2017/11/18 22:19:12
(lBamTFil)
【いらしゃい。あら、今日は女の子と一緒なのね。】馴染の居酒屋の暖簾をくぐると、馴染の女将が招き入れる。
【どこでもいいから座って。】そう言われ、店内を眺めると、店内の奥まった上り框の座敷を見つける。
由美とテーブルを挟み、対面に腰を下ろすと見計らった様に女将がやってきた。
【何にする?】手にしたお通しをテーブルに置くと、注文を聞く女将。
『ぼくはビールで。由美ちゃんは?。』そう尋ねると
「じゃあ、わたしもビールがいいな。」
【生中二つね♪。】そう言うと、カウンターに戻る女将の後ろ姿を、愉快そうに見つめる由美。
『何か?』由美は何かを思ったみたいで、不思議に思い尋ねると
「変わってますよね、この店…お通しが先に出てくるなんて(笑)。」
そう言われ、改めて奇異な事に気付かされる。
『そうだね。慣れちゃってるからか変とは思わなかったな(笑)』
義弟の妻と二人っきりになる事は、由美が嫁いで8年間一度もなかった。
その事で多少なりと緊張していたぼくは、愉快そうな由美の様子に少なからず緊張も解けた。
女将が両手でビールジョッキを持って、テーブルに置く。
来たタイミングで女将に注文を告げると、女将は手早く注文を厨房に告げた。
女将が席から離れると、お互い手に冷えたビールジョッキを持って乾杯をした。
『取りあえず、お疲れ様』そうジョッキを差し出すと、由美も両手で支えたジョッキをぶつけてくる。
「お疲れ様、お義兄さん。」支えたジョッキを口元につけると、由美は静かにビールを喉に流し込む。
ぼくは由美の、白い喉元が上下する様子に思わず、見入ってしまっていた。
「う~ん。美味しい♪えっ、お義兄さん何か?。」ビールを1/3程飲みほした由美にそう問われ、我に返った…。
『ああ、由美ちゃんお酒は強い方なのかな?って思って…。』一瞬、由美に見入ってしまった事を悟られない様、そう言い言い返した。
「うーん、そんなに強くはないですよ。でも、今日はなんか飲みたい気分かな。」
『飲みたい気分か…由美ちゃんでもそんな事があるんだ。意外だな。』
「だって、今日だって行きたくもない忘年会に参加させられて、セクハラ係長の相手でもうヘトヘト…。」
注文した品がテーブルに並べられる。
ビールを追加注文しすると、由美は驚く様なペースでビールをお代わりを続ける。
妻の実家では、大人しい感じしか受けなかった由美が、ビールが進む毎に多弁になって行く。
話の内容は、会社での不満や子どもの事、友人の事であったりした。
ぼくは『そうなんだ…大変だね由美ちゃんも。』そう相槌をうちながら、由美の聞き役に徹していた。
ただ、由美の話の中には家での事は話してくれなかった。
妻の実家の話に興味は無かったが、共通の義父、義母を有する二人の間でその事に触れなかった事が気がかりではあった。
4杯目のジョッキがテーブルに置かれた頃には、由美の頬は赤く染まりテーブルの一点を見つめる由美。
そんな由美を見た事の無かったぼくは、由美を安じて
『大丈夫、由美ちゃん?』と酩酊した由美に問いかけた。
「…あっ、はい。大丈夫です。…ふふ、優しいんですねお義兄さんは…。」そう言われたが、その時は何を意味しているのか、ぼくには分からなかった。
酩酊状態の由美の様子に、連れ帰る事を決めたぼくは、女将に会計を告げると、タクシーを呼んで貰った。
『もう帰るよ、由美ちゃん。今日は実家に送ればいいよね。』そう言って、席を立つと由美を促す。
「もう、帰っちゃうんですか…。」そう言いながら、由美は腰をあげたがその足元は覚束ない。
『そんなに酔ってたら、もう帰らないと…』由美のバックを手に取ると、由美の脇に腕を差し込み上体を支える。
【あらあら、そんなに酔わせて。柊ちゃんこの娘をどうしよって言うの?。】冗談まじりに女将が言う。
『何言ってんだよ…この娘は妹だよ…。』終始、由美に対して如何わしい事を想像してぼくは、見透かされた様な口ぶりに慌てて、否定していた。
『ほら、由美ちゃん。立てる?』漸く立った由美が靴を履くと、腰に手を回し由美の身体を支える。
力なく寄り添う由美の顔が、肩に乗ると甘い香りが鼻に届く。
支払を済ませ、居酒屋を出ると女将が呼び寄せたタクシーが表に到着した。
由美の身体を後部座席に押し込み、身体をタクシーに入れると行先を運転手に告げる。
『○○町まで、お願いします。』
【○○町ですね。】そう言うと、タクシーはゆっくり動き出した。
タクシーが動きだして、暫くすると由美はゆっくり頭を上げ、ウィンドウガラス越しに外を眺めた。
「ここって…。」外の景色を確認するかの様に眺めていた由美が、思い切った様子で突然運転手に告げた。
「運転手さん、ここで降ります。」
国道から脇道に入った林道、暗い道すじには該当もなくタクシーが停まった場所にはラブホテルのネオンだけが灯っていた。