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ヴァギナビーンズ症候群
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:ノンジャンル 官能小説   
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1:ヴァギナビーンズ症候群
投稿者: いちむらさおり
前半はエッチ要素少なめですけど、後半も少ないかもしれません。
それでも良ければ一読ねがいます。
 
2012/07/29 23:37:55(KzYa21/F)
17
投稿者: いちむらさおり
『ヴァギナビーンズ症候群』

14

「色気より食い気、なんて言ったらまた怒らせるだけかな」

「知らない」

 二人きりで交わす言葉にしては色気が足りないなと、彼は彼女のよく動く口元を見つめながら思った。
 三上明徳と橘千佳は『シュペリエル』を出てから彼のアパートに直行して、さっそく戦利品を口に運んでいた。
 女の子の匙加減に付き合っていたら、ほんとうに日が暮れてしまうかもしれない。千佳はスプーンの半分ほどの量のプリンをすくって、またそれを時間をかけて口に入れる。
 これさえ食べ終わればセックスの流れに持っていけるはずだった。しかし彼女のペースはなかなか上がらない。

 アクシデントは突然おとずれた。すくいきれなかった一片のプリンがスプーンから滑り落ちて、彼女の素足の膝にぽとりとこぼれたのだ。
 千佳はティッシュのありかを明徳に訊いたが、彼は「そのまま動かないで」と言って彼女のそばに座った。そして千佳の膝枕に顔を埋めるようにして、プリンが乗った部分に口を付ける。
 味覚が甘くなったのはプリンのせいだけではなく、彼女からつたわってくる円熟の味でもあった。
 始末を終えて明徳が顔を上げれば、そこには赤面した千佳の小柄な顔が待っていた。目は空中で止まり、鼻はひくひくとふくらんでいる。

「大丈夫?」

 彼の言葉に反応して、事態の収拾をしようと千佳の脳は再生をはじめる。

「う……うん」

「嘘だ。大丈夫じゃないくせに」

 彼はまたプリンをスプーンですくって、それを自分の口に含み、口移しで千佳に食べさせた。とても甘いキスだった。
 すぐさま彼女のスカートの中に手を差し込んで、薄い生地のそこをくにゅくにゅと指で押す。さすって、撫でて、押して、線を描く。
 キスをしたままだから、喘ぎ声を露わにできないし、息苦しい。それでも性感帯が密集した彼女のそこは、愛撫のつづきが欲しくて一気に濡れていった。
 明徳は一旦キスをやめる。

「もう、突然そんなことされたらあん……ん、服がしわくちゃになっちゃう……ふうん」

 股間を責められたまま千佳は強気に言った。
 それでも彼は指の動きを休めようとしないため、千佳は自ら着衣を脱いで、水色のブラジャーを見せつけた。ショーツも揃いの水色なのだが、彼の興味はそこにとどまらず、とうとう女性器の口の内部に到達していた。

「やいん!」

 体の奥から泡立つ快感にめまいがしそうになる。
 彼はブラジャーをはずし、胸の谷間にプリンを落として、じゅるじゅると舐めた。その口で乳首に吸い付かれ、千佳はまたしてもへなへなと力を失う。
 スカートやショーツにしても、もはやおしゃれを楽しむためのアイテムとは言えない姿で部屋中に散らばっていた。
 明徳が千佳のヴァギナを覗き込む。

「ヴァイオリンに名器があるように、きみのここも相当な名器だよ」

 そしてそこから彼女の両脚をひっくり返して、爪先を向こう側の床にまで押し付けてやる。膣口が天井を向く姿勢だ。
 そこにもまた、行列ができるほど甘くて濃厚なプリンを塗りたくり、彼女を知り尽くしたテクニックを披露した。

ずずず……じゅじゅ……ぴちゃくちゅぐちゅ……くちゅんくちゅん……。

 砂糖の甘さよりも、愛液の甘さを堪能する。プリンの舌触りよりも、陰唇と陰核の舌触りを追求する。
 千佳の反応も普通ではなくなってきていた。
 彼はすぐに裸になって、裸の彼女に覆い被さり、挿入をした。
 ペニスが擦れる膣壁が気持ちいい。いじくりまわされる乳首が気持ちいい。香辛料をまぶしたように熱いクリトリスが気持ちいい。キスはソフトでもハードでも気持ちいい。
 今日という日を記念日にしてもいいと思えるくらいに、オルガズムはつねにそばにあって、一発一発に重みがある。
 そのうち千佳自身にも把握できないほど何度も絶頂にいかされて、大量のザーメンは彼女の体の外と中に注がれた。
 タイミングが合えば、将来千佳の体に異変を及ぼすほどの激しいセックスだった。



 次の日の千佳の誕生日も、けっきょく二人して口裏を合わせ、琴美の想像のおよばないところで密会を果たした。
 千佳は会うたびにヴァージンだった。いちばん性犯罪に巻き込まれやすい体質なのではないか、そう疑いたくなるぐらいに、初(うぶ)で人見知りな肌の持ち主なのである。
 ほどよく発育した乳房の弾力も、その南半球の垂れないかたちも、乳頭の紅いしこりまでもが処女を装っている。
 そこから山あり谷ありの急勾配がつづいて、細いくびれだけで繋がっている下半身から先は、誰にも挿入を許すまいと警戒する仕草で脚を組み替えたりする。
 そこを何とか攻め崩したあとの膣への挿入感にしても、その緩みのない肉の質は明徳を容易に悩殺するのだった。
 両手両足はきゃぴきゃぴと暴れているくせに、顔のあちこちに皺を寄せて快感に堪えようとする。
 ヴァギナは熱くただれて、だくだくと愛液を吐き出す。
 千佳が痛そうな表情をすれば彼が訊き、痛くないのだと彼女は首を横に振る。また千佳の痛恨の喘ぎを聞けば彼がたずね、気持ちいいのだと彼女は恥ずかしそうに頷く。
 そうして二人は絶頂の飛沫を体中に浴びせ合い、思いつくかぎりの愛の告白をならべ、確約のない契りを交わした。

「三上さんといるときの自分がいちばん好きなの。だけど独占欲があるわけじゃなくて、それはたぶん、お姉ちゃんには適わないってわかってるから」

「きみにはきみの良さがある。だから僕はきみとこうしているだけで、日常から隔離されているみたいな錯覚を味わえるんだ」

「私の良さって、もしかして、あそこ?」

 悪戯っぽく千佳の下半身が絡まってくると、明徳は飼い犬を手懐けるように彼女の髪を撫で、肉の根でもってクリトリス経由のヴァギナを掘り下げていった。

「ハッピーバースデー、千佳ちゃん」



『ヴァギナビーンズ症候群』
12/08/11 00:03 (0x2iGKmb)
18
投稿者: いちむらさおり
『ヴァギナビーンズ症候群』

15

 混み合う時間帯を避けたつもりだったのに、ドラッグストアの店内にはそれなりに買い物客がいた。若い主婦や大学生などの女性客ばかりだ。
 あまり顔を見られないように視線をそらせつつ、彼女は勇気を出して『それ』をカゴに入れた。さらに菓子パンやジュースなどを買い足して、あまり有効とは思えないカモフラージュをしてみた。
 レジを通るまでは何度も息が詰まりそうになったが、ようやく支払が済んで気が楽になるというものでもなかった。生理が遅れている原因を明らかにしておく必要がある。
 エコバッグから『それ』だけを取り出して残りを車に乗せると、彼女は近くの公衆トイレに駆け込んだ。

 どちらが出ても私は大丈夫。責任は自分にもあるのだから、先延ばしにすればするほど決意が鈍るだけだ。

 彼女は下着を下ろし、便座に座った。そして妊娠検査薬の任意の場所に尿をかけると、はあ、とため息をついた。これまでのことを思い返すには、ちょっぴり臭い場所だと思った。
 もしもできていたとしたら、どの日のどの行為が決定的だったのだろうか。性行為の回数も異常だったけれど、まさかあんなものまで使ってしまうなんて、私はどうしようもなく淫乱な女になった気がする。 白黒はっきりさせたら、彼との関係はこの後どうなるのだろう。
 彼女が我に返ると、果たしてそこに答えは出ていた。



「大事な話があるときには、きみは決まってこの店に僕を呼ぶんだね。いつだったか、僕がプロポーズしようとしたときにも、確かこの店を予約するようにきみからねだられたっけ」

 テレビ画面の中の男は、テーブルを挟んだ対面の女を見つめて、臭い台詞を言う。
 そういえば、三上明徳にはじめて唇を奪われたあの夜も、ちょうどこのドラマのキスシーンが流れていたことを、橘千佳は思い出す。

「別れましょう、私たち」

 地上デジタルで映し出された人気女優の表情には、意外な新展開を期待させるものがあった。

「理由にもよるね」

「ほかに好きな人ができたの」

「きみの片思いなんだろう?」

「その人にレイプされたんだよ、私」

「おもしろい冗談だ。強姦された相手の男を好きになったって言うのかい?」

「あなたには無いものを、彼が持っていただけ」

 微妙な沈黙がおとずれた。
 千佳も生唾を飲み込み、沈黙が明けるのを待った。

「もう決めたことなのか?」

 運ばれてきた料理には手もつけずに、俳優の男は台詞を口にする。

「じつは……、妊娠してるの。もう四週目になる」

「父親は僕ではないと、そう言いたいのだろう?」

「自覚しているなら話が早いわね。彼の仕事の関係で、海外で生活することになりそうだから。だからもう、私のことは忘れて」

「それにはおよばない。僕にも好きな彼女ができた」

「知ってる。相手が誰なのかもね」

「そうか……」

 永遠の愛なんてどこにもない、男はそう悟って苦笑いをした。
 女は左手の薬指からマリッジリングを外すと、赤ワインが注がれたままのグラスの中にいじらしく落とす。
 そうして恋人役の彼女が涙目を腫らした瞬間、千佳はもらい泣きして鼻をすすった。
 波乱に満ちた愛憎劇の行方は、ここで次回へ持ち越しになったのである。

 自分が望んだとおりに事が進んでいるのは、素直に嬉しい。だが、三上明徳との関係を姉が知ってしまったら、たぶんすべてが狂ってしまうだろう。
 似たような血が通っている二人姉妹なのだから、おそらくどこかで通ずるものがあるはずなのだ。だからいつまで隠し通せるのかも、もはや時間の問題と言える。
 千佳は立ち上がり、ハードケースからヴァイオリンを取り出すと、おもむろに弦を鳴らしはじめた。
 旋律は彼女の長い髪を震わせ、上半身を波打たせて反復するたびに美しく響いてくれる。
 その涼しい音色は、三上明徳と橘琴美の結婚披露宴の席でも、二人の門出を祝うために奏でられるはずなのである。



「申し訳ありませんが、お煙草は喫煙ルームでお願いします」

 堅いスーツに身を包んだ女性スタッフに声をかけられ、彼は出しかけた煙草の箱を礼服のポケットに入れた。僅かに悪びれた様子がある。

「いやあ、普段は煙草などめったに飲まないんだが、こういう場所にいると落ち着かなくてね」

「そうでしたか。お察しします」

「これからおもしろいものが見られると言うから来てみたのだが、どうにも肩が凝っていかん」

 そう言って肩をたたく造作をする。
 彼女は不思議そうな顔で彼をのぞき、「あのう、以前どこかでお会いになりませんでしたか?」と首を傾げる。

「わたしはこう見えても、警察の世話になったおぼえはないのだがね」

 初老の男は指名手配のビラを仄めかしてきた。
 女性スタッフの頬が緩むのを見届けて、つられて彼も、ははあと笑った。そして、わたしはこういう者だ、と中空でさらさらと筆をはしらせる真似事をする。
 彼女の表情が閃く。

「そちらのお仕事の方でしたか。どうりで──。それにしましても、本日はまことにおめでとうございます」

 姿勢よく会釈する彼女にならって、彼もまた白髪混じりの頭を軽く下ろした。
 総合結婚式場内の喫茶スペースを兼ねたゲストフロアに、また各会場の要所要所にも、彼が寄贈した絵画が品良く飾られてある。
 あまりおもてに顔を出したがらない性分なので、なかなか作者と作品が一致しないというのが悩みの種でもあり、時にそれが好転することもあるのだった。
 今日まで、年寄りを年寄り扱いせずにいてくれた一人の女性の顔を思い浮かべながら、そろそろ行くかな、と彼はその重い腰を上げる。



 粛々とした雰囲気の中、来賓の顔ぶれにあれだけ涙を見せていた新婦も、今はもう『三上』の姓を名乗る覚悟ができているのだなあと、姉の凛とした表情を見ながら橘千佳は思っていた。
 その隣にいるタキシード姿の新郎はまぎれもなく三上明徳であり、一瞬たりとも千佳と目が合うこともない。
 彼がどこか遠くへ行ってしまう、そんな心細さを打ち負かしてくれているのは、最愛の姉の幸せそうな笑顔だと知る。

 ほどなくして千佳は名前を呼ばれ、小さなステージに立った。
 一生に一度きりの、妹から姉へ贈る餞(はなむけ)の言葉。それは、新郎新婦へ決まりの弁を述べた直後だった。

「お姉ちゃん……」

 千佳はそこで声を詰まらせる。それ以上は何を言おうとしても言葉にならず、今まで自分がどれだけ姉の恩恵を受けてきたのかを伝えたいのに、口から出てくるのは嗚咽とビブラートばかりである。
 円卓のあちらこちらからも女性のすすり泣く声が聞こえ、美しすぎる姉妹愛の行方を、そこに居合わせた誰もが涙なくしては見届けられなくなっていた。
 それでも千佳は気丈さを見せようと、唇同士を摺り合わせてから喉元に指をあてて、二、三度だけ小さな咳をした。

「お姉ちゃん──」

 先ほどまでとはちがい、とても透き通った声がマイクロフォン越しに会場を渡っていく。
 千佳は便箋と姉の顔へと等しく目を配り、ときどき新郎を牽制しながら、ありったけの実りの言葉を述べた。
 スポットライトを浴びた千佳のドレスのスワロフスキーが、涙の数だけ光り輝いているように見えた。

「──しあわせになってね」

 姉を慕う妹の祝辞が締めくくられると、コンサート直後のホールを揺るがす歓声のごとく、拍手は渦巻いて、新婦は黒い涙を流した。

お姉ちゃん、メイクが落ちてるってば。

 千佳は琴美に向かって、くちパクでそう告げた。



『ヴァギナビーンズ症候群』
12/08/14 20:53 (pD2BeQqN)
19
投稿者: いちむらさおり
『ヴァギナビーンズ症候群』

16

 鳴り止まない拍手の中、スタッフのひとりが千佳にヴァイオリンを手渡すと、会場はまた元どおりの静けさを取り戻す。
 弦の上に弓を構える。
 なにもない数秒間が過ぎたあと、そよ風が吹き抜けるようなヴァイオリンの音色が流れてきた。
 その音源は、限りなく千佳の体内に近い部分にあるのだと、誰もが錯覚したにちがいない。それはおよそ恋をした乙女にしか表現できないメロディーだったからだ。
 千佳は自分の世界に入り込み、より一層の叙情を織り交ぜて最後まで演奏しきった。
 うまくいった、と自分自身を絶賛しながら一礼をして、ふたたび顔を上げたときだった。

「千佳」と名前を呼ぶ男の声がする。
 聞き覚えのある声だったから、千佳はすぐにそちらを向く。三上明徳がそこにいた。
 けれども、その隣にいるはずの花嫁の姿がどこにもない。
 照明はまだ暗いままになっていて、千佳と明徳の立ち位置だけがスポットライトを浴びている。彼が彼女に近づいていくと、長い光もそれを追って移動し、やがて交わった。
 千佳にはわけがわからない。この状況の説明を要求するように、彼女は見える範囲で会場内を見渡してみた。
 するとどういうわけか、慣れ親しんだどの顔にも、こうなることを見越していたとでもいうべき笑みが用意されているのだった。

「三上さん、お姉ちゃんは?お色直しにはまだ早すぎるみたいだし」

「じつは、ずっときみに黙っていたことがあるんだ。それを今日ここで告白しようと思ってね」

 音響のスイッチは切られ、二人はアカペラで対話するかたちとなる。

「どういうことですか?」

「いつだかきみは僕にこう訊いたよね。サプライズは準備してあるのか、ってね」

「はい。あの……、それは……」

 千佳は思わず息を飲む。

「まだわからない?」

「え……と、あの……でも……」

 彼の言わんとする企みが、千佳はなんとなく読めてきていた。しかしそれがあまりにも現実離れした妄想だったから、自分の頬をつねって確かめるわけにもいかず、ここはひとつ騙されてみようかと思った。
 そこへ姉の琴美が登場した。しかもウエディングドレス姿ではなく、シャーベットカラーの黄色いドレスを着ていたのだ。

「お姉ちゃん、どうして……」

「それはあとで話してあげる。だからこれは、ほんとうの花嫁に返しておかなくちゃね」

 そう言って琴美は自分の指からエンゲージリングを外すと、いちど明徳に手渡し、彼から千佳の指にはめられた。
 千佳は何度も手を返し、指輪のサイズが合っていることを疑問視している。

「千佳」

 紳士的な声で新郎が言う。

「はい」

 落ち着いた声で新婦がこたえる。

僕と……結婚してくれ。

よろしく……お願いします。

 おそらくそんなやりとりが交わされているのだろう。会場のいちばん後ろから立ち見していた河原崎郡司は、聞こえない会話の内容を雰囲気から読み取り、「なるほど、それをわたしに見せたかったのだな」と満悦な表情で呟いた。
 遠目から彼が新郎新婦を眺めていると、主役の二人は熱烈なキスを交わし、次に姉と妹とがハグをするのが見えた。

 スタッフに扉を開けてもらい、郡司は会場を出た。そこで目の端に見えたのは、イーゼルに立てかけられたウェルカムボードだった。
 彼がここに来たときには、確かに明徳と琴美の名前が記されていたはずなのだが、いまそこに書かれているのは明徳と千佳の名前である。
 郡司はまた無性に口が寂しくなり、喫煙ルームの案内に従って歩き出す。



 興奮冷めやらぬままに、仲の良い姉妹は二人きりで新婦の控え室にいた。そこで姉から明かされた事実を聞き、千佳は何ともやりきれない気持ちで肩を落とした。
 それは、千佳がよく好んで視ていたテレビドラマのワンシーンとダブる部分があったからかもしれない。

 明徳と琴美の関係は、もうずいぶん前から冷めていたらしい。それから明徳と千佳の関係についても、琴美はある時点からなんとなく感づいていたと言う。
 何より決定的な事実は、琴美が明徳以外の男性と性交して、さらには妊娠してしまったということだった。産むか産まないかは明言しなかったが、妊娠についてはまだ相手の男性にも伝えていないようだ。
 加えて、近いうちに日本を発つ彼について行くとも言った。そうなるといよいよ、あのドラマの中で男と女が繰り広げていた会話が、明徳と琴美のあいだで交わされていたことになる。

「お姉ちゃんはそれでいいんだよね?」

「お父さんにはすごく反対されちゃった。だけど、お母さんは認めてくれた。自分の人生なんだから、後悔のない選択をしなさいってね」

「三上さんは?」

「彼は、明徳さんは私を応援するって言ってた。だから私も、千佳を泣かせるようなことだけは絶対しないでねって、釘を刺しておいたから」

「ありがとう。私はかならずしあわせになるから、お姉ちゃんにもしあわせになってもらわなきゃ困るんだからね」

「うん、わかってる。ほら、はやく着替えて。みんな千佳を待ってるんだから」

 琴美は部屋の外に待たせてある女性スタッフを呼ぶと、千佳を彼女に引き渡して部屋を出た。
 披露宴のクライマックスにふさわしい装いで、千佳を次のステージへと導いて欲しい。琴美は心の中で、かつての恋人に願いを託した。

「終わったようだね」

 姿のない声が聞こえた。確かめるまでもないと思いつつ、琴美はそちらを振り向く。

「いいえ、これからがメインディッシュです、河原崎先生」

「きみという人は、見れば見るほど気品がありながら残酷な女性だ」

「それはちがいます。妹を思えばこそ、姉としてできることをしてあげたまでです」

「彼女がそれを望んでいるとでも?」

「私とあの子は繋がっています。だから、私が嬉しいと思えば妹も嬉しいと思うし、逆に悲しいと思えばあの子も悲しいと思います。つまり、私が気持ちいいと思うことが、千佳にとっての快感になるはずなんです」

「結構」

 そう言って郡司は琴美に手のひらを見せた。

「アトリエの準備はしておくから、あとは頼んだよ」

 郡司の言葉に、「かならず」とだけ琴美が返すと、彼は式場の出口を目指し、琴美はまた披露宴会場へと戻るのだった。



『ヴァギナビーンズ症候群』
12/08/14 21:09 (pD2BeQqN)
20
投稿者: いちむらさおり
『ヴァギナビーンズ症候群』

17

 千佳は新婚初夜を迎えていた。といっても、新郎の三上明徳の姿はどこにもない。
 目はぱっちり覚めているというのに、頭だけが霧の中にあるようにもやもやしている。生理日が近いわけでもないから、貧血の可能性は低い。
 八月に入ってからしばらく、例年以上の猛暑が続いていたせいで、今夜も熱帯夜になるだろうと予想はしていた。
 それにしてもこの体調の異変は、睡眠薬を飲んで眠ったあとの目覚めの症状によく似ている。
 千佳はそこまで気づいておきながら、自分がどんな格好をさせられているのかはまったくの無関心だった。部屋の明かりが消えているせいもある。
 それに嗅覚を利かせてみると、絵の具のような匂いがするのである。
 あまりにも体が重いので、彼女は水でも飲もうかという具合に、上半身を起こそうと試みた。ところがだ。

あれ?どうして?なんで?

 千佳は起き上がれなかった。得体の知れないものが体中に張り巡らせてある感覚、それと下腹部を中から圧迫する不気味な存在感。
 二十三歳の成人女性の身体能力は、そのすべてを封印されていたのだ。

「うう……うん……、なによ……これ……、ちょっ……とっ」

 何かの悪い冗談なのか、それとも事件に巻き込まれてしまったのか。
 そういえば、と千佳は今日あった出来事を巻き戻してみた。
 披露宴の途中のお色直しを済ませて、キャンドルサービスの為に新郎の三上明徳と共に列席者の各テーブルをまわった。
 カメラのフラッシュが焚かれた瞬間は目が眩みそうにもなったが、気分が悪くなるほどでもなかった。
 メインキャンドルに火が灯り、会場全体が神秘的な雰囲気に包まれていて、どこからともなく聴こえた祝福の讃歌も心地良さを運んでくれていた。
 一同が着席して、私は新婦側のグラスの一つを手に取った。黄金色のシャンパンが豊かな気泡をつくっていた。
 私がグラスを掲げると、合わせて彼もグラスを高らかに構えて、二人で乾杯した。
 彼が一口飲むのを見届けてから、続いて私もグラスに口を付けた。
 いつものように笑い上戸になり、しばらくは陽気に振る舞っていたような気がする。
 様子がおかしいと感じたのは、それから三十分ぐらい経ってからだと思う。最初に眠気がやってきて、間もなく視界がぼんやりと壊れはじめたのだった。
 黒い海なのか、黒い空なのか、黒いカーテンだったのか。そこで私は記憶を無くす。
 そうして気がついたときにはもう、薄暗い部屋に一人寝かされていた。

 ここはどこだろう。経度や緯度もわからない、地図にも載らないような場所なのではないかという孤独。
 変質者によって辱められ、望まない性交渉の果てに、飼育されながら生きるしかない未来への絶望。

「いや……そんなの……絶対……。三上さん……。お姉ちゃん……」

 暗闇に向かって呼びかけてみても、返ってくるのは静寂ばかり。
 そして千佳はだんだん自覚していく。自分は全裸で、素肌を締め付けているのはおそらくロープ。
 それに、もっとも触れられたくないデリケートな肉体の隙間に挿入されているのは、女を差別する憎たらしい異物。
 ならばここにはもはやロマンスなど存在しない。あるのは自分自身の……秘めたるマゾの遺伝子のみ。
 細胞組織が子宮や卵巣を形成するずっと前から、私の性別は『女』だったのだろう。そして性欲が満月のように膨らんでしまった時のために、人類がヴァギナとビーンズ(クリトリス)を進化させてきたのだとしたら、すべての女性は生理に逆らうことはできない。
「いやだ」と口で拒絶したとしても、「欲しい」と脳が勝手に情報を書き換えてしまう。
「やめて」と連呼しようものなら、脳内神経はそれをエクスタシーだと判断するかもしれない。
 千佳は自分に嘘をつくことをやめて、膣を割られる感触に従ってみようと思った。

 彼女は天井を見ていた。すると突然部屋の明かりがかちこちと点いて、眼の中のレンズが収縮する感覚があった。誰かがいる。

「……?」

 千佳は喉が萎縮して、声が出せないでいる。

「あら、起こしちゃったみたいね。気分はどう?」

 その女性は姉の声でそう言った。姿まで姉の琴美にそっくりだから、この状況を作り上げたのはやはり姉ということになる。

「ちょ……、やりすぎだよ、これ。お姉ちゃん?」

 思ったとおり、千佳は全裸の体をロープで縛られた上に、脚の短いテーブルに仰向けに寝かされていたのだ。
 テーブルにまでロープがまわっているので、千佳の活動範囲も大幅に制限されている。
 そしていちばんの衝撃は、局部を犯しているものが、かなりの大物だという事実だ。
 トロピカルフルーツみたいなパッション系の色で、見た目は可愛い。本体のバイブレーターと子機のローターとが同時に楽しめる、カップリングタイプのアダルトグッズだ。

「ほんとうは千佳もこういうの好きでしょう?たった二人きりの姉妹だもん。隠し事はなしにしようよ」

「私が三上さんのことをお姉ちゃんから奪ったから、それで怒ってるんでしょう?」

「奪われたなんて思ってないよ。だって、あなたたち二人がラブラブだったのも知ってたし、私にも新しく打ち込めるものが見つかったから」

「それって、新しい彼氏のこと?」

「彼氏……というのとはまたちがう感じ。妊娠はしたけど、その人と結婚するつもりもないし。なんていうか、大人の関係みたいな」

「そんなのだめだよ。お姉ちゃんは私の憧れなんだから。自分にだけじゃなくて、誰にでも厳しくしていたじゃない」

 千佳は必死で訴えたが、琴美に対してこれは空振りに終わる。
 姉は全裸の妹に寄り添い、レズビアンのような雰囲気で迫っていく。

「私が、いいことしてあげる」

「お姉ちゃ……」

 千佳の背すじは凍りつきそうに冷たいのに、それを溶かすほどに下半身は熱くなっていた。
 膣にはバイブレーターが、さらにアナルには子機のローターが埋まっている。
 琴美はそれらを操作しようと、スイッチに指をかける。
 だめ、と言いたいのに、千佳の本能がそれを許さない。
 琴美は美しく静かに微笑み、禁断のスイッチを押した。

「ううっ!」と千佳は漏らした。冷感が先か、温感が先か、膣と直腸を同時に襲ったその刺激は、女のプライドを粉々にして跡形も残さない。

「いん、あん、だめえ、うっうん……んふ……ふっ」

 千佳の喘ぎに被さるモーター音が──ギュイイン、ウイイン──とミキサーの役割を果たして鳴っている。
 愛穴は前も後ろも切なくて、肌に浮き出た汗の結露は愛液と混じって滴る。

「後悔もできないくらい、気持ち良くさせてあげる」

 琴美は千佳の乳頭にキスをした。つづけて舐める。乳房はヴァニラ味のソフトクリームだ。口溶けは良く、弾むような弾力が舌を押し返してくる。

「やめて、あっあふ、ふうん、お姉ちゃん」

 ちゅぱちゅぱ、と大げさな音を立てながら、千佳のバストに唾液と吐息がかかる。

「ここでしょ。ここがいいんでしょ?」

 琴美の指が千佳のクリトリスを撫で狂う。

「ひいっ!」

 眉と眉がくっ付きそうなくらいに、千佳は眉間に力を込めた。

「千佳のあそこ、いつまで我慢できるだろうね」

 妹の女性器に入ったままのバイブレーターの尻尾を握ると、姉はそれを激しく出し入れさせた。

「ああっ、ああっ、あっ……かふ、はあうん」

 膣と陰唇の尖った神経に──しゃぶしゃぶ、しゃぶしゃぶ──と侵入してくる快楽を拒めない。

「いく?」

「ううん……、いかない……あっ」

「こんなにバイブがびしょびしょなのに?」

「はっだめ……、あんだめえ……」

 女同士だからわかる。陰唇が伸びて粘ついているのは、女性ホルモンが著しく増えてきている証拠だということを。
 クリトリスも目立つほど紅くなっている。

「いじわるしないで……いっ……ひっ……ぐっ……」

 意識はあるのに、脳内には快楽のストレスが積乱雲のように立ち込めている。
 体は蜘蛛の巣に捕らわれ、膣は蜂の巣にされている。
 そこから溢れるローヤルゼリーを味わう琴美。女性器への接吻で喉が潤い、食道に膜ができる。

「お姉……あっ……いく……ひぐ……、もういく、いくう……」

 きんきんと鼓膜に刺さる千佳の欲情。息の根を止めるわけでもなく、しかし絶頂にいちばん近いところを速いリズムで掻きまわす。
 つぎの瞬間、千佳の様子が急変した。導火線が燃え尽きて、花火が上がった。大輪のスターマインが目の前で散っていく。降りかかる火の粉を全身に浴びて、それによって膣はびゅくびゅくと痙攣し、血液はオルガズムに洗われる。
 ふっと瞼が下がり、ロマンチックな余韻に包まれたまま、やっぱり自分は女の子で良かった、と千佳は思う。

 お腹が痛くなるほど笑ってみたい。涙が枯れるほど泣いてみたい。そして、気絶するほどセックスしてみたい。
 今度生まれ変わっても絶対、親の面影を受け継いだ女の子がいい。

 いつの間にか千佳はロープから解放されていて、両脚を内股に折って座っていた。室内犬がそうするみたいに、そこに水溜まりができて濡れている。
 姉妹は微笑みを交わし、姉よ、妹よ、と絆よりも太い運命の糸を再確認した。



『ヴァギナビーンズ症候群』
12/08/15 21:54 (E0OB3svN)
21
投稿者: いちむらさおり
『ヴァギナビーンズ症候群』

18

 ドアをノックする音がして、「はい」と琴美が言う。
 そこから現れた大男は琴美の方を一瞥すると、なにも言わずに全裸の千佳に向かって歩み寄る。
 血が騒ぐ、というのは不適切かもしれない。しかし彼から出るオーラが千佳を魅了するまでに、それほど時間は必要なかったみたいだ。

「あなたが……お姉ちゃんの……」

「画家の、河原崎郡司先生よ。私は彼とは仕事のお付き合いをさせていただいているの」

 姉からの紹介があって、妹は覚悟した。琴美と郡司のあいだには仕事以上の信頼関係があり、今度はそれを自分にも求めているのだ、と。
 姉から婚約者を奪った側からしてみれば、どんなに淫らな誓約でもサインを拒むことは許されないだろう、とも思う。

「式場では遠目に拝見させてもらったが、こうやって素肌を晒したきみが見れて、わたしは寿命の延びる思いがするよ。ほんとうに美しい娘だ」

 彼が千佳の柔らかい髪を撫でてやると、彼女は横を向いて自分の両肩を抱いた。

「ぜひともきみを描かせてほしい」

 いやらしく迫る雰囲気がないことを知って、千佳はゆっくりと頷く。

「ただし、キャンバスに描き写すわけではない」

 彼がそう告げた横から、「ボディペイントよ」と琴美は付け加えた。
 芸術家の考えていることは常識者には理解できないと思ったが、それでも千佳は豊満な妄想をふくらませて、彼の提案に前向きになることを決意した。
 彼は筆を手に彼女の正面を見下ろし、時間をたっぷりかけて、色とりどりの絵の具を配合した液体をそこに盛っていく。

 郡司が上になり、千佳は下で──あひん、あひん──と顎をしゃくっている。
 ボディペイントと同時に、二人の下半身は結合していた。激しく体を揺すって挿入のみのセックスに興じる老人と娘。
 どれだけ気持ちいいことになっているのか、千佳の表情を見ればそのパーセンテージは予想しやすい。
 琴美もただ指をくわえて見ているだけでは、体の疼きに負かされそうになっている。
 彼女は妹に勝るとも劣らないすべての肌を露出させ、千佳の顔に跨り、クンニリングスを要求した。
 答えはすぐに返ってきた。女の性器に女の唇が合わさって、ローションよりも滑らかに舌とクリトリスを摩擦させ、ときどき指で膣の奥を掻き乱してくる。

「やだ……すごい……、はん……いき……そう……」

 三つの体がそれぞれ違う行為をしているのに、感じていることはただ一つ。
 膣は精液で満たされ、もう一つの膣は潮を吹き、射精を終えた陰茎はもう勢いを失って下を向いている。

「はあ……はあ……お姉ちゃん……、私……いっちゃった……」

「千佳……大好き……はあ……はあ……、私も……おまんこ気持ち良かった……」

「女の子同士って……、なんか興奮する」

「今日だけの特別授業なんだから……、もうおしまい」

 琴美に言われ、「そんなのだめ。ねえ、もう一回しようよ。ねえ?」と譲らない千佳。

「こうやっていても絵になるというのは、なかなか、世の中は不公平にできておるのかもしれんな」

 ほかの誰よりも素敵な女性だということを、河原崎郡司は二人に言いたかった。

「キャンバスならいくらでもある。きみらの性欲すべてを、ここに置いていきなさい」

 橘姉妹は彼の熱血な口ぶりにまた体を熱くさせて、お互いの乳房をあっちとこっちで分け合い、愛撫して、乳首が捻れるほど吸い付く。夢中になれるものがそこにあるかのように。
 二つの膣に指の束を入れて、割って、愛液で全身を洗っていく。
 シャンプーの香りも、デオドラントスプレーの効果も、ボディクリームの被膜さえも落とされる。

「あん……そこ……ふうん……もっと……中まで……ああっ……」

「いい……あいい……いくいく……いっ……ちゃ……ううん……ああいく……」

 指の動きに腰を振って、どんなメイクよりも色気がのった紅い頬は変に吊り上がり、恥ずかしそうにヴァギナを踏ん張る。

「ひっ……くっ……」

「んっ……はっ……」

 子宮はどこかに吹き飛ばされ、膣のつづきがなくなったような切なさだけが残る。
 心地良い痙攣がつづく。めんどうなこと、目を背けてきたこと、避けては通れないこと、ぜんぶ忘れて快感だけを体に刻んでおきたい。
 ヴァギナとビーンズ(クリトリス)は女性の特権なのだから、時にはひとりでオナニーに耽ってみたり、時には誰かとセックスで繋がってみたり、女性としての幅をどこまでも広げてくれる。
 男性よりも優位に、彼らよりも深いオルガズムで、心と体をときめかせながらトリップできるのも、女性器が成せるいたずらだろう。

「三角関係だね」

 千佳が呟いた。

「誰と誰が?」

 琴美は尋ねた。
 異性を愛する自分、同性を愛する自分、自分自身を愛する自分。三種類の自分がいつもどこかにいて、どの自分も憎めない──なんて偉そうに唱える気はないけれど、とびきり甘い表情をして千佳は言った。

「女の子の心のかたちは、いつだってショートケーキみたいに三角形なんだよ」



『ヴァギナビーンズ症候群』
12/08/15 22:06 (E0OB3svN)
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