…。
男に少し遅れて瑠璃子は部屋へと入ってくる。
真っ直ぐ向かった先はリビングだったようで、ソファには今しがた脱いだであろう男が羽織っていたジャケットがかかっている。
「彼にいい報告は出来たかい…?」
リビングに入った直後の瑠璃子からは死角。
キッチンの方から男の声がする。
同時にカラン、とグラスに氷が落ちる音。
コポコポ…、と小気味よい音を奏でながら炭酸の混じった液体が注がれていく。
「帰宅後のレモンチューハイが好きでね…。
君もどうだい…?」
薄く笑みを浮かべたまま、男はグラスを持ってリビングに戻ってくる。
何食わぬ顔でソファに腰をおろし、グラスをローテーブルの上に並べると、再び。
「さぁ、こっちへ来なさい。瑠璃子。」
決して強い口調ではない。
年齢的にも若い瑠璃子は、その気になれば逃げ出せるかもしれない。
しかし…どこへ?
絶対にして唯一とも言える自宅。
それはもう今の瑠璃子の帰る場所ではない。
最愛の男に、差し出されたも同然でこの場所にいるのだ。
勝手に帰宅して何を言う?
それも土地勘のないところまで車で走られ、下着今も引き抜かれたも同然の格好で。
男は理解している。
この状況を。
それは瑠璃子も概ね同じであるということも。
そして何より不思議なのは、「いい報告は出来たかい?」という言葉。
まるで隠れてメッセージを送っているところを見ていたとでも言うかのように。
「大丈夫。
彼への連絡はいつでもして構わない。
わざわざ隠れなくても、私は咎めないし邪魔もしない。
しかし、気をつけることだ。
その頻度が、内容が、君の彼への愛情の証とするなら…。
その頻度をくれぐれも落とさないこと…。
忘れるなんてことはあってはいけないし。
煩わしいと思い始めればそれこそ終わりだからね。
そしてこれも忘れるな…。
「何があっても」契約期間終了時に私は君を彼の元へ帰す。」
意味深に少し言葉尻が強く聞こえる。
まるで何かのが必然とでも言うかのように。
「さぁ、瑠璃子…おいで…。
せっかく家に来た記念日なんだ、少しは楽しく飲みたい。」
ゆっくり立ち上がった男はすっと瑠璃子の腰に手を回し、臀を撫でながらソファへと誘う。
少し座面の低いソファは、座ると膝が少し上の角度を向く。
滑らかワンピース生地は肌を滑り、ややずり落ちるそうな角度だ。
…。
キラッと、何かが光る。
正面にあるテレビボードの脇か。
その存在が、隠れて夫にメッセージを送った瑠璃子の行動を知っていた理由なのかもしれない。
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