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春眠の花
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:ノンジャンル 官能小説   
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1:春眠の花
投稿者: いちむらさおり
まだまだ最後まで書けていませんが、見切り発車で載せていきます。
 けして万人受けはしませんので、ご了承ください。
2012/04/15 22:34:55(sBOolPf9)
12
投稿者: いちむらさおり




「飲まないの?」

 駅の近くにあるファストフード店で、私は彼女にドリンクを勧めた。

「どうして……」

 幼くみずみずしい唇がうごいた。

「どうしてあんな余計なことしたの?他人なのに……」

 彼女の強気な口調に、私の眉間はしわしわになる。

「余計な……、他人……?」

「たすけて欲しいなんて、頼んでないから……、あたし……」

 まるい瞳を鉱石みたいにキラキラさせているくせに、憎まれ口は減りそうにない。私は敢えて善人を担当してみた。

「他人には思えなかったから、私はどうしてもあなたを助けたかった。本当はね、私も怖かったんだ、次は私が狙われるんじゃないかって。けど良かった、あなたに怪我がなくて」

 満点は貰えないにしても、この言葉は彼女のどのあたりにまで響いてくれるのか。
 しかしそれはやや響きすぎたようだ。いや、私の言葉に反応したのではなく、彼女の中で緊張の糸が切れたのだろう。少女は声を漏らして泣いていた。涙は頬にしみることなく輪郭をつたって、私はそれを愛おしい目で見つめる。
 ぎゅっと抱き寄せて、すべての犯罪から彼女をまもってあげたいと思った。

 私は彼女の身代わりになったのだった。女子高生のスカートの中を盗撮していた男性を駅員に引き渡した時、被害に遭ったのは私だと名乗った。
 携帯電話に保存されていた画像にはスカートの柄までは写っていなかったし、撮られていた女性器が自分のものであることを強調しておいた。
 ほかにも痴漢行為をしていた人物がいたけど顔までは覚えていないと言うと、「お気の毒に」と駅員は言葉を濁し、なんとか彼女の体裁だけはまもることができたのだった。

「うちに来る?」

「……」

「そのままだと下着が気持ちわるいでしょ、私のところで着替えたほうがいいわ」

「でも……、それじゃあ……、お姉さんが……」

「奈保子でいいわよ。仕事に行く途中だったけど、あなたを見てたら帰したくなくなってきちゃった」

「え……、レズ?」

「冗談よ。とりあえずほら、ジュースだけでも飲んだら?」

 ようやく打ち解けてきた彼女の顔がゆるんでいるように見えた。
 外でタクシーを拾い、自宅マンションのある地名を運転手に告げた。
 電車で移動しようとすれば、彼女がまたさっきの忌まわしい体験を思い出すかも知れないからだ。
 車内の沈黙を紛れさせるために、私は窓越しの街並みを眺めていた。

「あの……、お姉……、奈保子さん……でしたっけ?」

 私は外を見たまま、ええと返事をした。

「ありがとう……、さっきのこと……」

 たどたどしいタメぐちに私がそちらを振り向くと、今度は彼女が窓側を向いてしまった。素直なようで素直じゃない、なかなか取り扱いのむずかしい子だ。

「あなた、名前は?」

「それ、言わなきゃいけないやつ?」

「大きい貸しがあると思うんだけど」

「借りたおぼえないし」

「じゃあここで降りてそのまま帰る?」

「……」

「次は助けてあげられないから」

「……、愛紗美(あさみ)」

 語尾をつんつんさせながら、それでもなんとか心を開いてくれたようだ。

「愛紗美ちゃんは高校生だよね?」

「高3……」

「学校とか家の人に電話しなくていいの?」

「そんなの無理、痴漢されたなんて言えなくない?」

「だって、私が痴漢に遭ったことにしてあるんだから、あなたが私を助けたって言えばいいし」

「あ、そっか」

 そんな私たちの会話が気に障ったのか、初老のタクシードライバーは第三者の存在を知らせる咳払いをした。
 少々荒っぽい乗り心地にも慣れてきたころ、タクシーはハザードランプを点滅させながらマンションの敷地内で停車した。
 カウンターは遠慮のない料金を示していた。

今月は美容室あきらめよう。

 まさか今日、会ったばかりの女子高生を自宅に入れることになるとは思ってもみなかった。彼女にしてもそれは同じだろう。
 私は彼女の警戒心を背中に感じつつ、年上の振る舞いで部屋に招き入れた。

「おじゃまします」

 忍び足をする彼女を姿見してみて、やっぱり歳はとりたくないなと今さら思った。私なんかじゃ到底かなわない初々しさがそこにあったのだ。
 可愛い妹ができたような気分で、私もつい甘やかしてあげたくなる。

「そっちがトイレで、あと、お風呂場はそのドアの向こうだから好きに使って。下着は……」

 確かこのあいだ買ったばかりのショーツがあったはずだし、未成年にはまだ似合わないけど、まあいっか。
 私は小さな紙バッグから白いシルク生地を取り出し、「これだって安くないんだからね」と彼女に手渡した。

「これってアレだよね、風俗のお姉さんが履いてそうなかんじ」

「愛紗美ちゃん、ノーパンで帰る?」

 私が女子高生を相手に大人げないことを言うもんだから、彼女はあどけない笑顔ではつらつと笑い、ショーツ片手に脱衣場の方向へ姿を消した。
 そのあいだに私は仕事場に電話をかけて遅刻の理由を繕ったり、お茶菓子を出して彼女の世話をやいたり、なかなかのお姉さんぶりを客観的に評価していた。
 ドアが開いて彼女が出てきた。

「ねえ、奈保子さんもこんな下着ばっかり着けてるの?」

「そうだけど、どうして?」

「なんか履き心地がエッチっぽくない?ていうか大人はみんなエッチだよね、男の人も女の人も」

「そうかもね、だって私、エッチ嫌いじゃないし」

どうしてこんな話になるわけ?

「ねえ、訊いていい?」

 思春期の興味といえばやはりそこに辿り着くわけで、それは私も通ってきた道だ。

「エッチって、どのくらい気持ちいいの?」

「気持ちか……、そうね……、それは相手のテクニックにもよるわね」

「へえ、そうなんだ。じゃあ、オナニーしすぎると不感症になっちゃう?」

 まれに見る奇抜な質問に、できるだけ適切な返答をさぐる私。

「逆に訊くけど、愛紗美ちゃんはそういうことしたりするの?」

「あたしはしないけど、うち女子校だから、そういう話はみんな普通にしてるんだ。援交の相手とラブホに行ったら、そこでバイブ買ってもらったとかね。あ、バイブってケータイのやつとは違うバイブだよね?」

「あたりまえでしょ。だいたいそんなことに青春を浪費してたら、ろくな大人にならないわよ」

「そんなことって、援交?オナニー?セックス?」

 見た目は子どもなのに、中身は不純物でいっぱいだ。私は完全に彼女のペースに流されていた。

「これから仕事に行かないといけないから、あなたはどうするの?」

「どうするって言われても、奈保子さんが家に来いって言うから──」

「そうだったね、ごめんなさい。家の人に迎えに来てもらえないの?」

「夕方にならないと無理だし」

 どうやら自分の親切のおかげで、とんでもない荷物を持ち帰ってきてしまったようだ。

「ここに居ていい?」と彼女は言った。
 悪い子ではなさそうだし、そうするほかにない気がした。

「散らかさないでよ」

「大丈夫、変なもの見つけても秘密はまもるから」

「なによそれ」

「掃除と料理は得意なほうなんだ」

「余計なことはしなくていいから、わかった?」

 私は彼女を指差して念を押す。

「うん。じゃあさ、連絡とれないと困るだろうから、携帯の番号交換しようよ」

 そんなことにも気づかなかった私は、またしても彼女にやられたと思った。
 お互いの携帯電話を寄せ合い、赤外線をつかって電話番号を交換した。
 目に見えない赤外線が、不思議な赤い糸のように二人を繋ごうとしていた。
12/04/25 14:03 (p3jfqZqi)
13
投稿者: いちむらさおり




「おはようございます、今日はすみませんでした」

 私は店に着くなり店長のもとに行き、遅刻の言い訳をてきとうに口にした。

「小村さんが遅刻するなんて、今日は雪が降るかも知れないわね」

 花屋の店長の名見静香(なみしずか)さんが、ほら、と空を見上げると、雪どころか雨の気配もない晴天がパノラマでひろがっていた。
 あんなに高いところを小鳥が飛んで、呼吸するだけで春の草花の匂いが清々しく鼻腔を通り抜けていく。
 テラスに並べられたプランターにはパステルカラーの生花が陽気を受けて、葉っぱの緑色にもいきおいがあった。これだから花屋の仕事はやめられない。

「そういえば小村さん、さっきあなたに面会したいって人が来ていたんだけど、私がいないって言ったら、なにかしら、名前も言わずに行ってしまって」

「私に面会って……、どんな人でした?」

「たしか、年齢は私に近い感じがしたから40歳くらいの男の人だったけど。それが……、なんだかホームレスみたいな格好をしていて、小村さんに用があるとはとても思えなかったわ」

 私は頭の中で40歳の男性ホームレスの姿を想像してみた。
 白髪混じりの癖っ毛に、ヤニで黄色くなった歯並び、穴のあいた軍手と腹巻き、それと季節に左右されない万年コートを猫背に羽織ってあてもなく徘徊する。
 それは極端だけど、そんな人がいったいどんな用件で私に会いに来たのだろうか。
 思いあたる節といえば……、今朝の痴漢騒動?いやいや、あの現場にホームレスらしき人物なんていなかったはずだ。

「さっそくだけど、配達お願いね」

「じゃあすぐ着替えてきます」

 よっぽど重要な理由があるのなら、またそのうち向こうから現れるだろう。
 私はボーダーシャツとワークエプロンに着替えると、軽トラックの荷台いっぱいにパンジーとビオラを積みこみ、晴れ晴れした気持ちで車を発進させた。
 ラジオから流れてくるヒット曲のランキングは、いつしか私の予想を微妙に裏切りつつあった。もうそういう年齢になったのだと、バックミラーを覗くふりをして化粧崩れをチェックする。

「……?」

 助手席に置いたバッグの中から携帯電話のバイブ音が聞こえた。
 私は路上の適当なスペースに車を停め、着信履歴の番号に電話をかけた。

「もしもし、奈保子さん?」

 女子高生の愛紗美ちゃんだった。

「どうしたの、うちに誰か来た?」

「ううん、べつに大した用じゃないんだけど、掃除機どこにあるのかなと思って」

「それだったら、玄関の近くの扉を開けてごらんなさい、そこにあるはずだから」

「わかった、探してみる。……、……、あれ?」

「なに、どうかした?」

「誰か来たみたい、インターホン鳴ってるし」

「ちょっと待って、出なくていいから、いい?」

「ひょっとして男の人だったりして」

「変なところに興味持たなくていいから、あなたは大人しくしてて」

「じゃあどんな人か、顔だけ見ておいてあげる……。あっ……、さいあく……」

「なにが最悪なの、ねえ愛紗美ちゃん、もしもし……?」

「……」

「もし……」

 とつぜん通話が切れてしまった。

「ええっ……、やだやだ……」

 焦りながらもう一度かけ直してみても、ガイダンスが否定的な決まり文句をくり返すだけだった。
 私は急いで車を自宅マンションへと走らせた。嫌な胸騒ぎがする。
 今朝の痴漢とホームレス、もうそのことしか頭に浮かんでこない。「最悪」と言って切れた電話を横目で見ながら、車も私の心臓も制限速度をオーバーしていくのだった。

 マンションに着いた。
 駐車場、エントランス、郵便受け、エレベーター、どこにも不審なところはない。
 そして部屋の前まで来て、とりあえずインターホンを鳴らしてみた。

……。

 返答はない。それもそうだ。さっき彼女と電話していた時にもインターホンが鳴って、私は彼女に出なくていいからと強く言ったから、ただそれを守っているだけなのだ。
 私は玄関の鍵をあけ、ドアの向こうに彼女の靴がそろえてあるのを確認し、ほっと気の抜けた息をついた。

「ただいま、愛紗美ちゃん居るの?」

 すると何事もなかった様子の彼女が、スカートを揺らしながら小走りで現れた。

「あれ、奈保子さん、もう仕事終わったの?」

そうじゃないでしょ。
あんな電話の切られ方したら誰だって慌てて帰ってくるでしょうに。
だいいち、女子高生ひとりきりの部屋に見ず知らずの人物が勝手に上がりこんで来た日には、痴漢なんて生易しい問題では済まないんだからね。

 私は無言でそんな思いを発信した。彼女も彼女なりになにかを受信したようだ。

「そうだよね、あたしのせいで……」

「で、なにがあったの、うちに来たのは誰、なにが最悪なの?」

「ああ、あれね、そうそう。じつはさ、ケータイの電池がなくなっちゃってね、それで今充電させてもらってるとこ」

「なによもう、心配して損したじゃない」

「ごめんなさい……。それで、誰が来たのか見に行ったらね……」

「そしたら?」

「……誰もいなかった」

「誰も?」

「うん、誰も」

 彼女の目は嘘を言っているようには見えなかった。
 私が言うのも何だけど、今も昔も女子高生という存在は需要があって、流行の最先端であって、つかみどころがない。さじ加減ひとつ間違えればもう手に負えなくなってしまうのだ。
 そうは言っても内面はやはりまだ少女のままで、体だけが大人になってしまった危うい年頃。それはもう性の標的にするには好都合な条件がそろっていて、そうやってこれまでにいくつの花びらが犯され、望まない交配を強要されてきたことだろうか。

「愛紗美ちゃん、あなたにはあなたの花を咲かせる権利がある。だからまた困ったことがあったら、なんでも私に相談してね」

「……花?」

この意味がわかる時がきっと来るから。

「奈保子さんの言いたいことはいまいちわかんないけど、ひとつだけ困ったことがあるんだ」

「どうしたの、まさかストーカー?」

 首を横に振り、申し訳なさそうに自分のお腹をさする彼女。

まさか……、妊娠……?

「言いにくいんだけど、じつは──」

 いまどきの現役女子高生の代表として彼女の口から出た告白。それを聞き終えた私はさっさと配達を済ませると、彼女を連れてとある建物に入り、いまに至る。

「まだ仕事の途中なんだからね、今回だけよ」

 うんうん、と首だけ返事でにっこり笑い、彼女は期間限定ハンバーガーを両手ではさんで、レタスとトマトをはみ出させながら美味しそうにかぶりつく。
 そういえばもう時刻はお昼だ。ついでに私も予算に収まる程度に空腹を満たしておこう。

「妊娠の相談かと思ったら、お腹が空いてただけなんて」

「妊娠なわけないじゃん」と言う彼女は携帯電話をいじるのと食べるのに夢中だ。

「このまま家の近くまで送ってあげるから、明日からはちゃんと学校に行くのよ」

「ママみたいなこと言ってる」

「私はあなたの保護者じゃないの」

 すると急に押し黙ったかと思うと、「あたしのママ……、いないんだ……」と鼻でため息をつく彼女。
 これは相当まずいことを聞いてしまったような気がする。

「いいのいいの、ただの離婚だからもう慣れてるし」

 その言葉どおりに彼女は平然とした態度をくずさず、アヒルみたいな口をして笑ってみせる。
 答えのある割り算みたいに簡単に割り切れる問題ではないことは、離婚歴のある私にもよくわかる。
 忘れていたはずの過去を思い出してしまった私は、冷めたコーヒーに口をつけて苦い顔をした。

「ここでいい、ありがとう」

 住宅街から少し外れたバス停付近に車を寄せると、彼女は早口でそう言った。

「通学の電車は時間をずらした方がいいからね」

「そんなのわかってるよ。だけどほんと、今日は奈保子さんにいろいろ迷惑かけちゃったし、エッチな下着までもらっちゃって」

「エッチは余計でしょ」

 彼女の照れ笑いが私にもうつる。

「なんていうか、奈保子さんはハンサムな大人の女ってかんじで頼れるし、今日は楽しかった」

「それを言うなら、美人とか可愛いって言って欲しいんだけど」

 ひとの話を聞いているのかいないのか、彼女はさっさと車から降りて、見栄えのいいルックスを私に向けた。
 私はいちどだけクラクションを鳴らし、手を振る彼女をバックミラー越しに見送った。
12/04/25 23:15 (p3jfqZqi)
14
投稿者: いちむらさおり




 今朝の遅れを取り戻すつもりでサクサクと仕事をこなし、気がつけばペース配分もそっちのけで、夕方には一日分の全労働力を使い果たしてしまっていた。
 脚のむくみに悩まされながら帰途につく三十路女、ついでにバツイチ。
 帰る場所は『家庭』ではなく、ただの『家』なのだ。

「ただいま……」

 誰に言うでもなく、玄関先でぽつりとそう呟いた。

「おかえり……」

「……?」

 なかなかドアの閉まる音が聞こえない背後から、誰かの声が聞こえたような気がした。耳に焦げ付くような男の声。
 まさか、何者かにずっと後をつけられていたのだろうか。
 私がそちらに顔を向けて確かめようとした瞬間、疲労のピークに達していた私の体はいとも簡単に重力に押しつぶされ、強烈な眠気の中に意識を連れて行かれるのだった。
 景色がだんだんと微睡(まどろ)んでいく。睡魔に吸い込まれてどこまでも落ちて、沈んで、安らかな気持ち良さに抱きしめられたまま、深い穴の底にようやく手がとどいた。
 ここが意識の底。
 すると今度は閉じた瞼の裏で明かりが灯るのがわかった。それは私のすぐそばで眩しく光って、こちらにおいでと手招きしているように見えた。
 いくつもの光のすじが降り注ぎ、私の体を突き抜けて屈折したり、あちこちで乱反射をくり返す。
 光の粒子をつかまえようと手を伸ばすと、そこはもう見たこともない世界がひろがる空間につながっていた。
 いや、微かに見覚えがある。そうだ、なんとなく思い出してきた。ここは確か──。

「おはようございます、小村奈保子さん」

 私はベッドの上で仰向けに寝かされたままで、天井しか見えない視界の外に女性の声を聞いた。
 朦朧とする頭を持ち上げて体を起こすと、そこに彼女の姿があった。

「佐倉……麻衣さん?」

 紅茶色の長い髪をルーズに結んで純白のナーススーツに身を包み、身ごもったお腹をほっこりと膨らませているのは、看護師の佐倉麻衣さんに間違いなかった。

「よく眠れたみたいですね。麻酔の量が少し多かったみたいだから、先生に相談して調整をさせていただきますね」

「あの……、私……、家に帰ってドアを開けたら、後ろから誰かに襲われたような……」

「あら、わるい夢でも見ていたのかしら。小村さんは昨日からずっとこの病院で治療を受けていたじゃないですか」

「治療……?」

「出海先生に不妊治療をしてもらえるなんて、小村さんの妊娠はもう保障されたようなものですよ」

 その医師の名を聞いて、私はようやくすべてを思い出した。
 あの時、恋人の風間篤史(かざまあつし)さんと電話で話していたら急に陣痛がきて、その場で破水してしまった私が救急車で運び込まれてきたのがこの病院。
 そしていよいよ出産の時を迎えようという時に、じつは私の妊娠が想像妊娠であると告知され、それは私が望んだ不妊治療の過程のうちであると言うのだ。
 その後もなにかと理由をつけては淫らな治療を続け、産婦人科医療の前進には私の協力が必要なのだと、不可解なレディス・アプリケーションの実験台にされてしまった。
 それによって得られたものは、女性にとって最も屈辱的な快感、いわゆるオーガズムの暴力でしかなかった。

「あの……、ほかの人たちは……?」

 何から何まで白一色の病室を見回して、私は彼女に尋ねた。

「夕べは大勢の前であんなことをされて、びっくりしたでしょう?」

「それは……、まあ……」

「不妊治療にも色々と種類があるんですけど、その人の体質に合った治療法を見つけるためのマッチングテストが必要になってきます。子宮や卵巣や膣の状態を分析してデータ化させるわけです」

 なにやら難しい話になってきたなと、私は苦手な顔をしてみせた。

「小村さんが妊婦として過ごしてきた10ヶ月間のデータはすべて、この病院の資格者によって保護され、徹底的に診断されています。そうですね、誤診の確率は1パーセント以下でしょうか」

 彼女の言葉すべてを信用したわけではないが、徐々に洗脳されつつある自分がいるのも事実だ。

「私の個人情報も──」

「もちろん保護されています。それじゃあ小村さん、検温と血圧を計りますね」

 彼女は時々うれしそうに自分のお腹に触れながら、業務的な手つきで看護師の仕事をこなしていく。

「平熱ですね。血圧も問題なさそうなので、ええと、朝食が終わり次第すぐに治療をはじめますけど、大丈夫ですか?」

 いまさら私が嫌と言ったところで、常識が通用しないこの施設内から逃げ出せるとも思えない。
 私は病院食に物足りなさを感じながらも、牛乳パックにささったストローに吸い付き、お腹に入れば何でもいいやと胃袋に流しこんだ。
 一人きりの朝食を済ませ、ふと整理棚に目をやるとパンフレットらしき小冊子があった。表紙には病院のシンボルマークが描かれていて、それは緑色の四つ葉のクローバーを思わせるデザインだった。
 きのう私が見た赤十字だと思っていたものは、間違いなくこれだ。

「いずみ記念病院院長、出海森仁(いずみもりひと)……、出海……」

 そこに書かれている名前から自分なりに推理してみる。
 夕べ私の女性器にさんざん無責任な行為をしてくれたあの医師は、院長というにはあまりにも若すぎる。だとすれば彼の父親か誰かが院長だと考えるのが妥当だろう。まったく親子そろって変態だ。親の顔を見てやりたい。
 私は洗面台の前ですっぴんの顔にファンデーションを塗り、アイラインと眉毛に色気をほどこし、唇のふくらみを口紅でなぞって、頬には桜色のチークをのせていった。
 メイクには自信があった。
 これから治療がはじまるというのに、なぜ私がこんな真似をしているのかというと、おそらくそれが彼らの趣味であるということだろう。

「治療室の準備ができたら呼びに来ますので、それまでにメイクを済ませておいてください」

 看護師の佐倉麻衣さんは確かにそう言っていた。
 美的官能を味わいたいという彼らの願望を満たすために、私はいま化粧をしているのだ。ティシューも白ならコットンも白、のっぺらぼうな検診衣も真っ白ときてる。

「あなた色に染めてください」と言わんばかりの、なんちゃってウエディングドレスじゃない、これじゃあ。

「小村奈保子さん、準備ができたのでこちらへ──」

 どうぞと軽く会釈をする佐倉さんに案内され、ナースステーションで申請を済ませると、ひたすら長い廊下をひそひそと歩いた。
 途中、回診の医師やらスタッフやら若い女の子からお腹の大きな女性まで、すれ違う人はみんな信頼の眼差しで佐倉さんと笑顔を交わす。

「ここが小村さん専用の治療室です」

「私……専用って……?」

 着いた場所には冷たい扉が立ちはだかり、もう後には引けない私の心情を笑っているようだった。
 彼女はけして私を強引に治療室へ押し込もうとはせず、私の意思で扉を開けるのをじっと待っていた。
 私は扉を開けた。止まっていた空気の流れが顔に押し寄せ、私は何度か瞬きをした。
 奥に扉がもうひとつ。最初の扉はすでにオートロックがかかり、つくられた密室へと私は足を踏み入れた。
 まず目に入ったのがたくさんの照明、そしてその下で待機していたのはまさしく分娩台そのもの。
 特徴的なデザインは女性の自由を奪う造りとなっていて、それを見た瞬間に私の体のどこかで生理の変化がはじまった。
 風邪の初期症状にも似た熱っぽさが、淫らな病巣を疼かせていたのだった。
 男女数名のスタッフと医師や看護師、インターンの医学生の面々を見るかぎり、どうやら夕べの顔ぶれと変わりなさそうだった。

「治療の前にこちらに着替えてください」

 スタッフのひとりが示した衣服に着替えると、私は全身を緊張させたままで分娩台と向き合い、早熟な少女のように恥ずかしがった。

 腰を浮かせる、手をつく、腰掛ける、動揺する、寝そべってみる、力を抜く、右足を掛ける、下唇を噛む、左足を掛ける、また動揺する、唾を飲み込む、覚悟を決める、諦める、許す、すべてを彼らに委ねてみる。

「そんなに怖がらないで、あなたがお母さんになるための準備なのですから」

 佐倉さんは言った。その気持ちに微笑み返したいのに、私の顔は引きつりそうになる。
12/04/27 11:29 (zntEBW6t)
15
投稿者: いちむらさおり
10



 分娩台の上に私がいる。フォーマルな濃紺のスーツに同色のスカート、無駄に長い脚をストッキングの黒で覆って、エナメルのハイヒールも新品の光沢を黒光りさせている。
 髪を束ねるシュシュにしてもちょうどいい明るさのビリジアンだし、すでに先ほどのメイクで顔も出来上がっている。
 なんと奇妙な組み合わせか。出勤途中のOLが拉致され、あぶない治療室で監禁状態となり、仕事でミスを冒したペナルティとして凌辱を受けるという『ベタ』な設定を妄想させる。

「なるほど」と出海医師はマスクをもごもごさせた。

「なにがですか?」と私は返した。

「小村さんのビジュアルはほんとうに申し分ない。僕はあなたの肉体に興味があるし、ここにいるスタッフはみんな僕の指示で動く手足なのです」

 彼がまわりに目配せすると、スタッフ全員が一様に頷いた。

「これからの治療は女性器の活性化はもちろん、あなたのメンタルを誘導して女性らしさを上げることを目的として取り組みますので、どうかそのつもりで」

 説得力のある言葉を並べられて、私は少しだけその気になっていた。

「まずはリンパの流れを改善するところから始めましょうか」

 彼の合図で動いた女性スタッフが器具を手に取ると、スプーンとフォークがぶつかるような金属音が鳴った。
 それはプラスチック製で、芯のないボールペンに見えなくもない形をしていた。
 太さは指2本分くらいだろうか、彼女がそれをひねるとスイッチが入り、小さな振動音が聞こえてきた。

「触ってみてください」と彼女が差し出す器具の先端に触れてみると、筋肉疲労がほぐれていくような微振動が指先から肩へ通り抜けていった。
 ぞくぞくして、どきどきして、私は赤面した。体調が何だかおかしい。

「朝食はぜんぶ食べられました?」

佐倉さんの質問に、「はい」と私は答えた。

「食事の中に少しだけ薬を混ぜておいたんです。体調がいつもと違うでしょう?」

「何の薬ですか?」

 私の頬があまりにも紅いからなのか、彼女は目を細めて笑い皺を見せた。神経が敏感になる薬、とでも言いたいのか、彼女は意味深な沈黙をつづけていた。
 振動する器具でのマッサージが始まった。それは手指のあいだから手のひらへ移動して手首まで指圧していく。
 ただそれだけのことなのに、嫌な我慢汗がスーツの裏側で滲み出した。この反応は普通ではない。
 今度は二人がかりでストッキング越しに足首やふくらはぎを、それに胸元から首筋に上がって耳の裏側にまで器具が這いずり回る。

気持ちいいですか、と誰かに訊かれた。

思っていたより、と答えておいた。

 本音はそんなものでは済まないほど気持ち良かった。
 休む間もなくマッサージはつづき、耳たぶを震わせていた器具の先端が耳の内側に入ってきた。
 そこには女性器の陰核に似た突起があって、女性の手つきがそこを集中的に愛撫してくる。

「んっ……」

 いじられ慣れていないその部分の感触を意識すると、たまらず私は首をすぼめた。
 上着の前をあけるように指示され、私はボタンの位置を確認しながらゆっくりと外していった。こうなるともう白いシャツの下はブラジャーしかない。

「それも外しましょうか」

 当然の指示だ。仕方なくシャツのボタンを上から順番に外していくと、大きなカップに収まった白い谷間が外気に触れて、すっと汗が冷えていく。
 腰から上は半裸状態のまま、マッサージの手はお腹や乳房のまわりをぐるぐる回る。
 どうやら私は媚薬を飲まされたらしい。その証拠に、ひとには言えない部分が熱く痺れてきて、ありえないシチュエーションも手伝ってどんどん興奮がふくらんでいくのだ。

「んっ……、ふぅ……ふぅ……、んんっ……」

 呼吸するのも恥ずかしい。

「小村さん、つらいですか?」

「いえ、あっ……あの……」

「女性だから言いにくいこともあるでしょうけど、自然に出る声を我慢するとストレスになりますから、子宮にも良くないですよ」

「はい、あっ……くっ……んっ……」

 そうして体をよじっていたら、私の足からハイヒールが脱げ落ちた。足裏には不快な汗が滲み、じめじめとストッキングを湿らせている。リンパの流れどころか、快感の流れが体中の脂肪を溶かしているみたいだ。

「そろそろ君も頼む」

 若い医師の言葉に男性スタッフが動いた。こちらも出海医師に負けないくらい若く、アスリートのような体つきをしている。
 彼は自分の両手に透明なゼリーをたっぷり着けて、「下着をとってください」と私に告げた。
 口調は穏やかにして、じつは絶対命令ほどの圧力を秘めていることに私は気づいた。
 彼におなじセリフを二度言わせるのは危険すぎる。
 私は素直にホックを解き、ストラップを肩から下ろして、生まれ持った性別の証を彼らの前にさらした。支えをなくした乳房に重力を感じる。
 彼らはもう何人もの女性の体を見てきているはずだから、きっと私の体を彼女たちとくらべるだろう。
 大きすぎないか小さすぎないか、形は崩れていないか、色に異常はないか。
 私はだんだん自分の胸に自信をなくして、とうとう目を閉じてしまった。
 こうすれば彼らの表情を見なくて済む。もっとはやくからこうしておけば良かったのだ。
 視覚以外の感覚だけを頼りに彼らの行動を先読みしようとするが、これには無理があった。
 アルコールみたいな薬品の匂い、誰かの息づかい、衣服が擦れ合う音、そして自分の心臓の音。見えていたものが見えなくなると、眠っていた才能が目覚めるように、もう一人の私が意識の奥で生まれるのがわかった。

「はぁっ……」

 何かがお腹に触れて、私は思わず声を漏らしていた。にゅるにゅると肌に吸いつく手の動きはとても刺激的で、私の体をあっという間に火照らせてしまった。

「あ、い、いやっ……」

 乳房を揉まれた。その手はだんだん敏感な部分へとマッサージの範囲をひろげていく。

「あんっ……、ちょ、ちょっと……そっこはっ……、ああっ」

 両方の乳首を撫でられ、情けないほど感じてしまう私。ちっぽけな理性が萎んでいく。
 同時進行で下半身でも新たな動きがあった。タイトなスカートを捲り上げるなりストッキングを足首まで下げられ、私は目をあけてショーツだけはと両手で隠した。

「どうしましたか。昨日はあんなに嬉しそうに脚をひろげて、綺麗な女性器を見せてくれていたのに」

「僕もとても興味深いものを拝見しましたよ。膣をクスコで開いた奥に、ピンク色の子宮口が体液にまみれて収縮する様子が観察できましたから」

「あんなに太い医療器具、小村さんは楽に飲み込んでしまうから、僕らも治療のやりがいがあるってもんですよ」

 この人たちが言っていることもおかしいけど、私の体も絶対おかしい。

「やめて……んっ……、お願いします……ふっ……」

 女の力なんて所詮こんなものだ。ショーツなんて穿いていても意味がない。
 私のお尻を撫でるようにしてショーツを脱がせた彼は、そこにできた染みの匂いを嗅いで、舐めて、私に見せびらかしてきた。いったいどこまで許せばいいのだろうか。
 はしたない分泌液を垂らした女性器を、私は彼らに見られてしまったのだ。ある者は小型カメラで撮影し、ある者はデジタルカメラに画像をおさめる。

「嘘……、嘘よ……」

 のぼせた顔でそう呟くと、いよいよレイプの匂いがしてきた。温感ゼリーでの愛撫が太ももに迫ってきていたのだ。
 何を挿入されても大丈夫なように、膣はすでにできあがっている。
 ぞくぞくして、はらはらして、まるで推理小説の最終章が近づいているみたいだ。分娩の体勢にされたOLがスーツをはだけさせ、乳房への愛撫を受け入れ、ついには局部を汚されてしまう結末。

「あああっ」

 指がクリトリスにヒットした。いちど開いた口はなかなか塞がらず、愛撫のたびに胃から込み上げるような嬌声が鼻の穴をふくらませる。

「ひっ」

 下から上、上から下にいじくられるクリトリス。

「あっ」

 陰唇の皮膚を外側に剥いて、膣口を何度もすくい上げる。

「はっあぁ、いやぁ」

 どこまでもねちっこく、女性器を知り尽くした10本の指が私を快楽に連れて行こうとしていた。上半身を担当する愛撫も乳房と乳首への手を休めることはない。

「小村さんの体、とても綺麗ですよ」

 佐倉麻衣さんの声だ。その方向に顔を向けると、マスクを外した佐倉さんは切ない表情で微笑した。
 肌は白く透き通り、顔も小柄で、目、鼻、口のバランスも文句のつけようがないほど整って見える。
 彼女が私の顔を覗き込む。そして次の瞬間には何が起きたのかも理解できず、彼女の顔が衝突しそうな距離にまで接近していた。
 いや、すでに衝突していた。ふたつの唇が重なり合う感触。彼女は私にキスをしたのだった。
12/04/27 11:50 (zntEBW6t)
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投稿者: いちむらさおり
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 感情がこもった、それこそ恋人同士がするキスの肌触り。
 拒否しなければと頭ではわかっていても、彼女の持った雰囲気がそれをさせてくれない。
 密着する唇と唇、互いの息を交換する女と女、愛し合う二人。
 彼女が私を求め、私が彼女を求める。発情した動物から出る体臭をむさぼるように、本能に逆らわずに行為をつづけた。

「……!?」

 それはあまりにも突然すぎた。男性スタッフが私の乳房に食いつき、じっとこちらを見ながら乳頭を舌でころがしはじめたのだ。
 とっさに背筋にちからが入って、私は大きく仰け反った。佐倉さんとのキスの接点が押し潰され、歯と歯がぶつかる。
 それでも口づけが止む気配はない。左右の乳房はさんざん舐められているおかげで唾液にまみれ、乳首に関しては説明がいらないほど気持ち良くて、ぷっくりとした存在感をアピールしている。

「……!」

 次は股間が大変なことになった。クンニリングスのヴァージンを奪われてしまった。
 こんなに気持ちいいのは反則だ。私だって一応30年も女をやっているというのに、そんなふうに女性器を舐められたらもうその相手が誰であろうが理想の男性に見えてしまう。
 舌先が中に入ってくる、だめ、そんな内側まで、いや、もっと下手だと思っていたのに、ほら、その舌づかい、やだもうイっちゃうってば。
 キスの合間に漏れる音、乳房をしゃぶられる音、クンニリングスで愛液を吸い取られる音、私の体中からくちゅくちゅくちゅといやらしい音が出ている。
 感情が高ぶって、目に涙が浮かんできた。絶頂の前はいつもこうだ。
 そうして私は佐倉さんの唇に喘ぎ声を吹きかけたまま、愛おしい快感を膣いっぱいに受けて、分娩台の上でくたびれた。
 痙攣する腹筋が子宮をたたく。膣と直腸が波打っているみたいに切ない。

「貴重なサンプルだ、慎重に採取するように」

 出海医師の偉そうな指示が飛んだ。私はまだ快感の余韻が冷めないでいる。
 すするような呼吸でまわりを窺うと、彼らの手にはスポイトと試験管が備わっていた。
 ひとつは私の涙を、ひとつは私の唾液を、ひとつは私の汗を、そして膣から分泌された大量の体液を、そして──。

「小村さん、母乳が出てますよ、ほら」

 佐倉さんの言うとおりの部分を確かめてみると、そこには乳白色の液体が滲み出していたのだった。これもまた例のアプリケーションの産物なのだろうか。

「僕がチェックしてみましょう」

 そう言って出海医師は私に寄り添ってマスクをずらし、私の母乳を吸った。

この人、こんな顔をしていたんだ。こんなところで出会っていなければ、もっと別なタイミングでこの人と出会っていたら私は──。

 曲がった性癖の持ち主だと思っていた彼の素顔に対して、私は好感を抱いていた。しかもこんな距離で体を抱かれ、母乳を舐められ、紳士的な手つきは私の股間をまさぐっている。

「少し中を調べますよ」

 彼の太い指が私の体内に進んでくる。

「あっ、あうぅふぅん、ううっ……」

 関節が曲がって、指先がとどいて、粘膜をやさしく触診していく。

「中の状態は正常ですね。感度もいいし、愛液の分泌量もじゅうぶんありますよ」

 丁寧な口調と、丁寧な愛撫。それだけで気が遠くなりそうになった。

「出産の時はほんとうに大変ですから、今のうちから性器をほぐしておきましょうか」

 そして彼の指が2本になり、3本になり、私の膣の中と外を行ったり来たりする。

「あいぃ……、きもち……いいです……せんせい……」

「もっと欲しいですか?」

「ああ……、もっと……して……ください……」

「入れますよ」

「あっ、あそこ……に……入れてください……いっ……」

 私の変化に気づいた彼は穴の大きさを目視で確認し、そこへ向かって4本目の指を挿入させてきた。

「あっ!」

 はちきれんばかりに広がる膣。彼の親指以外のひとつひとつが別の動きで私を翻弄し、手首をぐるりと返せば手刀は水平に、逆に戻せば垂直に、女性器のかたちを簡単に変えてしまう。
 これももちろん治療としての行為なのだから、私は喜んで受け入れた。
 彼はいちど私の膣から手刀を引き抜いて、「自分でご覧になってみて、いかがですか?」とそれを私の顔に近づけた。
 彼の手はどろどろだった。たっぷりのローションに手を浸したのかと思うほど、糸を引いた指のあいだも手のひらも、私のせいで紅くふやけていた。

「恥ずかしい……です」

 私は口を半開きにさせてそう言った。

「じゃあ、もう少し拡張を進めましょう」

 またしても彼の指は私の貞操をもごもごと破って、「いきますよ」と5本目の指を割り込ませてきた。

「いんん……、んっ……ふぃん……」

 それはもう指ではなく手が突っ込まれた状況と言える、なんとも汚らしくて感動的な光景だった。
 尿道から勢いよくおしっこが漏れ、膀胱が空っぽになると膣の奥からも粘液と酸っぱい汁が飛び散って匂いを出す。
 さすがに全部の指は無理だろう、子どもを産める体だからといっても限界はあるはずだと、私は彼を受け入れながらそう思った。
 それなのに……、それなのに……。

「小村奈保子さん、すごいことになってますよ、ほら、あなたのここ、僕の手が半分くらい入ってしまいました。わかりますか?」

 はい、わかります、と私は下唇を噛んで眉間を寄せた。妊婦でもないというのに下半身がどんどん窮屈になっていく感じが、私の子宮に近づいてくるのがわかった。
 頭の中が真っ白というよりも、真っ赤になっているという感覚。体が熱くてたまらない。
 そして彼の太い腕の筋肉がむくむくと盛り上がった瞬間、味わったことのない性的なストレスが下腹に襲いかかってきた。

「んぐぃ……い……、いっくっ……ふっ……」

 成人男性の握り拳がいま、私の膣に詰め込まれた。ずっしりと重たい快感、もうそれしか言えない。

「それでいいんです、力の抜き方がすごくいいですよ。これを何度かくり返せば、出産時の会陰切開を回避できるかも知れません」

「せんせい……、せんせい……」

「うん、どうしました?」

「はぁ……はぁはぁ……、私……妊娠できます……か?」

「もちろんです。今あなたの子宮を触っているかぎりでは、どこも問題なさそうですから」

 出海医師はそう言いながら拳をぐりぐりと動かし、子宮口や膣壁の粘膜を細かく調べている様子だ。
 私の中に溜まった汁をびちゃびちゃと外に撒き散らし、クリトリスにも興味の意思を示してやさしく撫でてくれる。
 乳頭から滲む母乳を吸い取ることも忘れない。

「おっぱいが梅肉なら、あそこは桜肉みたいで、とても美味しそう」

 つねに冷静だった佐倉麻衣さんが私の有り様を見て、興奮気味にそう言った。
 ジェラシーに似たものを瞳に浮かべ、ここにいる誰よりも私のことを色目で見つめている。

「妊娠しているとわかっていても、我慢できないものは我慢できない。だって……、女だもの」

 美麗そのものの顔を紅く火照らせた彼女が手に取ったもの、それがコンドームであることはすぐにわかった。
 そして「お願い……」と私に懇願し、それを私に握らせた。

「これを指にはめて……、私を慰めてください」

 彼女が何を言っているのかはすぐに理解できた。私は出海医師の拳を子宮に実感したまま、人差し指と中指と薬指をまっすぐそろえ、そこにコンドームを被せていった。
 白いストッキングとマタニティショーツを下ろし、両脚を肩幅ぐらいにひらく、彼女の準備はそれだけだ。
 私は彼女のスカートの中を3本の指で撫でまわし、確かな手応えを感じる部分で手を休める。

「はっ……はふっ……」

 熱いものを口に含んで火傷したように、佐倉麻衣さんは息を引きつらせた。
 そこにはもう粘液の膜ができあがっていて、私の指は彼女の性器の表面をスリップばかりしている。ハイドロプレーニング現象──まさしくそんな状態。

佐倉さん、失礼なことしますけど、いきますよ。

 私は心の中で一言ことわったあと、禁じられた遊びに手を染めようとしている自分に酔いながら、妊婦の膣をまさぐった。

「あうぅ……、あっ……あぅ……ぅん」

 彼女が喘ぐ。

「んいぃ……いぃ……、あっ……っふぅ」

 私も喘ぐ。
 それもそのはず。私が彼女の芯をいたずらに責めれば、出海医師のごつごつした拳が的確に私の急所を突き上げるのだから。
 3人それぞれの体温がひとつに繋がって、喰うか喰われるかというハイペースで抜いては入れ、入れては抜く。
 世の中にはまだまだ私の知らない快楽が埋もれていて、それを見つけられないまま女を終えてしまうことだってあるだろう。
 でも私は見つけることが出来たのだ。今この瞬間こそが女性としての絶頂期であって、生きる喜びを感じられる営みなのだ。
 そう思うとまた無性にセックスがしたくなる自分が、いやらしい動物でしかないと思い込み、その熱烈な愛撫に溺れる体を力ませるのだった。
12/04/29 22:57 (psFRMRQs)
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