義母と二人で室に戻ったのはそれから一時間ほど後のことでした。 浴槽の湯の中での交わりはおそらく二人とも初めての体験のはずで、絶頂の後、僕も義母もしばらく動くことができず、長く抱き合ったまま茫然自失としていました。 二人ともにパジャマ姿で布団に入ったのですが、この室に入るまでに、また僕と義母の間に小さな悶着めいたことがありました。 僕のほうが先に出て室に戻っていて、義母が小柄な身体の腋の下にバスタオルを巻いて、重い足取りで足を少し引きずりながら入ってきたのですが、いきなり僕の前に神妙な顔をして座り込んできて、 「浩二さん…ここを出ていって」 と唐突に切り出してきたのでした。 平静な心と理性を取り戻している顔でした。 間髪を入れず、 「亜紀子、僕はもう説教は聞きたくないといったはずだよ。そういうことをいえる権利は亜紀子にはもうない」 といい返して、少し厳しい顔で彼女を睨みつけたのでした。 僕の厳しい声色と顔つきに圧倒されたのか、湯上りの仄かに上気した顔を哀しげに曇らせて、義母はいおうとしていた次の言葉を断ち、諦めたようにその場を立ち上がり小股歩きで鏡台の前に身体を移しました。 鏡台の前のスツールに義母は力なく座り込み、悄然とした暗い表情で鏡に目を向けていました。 やはりこういう時でも女の身だしなみなのか、化粧水のようなものを顔に手早くつけ、それから横の箪笥の前に立ち、小引き出しからショーツを取り出しバスタオルのまま穿きました。 続いて大きい引き出しを開け薄水色のパジャマを取り出し、明らかに義母は背後にいる僕の視線を意識しているかのような、上着の裾に手を通しズボンも穿いてからバスタオルを脱ぐという所作なのでした。 寡黙なままの義母の仕草を、僕は布団に座って目で追いかけていたのですが、ふと妻の由美が寝室で同じような所作をするのを思い出し、何となく母娘は似るものだと思いました。 仕方なくというおそらくは忸怩たる思いで、義母は僕のいる布団に近づいてきました。 湯上りの女の仄かで艶かしい匂いが、また僕の鼻腔を妖しく擽るのですが、少し前に置時計を見たらもう十一時を過ぎていたし、義母の疲れも考えて、今夜はこのまま彼女の香しい匂いの中で寝ようと僕は思ったのでした。 明日は夕方まで仕事でしたが、それからはまた義母との長い時間が過ごせると思い、おずおずとした仕草で、僕の横に背中を向けて身を横たえてきた彼女を抱き込むように腕を回しながら、僕は目を閉じたのでした。 そして翌朝、目を覚ますと義母は布団にはいませんでした。 昨日の午後からの義母との飽くことのない熱い情交の疲労感が、さすがに若い僕の全身にまだ残っているようなけだるさで室を出て洗面所に向かうと、台所のほうで人の動き回る気配がありました。 義母が片足を引きずらせながら、僕のための朝食と弁当の用意をしていてくれました。 「おはよう―」 と声をかけてやると、視線を合わせることなく聞こえないような声で、 「おはよう…」 と返してきました。 薄いピンクのニットのアンサンブル姿で、白く整った顔も薄く化粧されていて、ルージュの赤さが際立って見えました。 山小屋の件以来昨日の夜まで、義母を義母としてではなく一人の女として淫靡で邪淫な世界へ、図らずも引き入れた僕への怒りや憎悪があって当然のことですが、不機嫌そうな表情ではあっても台所で、僕の朝食と弁当のために動く彼女の小さな背中を見ると、少し複雑な気持ちになる僕でした。 「六時には帰るからね」 といい残して、妙な未練の少し残る思いで僕は勤務に出かけました。 出勤途中の車中で、妻の由美に朝の挨拶メールを送り、ふと義母のことを思いました。 もしかしたら、夕方に帰ったら義母は家にいないのではないかというかすかな不安が頭を過ぎりました。 出がけの玄関口で、僕は妻にも一度もしたことのない所作をしました。 彼女の肩を抱き寄せ唇を奪ったのです。 唐突な動きだったので、義母は逃げることができずそのまま僕の唇の餌食となり、さしたる抵抗もすることなくされるがままにしていました。 理知的で賢い義母のことです。 今夜もまた娘の夫である僕に抱かれ、恥ずかしいつらぬきを受け、はしたなく喘ぎ悶えさせられることを享受できるかどうか。 明日には娘が帰宅します。 今夜一晩なら足は悪くても、義母ならどこへでも行けるはずです。 昨日みたいにまた昼から休暇願いを出して帰宅しようかという気にもなったのですが、やはりそれも少し気が引け、そうならそうで仕方がないと思い直し夕方を待つことにしました。
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妖しくときめく気持ちと逸る思いを鎮めるように、玄関前で大きく一息ついてから、僕はドアに鍵を差し込みました。 玄関口に明かりが点けられていました。 僕の帰宅を察知して義母が点けてくれたようです。 「ただいまっ」 僕はつとめて明るい声でいって居間に入ると、エプロン姿の義母が調理台の前で小さな背中を見せて甲斐甲斐しく手を動かせていました。 彼女は僕のほうを振り返ることなく、 「おかえりなさい…」 と蚊の鳴くような小声で言葉を返してきました。 テーブルの上を見ると、幾つもの皿や小鉢が整然と置かれていて、色鮮やかな料理が盛られていました。 僕とはやはり意識的に目を合わそうとしないまま、黙々と足を少し引きずりながら動き回っています。 居間からダイニングに移り椅子に座っていた僕の前に湯気の立つ味噌汁のお椀を差し出すように置いて、義母はエプロンを外しながら、 「私はもうお先に済ませましたから…」 そういってテーブルから離れようとしたので、 「前に座ってっ」 と僕は彼女に睨みつけるような視線を放ちながら、命令的に声を強くしていいました。 義母の細い両肩が驚き慄いたようにぴくんと震え、足の動きが止まりました。 「亜紀子が作ってくれた料理だ。亜紀子の顔を見て食べたい」 そういって僕は箸を取りました。 強く拒絶の意思表示をして、義母はそのままこの場を離れるかも知れないと思っていたら、彼女は細いフレームの眼鏡の奥の目に少し哀しげな表情を見せながらも、前の椅子を引いて力なく座り込んだのです。 僕は箸と口を忙しなく動かせながら、正面にやや俯き加減で座り込んでいる義母を観察するような視線で見続けていました。 暖房が効いていて暖かい室内でした。 「亜紀子、昼間は何してたの?」 「……‥」 「何してた?」 「…な、何もしていません」 「僕とこうなったことをずっと悔やんでたのか?」 「……‥」 「前にもいったけど、僕と亜紀子は出会った時からこうなる運命だったんだよ。だから、僕は今何も後悔なんかしてないよ」 「……‥」 「今日も仕事してて全然身が入らないくらいに、亜紀子のことばかり考えてた。山小屋、病院、そして昨夜のこと」 「…いわないでっ」 「どの時でも…亜紀子は、最後は僕にしがみついていたじゃないか」 「いやっ…もう、立ちます」 「だめだっ。亜紀子、そこで服を脱いで」 「な、何を…」 「服を脱いでといったんだよ」 「い、いやですっ、そんな…」 「亜紀子に拒否権はない。早く脱いでっ」 紅いルージュの唇をわなわなと震わせ、顔面を蒼白にしながら、義母は僕の唐突な言葉の暴力に堪えていました。 「僕たち三人の家族のこれからの幸せを守れるのは、亜紀子、君しかいないのだよ」 「……‥!」 「早くしてっ」 狡猾で邪淫な僕の脅迫めいた言葉に、義母はその場から立ち去りたいと強く思っているはずでした。 彼女の心の中で理知的で清新な理性が、何かと激しく葛藤しているような苦渋の表情が蒼白の顔面に露わなっていました。 「早くっ」 という僕の少し怒気を込めた声に、義母の手が静かに動き出しました。 薄いピンクのアンサンブルのカーディガンのボタンに義母の手が触れます。 同色のニットのセーターの裾を、両手を交差させてゆっくりとたくし上げていきます。 薄い肌色のシルクのキャミソールと藍色のブラジャーの布地と紐を僕の視線が捉え、無意識な妖艶さのようなものが、思わず僕の箸と口の動きを止めていました。 露わになった義母の細い首筋のあたりの肌が上気しているかのように仄赤く見えました。 苦渋の表情のままの義母の顔に、こんな時にこんな場所で、しかも娘の夫の眼前で痴態を晒すという羞恥の思いが加味されて、首筋だけではなく蒼白だった顔面にも仄かに朱が差してきていました。 義母にそう命じた僕にも変化が顕われ、体内の血が逆流するかのよう下腹部のほうに一気に集中していました。 「下も全部だよ―」 セーターを脱ぎ下ろし、両手で胸を隠すように手を回し肩を竦めていた義母に、僕は追い討ちをかけるような言葉を発していました。 「…ひどい人」 憎悪を滲ませた目で僕を見る義母でしたが、手はまた動き出しキャミソールが頭から抜け、ブラジャ
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細長いソファの上で義母と僕の二人は、またいつかのようにまるで深く愛し合う恋人同士のように、強く抱き締め合い果て終えたのでした。 最後は義母が仰向けになり、僕の突き刺さったものは彼女の体内の奥深くに、自分でもわかるくらいにどくんどくんとした熱い迸りを放出したのでした。 しばらくの間、義母は両肩を小刻みに揺り動かせて、放心状態のような顔で激しい息遣いをしていました。 それから一時間後、僕と義母は彼女の寝室にいました。 ソファでしばらく茫然自失としていた義母は一言も僕とは口を聞かないまま、気弱げな足取りでダイニングに行き床に脱いだ衣服を着込み、僕の食事の後片付けを始めました。 「室にいるよ」 とだけ短くいって、僕はトランクスと下着だけ身につけて義母の寝室に向かい、室に暖房を入れ押入れから布団を引きずり出して敷きました。 義母の身体を縄で縛ることを考えていました。 そういう経験は勿論一度もありませんでした。 アダルトショップで周囲の目を気にしながら、何冊かをペラペラと捲り見た中で、中年の派手な着物姿女性が襟を乳房が見えるくらいにはだけられ、裾を大きくたくし上げられた恰好で、手足を縄で緊縛されているのを思い出していました。 あのあだ討ちに失敗し悪人どもに捉えられ、陵辱の限りを尽くされている美貌の女剣士も、全裸で後ろ手に括られ、片足だけを縄で持ち上げられ室の鴨居から吊り下げられている画像を思い出しながら、僕は淫靡な妄想に浸って義母の入室を待っていたのです。 義母が室に入ってきたのは、食事の後片付けの時間を差し引いても、それからかなりの時間が経ってからでした。 僕にまた抱かれるという悦びで急いでくるという彼女ではないということは、当然わかっていました。 おそらく理性心を戻した義母は、どこかで躊躇いと苦渋の時間に耽っていたのだと思います。 眼鏡をかけた蒼白の顔を深く俯け、暗く沈みこんだ表情でした。 「こっちへおいで」 と彼女の暗い表情を無視するかのように、布団に胡坐をかいた姿勢で僕は手招きをしました。 彼女は少しの間、襖戸の前に立ち竦んでいましたが、急に顔を上げ、 「浩二さん―」 と強い口調でいって、思い詰めたような視線を僕に投げつけてきました。 僕との距離を置くように布団の手前に座り込んできた義母は、 「浩二さん、お願いだから今日を…今夜を最後にしてっ」 といってまた清廉な元聖職者の顔に戻り、強い視線を僕に向けてきました。 「そうだね、明日には由美が帰ってくる。前にもいったけど、僕も三人のこの生活は壊したくない。わかっているよ」 と僕が取り敢えず鷹揚に応えると、義母の顔にかすかな安堵の表情が見えました。 「今夜を最後にするのを約束してもいい。いいけど、その代わり亜紀子も今夜は女の本性を出して、僕を悦ばせてほしいな」 「……‥」 「亜紀子、亜紀子はね、長く教育者だったこともあるんだろうけど、その年まで生真面目一筋で生きてた。でも、これまでのことで僕は亜紀子の女としての本性を見抜いた。ついでに僕の男としての本性もね」 と僕は三十以上も年上の、しかも元教育者だった義母に向かって勝手な持論を切り出していました。 「亜紀子は亡くなったお義父さんとどうだったのかはよく知らないが、女としての本性はもっと厭らしくドロドロとした淫靡なものを持ってるよ。女の身体としては、僕の想像以上に淫らで卑猥だ」 「そ、そんな…」 「それを亜紀子自身が知らないで生きてきたんだよ。何年か前の青木とのことだってそうだ。教育者としてはあるまじき行為だったのかも知れないが、亜紀子はきっとあの青木との何ヶ月間で、おそらく女として彼に溺れきったはずだ」 「そんなことはありませんっ」 「それはもうどうでもいい。今夜を最後にするのなら、僕をもっと死ぬほど悦ばせてほしい。で、早速だけど…」 そういって僕は予め布団の下に隠していた赤い縄を取り出し、義母の前に翳しながら、 「服を脱いで。室は暖まってるだろ?」 とさりげない口調でいったのでした。 しばらくの沈黙の時の後、義母の手が動きニットのカーディガンとセーターを、僕の目の前で静かに脱ぎ出したのです。 暖房のせいだけでなく仄かに上気し始めた顔を俯けさせて、座位姿勢のままスカートのホックを外し取る義母の顔には、何か小さな決意をしたような表情が見てとれました。 全裸になり胸を両手で覆い隠すようにして、布団の上に座っている義母に、僕は縄を手にして近づきました。 「ああっ…」
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「こ、壊れちゃうっ…ああっ」 めくるめく絶頂の間際に、義母はそんな言葉を残してそのまま意識を喪失しました。 縄で後ろ手に縛られたまま彼女は布団に俯せの姿勢で、息絶えたように眼鏡の奥の目を伏せていました。 僕も女性の尻穴を犯すという初めての体験に、彼女の真横で仰向けになり茫然自失とした目で、天井に見るともなしの視線を向けていました。 今風の言葉でいうと、義母の尻穴の僕のものを強く包み込もうとする狭窄感に、正に半端ないという表現が最適の形容詞でした。 本当にもしかしたらこの義母には、彼女自身も気づいていない淫靡で淫乱な気性とか被虐性みたいなものが生来的にあったのではないのかと思う僕でした。 それは長く教育者として勤め、謹厳実直な亡夫とのつつましやかな夫婦生活を過ごし、生まれた一人娘もまた教育者として育て上げてきた義母からは、およそ想像もつかない、そしてきっと彼女自身も知ることのなかった娼婦的で邪淫な性分だと、僕は改めて感慨を深くしていました。 それがあの青木という男に陵辱を受けたことによって図らずも開花され、それから四年も歳月が過ぎたあの日、僕との山小屋での一夜で、長く潜んでいた官能の埋み火が再燃し、病室での交わりと昨日と今夜の僕からの、熟れた肉体への立て続けの飽くなき責めに彼女自身も知ることなく、いよいよその本性を具現化させているのか、と身勝手な理屈を組み立てる僕でした。 妻の由美が戻る明日からのことを、ふと僕は想像しました。 前にも書いたと思いますが、理知的で賢い義母は娘のことを第一に考えて、毅然とした態度で気丈に虚構を繕うと思います。 僕のほうがどうかというと、妻との結婚生活は波風なく過ごしたいのは当然で、妙齢ながら気品のある妖艶さを漂わせる義母との不義の関係も、今は断ち難いというのが本音で、まだ自分なりの妙策は浮かぶことはありませんでした。 仮にこれからの生活の中で、何かの拍子に義母と僕のこの不義の関係が露見したとしたら?…残念ながらその解決策は今の自分にはないというのが正直な結論でした。 少し興醒めするような思いに駆られ出していた僕でしたが、何気に下に伸ばした手が義母の剥き出しの柔らかい尻肉に触れ当たると、 「う、ううん…」 と小さな呻き声が聞こえました。 僕のほうに向けていた顔が小さく揺れ動き、眼鏡の奥の目がかすかに瞬いていました。 首を横に向けた僕と視線が合うと、彼女はまたすぐに目を閉じました。 「亜紀子…」 優しく僕が声をかけると、義母の目が薄く開きました。 「亜紀子、とてもいい気持ちだったよ。亜紀子が益々好きになった。亜紀子は?」 「…………」 言葉を返すことなく義母は顔を逆方向に向けたのですが、僕はそのままやり過ごすようにして、 「今までも亜紀子を抱いていてずっとよかった。でも、今のは僕も初めての経験だったけど、ほんとにすごかったよ」 と正直な感想を声に出しました。 「…………」 「亜紀子の声もすごかったよ。感じてた?」 「…恥ずかしい…わ」 少しくぐもったような声でしたが、義母からの返答に、僕はつい今しがたまでの憂鬱な気分を忘れ、 「亜紀子の顔が見たい。こっちを向いて」 とまた優しく声をかけていました。 しばらくして彼女がこちらに顔を向けてきました。 「お願い…眼鏡を外して」 意外にもかすかに甘えのかかったような義母の声に僕は少し驚きながら、彼女の顔から眼鏡を外してやったのでした。 「こんなになって…亜紀子は後悔してる?…してるんだろうなぁ」 「………‥」 「でも、今の僕の頭の中にあるのは亜紀子のことだけだ。由美のことも頭にはない。ほんとの気持ちだよ、亜紀子」 「…いつまで私を縛っておくの?」 「ん?…いつまでって、今夜はずっとかな?」 「恥ずかしいわ…」 「よく似合うよ、縄が。僕に縛られてる時の亜紀子、何かうっとりしたような顔してた」 「し、してないわ…」 「縛られるの好きなのかな?って思ったくらいだよ」 「そんなこと…ないわ。恥ずかしいだけ…」 「亜紀子、キスしたい。いい?」 「…まだ許してくれないの?」 「そうだ、亜紀子をまだ愛したい。キスするよ」 そういって顔を義母に近づけると、彼女はこれまでのように逃げる素振りを見せることなく、唇で唇を受け止めていたのでした。 口の中に舌を挿し入れると、義母の舌はすぐに絡んできました。 義母の身体が仰向けになり、斜め横のあたりから
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