2016/12/13 07:17:46
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その後僕たちは、自販機で缶ビールを買い、サトシちゃんの部屋で僕の童貞卒業祝いをしました。
初めてやった感想とか、前からミズキちゃんを知ってたのかとか、興味本意で色々聞かれましたが、ヘラヘラと適当に話を合わせるだけの僕。
本当は、初恋の相手に酷いことをしてしまい、泣きたい気分でしたが、ただ、ミズキちゃんの初めての男になれたことと、独り占めできたこと。このことだけは、サトシちゃんに感謝していました。その気持ちは今でも変わりません。
それから数日後。放課後僕たちが、体育館の2階でたむろしていると、先生たち数人が、警察官を連れて、乗り込んで来ました。
サトシちゃんとマサキは暴れましたが、結局警察官に取り押さえられ、5人とも連行されました。
容疑は、ミズキちゃんへの集団暴行です。
僕も他の4人から引き離され、一人で少年課の刑事さんから、厳しい取り調べを受けました。
その時教えてもらったことによると…
ミズキちゃんは僕たちが出て行ったあと、自分で身繕いをして、家まで歩いて帰った。
出迎えた母親が異変に気づき、問い詰められても、最初彼女はレイプされたことを隠そうとしたそうです。
でも結局すぐに、病院に連れて行かれ、そこで全てが分かってしまった。
そのまま入院することになったミズキちゃんに、知らせを受けた高等部の生徒指導の先生が、病院で僕たちの写真を見せたので、すぐ僕たちの犯行と分かったそうです。
罰せられることになり、少し救われた気持ちになっていた僕は、すべて素直に記憶通り、刑事さんに話しました。
みんなで襲ったけど、犯したのは僕一人で、中だしもしてしまった、と。
ところが、何回目かの取り調べで、、いきなり刑事さんが怒り出しました。
「お前、本当はやってないんだろ?見張りしてただけなんじゃねえのか?子供の癖に警察に嘘をつきやがって!」
僕は何のことか分からず、キョトンとしてしまいました。
刑事さんの話では、なんとミズキちゃんが、レイプしたのは僕じゃない、と言っているというのです。
途中から目をつむってしまったので、誰だったか分からないが、僕じゃないことは間違いない、と。
そしてさらに、サトシちゃんが、レイプしたのはリーダーの自分だけで、ジュンには見張り役をさせていたので、ミズキの近くにも寄ってない
と供述している、と。
僕は激しく混乱しました。
サトシちゃんが僕を庇ってくれるのはまだ分かるとしても、何でミズキちゃんが?
あのときあんなにハッキリと、僕の顔を見て何度もイヤイヤをしたのに、他の誰かと間違えているはずはありません。
でも結局僕は、意味も分からないまま、二人の厚意を受け入れ、供述を変えました。
そのお陰で他の4人は、少年鑑別所から少年院に行ったのに、僕だけ家に帰されました。
それ以来一歩も家から出ていません。
僕がそのまま引きこもりになったのは、外に出て、事件のことを知っている人に会うのが怖かったから。
狭い街なので、当時結構噂になりました。名前や顔が新聞に出た訳じゃないので、僕が普通に外を歩いていたって、わかるはずなかったのですが。
噂が静まると今度は、仲間の内の誰かが出院して、戻ってきてるんじゃないか。それが怖くなりました。
母親が調べて来たところでは、サトシちゃんも他のみんなも、家族ごと他の街へ引っ越して行ったらしいのですが、それでも安心できなかった。
来る日も来る日も、食事をしてパソコンに向かい、エロゲーや拾い画像でオナニーをするだけの日々。
そんな中、繰り返し考えるのは、ミズキちゃんのことです。
彼女はなぜあの時、警察に嘘をついでまで僕を庇ってくれたのか。
いくら考えても分かりません。
この問いかけは、長い間に、次第に自分に都合のいい妄想に変わって行きました。
もしかして彼女は、あの時の中だしで、妊娠したのでは?
僕たちが取り調べを受けていた段階で、そんなのとが判っていたはずないのですが、そこは女の勘かなにかで…
そして彼女は、お腹の子の父親を犯罪者にするのは忍びないと考えた。
あり得ない話ですか、この妄想は僕を少しだけ楽しい気分にさせました。
その後彼女は僕の子を出産し、一人で育てている。そしていつか、その子の手を引いて、僕の家のチャイムを鳴らす。
「この子はあなたの子です。責任を取ってください。」
妄想を繰り返す内に、だんだん現実と区別がつかなくなって来ました。
ミズキちゃんはいつか必ず来てくれる。それは明日かも知れないし、来年かも知れない。
僕は益々、家から出る訳に行かなくなりました。ミズキちゃんが来てくれた時、万が一にも留守にしていたくないからです。
でも本当は、そんな日は永遠に訪れないことも分かっているのです。
きっと彼女は今ごろ、事件の傷から立ち直り、新しい生活を送っている。
仲間たちも出院して、もう就職しているかも。
僕一人だけあの日のまま。
いったい僕はいつまで、ここに立ち止まっていればいいのでしょうか。