わたしには好きなヒトが二人います。二人共クラスメートで進学校のハイクラスで
す。入学してみると受験勉強はすごく厳しくてわたしはだんだん付いて行けなくな
り精神の均衡を保つ事が出来なくなりました。そんなある日の放課後ふらふらと暗
い廊下を歩いていると柱の影から急に黒い物が視界をよぎったかと思うとわたしの
腕を掴んで引っ張ったのです。わたしは恐怖で声も出せず固まっていると、上の方
から聴いた事のある声で、「かん…」と呼びかけられたのです。顔を上げてじいっ
と見つめると暗闇に白い輪郭が浮かびあがり、なんとそれは同じクラスのJくんな
のでした。Jくんは数字が抜群に出来て人望もある優等生で一度も話しをした事が
有りませんでした。Jくんは優しくわたしの髪を撫でて唇にそっと触れてきまし
た。はっとして逃れようとすると、慌ててなだめるようにわたしの体を壁に押し付
けてキスをされました。暫く制服の上から触ってきましたが突然わたしのタイをほ
どいて引き抜くとわたしを後ろ手に縛ってしまいました。そしてブラウスのボタン
を手早く外しスリップとブラを引き千切るとわたしの白い胸は闇の中に放りだされ
ました。ふとJくんの手が止まると、わたしの姿をまじまじと見つめていました。
再び逃れようとするわたしにJくんは激しく抱きついてきました。大きな手で胸は
揉みしだかれ熱い息が顔にかかってきました。
わたしは処女ではありませんでした。わたしの記憶では当時係つけだった小児科の医師が最
初の相手だったと思います。よく覚えていません。ふとわたしは小さい頃記憶喪失のまま生
きているんじゃないかと思います。それが自我が芽生える時期と同じ頃に。―Jくんはわた
しの体を愛撫しながら、押し殺したような声で「いつも見てた。ずっと…好きだったんだ。
俺の事、気づかなかったの?」と言いました。わたしはびっくりして何もかも信じられませ
んでした。彼の言ってる意味も自分がされている事も。わたしはいつも同じくらいの年齢の
男の子を遠くから眩しく見つめ、憧れて独り子供っぽい空想に耽っているだけでした。彼ら
は若くしなやかで瞳はキラキラ輝いて見えました。よく手紙を貰うことも有りました。わた
しはそのラブレターをお家に帰って誰もいないところで広げ何時までも夢想の中にいるので
した。わたしは極端に臆病で内気でした。誰の顔もはっきり覚えていません。でもそれで良
かったのです。わたしは色んな欠片を繋ぎ合わせてわたしだけの素敵なナイトを作り上げて
満足でした。Jくんもその欠片の中の一人でした。