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2016/02/26 00:41:11 (gYRLqwRG)
第一章

私 42歳 大学の教務課勤務 身長約170センチ 体重62キロ 趣味 釣り お酒
妻41歳 介護職員 身長168センチ 体重55キロ 趣味 料理
子宝に恵まれぬまま結婚20年目を迎えた夫婦です。
夫婦仲は、世間一般の感覚に照らし合わせても、「普通」と言えるのではないでしょうか。
結婚記念日や誕生日には人並みのお祝いはしますし、お互いの仕事の話が中心とはいえ会話もそこそこあるほうだと思います。
ただ、夫婦生活については、お互い仕事の立場が中堅で多忙になってきたこともあり、二十代、三十代の頃に比べれば、激減とは言わないまでも確実に減っているのは確かです。
そうは言っても、知人友人の話を聞く限り、格別セックスレスという自覚は、少なくとも私自身にはありませんでした。要するに、特別仲がよいわけでも悪いわけでもない、世間並みの夫婦生活だと思っていました。

私の想像の斜め上を行く、あんなことがあるまでは。

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4
投稿者:たか
2016/02/27 00:12:07    (k337owGo)
続きを期待してます!
3
投稿者:sinn9nnn ◆MCbX1O.Cg.
2016/02/26 00:43:32    (gYRLqwRG)
第二章
二次会の場所は、私がたまに使うショットバーに移っていました。
ジャズの流れる店内で、カウンターの止まり木に二人並んだ私たち意外に客はいませんでした。
予想とおりというか、その場で彼に悩みを打ち明けられました。
悩みというのは彼女とのことでした。
彼の独白を聞いた私の第一印象は「あほらし」でした。

彼女との出会いがいかに素晴らしいものだったか。
その後の付き合いに、どれだけ胸を躍らせたか。
予想はしていたとはいえ、あまりに予想通りの内容に、欠伸を噛み殺すのが精一杯でした、
のろけるならこんな中年のおっさん相手でなく他でやってくれ、そう思い早々と席を立とうとしました。
話の結末が見えたような気がしたからです。
誕生日のプレゼントがブランド物じゃないのが気に入らないだの、好きな音楽が合わないだの、くだらない痴話話を聞くほど俺も暇じゃないんだよ。
そう思っていた私の意識が少し変わったのは、彼の話が少し予想外の方向に傾き始めたからです。
それは、不和の原因が、彼女とのセックスが上手くいかないということだったからです。
中年親父の悲しい性で、話題がセックスとなった途端、食いついてしまいました。
不謹慎だとは思いつつ、詳細を尋ねたのですが、その頃から酔いもあったのか彼の独白は要領を得なくなり、結局、彼の悩みの核心には至らぬまま、しまいには田中君が泣き出す始末で、身長170に満たない小柄な私が、二メートル近い大男の肩を叩いて慰めているのは傍から見てもさぞ滑稽に写ったことでしょう。

2
投稿者:sinn9nnn ◆MCbX1O.Cg.
2016/02/26 00:42:37    (gYRLqwRG)
第二章

話は、私が勤務先の大学の学生との新歓コンパに参加したところから始まります。
副顧問を務めるラグビー部で、顧問の教授が学会で参加できなくなったため、引率役として一次会のみ付き合うよう頼まれたのです。
毎年のこととはいえ、憂鬱な気分でした。
副顧問という肩書きはあるものの、私自身ラグビーの経験は全くありません。それどころか小中高大と通して、体育会系のサークルや部活に所属したことさえありませんでした。
なぜ、そんな私が副顧問にと思われる方もいるかもしれません。でも、それは私の勤める地方の国立大学では決して珍しいことではありませんでした。
もちろん、すべての国公立大学がそうではなかったかもしれませんが、少なくとも私の勤務先では、体育会系の学友部といえ、基本的に部の運営は学生が担うというのが基本理念であり、副顧問の私はもちろん、顧問を勤める教授でさえ、試合に同行したことさえないというのが当たり前でした。
しかし、そうはいっても、僅かとはいえ顧問としての手当てを支給されている以上、一応の監督責任は果たすべきと考えたのか、年度初めの新歓コンパと、年度末の追い出しコンパの一次会だけは、顧問、副顧問のいずれかが顔を出すのが慣例となっていました。
私自身酒が嫌いではないこともあって、年に数回、若者たちと酒席を共にすること自体を否定していたわけではありません。それでも毎度憂鬱な気分にしかならない原因は私の身体的コンプレックスにあります。
プロフィールで紹介したとおり、私の体格は近年成長を続ける日本人の平均からみれば、小柄な部類に入ります。しかも、格別運動能力に優れたわけではなかった私にとって、地方の大学とはいえ、それなりの経験と屈強な肉体を持つラガーマン達に囲まれての酒席は苦痛以外のなにものでもなかったのです。
その日も、会場の居酒屋までの道のりは、例年同様、長く苦痛に満ちたものでした。
やっとのことで暖簾をくぐり、店員に案内されて個室に通されたのは開始時間から10分遅れてのことだったと思います。
引き戸の向こうから聞こえる若者たちの嬌声に、私はうんざりした表情をかくそうともせず入室しました。ほとんどの学生は私に気付くことも無く、赤ら顔で安酒をあおっています。入り口に一番近い席に座っていた幹事と思しき学生が私の姿を認め、一応空いていた上座に誘導してくれなければ、私は踵を返していたかもしれません。
「教務、ご苦労様です。こちらへどうぞ」
言葉とは裏腹な、面倒くさそうなそぶりを隠しもせずに案内された席に腰を下ろすと、左隣の一際体格のいい学生の姿に目を奪われました。
「こんばんは、お疲れ様です」
まだ座っていない私と、座ったまま視線が重なるほどの体躯の彼は、正座したまま深々と頭を下げ私の席の座布団の位置を整えました。
「ありがとう」
座った後、彼の体を見上げます。すごい体です。そして、その巨漢と、彼の柔和な表情に見覚えがあることを思い出しました。
「あれ、君は確か」
「その節はお世話になりました」
「確か、田中君、だよね」
奨学金の相談につきっきりで乗ってあげたことがあって以前から顔見知りでした。
身長195センチ、体重110キロ、体格だけなら代表クラスの田中君でした。
知り合った当時から、そのいかつい見た目とは裏腹に、打っても響かないというか、説明に対する反応が鈍く、とにかく「この子大丈夫かな」という印象でした。
私自身、取り立てて仕事熱心なわけではないのですが、その時はなんとなく放って置けなくなり、結局申請書類のほとんどを私が記入したのを覚えています。
その晩の酒席で右隣にいた先輩部員によると、彼は性格がおとなしく、決して身体能力が低いわけではないのだが、試合になると、萎縮してしまい活躍できずにいるとのことです。
まぁ、そうだろうなというのが私の印象でした。
共通の話題があるわけでもなく、会話が盛り上がったわけではなかったのですが、今年のワールドカップのこと等、適当な世間話に相槌を打つうちに時間は過ぎ、お開きの時間となりました。
最低限の仕事は済ましたと思った私は、二次会の行き先で盛り上がる学生たちを尻目に席を立ち、暖簾をくぐり階段を下りました。
表通りに出て、タクシーを呼び止めようとする私を背後から呼び止める声に気づき、振り向くと、先ほどまで右隣に座っていた巨漢の学生が一人で所在なさげに立っていました。
「田中君。どうした」
「渡辺さん、もう一軒、付き合ってもらえませんか」
正直、八割方、帰りたい気持ちでした。
しかし、彼の切迫した表情を見て、なにか捨てて置けないと思ったのか、若者の悩みに付き合うのも教育機関に勤める自分の使命だと感じたのか
「一軒だけだぞ」
右手を下ろして、彼に微笑んだのです。

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