つたない文章を呼んで頂きまして有難うございます。続きです。アパートに着く頃には、雨がぽつりぽつり落ちてきて遠くで雷鳴りが聞こえていた。玄関のドアホンを押すと、いつもの服装でいつもの笑顔の彼女が、赤ん坊を抱いて出迎えてくれた。少しやつれたその端正な顔には、化粧気もなく、薄っすらと涙の痕が残っていた。案内されたリビングテーブルの長椅子に座って、コーヒーを飲みながら話をきいた。子育ての大変さ、ご主人との生活、これから先のことなど多くの不安を話してくれた。家庭を築き、子育てをする過程においては、皆が一度は経験する当たり前のことだった。初めて経験する全てが、不安ばかりが先行してネガティブにならざるをえないのは、正常な人間である証ともいえるのではないだろうか?人生経験が豊かだからと、差し出がましくアドバイスをするのは間違っていると思った。その話に真剣に耳を傾け、共感し励ましてやることが一番のアドバイスだと思っている。不謹慎ではあるが、彼女から信頼されていることがなにより嬉しかった。それと伴に、自分では気づかないうちに別の思いが芽生えていた。雷の音が近づいてきた。リビングの窓ガラスに、白く稲光が走った。耳を劈くような大きな落雷の音がして、窓ガラスが細かく震えた。泣き叫ぶ赤ちゃんを抱きかかえたまま、私の胸元に飛び込んできた。赤ちゃんの温もりを感じながら、彼女の体の震えが服を通して伝わってきた。気がつくと、彼女は震える手で私の手を握っていた。時間の経過に気づかないままに、静けさだけが残っていた。その間も、私の手をしっかり握ったまま、決して離そうとはしなかった。赤ん坊を抱いた彼女の服から伝わる温もりに、得体の知れない胸騒ぎを覚えた。私はいたたまれなくて、抱きしめいたわってあげたい衝動に駆られていた。。放心したように見つめる彼女の瞳に、吸い寄せられるように近づくと小さくうなずいた。静かに目を閉じる穏やかな顔、遠慮がちにその唇に唇を重ねた。ピクリと唇が震えるぎこちない接吻だった。やわらかい唇だった。彼女の口内から発する微かなコーヒーの香りが、私の心を奮い立たせる。小さな唇のかたちをなぞる様に舌を添わせ、時折、舌を忍ばせていった。少しづく彼女の舌が、私の舌の動きに呼応するように絡みついてきた。唾液の交じり合う音とともに、互いの吐息の音が交差していった。赤ちゃんを抱いたままでのこの不自然な体勢ではこれ以上は進めなかった。彼女はそれを察知したのか、赤ん坊を抱いたまま長椅子から立ち上がり、隣の部屋へと姿を消した。しばらく戻ってこなかった。この数分の時が、私の高ぶった感情を静めて、心の中の倫理観を呼び覚ましつつあった。彼女も今の行為に、少なからずも後悔の念を抱いているだろうと思った。早くこの場から、お暇しなければと立ち上がったとき、彼女が隣の部屋から出てきた。赤ちゃんをベビーベットに寝かせつけたと、そして意味深な言葉が返ってきた。「叔父さん、まだ帰らないで・・・もう少しだけここにいて・・・」残り少ない人生、彼女の言葉に欲情が蘇り、倫理観など遠くに吹き飛んでしまっていた。高ぶる感情を抑えながらも、リビングの長椅子に二人並んで座りなおした。静寂のなか言葉を交わすこともなく、どちらからともなく向き合い、唇を重ねた。絡みつく舌の粘膜から湧き出る唾液の音が、二人の思いの激しさを現すようだった。枯渇するほどに吸いあう唾液の音は、あえぎ声となってかえってきた。肉感的な体は、抱きしめると柔らかく汗ばんでいた。これ以上進むと取り返しのつかないことになるのではと、己の僅かに残された倫理観がささやいていた。何年ぶりだろうか、こんな若い女性の体を触ったのは。こんなにやわらかくて繊細な体だったのかと、己の年齢を自覚せざるを得なかった。私のためらいがちな心を察知したのか、自ら私の手を乳房に導いた。そして「私としたいの・・・私とする・・・していいのよ・・・」衝撃的な言葉だった。
...省略されました。