ーーーーー通勤電車ーーーーー
「おい、いい年してやっていいことと悪いことの分別も付かないのか。警察に突き出されたくなかったら電車から降りろ。」
痴漢の手首を掴み、扉前まで行き丁度空いている扉から痴漢を車外に押し出す、宙斗。
悔しそうな表情の痴漢をホームに残して、電車の扉が閉まる。
その様子を他の乗客が見ている。
被害にあっていた女性の方をチラ見すると、悔しそうに俯き涙を漏らしているのは、
「(えっ、あれは莉奈ちゃん?本当の恋人ならここで、大丈夫?とか言って抱き寄せるんだろうけど、いかんせん俺は海斗の身代わりとして、一度デートしただけだし…知らんふりして車両変えるとするか。)」
混雑気味の電車内で車両を移動する宙斗。
ーーーーー水曜日ーーーーー
待ち合わせ時間少し前に到着した莉奈。
15分程遅れて海斗が
「じゃあ、莉奈ちゃんいつもの店に行こう。」
遅れてきたことに対して一言の謝罪もしないで、先に立ってずんずんと歩みを進めていく海斗。
莉奈が後ろからついてくることを当然とでも思っているように、後ろを振り向くこともしない。
居酒屋の前に到着した海斗は、初めて曲がり角の方に視線を向ける。
視線の先には、曲がり角を曲がって来る莉奈の姿。
それを確かめた海斗は引き戸を開け暖簾をくぐる。
それと同時に「いらっしゃいませ」の声が店内からかかる。
「マスター、今日はまだ誰も来てないんだね。」
「おっ海ちゃんいらっしゃい。今日は一人?」
座敷席に上がり込んだ海斗にマスターが声をかけながら、おしぼりを渡す。
「いやそろそろ連れが来るこ……」
その時莉奈が暖簾をくぐり引き戸を閉める。
「お、来た来た。生と莉奈ちゃんはいつもの〇〇サワーだよね。おつまみは焼き鳥に刺身盛り合わせ、もつ煮ってところかな。」
海斗がビールを何口か呑み、頼んだおつまみが卓上に揃った頃、海斗のスマホに着信。
莉奈になにも断らずに、スマホの表示を見て海斗が店の外に出て行く。
掛かってきた電話に対応した後、電話をかける海斗。
「宙。やっぱりだった、今すぐ来てくれ、〇〇って居酒屋。お前も知ってるだろ。」
「すぐ来いって、〇〇なら走っても5分はかかるぞ。」
「いいからすぐ来てくれよ。」
「今着替えてるからちょっと待て…今エレベーター乗ったから、切るぞ。」
約10分後店から少し離れたところで顔を合わせる、宙斗と海斗。
その恰好はスーツ・シャツ・ノータイと揃ってはいたが、唯一靴だけが違っていた。
海斗の靴はワックスも効いてなくくすんでいたが、宙斗の靴は艶々と黒光りしている。
「中に莉奈ちゃんがいるから、また身代わりやってくれ、頼んだ。」
「全く勝手な奴だ。貸しだからな。(もう我慢ならん、ぶっちゃけてやる。)」
その言葉を背中で聞き走り出す海斗。
居酒屋〇〇の引き戸を開け暖簾をくぐる宙斗。
「いらっしゃいませ…海ちゃん遅かったね、ってそらちゃ…」
マスターがみなまで言う前に、唇に人差し指を立てる宙斗。
莉奈が一人寂しく座っている座敷に近づき
「莉奈ちゃん、待たせてごめんね。」
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