「文乃・・・」
「伸一?」
新幹線の指定席は「7号車5D」2列シートの通路側でした。
窓側の「7号車5E」に女性が座るのを待って、荷物を棚に上げようとしたら、その女性が元カノの文乃だったのです。
私が大学3年の時、短大1年だった文乃とバイト先で知り合い交際、文乃の19歳の処女を貰って楽しい恋をしていました。
私が大学を、文乃が短大を卒業する直前、文乃の就職先が突然倒産してしまいました。
新規採用する会社が倒産するとは思わないことを利用した計画倒産で、簿価はすり替えられてごまかされ、決算は粉飾だらけだったのです。
文乃は失意のままアパートを引き払い、実家のある田舎へ帰ってしまいました。
ロクなお別れも出来ないで、両親に支えられるようにして東京を去りました。
その文乃が東京発の新幹線に乗っていたのです。
「久しぶりだな。」
「そうね、10年ぶりかしら・・・」
遠くを見るような目で文乃が言いました。
「そう、なるな・・・俺も33歳、2人の子供のお父さんだからな。」
「私も31歳になったわ・・・子供は1人だけど・・・」
「文乃は、幸せか?」
「まあ、不幸ではないかな・・・あんな事が無かったらって、思う事もあったけど・・・」
「そうだな・・・満足にお別れも出来なかったもんな・・・」
「ごめんね、あの時はもう落ち込んじゃって・・・」
「俺の方こそ、何の力にもなってあげられなかったからな・・・」
暫くインバーターのモーター音だけが響いていていました。
「文乃は、家に帰るところかい?」
「ええ、昨日は短大時代の友人と10年ぶりに会って、東京に泊まったの。」
「そうか、俺は明日朝早い仕事があって、現地に前泊なんだ。」
「どこ?」
「それが、U市なんだよ。」
「私の古里・・・」
U駅で新幹線を下りて、
「じゃあな・・・」
「待って・・・ちょっと、少しだけ・・・」
駅の東口へ出て、南へ少し歩くとラブホが見えました。
「マズイだろ。俺達、今は・・・」
「お別れ。満足にお別れも出来なかったって、伸一、今言ったじゃない。だから、10年の時を遡って、ちゃんと伸一とお別れしたい・・・」
「文乃、お前・・・」
文乃の裸を見るのも10年ぶりでした。
ムチッとしていた短大生の頃より、ほっそりとしたような印象でした。
「伸一・・・アア・・・」
人妻になった文乃のラビアは、女の歴史を感じる色合いになっていました。
でも、子供を産んだにしては下腹部にある経産婦特有の筋が無い事に気付き、そう言えば左の薬指に指輪が無いことを思い出し、もしかしたら文乃は今も独りなのでは?と勘繰っていました。
私のペニスで女になって、私のペニスで女の悦びを知った文乃に愛がまだ燻っていました。
ヴァギナとペニスを舐め合い、10年ぶりに一つになりました。
妻への裏切りに苛まれましたが、これがお別れの交わりなんだと、そう言い聞かせて文乃の熟したヴァギナを味わいました。
妻よりも2歳年上の文乃は、幼さを残す妻とちがって溢れ出す色気が妖艶な大人の女を感じさせました。
「ああん・・・伸一・・・」
「文乃・・・」
中に出すわけにはいきませんから、文乃の胸元に精液をふりかけました。
「・・・これ、昔は私のだった・・・10年前は・・・」
「文乃・・・お前・・・」
「私、幸せよ。家族に囲まれて・・・温かい家庭で・・・」
言葉が詰まり、文乃は一筋の涙を流しました。
「文乃・・・幸せなんだな・・・本当に幸せなんだな・・・」
「うん・・・だから今、夫を裏切ったことに涙が・・・」
文乃はウソが下手だと感じました。
でも、そこを掘り下げては文乃が可愛そうなので、
「俺も、女房を裏切っちまった・・・」
「ううん・・・そうじゃない、これはサヨナラの儀式。恋人に戻って、出来なかったサヨナラをしただけ・・・」
ホテルを出たらもう暗くなっていました。
「文乃、じゃあな。」
「伸一・・・さようなら・・・」
「元気でな。」
「うん・・・あなたもね・・・」
最後、伸一と言わなかった文乃は、私に背を向けて足早に歩いていきました。
その後ろ姿に幸せのオーラは感じられず、ただ、哀愁が漂っているような気がしました。
文乃は、一度も振り返ることなく雑踏へ紛れて見えなくなりました。
私は、前泊のために予約していたビジネスホテルへ向けて足を進めながら、10年前に失意のまま東京からこのU市に帰った文乃を思い、胸にこみ上げるものを抑えるのに必死でした。
もう、二度と巡り合うことはないだろう文乃の幸せを祈りながら、足早に歩き、
「さようなら、文乃・・・」
そう呟いていました。