1月初旬。大晦日はやす君の部屋で一緒に年越しをして、それぞれ元日に帰省をしました。姉はデパート勤務なので、初売り、バーゲンの為一緒には帰省できません。私は5日間実家で過ごす予定です。やす君と5日間も会えない寂しさがあります。帰省する高速バスの乗車中はずっとメールをしていました。実家に帰ると母に「少し痩せたんじゃない?」母が私の変化に気付いたことに少しだけ嬉しさがあります。ジョギングを始めてから、もう二ヶ月以上経過しますが順調に痩せ始めていました。まだ目標までは当分かかりそうですが、こうやって評価されるのはモチベーションが上がります。当然ですが、実家でも毎日ジョギングをしていました。私の地元は、雪は多く降りませんが寒風厳しい港町です。その姿を見て母は「好きな人でもできたの?」と何度も聞いてきます。私は、何度かそれを濁すにとどめます。お正月は親戚や父の旧友が家にやってくるのですが、普段無口な父もお酒がすすみ幾分饒舌です。叔母や近所のおばさんの何人かから「トモちゃん可愛くなって~」と毎度のお世辞があったのですが、それが今年はちょっとだけ嬉しいです。この帰省の間、中学校や高校時代の友達とも久々に会いましたが、私が痩せたことに驚いていました。やす君とは、この間もメールや電話で連絡を取っていました。やす君は中学高校が一貫校だったのもあり、それほど友達が多いタイプでもないので家の近所で気軽に遊べる友達は小学校の時の友人1人みたいでその友達と会う以外はほとんど家に居ると言っていました。毎晩、寝る前のおやすみメールの後は寂しさがこみ上げてきます。そして、恥ずかしいけれど・・・帰省中、ほぼ毎晩オナニーをしてしまいました。大晦日のエッチを思い出したりして・・・その日、やす君に何度もイカされてしまったうえに・・・初めて潮まで・・。やす君の布団を沢山濡らしてしまいました。それがとても、刺激的で興奮してしまって・・・ついつい夜は思い出してしまいます。家を出る時に母が、姉妹2人には多すぎる沢山のお土産を持たせてくれました。冷凍したワカメや海産の乾物・・・etc、帰省した時よりも大荷物です。高速バスに数時間揺られて、14時過ぎに隣県の現在の家に帰宅しました。無事着いたことを母に連絡してから、もらったお土産を整理したり、帰省中の着替えなどを洗濯をします。やす君からメールがきました。新幹線に乗った知らせです。「気をつけて帰って来てね」とだけ打って送信ボタンを押しかけましたが、文章を付け足します。ワカメ好き?すぐに返信がきます。「別に好きも嫌いもないけど」「ワカメのしゃぶしゃぶ食べない?」「ワカメのしゃぶしゃぶ?」「食べたことない?」「うん」「じゃあ、食べてみない?実家で沢山ワカメ貰ってきたんだ~」「食べてみたい!」「今日行っても大丈夫?」「うん、大丈夫!」「じゃ、夕方頃行くね」やす君に会う口実作りができました。
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2月下旬の土曜日。試験が終わったやす君は長い春休みに入っていました。ただ、姉が運転する車の後部座席に座る、顔の青いやす君からは長期の春休みを迎えた高揚感のようなものは全く感じられません。姉がうっかりと母に私に恋人ができたことを話してしまい「一度会わせなさい」としつこく言われてしまい、その責任を感じた姉が車を出してくれて今私達は実家に向かっています。姉が話してしまった後で母からしつこくどんな人か聞かれました。私が○○大学に通ってて、出身は関東で・・・と説明すると「都会の大学生に騙されているんじゃないの??」ととても心配され、そんな人ではないからと言ってもやっぱり心配のようで「いいから一度連れてきなさい!」と押し切られてしまったのがことの顛末です。それを、やす君に伝えると「行くよ」とは言いつつも、やはりそれは怖いようでこちらからも何度も何度も親について聞かれました。漁師で無口で堅い父のことをできるだけオブラートに包んで話したつもりでしたが、それでも心配なやす君は姉にも父のことを尋ね・・・その恐怖感をより一層膨らませていました。そして、両親に手土産を用意して今日を迎えていました。実家までは車で約4時間。それまでに少しでもこの緊張がほぐれててくれればいいけれど・・・。そんなことはありませんでした。途中で一度やす君の手を握りましたが手汗がびっしょりです。そして、姉がそんなやす君をからかって遊んでいます。目の前に海が広がる、我が家に到着しました。車から降りたやす君は、一度深い深呼吸をしましたがもう生気が感じられません。姉と私の後にやす君が続いて、玄関に向かいます。玄関を開けると、姉と「ただいまー」と帰宅を告げます。すると、母と伯父(父の弟)が出迎えてくれました。「おかえり」と母は私達に声をかけてから、やす君を見ます。「はじめまして、〇〇(フルネーム)と申します。こ、これつまらないものですが・・・」と言って母に菓子折りの紙袋を渡しました。若干声が震えています。「あら~そんなに気を使わなくていいのに。遠いところごめんなさいね」「いえ・・・あの、お父さん、これを・・・」伯父を父と勘違いして持参したお土産の日本酒を手渡そうとしています。伯父は「かかっ~」と笑って「俺は、ナツどトモの伯父だがらよぉ」やす君は慌てて「すいません(汗)」と謝ってから、やす君に「お父さんの弟なの」と教えてあげました。やす君がとても恥ずかしそうに「すいません」とまた謝りました。そこで、母に促されて家に上がります。5人で茶の間に向かうと、父が座っていました。「ただいま」と言うと「おう」としか返してくれません。その表情からいつもより少し機嫌が悪そうです。席に着くとテーブル越しに父の正面に座った、やす君が緊張で強張らせた顔で先程と同じように父に挨拶をします。そして、お土産を手渡そうとしますが一瞥するのみで父はそれを受け取ろうと手は出しません。その瞬間、ちょっと空気が凍りついたように感じました。やす君は、仕方なくそれをテーブルの上に置きました。そこで、やっと「あぁ」とだけ返答します。母が「お父さん、それ良いお酒じゃないの?うちのお父さんお酒好きだから。本当にありがとうございます。ね、お父さん」「お口に合うかどうか、わかりませんが・・・」やす君が母に返すと、母も「お酒ならなんでもいい人だから。ね、お父さん?」
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3月中旬。やす君はここ一ヶ月とても、ソワソワしています。私の実家から帰ってきてからもそれは変わりません。そして、デートの定番コースの本屋、CDショップにスポーツショップが追加されました。時には、わざわざ郊外の大型スポーツショップへ行くこともありました。沢山の野球のグローブを手に取り、それを手にはめて「うーん」や「おー」と言いながら吟味しています。さながら、自分のものを選ぶかのような真剣な眼差し。野球のグローブがこんなに高いものと知らなかった私は、それらに付いている値札を見て驚きの連続です。4歳年下のやす君の弟が野球の強い高校への進学を決めていました。その弟くんのためにアルバイトで貯めたお金でグローブをプレゼントするようです。スポーツショップから帰ると弟くんに電話をします。幾つかの野球メーカーの名前を出し「○○のはちょっと硬そうだから~~」「○○のは型がいいけど~~」今日見てきたグローブの話をしています。もちろんですが、一緒に見てきた私にはその違いは分かりませんでしたが、それを弟くんに話す兄のやす君は明らかに嬉しそうです。そんな日を約一ヶ月も繰り返しました。今日もスポーツショップへ行くことは、昨日メールで告げられていました。1人で行った時にグローブを注文して、それを受け取るようです。銀行のATMでお金をおろしてから、スポーツショップへ向かいます。やす君は、迷わず野球コーナーのカウンターへ行き店員さんに話しかけました。店員さんは、箱をやす君の前に置いて中から透明なビニールに入った発色のいいオレンジ色のグローブを取り出してやす君に見せます。(グローブって箱に入ってるんだ・・・)これまでは棚に並べられているグローブしか見たことがなかったので少し驚きです。やす君はそのビニールからグローブを取り出して、今までとは違い手にはめずに確認しています。そして、店員さんと一言、二言を交わしてからグローブを入れた箱を受け取りレジへ向かいます。約5万円。棚に並んでいたものの相場から見ても高い方の部類です。(もうちょっと安いのじゃダメなのかな?)どうしても、そう思ってしまいますが口には出しません。店を出ると、やす君が紙袋に入れられたグローブをこちら側に見せるようにして「あぁ・・・とうとう買っちゃった・・・」「買っちゃったね」「うん、人生で一番高い買い物・・・」「それが、弟くんへのプレゼントって凄いね!」「それ今気付いた(笑)」「弟くんのこと好きなんだね」「それは、そうだけど・・・何て言うか、俺は野球諦めちゃったから頑張ってほしいって言うか、俺の分までというのもちょっと違うけど・・・応援したいんだよね」「えっ!?やす君野球してたの?」「やってたよ。小学校まで」中学高校は弱小バレー部と聞いてたので少し驚きです。野球は好きだったけど、あまり上手ではなかったみたいで辞めちゃったと言います。「下手でも続ければよかったんじゃない?」「そうなんだけど・・・小学生でも自分の才能じゃ甲子園とかプロとかなれないのは分かっちゃってね。だったら勉強しようかなって」「そうなんだぁ・・・」店を出てから、お昼ごはんの為に入ったファミレスで食事を終えると、やす君はカバンからメモ帳とボールペンを取り出し
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4月下旬。私達の住む街にも桜前線が北上してきました。やす君と出会って、付き合ってからもう半年が過ぎます。一年前、この街に来た時は恋愛ごととは程遠いと思っていたのに・・・。それだけに、やす君との日々に感謝をせずにはいられません。ダイエットの方も順調です。目標にしていた体重にも目前です。始めた当初に比べたらそのスピードは緩やかになりましたが、あとはもうその時を待つばかりです。焦りはまったくありません。デートの度にプリクラを撮るのが、楽しくてしょうがありません。昨年まで着ていた服を買い替えなくてはならないのでお金がかかるけれど、オシャレする楽しさがあります。お財布と相談しながら、できる範囲内でそれを楽しみます。私のダイエットに対して、やす君が「もういいんじゃない?」「なんで?」「いや、痩せて可愛くなったら・・・寄ってくる奴がいるかもしれないじゃん」「あははっ。大丈夫だって!」「うーーーん」腑に落ちない様子です。「ヨチヨチ、やす君可愛いでしゅね」少しだけ、ヤキモチを妬いてくれることが嬉しいです。私は、会う度にやす君にアルバイト先で使うシールのゴミになる剥離紙を短い手紙にして毎回渡していました。それに、その感情をストレートに書きました。目の前で読んでいる、やす君の顔がみるみるうちに紅潮していきます。私はそれを見て自然と笑ってしまいました。ある日、やす君に学校の友達との花見に誘われました。一応、学校との友達の会に行っちゃ悪いかなと思って断ると、やす君の友達が私にもと誘ってくれていると言うので参加することにしました。やす君の友達に会うのは初めてなので緊張します。その日はやす君と待ち合わせてから花見の会場に向かいまいた。公園内は、出店や花見をしている人たちでとても賑わっています。公園の中を進むと、やす君が「あそこだ!」と友達が陣取っていた場所を見つけました。やす君に続いてその場所に向かいます。「ごめん、ちょっと遅れた」やす君が友達数人に挨拶をします。私も続いて「はじめまして」と挨拶をしました。「あぁ、どうもはじめまして」と1人が返してくれると、それに他の友だちも「どうも」と続きました。1人だけ女の子もいて、その子が最後に「こんにちは」と挨拶してくれます。私はその子の隣に座ります。やす君も私の隣に腰をおろしました。1人3000円の会費を皆から「チューバッカ」と呼ばれている幹事さんに渡しました。思わず、やす君に聞きます。「なんでチューバッカって呼ばれてるの?」「スターウォーズのチューバッカみたいだから」確かに、背が大きくて体の厚みもあって・・・あまり似合っていない茶髪はチューバッカみたいだなと関心してしまいます。それぞれ缶ビールや缶チューハイを手に取り乾杯してから、自己紹介をしました。一通り、それが終わると「本当にヤスに彼女がいるとは・・・」と1人が言いました。「えっ!?なんでですか??」聞かずにはいられません。「だって、彼女できたとは聞いてたんだけど会わせてくれないし、だってヤスだよ!人見知りだしさ・・・本当に居たなんて信じられないんだよ。指輪もダミーじゃないかって皆言ってたんだよ」チューバッカさんが『だって』に意味を含んで津軽弁混じりでそう言いました。それに、バレンタインの時に買ったペアリングも疑われていたなんて。でも、学校に行く時も指輪をしてくれていたことを知り嬉しさがあります。「確かに人見知りですよね(笑)」そう私がチューバッカさんに私が加勢しました。「それは、お前だって変わらないじゃん」やす君がチューバッカさんに反論します。
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7月中旬。三連休の中日に花火大会へ出かけました。安物だけど、お互いに浴衣を着ています。夕方前の電車は凄く混雑していて花火会場の最寄り駅を降りてもそれは変わりません。私達のように浴衣を着たカップルも大勢いて、はぐれないように、やす君は私の手を引いてくれます。出店で売っていた、焼きそばを半分ずつ食べた後でかき氷も買います。「やす君、かき氷は何味派?」「レモン一択だね!」「えっ!?レモン??珍しいね。だいたい、イチゴかメロンじゃない?」「トモミはレモンのかき氷の威力を知らないんだよ」「なにそれ(笑)」やす君が小学生の頃、少年野球の練習グラウンドの向かいに氷屋さんがあって、そこで夏季限定でかき氷を売るそうなのですが、みんなで練習後によく食べていてそのチームではレモン味が流行っていたそうで、その味が今も忘れられないと言います。「そんなに美味しかったんだ?」「あれはかき氷の頂点だね」「えーそんなに!?間違いないよ!!」「そんなに言うなら、一度食べてみたいなぁ」「それが、もうやってないんだよねぇ・・・」「そうなんだ、残念」私達はかき氷を食べながら、花火を待ちます。素朴な疑問をぶつけます。「やす君ってさ、結構変なこだわりあったりするよね?」「えっ?そう??」「うん」「例えば?」「メロンソーダとか」「あぁ(笑)いや、本当にそれは違うんだって」やす君はメロンソーダに強いこだわりを持っていました。ファンタメロンソーダをFMS、ポップメロンソーダをPMSと呼んで、「今日はPMS飲みたいから、○○のファミレスにしよう」とメロンソーダで店を決めることが割とありました。「本当はさ、こういう服着てほしいとかあったりする?」「んん~それは特に・・・」私の方を見ています。「なんかそれは、それでちょっと寂しいな」「いや、トモミの服好きだから。あっ・・・」「ん、なに?」「一回、ショートも見てみたい」「えっ?ショートカット??」「うん」「短い方が好きなの?」「一回見てみたいなと思って」「そっか。でも、すぐにはできないなぁ」「え、なんで?」「成人式までは短くしないもん」「あぁ~そっか」やっと肩を少し超えるまで伸ばした髪は半年後の成人式を見据えてのものでした。「成人式終わったら考えてみるね」「お願いします」そんな話をしているうちに花火が始まりました。「綺麗だねぇ」「うん」
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8月下旬。私達はお昼には少し早かったけれど、牛タンの駅弁を買い込んで新幹線に乗り込みました。これから、やす君の実家に向かいます。やす君は、この夏帰省していませんでした。間もなく二十歳の誕生日を控えたある日、孫の誕生日を祝いたいと切望したおばあちゃんを慮って妹さんがやす君に電話をかけてきたそうです。一度は「今年は彼女と過ごすから帰れない」と断ったそうなのですが後からお母さんに「連れてきなさい」と言われて、やす君の実家へ行くことになりました。やす君の家族に会えるのが私は楽しみです。それから、私のリクエストでやす君が通っていた学校へも案内してもらえることになっていました。やす君は実家へ彼女を連れて行くことに「照れ」があるようで、私に何度も「あんまり変なこと言わないでよ」と少し心配そうです。関東へ行くのは中学の修学旅行以来になります。新幹線の車窓からは見慣れない景色が飛び込んできて、テンションが高くなります。一度、私の実家まで行ったことがありましたが、2人だけで新幹線に乗って遠出することは初めてなのでさながら旅行気分です。段々と見える景色にビルが増えてきました。車内アナウンスでは降りる駅を告げています。私達は、荷物を取り出し降車しました。「うわ、暑いねぇ~」「そうだね」私達の住んでいる街よりも湿気があるのか、とても暑く感じられます。この後はまず、電車を乗り継いで都内にあるやす君の中学・高校へ行きます。やす君は沢山ある路線を迷わずに進み、私の手を引いてくれます。電車へ座れたところで「ねぇ、これ毎日乗って通ってたの?」「そうだよ」私は、高校こそ電車通学はしていましたが単線だったその電車では迷いようがありません。改めて、こんなに違うところで育ったんだと思うと不思議でなりません。都会のど真ん中にあるやす君の母校に辿り着きました。私の母校とは門構えからして違います。校舎も洋風な建物です。「凄いところに通ってたんだね~」言わずにはいられません。「そんなに凄くないって」本心なのか謙遜しているのか分かりません。学校を見渡しながら歩きます。「ねぇ、高校の時とか好きな人いなかったの?」「いなかったなぁ・・・男子校だしね」「でも、中には付き合ってる人とかはいたでしょ?」「他校の女子と付き合ってる奴はクラスの一軍連中だよ」「え?なにそれ。やす君は何軍だったの?」「控えめに言って、5軍」「そんなに下?」「そんな感じだったと思うよ」「そうなんだ。まっ私も全然1軍とかじゃないけどね」私達はまた、電車を乗り継いで今度はやす君の地元へ向かいました。駅を出ると、都会とは少し感じが違います。とは言っても、家や店が密集していて私の地元とはやはり全然違います。やす君の実家に向かう途中、小学校にも寄りました。小学校もやっぱり私の通っていた所よりも随分と大きいです。「何クラスあるの?」「7クラスだったよ」「えぇーそんなにあったんだ」私の小学校が2クラスだったのが急に恥ずかしくなります。こんなに違うとは思ってもみませんでした。そして、いつだったか野球を諦めたという話を思い出しま
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