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春眠の花
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:ノンジャンル 官能小説   
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1:春眠の花
投稿者: いちむらさおり
まだまだ最後まで書けていませんが、見切り発車で載せていきます。
 けして万人受けはしませんので、ご了承ください。
 
2012/04/15 22:34:55(sBOolPf9)
22
投稿者: いちむらさおり
14



 清楚な制服姿で携帯電話を片手に、デリケートな表情でこちらに近づいてきたのは、女子高生の愛紗美ちゃんだった。

「どうして出てくれないの?」

 そう言ったのは愛紗美ちゃんだ。

「え、なに、出る?」

「どうしてケータイに出てくれないの?奈保子さん」

 どうやら彼女は私に電話に出るように言っているみたいだ。

「ここは病院よ、ケータイの電源はオフにしておきなさい。私なら、ほら……、あれ……?」

 私は自分の携帯電話を探してみたが、おかしなことにどこにも見当たらない。

「はやく出てってば」

 愛紗美ちゃんは語気を強めて私に詰め寄る。
 彼女の手の中の携帯電話は着信音を鳴らしつづけている。
 見覚えのあるストラップとデコレーション、私の探し物は彼女が握っているそれだった。

「それ、私の──」

 私は携帯電話を受け取り、そして彼女はもう一台の携帯電話をポケットから取り出して自分の耳にあてた。
 私は通話キーを押す。それなのに着信音が止む気配はまったくない。
 もう一度キーを押してみる。もう一度……、もう一度……。
 手応えがない。

「私のケータイ壊れちゃったみたいだから、直接話してよ」

「だめだよ奈保子さん、ちゃんと電話に出なきゃ」

「どうしてよ、目の前にいるのにケータイ必要?」

「まだ気づいてないんだね。いま見えている私も、そこにいる看護師さんも、この病院だって全部が全部夢なんだよ」

 私はリアクションできなかった。このまま彼女の冗談に乗ってあげたほうがいいのだろうか。

「はやく起きないと、また仕事に遅れちゃうよ。それにベッドのシーツだって、ほら」

 そう言った彼女はちょこんと顎でベッドを指し、私は視線を下に落とした。
 まさかが起こっていた。ついさっきシャワーを浴びて着替えたばかりなのに、パジャマはお尻のあたりまでびしょ濡れで、シーツに至っては言い訳できないくらいの染みがふやけて広がっていた。

「なによこれ、もう」と掛け布団を蹴飛ばそうとした瞬間──私は魔法が解けたように夢から目覚めた。

 天井が見える。街の喧騒が聞こえる。それから携帯電話の着信メロディーが聞こえる。
 まだなにもしない。眠っているあいだに夢を見ていたはずなのに、どんな夢を見ていたのか思い出せない。
 でも下半身に感じる湿り気から、どんな内容の夢だったのかはだいたい見当がつく。
 あの時とおなじ、ひどい生理痛から解放されたような晴れた気分と、膣に感じる「夢の続き」。
 なにかしらのアクションを起こさなければいけない、先ずはそこからだ。
 枕元で鳴り続ける携帯電話に手をのばし、とりあえず出てみた。

「もしもし……」

「おはよう、あたし、愛紗美」

 まだ朝の7時過ぎだというのに、やたらハイテンションな声が返ってきた。

「どこの愛紗美ちゃんかしら」

「国民的美少女の愛紗美に決まってるじゃん、とぼけちゃってるんだから」

「はいはい。で、その愛紗美ちゃんがこんな朝早くに何の用?」

「今ね、うちの高校でけっこう流行ってるんだ」

「ソーシャルゲームとかそういうの?」

「インフルエンザ」

 ああ、そっちね、と私はため息をついた。

「なんか学年閉鎖になっちゃったから、あたし暇なんだ、今日」

「大人はいそがしいの」

「奈保子さん、いま起きたばっかりでしょう?そうだろうと思ってあたしが起こしてあげたんだから、これ貸しね」

 当たっているだけに何も言い返せない。

「いちおう借りておくけど、今日はほんとうに仕事だから、ね?」

「じゃあ、面白いこと教えてあげる」

「間に合ってるから」

「夢の中に奈保子さんが出てきたんだ。それで何してたと思う?」

「なに?」

「……、大きな病院で不妊治療してた。……でもあれはたぶん治療なんかじゃなくて、……レイプされてるみたいだった。あたしはそこで研修生として見聞してたんだけど、あんな卑怯な場面を見せられて、いったい何を学べっていうんだか」

 彼女が言っていることは、彼女が見た夢の中での出来事であって、私には関係のない話なのだ。
 それなのに私は聞き流すことができなかった。
 まるで私自身も彼女とおなじ夢を見ていたような、しかもつい最近の夢だという気がする。
 思い出せそうで思い出せない、頭の中は便秘状態だ。

「それで私はどうなったの?」

「つづきは会ってから話してあげる」

 そう来ると思った。

「わかった。とにかく仕事は休めないから、また後で連絡する、それでいい?」

 ありがとう、と電話口であからさまに喜んでみせて、無邪気に笑う彼女の声もいっそう飛び跳ねて聞こえた。

 私は昨日と同じ時刻の電車に乗り、ラッシュアワーの洗礼を受けながらも涼しい顔だけはキープさせていた。
 いい女がいるじゃないか、どんな味がするのか摘み食いしてみたいものだな、と声なき声が聞こえてきそうないやらしい視線。
 メールを打つふりをして、じつは携帯電話のカメラで盗撮しようと狙いをさだめるレンズ。
 そうやって妄想レイプのターゲットにされようとも、私はべつに痛くも痒くもない。
 現行犯を目撃した瞬間には容赦はしない、ただそれだけだ。
 そんな心配をよそに、電車は何事もなく目的の駅に私をとどけてくれた。
 外の空気のおいしさ、香る風、朝霞の陽光、趣(おもむき)のある駅舎、ここで温かいコーヒーでもてなされたりしたら、それはもう至福の──。

「はい、これ」

はい?

 その声に振り返る私。足もとのローファーから見上げていくと、目の前の少女は缶コーヒーを袖つかみで差し出し、してやったりの満面の笑顔でそこにいた。

「愛紗美ちゃん、どうやってここまで来たの?」

「パパに送ってもらった」

 即答だった。駅を出れば名見静香さんの花屋までは徒歩で10分ほどの距離だ。
 私は愛紗美ちゃんを連れて踏切をひとつ超えたあたりで、さっきからずっと気になっていた匂いの正体に思い当たった。
 これはティーン特有の柑橘類に似た甘酸っぱい香り。
 それに花や果物のフルーティーな芳香も持ち合わせている。
 自分で国民的美少女と言うだけあって、その言葉に矛盾はないなと思ってしまうほどの『売れ顔』である。

「彼氏はいないの?」

 彼女に恋バナを持ちかけてみた。

「うち、パパが色々とうるさいんだ。門限とか交友関係とか、とにかく私が不良にならないようにいつも干渉されてるの。だから彼氏はいない……っていうかつくれない」

「そうなんだ。けど、好きな人はいるでしょう?」

「どうかな、同年代の男子はなよなよしてるっていうか、全然ときめかないし。それにあたし、パパのこと好きなんだ。お小遣いくれるし、男らしいし」

「それってパパが好きなんじゃなくて、お小遣いが好きってことじゃないの?」

「あたしもよくわかんない。ただ、パパの言うことを聞いてあげれば、お小遣いいっぱいくれるんだ」

「パパの言うことって……、それどういうの?」

 嫌な予感がした。

「ママがいなくなってからのパパ、ほんとうに寂しそうだったんだ。だから私、一度きりのつもりで、パパとそういうことしたの」

 そういうこととは、つまり、ああいうことだろう。父親と娘のあいだに生まれた歪んだ愛情。
 それが世間に認めてもらえないタブーだからこそ、余計に燃え上がって切るに切れなくなったのか。
 普通の女子高生がなんともない顔で言えるセリフではないことを、彼女はわかっているのだろうか。
 私には理解できない。

「愛紗美ちゃんはそれでいいの?」

 私はつい熱っぽく彼女の肩を掴んでいた。

「何が?」

「あなたのした事がどれだけ汚らわしい行為なのか、わかっているのかって聞いてんの」

 しだいに彼女の頬が紅潮していくのがわかった。鼻の穴がひくひくと動いて、今にも感情が溢れ出してしまいそうになるのを必死で抑えている。

「だって……」

 涙目が黒く潤んでいる。

「パパがかわいそうだったんだもん……。あたしだって……、したくてしたわけじゃないんだから……、それくらいわかってよ……。ずっと誰にも言えないで……、ひとりで悩んでたあたしの気持ち……、少しはわかってよ」

 胸に突き刺さる告白だった。軽々しく同情するのも躊躇(ためら)われた。
 さっきまで晴天だと思っていた空が、その数分後にははげしい雨に変わっている。
 そんなふうに思春期の乙女心は人間環境に左右されやすく、彼女の場合、人生そのものを大きく左右させる出来事に違いないのだ。
 何とかしてあげたいのに何もできないでいる私の制止を振り払い、彼女は長い黒髪に向かい風をまとわせて走り去って行った。
 圧倒的無力、それが現実だった。
12/05/05 00:04 (wbmfm7KS)
23
投稿者: いちむらさおり
15



 結局私は彼女から夢の話のつづきを聞くこともできなくなり、後ろ髪を引かれる思いで仕事先へと足を向かわせた。
 もやもやしたものを抱えたまま店に着くと、店長の名見静香さんがちょうど鉢植えのチューリップを店先にレイアウトしているところだった。

「おはようございます」

「小村さん、おはよう。通勤も電車になると大変でしょう?」

「いいえ、慣れればどうってことないです。それに車、今日には点検が終わるはずなので」

「それはそれでいいとして、例のホームレスの彼には会ったの?」

「まだですけど、また今日も来るんですかね、お店に」

「どうかしら、普通のお客さんなら有り難いんだけれど、なんだか、ねえ」

 彼の風貌の悪さが、名見静香さんの表情から推測できた。
 そういえば、と名見さんは何かを思い出した。

「その人が昨日ここに来た時に、独り言で何か言っていたのを聞いたわ」

「なんですか?」

「確か──」

いちばん美しい花があると聞いてここに来たが、どうやら嘘ではなさそうだ。しかし、土はよく肥えているのに、肝心の種子が見あたらないというのは、持ち腐れに等しい。もったいない──。

 そう言っていたらしい。

「どういう意味なんでしょうか」

「さあ……、お店にクレームを言っているわけでもなさそうだったし、だけどあんまり歓迎できないわね」

 仕事に支障が生じるといけないということで、その話はさっさと切り上げることにした。
 その日、ホームレスらしき人物はとうとう現れなかった。
 愛紗美ちゃんとも今朝の一件から連絡をとっていない。
 一日の仕事を終えた私は二日ぶりに愛車との対面を果たし、微妙な機嫌のままマンションに帰宅した。
 あれから彼女はどうしているのか、私がもっと大人の態度で接していれば傷つけずに済んだのか、そんなことばかり考えていた。
 車のキーケースを靴箱の上に置くと、今日届いた郵便物をまとめてリビングのテーブルに散らかした。
 結婚した友人からの手紙、カードの明細、それとB4サイズほどの大きな封書が珍しく届いていた。
 見ればどこかの病院からの通知らしい。おもてには可愛らしいシンボルマークが中央にあって、それは緑色の四つ葉のクローバーによく似ていた。
 はてな、と私は首をかしげた。以前にもどこかで、これと同じものを見たような気がする。
 私はいまデジャヴュに遭遇している、そう感じた。
 曖昧が曖昧でなくなるとき、それは確信に変わるのだ。そしてそこに書かれた文字を目で追ってみて、私は確信した。

「いずみ記念病院院長、出海森仁」

 知らないはずのこの病院の名前を、私は知っている。けれども無理矢理思い出そうとすればするほど、骨盤のあたりがしくしくと疼いてくるのだった。
 お腹に手をあてたまま、しばらくその文字を眺めていた。そして中身を確認する。
 近頃メディアで頻繁に取り沙汰されている婦人病のことや、少子高齢化社会はもう未来の話ではないということ、それに女性らしい一生涯を送る為の医療のあり方などなど、とても興味深い内容がそこには書かれていた。
 それらに軽く目を通した後、私は別紙のうちの一枚を広げてみた。
 婦人科検診の受診票、それだった。
 別れた夫、風間篤史とのあいだに子どもをつくらなかったので、産婦人科にはほとんど縁のない生活をしていた私。いや、つくらなかったのではなく、つくれなかったのだ。
 おそらく夫婦のどちらかに不妊の原因があって、私たちが離婚したいちばんの理由はそこにあったのだから。
 しかしこうやって社会での女性の役割をあらためて突き付けられると、もう30だからと年齢のせいにしている場合ではないなと思いはじめていた。
 種子があれば花は咲く。子孫を残すための種子ではなく、綺麗な花を咲かせるための種子があってもいい。
 不妊症だからといってセックスを避けていたら、女を諦めるのとおなじだ。

 その夜、私は久しぶりにオナニーをした。とてもしたい気分だった。
 頼れるものは指しかないのかと考えて、避妊具があることを思い出し、とたんに私の脳は快楽物質の泉となった。
 なんでもいい、とにかく膣を満たしたい。
 適当なものが目に入るとそれに避妊具を被せ、女の本音が溢れ出したそこに挿入していく。

「ん……はっ、あぁ……」

 ねちねちした声が自分の耳をくすぐる。
 それこそ場所も素材も選ばず、キッチンでは人妻のひとり遊びを妄想し、ベッドルームでは会社の上司と密会する新入社員の叶わぬ恋とセックスをイメージしたり。
 素足、素手、素顔、素肌、そして素股。全身が性感帯であり、性欲のかたまりだった。
 私はずっとこんなオナニーがしたかった。男の人が想像するよりもっとアブノーマルで、レイプされるより狂暴な快感をくれるオナニー。

これっきりにするから、だから、これだけはやっておきたいの。

 そうして私は、おそらく夢の中で経験していたであろう行為を、自らの手で仕上げていく。
 右手の5本の指先で陰唇を掻き分けて、深呼吸をしながら膣に挿入していった。

この感覚、私はどこかで味わっている。脳が……、イキそう……。

 指さえ入ってしまえば、あとはもう関節を詰め込んだらいいだけだ。

じゅぷっちゅぷ……くちゅっ、にちゃにちゃ……、ちゃぷっ。

「はうっ」呼吸を止めて、「んふぅ」また息を吐く。
 一人暮らしの女性の部屋でこんな格好を見たら、私をどんな女だと思うだろうか。私の右手首の先は今、完全に膣内へ入ってしまった。
 その異様すぎる光景は私をさらに興奮させ、体が割れるような異物感が子宮に襲いかかる。
 入り口は狭くても奥の方は広いつくりになっていて、ちょっとやそっとじゃ抜けない仕組みだ。
 どろどろした熱い粘膜の中で拳を動かせば、臨界点まではあっという間だった。
 絶頂の言葉を言う間もなく、私は果てた。
 女として最低で最高な自慰行為。私の性欲が消滅しないかぎり、それはいつまでも続いた。



「それじゃあ静香さん、私そろそろ行かないといけないので」

「あとのことは気にしないで、終わったらまた連絡ちょうだい」

 私は午前の仕事を途中で抜け出して、婦人科検診のために『いずみ記念病院』へ向かおうというところだった。
 そこへ突然、何の前ぶれもなく彼がお店に現れたのだ。もう二度と顔を合わせることもないだろうと思っていたのに、彼は私の機嫌をとるような笑みを浮かべて、「やあ」と手を上げた。
 風間篤史、私のもと夫である。
 数年ぶりに会う彼はどこか垢抜けた感じがして、以前よりもこけ落ちた頬やウエストも引き締まり、見違えた。
 人目を避けて店の裏手にまわり、彼は立ち話をはじめた。

「まだこの店で働いていたんだ?」

「うん……。急にどうしたの、あなたがこんな所に来るなんて」

「仕事の邪魔しちゃってごめん。じつは奈保子に話しておきたいことがあって、まあ、今更どの面下げてって思うだろうけど」

「話ならあの日に終わったはずでしょう」

「違うんだ、落ち着いて話すから、落ち着いて聞いてくれ」

 彼の真剣な眼差しに、ある種の決意が見えた。

「僕らが別れたいちばんの原因は、やっぱり僕の方にあったんだ」

「それはだからあなたの浮気癖のせいだって、私がそう言ったじゃない」

「それはわかっている。だけど僕が浮気にはしってしまったのは、僕自身の体に原因があったんだ。それを調べてくれるようにと、僕は病院で検査を受けたことがある」

「病院……?」

「うん……、精液検査だよ」

 彼が言わんとしていることはすぐに理解できた。

「精子が……ないのね?」

 私の問いかけに彼は黙って頷いた。

「あれはまだ奈保子と離婚する前の話だ──」と遠い昔話を懐かしむように彼は語り出した。
 二人がまだ新婚だった頃、性に奥手だった私を気遣った彼は、どうにか私に目覚めて欲しくて、不器用なりにもあの手この手を尽くしていたのだった。
 セーラー服も、裸にエプロンも、深夜のアダルトショップに連れ回したのも、すべて私の為だったらしい。
 初めこそ私も遠慮したりしていたのに、いつの間にか楽しんでいた部分もなくはなかった。彼の色に染められたというのか、新しい自分を発掘できた喜びを分かち合ったりもした。
 そうして女の部分を満たされた私は、今度は子どもが欲しいと彼に言う。
 二人の共同作業がはじまった。私の排卵日を予測し、それに合わせて彼は禁欲する。
 男の禁欲がどれほど大変だったか、と彼は大げさに苦笑いした。
 そんなの知らない、と私は冷たく返す。

「だけどなかなか子どもができなくて、そんな時にインターネットで不妊症のことを調べてみたんだ」

「それで私に内緒で、ひとりで病院に行ったのね?」

「陰性の方に賭けてはいたんだが、先生にはっきり言われたよ。さすがにショック大きかったな……」

 情けない思いが込み上げてきたのか、彼は斜め上の空を見上げた。
 そんなことがあったとは知らずにいた私は、彼にどんな言葉をかければ良いのかわからない。
 ずっと隠しておけば良かったのに、何故いまになって話す気になったのかもわからない。もう一度私とやり直したいと思ったのだろうか。

「無精子だと診断されて自棄(やけ)になったとはいえ、僕がそれを理由に浮気をしたことは事実だ。奈保子には迷惑をかけたし、いろんなことを清算してきたよ」

「なによ勝手に、それで私があなたのことを許すと──」

「思っていないよ。僕に教えて欲しいことがあるんだ」

 彼は私の両肩を引き寄せて、真っ直ぐにこう言った。

「奈保子はどうして追われているんだ?」

「え……?」

 身に覚えのない話だった。

「きみのことを捜しているという人物が、僕のところを訪ねてきたんだ。何故あんな連中が奈保子を探しているんだ?」

「あんな連中って?」

「ホームレスだよ」

 まただ。どうやら私は、相当ホームレスのおじさま達に気に入られたようだ。勤務先に現れ、自宅にも現れ、別れた彼の前にも現れている。
 私に接触しようと思えばできるはずなのに、何だか私と距離を置いて私生活を観察しているようにも思える。
 いったい誰が、何のために、何をしたいのか。

「いざとなったら警察に相談するから。心配してくれてありがとう」

「ほんとうに知らないんだな?」

「うん。まあ、会ったら会ったで、私にどんな用があるのか問い詰めてやるから」

「相変わらずだな」

「相変わらずよ」

 不意に懐かしい笑みがこぼれそうになって、お腹がくすぐったくなった。

「元気そうで安心したよ」

「あなたもね」

 じゃあ、と言って振り返った彼はどこか名残惜しそうで、積もる話の半分も言い切れていないのだと、その背中が語っていた。
12/05/07 10:54 (zdwAftRt)
24
投稿者: いちむらさおり
16



 車は順調に目的地へと向かっていた。ナビゲーションの音声に従い、見慣れない景色が目に入るようになってくると、辺境の地にでも旅に出てきたような錯覚が胸に迫ってくる。
 開放的で風光明媚な県道がつづく。おなじ背丈の立ち木の間をいくつも通り過ぎ、木陰が開けた先に大きな空が見えた。
 日光を遮るものは何もない。峠から見下ろすその町は、和製アニメのワンシーンをそのまま切り取ったような情緒と、西洋の世界遺産を思わせる風情を私に見せていた。
 目的地までの距離をナビゲーションが告げた。

ああ、あれがそうね。

 赤レンガの外壁は町の景観に溶け込みながらも、自分は特別な存在なのだと、その聖域の鎧で弱者を護っているようにも見える。
 車を降りて緊急搬入口あたりから建物を見上げたとき、何度目かのデジャヴュに遭遇した。
 やっぱりどこかで、この角度から四つ葉のクローバーのシンボルマークを私は見ている。そして私はそれを赤十字と見間違えていたのだ。
 さっきからずっと子宮が疼いているのも、この病院と私が過去になんらかの関係を持っていたからだ。
 正面玄関から自動ドアをくぐって足を踏み入れた途端、私を迎えてくれたのはたくさんの好奇の目だった。
 何か珍しいものでも見るような目つきでもあり、うっとり見惚れて心ここに在らずといった様子でもある。
 私は自分の身なりを確かめた。服が汚れていたり、下着が見えていることもなさそうだ。
 それでも彼らは私の動作に合わせて、ほとんど目だけで追ってくる。
 総合受付で手続きを済ませた後も、私の全身には彼らの視線がびっしりとつきまとっていた。
 その日の私の服装はというと、上はしっかりしたスプリングコートに、下は少しゆったり目のショートパンツといったスタイルだ。
 確かに病院にいれば浮いてしまう格好だが、自分的には年相応のコーディネートにしたつもりだった。

「こちらへどうぞ」

 若い女性看護師はファイルを胸に抱え、柔らかい動作で私を案内してくれた。

「どうかあまり緊張なさらないように」

 歩きながら彼女が言う。

「あの、診てくれる先生は女性ですか、男性ですか?」

「男の先生ですよ。けど安心してください。とってもすごい方で、海外とか色んな分野にも人脈をもっているエリートですから」

 そうなんだ、と何となく納得した私。どんな職業でも上には上がいる。どれだけすごいかなんて、私にはまったく未知の世界だ。
 でも彼女の言うとおりの医師だとしたら、私はなんて幸運なのだろうか。

「こちらでしばらくお待ちください」と産婦人科の待合いを彼女は手で示し、空いている椅子のひとつに私は腰掛けた。
 病院というところは居心地がわるくてあたりまえだが、ここに来るとその体感温度はさらに私を萎縮させた。
 見れば私のほかにも数人の女性が、それぞれの悩みを抱えた表情で座っていた。
 私と歳の離れた若い女の子もいれば、可愛い産着にくるまった赤ちゃんを抱いた同世代の女性もいる。
 どんな目的で来たにせよ、この扉の向こうでは皆おなじ格好になるのだ。
 どんなにすました顔をした女性でも、する事をされればそれなりの反応をしてしまうのだから。
 その時、自分の体の思わぬ部分に血が集まっていくのがわかった。熱くなるというのか、意識過剰になって触りたい衝動に駆られる。
 不謹慎な感情がすぐそこまで来ていたのだ。

「小村さん、小村奈保子さん、1番にお入りください」

 自分の名前を呼ばれたのに、すぐには動くことができなかった。心のどこかでまだ他人事のように思えて、しかも独特なアウェイの空気に孤独を感じたからだ。
 私は緊張した呼吸をできるだけ整えた。そして諦めを瞳に浮かべ、けして開けてはならないその四角いドアを、私は開けてしまった。

「そこは鬼門だよ」

 どこからか声が聞こえた──ような気がした。それはつまり、風水で言うところの鬼門のことを指しているのだろうか。
 しかし声の主はどこにもいない。いま私の目の前にいるのは、ひとりの若い男性医師と、こちらもまた若く見える女性看護師だ。
 女性の方はお腹のふくらみが目立ち、おそらく妊娠の何週目かに入っているのだろう。
 二人に面識はない。それなのに、それなのにだ。どうも初対面という感じがしない。
 男性医師は出海と名乗り、女性看護師は佐倉と名乗った。胸のネームカードにはそれぞれ出海陽真(いずみはるま)、佐倉麻衣(さくらまい)と書いてある。

「よろしくお願いします」と私は会釈しながらも、この不可思議な出会いを必然のように思いはじめていた。

「それでは小村さん、先に検体を預からせていただきますね」

 さりげなく上品な仕草で看護師は言った。
 事前に知らされていた検体はぜんぶで三つ。
 ひとつは今朝の分の尿。これは専用の容器に入れて持参した。
 ひとつは排卵日のおりもの。これは付属のおりものシートに付着させて、ビニールパックに入れてきた。
 それともうひとつ、バルトリン腺液やスキーン腺液と呼ばれる体液、いわゆる愛液だ。これもまた付属のタンポン状の物を膣に挿入し、任意の回数だけ出し入れをして体液を付着させる。
 その三つを漏れなく準備し、私は彼女に手渡した。
 そうして出海医師による問診がはじまり、生理痛や排卵痛の有無、程度、頻度、周期、そのほか当たり障りのない質問がいくつか続いた。
 看護師は彼の横で私の受け答えを聞きながら、問診票をチェックするペン先を目で追う。
 そして時折私と目が合うと、マスクをふかふかさせながら目を細めて微笑む。それはとても純粋で、嫌みのない眼差しだった。

「そうしたら上着と、下はぜんぶ脱いで、ベッドに横になってください」

 やはりそれは避けられないなと思いつつも、こういう時にはなかなか決心がつかないものだ。
 医師としては見慣れたものかもしれないけれど、女性器には変わりない。観察されたり触られたり指摘されれば、泣いてしまう女性だっているくらいだ。私はどうだろう。

「恥ずかしいですか?」

 上着は脱いだものの、その先がなかなか行動に移せないでいる私を見かねて、看護師が声をかけてきた。

「いいえ、大丈夫です」

 ぜんぜん大丈夫じゃないくせに、ついそんなことを言ってしまう私。

もう、なるようにしかならないんだから、小村奈保子、女を見せるのよ!

 私は自分自身を激励した。そしてようやくショートパンツのウエストに指をかけると、まるい体型に沿ってスルリと下ろしていった。
 先生の視線が気になるけど、なるべく気にしないように、でもやっぱり気になってしまう。
 戸惑う手つきで下着を下ろしていく姿は、まさにこれからセックスをしようとしている女の恥じらいに似たものを錯覚させていたに違いない。
12/05/08 12:00 (PQWQqbVm)
25
投稿者: いちむらさおり
お詫び



長々とすみません。
こんなはずではなかったんです。もっとシンプルにしたかったんですけど、未熟なものでまとまりがなくなってしまいました。
きちんと終わらせますので、あと少しだけお付き合い下さい。

次回は短編にしよ、ため息……
12/05/08 23:04 (PQWQqbVm)
26
投稿者: いちむらさおり
17



 空気がそわそわと恥部を撫でる。若くもなく老いてもいない、ほど良く熟れた下半身を私は晒した。
 恥ずかしさのあまり、爪先立ち気味にベッドまでの歩幅をとりながら、肝心な部分には手を添えた。

「そこに両脚を乗せて」

 私の裸にはまったく興味がないという風に、出海医師は先を急がせる。

「ここに右脚を、そうです、力を抜いて楽にしてください」

 看護師のサポートで私の準備はできた。男性視点からすれば、正常位で犯すにはとても都合良く、無防備な姿の女が目の前にいるのだから、この好機に甘えない手はないだろう。
 しかしここは病院だ。私ひとりが舞い上がっているだけで、私以外は至ってクールだ。

「触診しますから、少し我慢してください」

 医師の言葉は優しいが、何をどう我慢すればいいのだろう。
 私の上半身と下半身は薄いカーテンで仕切られ、医師と看護師は私の下半身側にまわりこむ。
 醜く割れた女性器はもう彼の手の届くところで、花びらがめくられるのをじっと待っている。
 そして嫌な汗が背中を不快にさせはじめた時、冷たい感触が陰唇の両側にやさしくタッチした。

「……っ!」

 臍(へそ)に力が入り、お尻の穴がきゅっと締まる。なんとか声だけは寸止めできたが、腰がビクンと浮き上がったのは取り消せない事実だ。

「少しずつ入りますよ、力まないで、いいですよ、あと半分、ゆっくり、入りました」

 出海医師が私の体の中に挿入したものは何なのか、ここからは確認できない。でも相当大きな器具であることは実感できる。
 ビューラーのお化けみたいな、あの器具だ。とても切なくて、くすぐったい。

「開口します」

 それには潤滑ゼリーのようなものが塗ってあるのだろうか、膣が左右に開いていくあいだにも、粘膜への刺激やストレスはほとんどない。
 股間の皮膚が突っ張る感じはあるから、ひょっとしたら……いや、確実に私の性器の中身は彼の視線を浴びている。
 ほっぺが紅潮すれば、あそこも火照る。
 牡丹の紅(あか)、椿の朱(あか)、薔薇の赤(あか)、どの赤よりも赤く、自分を偽れない色。
 そこに触れればすべてが露わにされるのだ。
 体調や病状どころか、深層心理まで読み取れてしまうほどに素直な反応をあらわす女性器。
 彼の指先には目がある、まるでそんな指使いで膣の隅々までをいじくるのだった。
 男対女、診察の一線を越えた異常な関係を妄想せずにはいられない。
 そんな状況で出海医師は私に問いかける。

「ここはどうですか、痛くないですか?」

「だっ大丈夫です」

気持ちがいいです、先生。

「このあたりはいかがですか?」

「とくに、なにも」

すごく濡れてきました、先生。

「指で押されてる感じ、わかりますよね?」

「はい、普通に」

そこをそんなふうにされたら、おかしくなっちゃいます、先生。

 今にも本音がこぼれそうで、私の心臓はますます活発に血を循環させるのだった。
 淫らな不発弾を抱えたまま、私は彼の前で股を開きつづけた。

 診察が終わってみれば、良い意味で期待外れというのか、これっぽっちというか、私が恐れていた事態は何も起きなかった。
 それもそうだ。善意と良識を重んじる医学界のトップクラスに君臨する、老若男女の何人(なんぴと)も拒まない医療組織の人間なのだから。

「検査結果が出るまでしばらくお待ちください」

「は、はい」

 女性看護師の佐倉麻衣さんの立ち居振る舞いに、気後れしてしまう私。
 適材適所とはまさに彼女のような人を指す言葉だと思う。
 そばにいるだけで癒されるし、私が男なら必ず彼女を振り向かせたいと思うだろうな。だってほら、妊婦にしてはしなやかな髪艶。それとわずかに見える太ももから足首までの、絞られた肉の無駄のなさ。
 そんな彼女を……、私は彼女のことを……、そうだ、夢の中で私は彼女と会っている。そして出海陽真という医師とも、夢の中では顔見知りの関係にあった。
 なんということだ。こんな場所で、こんなタイミングで淫らな夢の正体を思い出すなんて。
 しかもあと少しですべてを思い出せそうなところまできている。
 検査結果を待つあいだ、私はこれからどうするべきかを考えていた。
 たかが夢、されど夢。あんなにリアルな夢を見せられて、これが偶然だとはとても思えない。
 もっと色んな人物との接点が絡み合って、不妊で悩むひとりの女性にあらゆる手を尽くし、合理か不合理かを患者自身に問う。その不妊患者こそが私だ。
 ふと、待合室の掲示板に視線を向けてみた。几帳面に掲示されたひとつを見た瞬間、私は頭痛のような衝撃を受けた。

『最新のアプリケーションで女性の悩みを解消する不妊治療機器、Hercules(ヘラクレス)』

 その名前がきっかけで、私は淫夢のすべてを思い出すのだった。
 臨月、看護師・佐倉麻衣との出会い、想像妊娠、医師・出海陽真への疑念、望まない絶頂、第二の治療、女子高生・愛紗美の介入、正体不明のホームレスの気配。
 一気に押し寄せる夢と現実の記憶に飲み込まれ、私の脳はエクスタシーを感じはじめる。

いけない……、いけない……、いけない……。きっと私は誰かに騙されている。今日のこの婦人科検診だって、おだやかに終えたと見せかけてじつは裏があるに決まっている。はやく帰らなきゃ──。

「小村奈保子さん」

 不意に名前を呼ばれて、生唾が喉につっかえそうになった。

「検査の結果が出ましたので、どうぞこちらへ」

 佐倉麻衣さんだった。彼女より二、三歩うしろを歩いて、出海陽真医師が待つ診察室へとふたたび向かう。
 どんな診断が下されるのか、だいたい予想はつく。

「え……、こ……ここですか?」

 彼女が立ち止まったそばの扉の上には、確かに『分娩室』と表示されていた。
 美しい看護師は無言の笑顔で二重扉をくぐり、私もそれに続く。
 そして──。

「はじめまして。この病院の院長の、出海森仁です」

 まばゆいほどの白い部屋の、まさしく分娩台のすぐそばで、白衣を着た医師らしき人物が名乗った。
 取り巻きのスタッフをはじめ、出海陽真医師や佐倉麻衣さんの表情にも緊張が浮かんでいる。院長の存在がそうさせていたのだった。
 しかもだ。寝ぐせなのかパーマなのかわからない頭髪に無精髭、それに白衣の下の着衣にしてもけして清潔とは言えないほど薄汚れている。
 白衣を脱げば……、ホームレスそのものだ。
 とりあえず私は椅子に座った。

「それで、検査の結果は?」

「うちの若い医師の検査手順に問題はありませんでした。しかしですね、もう少し詳しい検査をさせて欲しいのですが、これは強制ではありませんので、どうするかは小村さんしだいというわけです。いかがですか?」

「あの、どこがどういけなかったのか教えてください」

「じつは、子宮内膜に小さな炎症のようなものが見えました。将来、妊娠を望んでいるのであれば、不安材料は今のうちに取り除いておくべきです」

 もっともだ。医師の見解は絶対であり、断る理由もとくになかった。

「お願いします」

 私は右手のハンカチを膝の上で握りしめ、再検査を承諾した。
 乗りかかった舟にどんな仕掛けがあったとしても、まわりは見渡すかぎりの海だから、流されるままに身を任せるしかなかった。

 そこへ乗ってください、と院長が分娩台を指す。私は彼に従った。
 それはさっきのものよりも大型で、その隣では見覚えのある医療機器が準備完了の状態で待機している。
 私は大勢の前で下着を脱ぎ、台の上で開脚した。私のそこに視線が集中する。

「高嶺の花も、色恋の微熱に惑わされ、大樹の陰に蜜が滴る」

 そうしゃべったのは院長だ。意味はわからない。

「土はよく肥えているのに、肝心の種子が見あたらないというのは、持ち腐れに等しい」

 その言葉には聞き覚えがあった。名見静香さんがホームレスから聞いたと言っていた言葉、それだった。
 やはりそうだ。いずみ記念病院の院長、森仁こそがホームレスだったのだ。
 彼がなぜホームレスの格好をして私を監視していたのかは、彼にしかわからないことだ。
 みんなが口を揃えて「会わないほうがいい」と言っていた人物と、私は会ってしまった。
 そして、自分の子宮を彼に捧げる行為がこれから始まる。
12/05/08 23:24 (PQWQqbVm)
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