるのかもしれない。 「『カコワレモン』になるの・・・。」 ・・何か・・ ・・何か言ってよ・・。 ・・そんな顔、見たことないよ・・。 物心ついてから、常に傍にいた幼馴染。 だが、そんな顔をしたヤヨイなんて見たこともなかった。 「・・カコワレモンになったら、、なってもヤヨイは・・来てくれる・・?」 無意味な質問だった。 あたしには全て分かっていた。 ヤヨイが何も答えないであろうことも。 ヤヨイだって何と答えれば良いのか分からないことも。 そしてヤヨイが囲ワレ者になったあたしに会いに来ることも、あたしを抱くことも決してないことも。 他の男達に抱かれ、弄ばれ、穢された身体をヤヨイの眼に晒すことは辛い。 そんな穢れたあたしが、ヤヨイに触れてもらうことは出来ない。 それはヤヨイに対する裏切りでしかない。 それでもヤヨイに逢い、触れられ、抱かれたら。 あたしの精神と身体は悦ぶに違いない。 だが同時にあたしは自分を恥じ、蔑み、絶望する。 それが分かっているからこそ、ヤヨイはあたしに会わないだろうし、触れたりしない。 あたしには確信があったし、ヤヨイにも確信があったはずだ。 ・・ずっと、一緒に居たんだもん・・。 ・・それくらいのこと・・ ・・お互いに分かるよ、ね・・・。 だったら。 そんなにまで思い詰めているのなら。 あたしが黙って姿を消せばいい。 誰もがそう思う。 あたしもそう思う。 互いに互いの存在を忘れてしまえば良いのだ。 だから、そこだけはあたしのエゴだ。 ヤヨイには申し訳ないけど。 ・・でも、そのくらい許してよ・・。 ・・十五歳で人生、放棄するんだもん。 ・・一年に一度くらい。ううん、何年かに一度・・ ヤヨイの姿を視界の端に捉えたり、ヤヨイの噂を耳にするだけで良かった。 何度も何度も考えたことだった。 納得出来ていたし、納得せざるを得なかった。 頭の中では、だ。 久しぶりにヤヨイの顔を見た為だろうか、あたしの感情は不意に爆発する。 先行して涙が流れた。 「・・・ワァは・・ヌシ・・の・・・」 後は言葉に出来なかった。
19/09/18 23:05
(UqDTbx0r)
投稿者:
J
◆WCdvFbDQIA
『囲ワレ者の儀』の当日。 一睡も出来ず、布団の中で寝返りを繰り返していたあたしは、夜明けと共に起こされる。 事前に説明されていた儀式の準備をする為だ。 神主の奥さんに連れられて河原に行って服を脱ぐ。 震えながら川の水に浸かり、身体を浄め、神社の古井戸から汲み上げた井戸水で再び身体を浄め、俗世間の垢を落とす。 体裁としては、あたしは神に捧げられ、神から集落に渡された共有財産になるという。 ・・どーでもいーよ、そんなこと。 ・・神も仏も居るもんか・・。 細く長く男衆に可愛がってもらえるように、食事と言えば麺類だけ。 冬の日暮れは早い。 陽が傾く頃、神主の奥さんが風呂を沸かす。 裸になったあたしは、服を着たままの奥さんと一緒に風呂場に居た。 髪を洗われ、奇妙な匂いのする油を髪に擦り込まれ、また濯ぐ。 後ろ髪を上げられると、うなじに剃刀を当てられ、首筋から背中にかけての産毛を剃り落とす。 最後に全身を洗い上げられ、ムダ毛の処理。 内緒だが冬場ということもあり、不精していた脇と下腹部にも剃刀が当てられた。 「ね。サツキちゃん、最後にもう一度だけ聞くけど・・・気は変わらないの・・?」 あたしは無言で頷いた。 溜め息をつきながら奥さんは続ける。 「何度か説明したけど・・・」 囲ワレ者候補者が男を知らないのであれば、一度だけ、その場にいる男衆に結婚の意思を問う。 立候補する為の条件は、その場にいる、独身者である、そして囲ワレ者候補者が申し出を受け入れる、だ。 その申し出が成立する為の条件は、その場に同席する男衆の見守る中、囲ワレ者候補者を抱き、性交し、破瓜の徴を皆に証明する。 だが早生まれのヤヨイは満で十四歳、数え歳で十五歳。 その場には居るだろうが、男は十八歳まで結婚出来ない。 「いい?ここが大事・・。立候補の条件は・・」 その場にいる独身の男衆、そして手を挙げる、ただそれだけだと強調する奥さん。 「必ず結婚するのであれば、結婚の時期は関係ないの。」 だからこそ破瓜の徴を証明するのだ。 え? それって・・。 「ただ、ね・・・」 衆人環視の中、全裸になって女を抱ける男は、そうそう居るものではない。 プレッシャー、緊張、羞恥心。 何よりも結婚しようという相手との性行為を、集落中の男衆に見せつけること自体に抵抗を感じないものはいない。 「・・立って。脚、広げて。」 あたしの股間に触れた奥さんは、呟いた。 「サツキちゃんの条件には問題は無さそう、ね。」 奇跡が起きる為の幾つかのハードル。 その第一関門だけがクリアされていた。
19/09/18 23:09
(UqDTbx0r)
投稿者:
J
◆WCdvFbDQIA
風呂を上がったあたしは、裸のまま髪を梳かされ、肩まで白粉を塗られ、唇に紅を引かれた。 一切の下着を着けないまま、あたしは神事用の薄物だけを着させられ、梳られた髪を首の後ろで結わえられる。 「ここに座って。後は分かるわね?」 そう言って姿を消す奥さん。 あたしは、こくりと頷き、示された場所に正座して待機。 下げられた御簾の向こう側で儀式の説明をする神主。 御簾が上げられ、あたしは促されるままに皆の前に進む。 教えられた通りに三つ指をついて、一夜漬けの口上を口にするあたしに神主が指示を出す。 ・・この時が遂に来た・・。 敷かれていた布団の上で仰向けに寝そべったあたしは、神主に足首を掴まれた。 堪らずあたしは、両手で顔を隠す。 恐怖と羞らいのあまり、全身の筋肉が強張っていた。 ヤヨイにしか見せたことのない『女の子の大切なところ』が、集落中の男衆の眼に晒されていた。 ・・死にたい・・。 ・・ごめん、ヤヨイ・・。 ・・ヤヨイの為だけのものだったのに・・。 「間違いなく男は知らん・・。」 当ったり前だろ・・。 ピカピカの新品だっつーの・・。 だが強がりもそこまで。 左右の眼から流れる涙が止まらない。 限界まで消耗したあたしは、広げられた両脚を閉じることも、晒されたままの秘部を隠す気力も無い。 ・・もう好きにして・・・。 ・・ヤヨイじゃないんなら、誰だって一緒だよ・・。 「では、この娘を嫁に取ろうという者はいるか?」 ・・いるわけ無いだろ・・ ・・こんな女の子・・ ・・嫁に貰ったら笑いモノだよ・・。 「・・・誰もおらん、か・・・。」 その時、その場に響めきが疾った。 「お、おい・・。」 ・・何? ・・何があったの・・? ・・さっさと終わらせてよ・・。 ・・あたしゃ覚悟、出来てるんだから、さ・・。 「・・ヌシが・・か・・?」 え? 薄眼を開け、涙でボヤけた視界の中、誰かの手が挙げられている。 ・・誰・・? 指先で涙を拭うと視界がクリアになった。 クリアになった視界の中、真っ直ぐに挙げられた手の主。 ・・・ウソ・・。 ウソ、嘘、うそ、ウソ、嘘、うそ・・・。 ・・・本当・・なの?
19/09/19 12:45
(hFNqXKVb)
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