2012/12/22 10:34:46
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後半の部に入ってからは、
あっという間に時間が過ぎてしまった、
そんな感じがしました。
「この学校の演奏が終わったら、
リハーサル室に行くからね」
A先生が言いました。
ぼくは、はっとしました。
もうそんな時間なんだ、でも、そう思う、
ぼくの心の中は、意外と落ち着いていました。
リハーサル室は、思ったよりも広かったです。
最初に、演奏する曲を2曲、通しました。
ぼくが合唱団にいたのはほんの数日でしたが、
今までの練習の中で、いちばんいい演奏だった、
そんな感じがしました。
そのあと、部分練習をして、
リハーサルが終わりとなりました。
長い廊下を通って、階段を上がって、
ステージの袖の近くの廊下まで行きました。
ステージ袖には、別の学校が待機していて、
ぼくたちの学校は、
その学校の次に演奏する予定なのです。
廊下に1列になって座りました。
ぼくは、体育座りではなくて、
女の子座りをしました。
女の子座りをしたのは、その時初めてでした。
どうしてそういう座り方をしたのか、
全然分かりませんでした。
もちろん、教えてもらったこともなかったのに、
そうやってしまったんです。
無意識のうちにしていたのだと思います。
足を横に揃えて、
スカートで足全体を隠すようにしていたんです。
「あら、ゆうちゃん、女の子座りね」
って、向かいにいた団長さんから言われて、
初めて気がついたんです。
団長さんは、足を大またに開いて、
パンツ丸見えの格好で座っています。
「ゆうちゃんも、足を開いたら?」
そう言われましたが、
「今はこのままでいいです」
って答えました。
どうして、そう答えたかもよく分かりませんでした。
「そうなのね。
ゆうちゃん、学校では、足を開いていたのに…」
そうなんです、学校にいる時は、
ぼくだって、パンツ丸見えの格好をしていたんです。
その時は、恥ずかしくなかったけど、
でも、今は、何だか恥ずかしいんです。
あと、団長さんが足を開いている格好を見るのも、
すごく恥ずかしかったんです。
「団長さん、パンツ丸見えです」
って言おうとしたけど、言えませんでした。
ぼくは、その時には、何となく今までと違う、
不思議な気持ちになっていました。
それまでは「今日は女の子」っていう思いが、
ずっとあったのですが、
それがなくなっていたんです。
うまくは言えませんが、
最初から女の子、当たり前に女の子、
そんな感じだったでしょうか。
「ステージ袖に移動をお願いします」
係の人が言いました。みんな立ち上がりました。
ぼくも立ち上がりましたが、その時に、
ぼくは、膝を立てて足を開いてしまいました。
「あ、見えちゃった…」
ぼくは、とっさに思いましたが、
すぐには、立ち上がれませんでした。
お股のところを見ると、パンツが大きく見えていました。
恥ずかしいので、すぐに立ち上がろうとしましたが、
立てませんでした。
そしたら、係員の男の人が、
手をとってくれて、立たせてくれました。
「ありがとうございました」
ぼくはお礼を言いました。
その人は、まだ若いお兄さんでした。
「うん、いいよ。何年生かな?」
「5年生です…」
「そうなんだね。演奏、頑張ってね」
「ありがとうございます。頑張ります」
お兄さんとお話できたこと、
すごく嬉しかったです。
優しそうな、いい感じのお兄さんでした。
でも、お兄さんにパンツを見られちゃったって思って、
それは、すごく恥ずかしかったです。
「○○小って、女の子ばかりなんだね。
他の学校には男の子もいるのに」
ってお兄さんに言われて、少しドキッとしました。
ステージ袖は薄暗かったです。
ステージで歌っている声が聴こえていました。
さっきまでは、女の子らしくしていたのに、
お兄さんにパンツを見られちゃったっていう思いと、
「女の子」ってさっきお兄さんに言われて、
すごく嬉しかった思いとで、
また何だかドキドキしてきたぼくでした。
それに、ステージ袖は薄暗いから分からないと思って、
足を大股開きしてしまいました。
ステージ袖は、コンクリートの壁で、
ひんやりとして涼しかったです。
スカートの中に、風が入ってきて、
いい気持ちでした。
「ここ、涼しいでしょ…」
さっきのお兄さんが話しかけてきました。
「はい、すごく涼しいです」
お兄さんは、ステージ袖までの誘導係だったのですが、
ぼくたちの合唱団が最後で、
これで仕事は終わりなので、
ぼくたちの合唱団を袖で聴いていてくれるそうです。
「今日は歌を歌うんだ」
「いいえ、伴奏をします」
「あ、伴奏なんだ」
お兄さんはプログラムを出して、
「そうなんだ。◇◇ゆうちゃん、なんだね」
「はい、そうです」
プログラムには、ぼくの名前が書かれていました。
お兄さんに名前を知られてしまい、
何だか恥ずかしかったです。
途中でトイレに行きたくなったので、
他の3人の子と一緒に、
お兄さんに連れて行ってもらいました。
そこは、関係者用のトイレだったので、
個室が3つだけでした。
ぼくが最後まで待っていたので、
いちばん時間がかかりました。
あとの3人は先に戻りましたが、
ぼくは、お兄さんと一緒に、
あとから戻ってきました。
トイレから戻る時に、
ちょっとだけお兄さんに、
抱っこやおんぶをしてもらって、
手も繋いでもらいました。
お兄さんの手はすごく暖かかったです。
ぼくは、お兄さんと一緒に、
ステージ袖を入ったところに、
音を立てないようにそっと座りました。
拍手が聞こえました。いよいよ本番です。
みんなが立ち上がりました。
「頑張ってね」
お兄さんが言いました。
「はい」
ぼくは、思い切り足を開いて立ち上がりました。
その時は、
お兄さんにだったら、
スカートの中を見られてもいいって
そんな気持ちでいました。
ぼくは、ピアノ伴奏なので、
いちばん最後から入場しました。
ぼくは、ステージ袖の暗い場所で、
スカートを思い切りめくりあげて、
しばらく歩きました。
ステージに出る少し前に、
静かにスカートを下ろしたあと、
入場をしました。
ステージのライトがすごくまぶしかったです。
会場にも、大勢の小学生やお客さんがいて、
すごくびっくりしました。
A先生が、
「ゆうさん、大丈夫だよ」
って言いながら、前を通っていきました。
「ゆうちゃん、さあ、頑張ろう」
譜めくりのB先生も言いました。
会場には、さっきまで座っていた場所に、
C先生や校長先生、
上の席には、パパやママも見えました。
舞台袖では、お兄さんが手を振ってくれていました。
たくさんの人に応援をされて、
すごく勇気がわいてきました。
学校紹介がありました。
「今年は、…女の子ばかりの合唱団となりました」
と紹介されたので、何だか恥ずかしかったです。
A先生が礼をし、こちらを向く時に、
ぼくは、ピアノの椅子に座りました。
先生の指揮と一緒に、
ぼくは、曲を弾き始めました。