2015/01/31 05:03:05
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「なにかこう、特徴つけるような店にしようとか、なんかないの?」
「競争激しいし、リニューアルする資金もないし、正直、店たたもうかと思ってるんだ」
「店たたんで、どうすんのさ」
しばらく考えこんでいた。
「中村さんには、ほんと長くお世話になってきた。お世話になったついでにさ~、私のこと、もらってくれないかな~なんてね」
照れ隠しのため、とってつけたような、なんてね。
かなり真面目な話しとすぐ気づいた。
俺は返事に困った。
「あ!お世話になるんじゃなくて、お世話する方になるから」
手をパンと叩いた。
「本当にずっと独身だったの?一度も結婚してないの?」
「してない。する気もなかったよ。付き合った男性から、店やめて結婚してってのは何回かあった。けど苦労して持った店はやめれなくて、ならば結婚は諦めようと思って、ずっときたんだ」
「それが今はこの有り様か~」
週末なのに誰もいない店を見渡した。
重い空気がただ流れた。
そこに、カラランとドアが開く音が響いた。
「いらっしゃい」
振り向くと、俺と同様、顔見知りの常連さんだった。
「や~、中村さんも来てましたか」
「さっきの話しは、秘密にしてね」
そう咄嗟に耳打ちされた。
その後、パラパラとは客は来る。
でも繁盛してるとは全く言えない。
俺は会計を済ませ、帰ろうとすると、見送りに出てきた。
「あの、さっきの話し、良かったらでいいから、ちょっと考えてくれる?」
「もらってって話し?」
うんと首を縦にふられた。
「またくるよ。近いうちに」
「これ」
名刺を渡された。
携帯の番号が書かれていた。
仕事用ではない、プライベートの方の携帯だった。
俺はそれを受け取り、帰宅した。
俺は考えた。
人生も半分が過ぎ、この先一人ぼっちは嫌かな~とか、俺には実家に兄家族と両親がいて、いつまでも過去の失敗を引きずるなと言われていた。
スナックのママしてるだけあって、確かにいい女だし、年より多少若くは見える。
でもまさかその女から、そんなこと言われるなど、15年くらい通っていて、想像もしていなかった。
どこまで本気なのかも、掴めないでいた。
何日たった平日の仕事帰り、店に立ち寄った。
臨時休業の札がかけられていた。
俺は名刺にかかれた番号に電話してみた。
「中村です。休みなの?」
「うん、水木はほとんど客ないから、時々閉めてるけど、今から行くから」