私59歳、妻54歳の熟年夫婦で夜の生活も皆無の状態が5~6年に成る。
息子も独立して近くに住んで居る。
その日は何年振りに定時に会社を出た、何十年も通い慣れた通勤道が何となく新鮮に見える。
何時もの駅で降り何時もの道を歩く、その日は未だ夕暮れ前で普段は真っ暗で通らない公園を横切ろうと入って行く。
さほど大きくも無い公園で直ぐに横切り反対側に出ようとして私は足を止めた。公園の駐車場の車の中から妻が降りる姿を見た。
最初は知り合いの車から降りたのかと思ったが、それにしては車が高級車だった。
花柄模様のフレアーなスカートに白っぽいジャケット、車から降りた妻は、その上にコートを素早く着る。
ドアを開けたままの助手席から中を覗く妻、運転席は男性だった。
その男性が助手席の方に体を捩り手を差し出す。
妻も車の中に手を伸ばし男性の手を握る様子が伺える、妻が二度、三度と頷く仕草。
手は直ぐに離され妻の手にはバックとデパートの紙袋が握られて居た。
1~2度振り返りながら妻は足早に家の方角に向かう、男性は車を止めたまま暫く動かない、私は何気ない振りで高級車の横を通った。
男性は見た所、70歳を越えてそうな老人に見えた。
私は誰だろう?と頭の中で知り合いを思い浮かべ男性の正体を考えて居た。
自宅までは5分ぐらいの距離であったが家に着いたのは妻を見かけてから20~30分後だった。
私が玄関に入ると、妻は驚いた様子で私を迎えた、それもその筈で、こんなに早く帰宅するのは、まず無かった私だった。
妻は普段着に着替えており、こんなに早く帰宅するとは思っても居なかったから、と夕飯の買い物に出掛けた。
衣装部屋で着替えをする中で、気に成った私は妻の洋服タンスを開けてみた、結構、明るい色の衣装が掛けてある。
普段は妻の衣服を気にした事など無かった私は少し驚いた。その中に真新しいスーツぽい服が掛けられてあった。
下には先程、妻が手にしていた紙袋が置いてある、紙袋の口は開けられており私は中身が気になり、そっと紙袋を開けてみた、小さく小さくラップされる様にされた物が三枚、それは下着だった。
それも妻のような者が付けるには相応しくないような感じだった。
私は一瞬あの男性の姿が浮かんだ、まさか!妻が?
私の頭は混乱し始めた。