先日、私はオイルマッサージを受けに行った。 ホームページを見ると、整体とオイルマッサージの二つのメニューが並んでいた。最近はむくみも気になるし、とにかく癒やされたかった私は、迷わずオイルマッサージを選んだ。 店は男性スタッフがひとりで営む小さなサロンだった。 カウンセリングを終え、紙ショーツと紙ブラに着替える。ベッドにうつ伏せになると、スタッフさんは穏やかな声で説明してくれた。 「女性を施術するときは、触れて大丈夫な範囲を確認しながら進めています」 その言葉に安心した私は、 「遠慮なく施術してください」 と伝え、身を委ねることにした。 温かな手が足首に触れた瞬間、思わず力が抜けた。 オイルが肌の上をなめらかに滑り、ゆっくりとふくらはぎ、太ももへと上がっていく。 力加減は私好みの少し強め。 心地よい圧が筋肉をほぐしていくたびに、体の奥に溜まっていた疲れが溶けていくようだった。 お尻の施術に移る頃には、すっかりリラックスしていた。 けれど、ときおり指先が思いがけない場所をかすめる。 そのたびに胸が小さく跳ねる。 偶然だろうと思いながらも、意識してしまう自分がいた。 内腿の施術ではなおさらだった。 肌の薄い部分をなぞるように動く指先。 近い。 あまりにも近い。 けれど私は何も言わない。 静かな部屋の中で、自分の鼓動だけが大きく聞こえる気がした。 背中、肩、首。 丁寧な施術を受けたあと、仰向けになる。 照明は柔らかく、部屋にはアロマの香りが漂っていた。 再び足の施術が始まる。 オイルで滑る手がゆっくりと上へ向かうたび、私は無意識に呼吸を整えた。 平静を装いながらも、心は落ち着かなかった。 胸元の施術に移ると、その緊張はさらに強くなる。 肌に触れる手は変わらず優しい。 それなのに、なぜか体は敏感になっていた。 ふいに肩が震えた私に、 「大丈夫ですか?」 とスタッフさんが尋ねる。 「大丈夫です」 そう答えると、 「無理はしないでくださいね」 と優しく微笑んだ。 その何気ない気遣いさえ、妙に胸に残った。 施術中は店の話や体調の話をしていたが、やがて別メニューの話題になった。 「フェムケアのメニューもありますよ」 スタッフさんがそう言った。 フェムケアという言葉は聞いたことがあったものの、実際にはどのような施術なのか知らなかった私は興味を惹かれた。 「どんなことをするんですか?」 そう尋ねると、スタッフさんは穏やかな口調で説明してくれる。 女性特有の悩みや不調に寄り添うためのケアであること、専用のオイルを使用することなどを聞いているうちに、私の好奇心はますます膨らんでいった。 「すごく気になります」 そう素直に伝えると、 「お時間があるなら試してみますか?」 と提案された。 落ち着いた口調だったが、その言葉は不思議と私の心に響いた。 少し迷った末に、私は追加でフェムケアの施術をお願いすることにした。 そこから先の時間は、まるで夢の中にいるようだった。 耳元で囁かれる言葉。 肌を伝う温かな感触。 静かな部屋に響くわずかな物音。 目を閉じるたびに感覚が研ぎ澄まされ、理性が少しずつ遠ざかっていく。 施術者と客。 本来ならそれだけの関係だったはずなのに、気づけば二人の距離は曖昧になっていた。 私はその空気に抗うことなく身を委ねる。 触れられるたびに熱を帯びていく体。 近くで聞こえる息遣い。 交わされる視線。 そのすべてが現実離れしていて、どこか甘い錯覚のようだった。 やがて長い夢から覚めるように時間が過ぎ、施術は終わりを迎えた。 着替えを済ませ、会計を終える。 帰り際、少しだけ雑談を交わした。 私の話を聞いたスタッフさんは、くすりと笑って言う。 「変態ですねー」 思わず私も笑った。 それは私にとって、どこか嬉しい言葉だったから。 「またいつでも来てください」 そう言われて店を出る。 外の空気は少し冷たかった。 けれど頬は熱いままだった。 私は余韻を抱えながら歩き出す。 そして心のどこかで思う。 ――また、あの手の温もりを思い出した頃に、私はここへ戻ってくるのかもしれない。