2021/11/20 11:16:36
(5jW5kFBq)
2時間ほど運転して、予約してあった宿に夕方到着しました。
今夜泊るのはホテルではなく温泉旅館です。
まさに温泉三昧の2泊3日でした。
でも、あまり心は晴れません。
どんどん旅の終わりが近づいていたからです。
(明日帰ったら)
(また変わり映えのない毎日・・・)
そんな憂鬱感がありました。
(帰るの嫌だなあ)
(仕事に行きたくない)
久々の遠出で、テンションが上がってしまったところもあったのかもしれません。
出発したときには、そんなつもりはなかったのですが・・・
結果的には、2日間ずっと不埒などきどきを味わうためのような旅になっていました。
そのこと自体は、自分自身の判断によるものだったので後悔はありません。
でも、ここに来て・・・
その反動のように強い自己嫌悪に苛まされはじめていた私・・・
(私って)
(なんて馬鹿な人間)
男がいる前で、あんなことして・・・
(本当は)
(真面目な私なのに)
古そうな建物でした。
純和風の玄関から入って、チェックインの受付に行きます。
ちょうど先客が手続きをしているところでした。
一人旅らしき40代ぐらいの男性です。
おそらくオートバイの旅なのでしょう。
それらしいリュックとヘルメットを手に持っていました。
私は、彼の後ろで自分の番を待ちます。
(運転、疲れたなあ)
そのライダーさんが、無料の貸切風呂の説明を受けていました。
どうやら早い者勝ちで予約できるようです。
(そういうのもあるのか)
(私も予約しておこうかな)
宿の人が、彼と話しながら時間表のようなものに書き込みをしています。
さりげなく覗き見てみると、もうほとんど埋まっているようでした。
部屋の鍵を受け取ったライダーさんが、その場から立ち去っていきます。
自分の番になって、チェックインの手続きをしました。
口頭で食事場所の案内をされたあと、私も同様に貸切風呂の説明を受けます。
さっきのライダーさんのひとつ前の時間帯か、あとはもう明日の早朝しか空いていませんでした。
今夜のほうを選んで、20時45分からの予約を入れてもらいます。
鍵を受け取って、部屋に行きました。
一息ついてから大浴場に向かいます。
昨日からあれだけのことが立て続けにあったのです。
どうしても、いろいろとやましいことを意識してしまいますが・・・
ここの宿の温泉は普通でした。
ハプニングなど起きようもない、至って普通の女湯です。
(ふう。。。)
泉質は、正直よくわかりませんでした。
でも・・・
お湯の熱さはからだに心地よく、私に疲労回復のひとときを与えてくれます。
他にほとんど人はいませんでしたが・・・
ちょっとだけ落ち着かない気分でした。
アンダーヘアがないことに、なんとなく気が引けている自分がいるのです。
(やだなあ)
(へんなふうに思われたら)
もちろん、ひとりぼっちの私のことを注意して見ている人などいませんでした。
ただの自意識過剰です。
(なにやってんだろ、私)
せつない気持ちになりました。
なんだかうまく説明できないですが・・・
自分が幸せには縁遠いような、どうしてもみじめな気分でいっぱいになってしまうのです。
(あーあ)
(やっぱりまだ帰りたくない)
まもなく日常の世界に戻っていかなければならない・・・
早くもその現実感にとらわれはじめていました。
ついつい、週明けからの仕事の段取りが頭の中をぐるぐるしてしまいます。
まだ旅行中なのに。
(やだやだ)
(ほんと、損な性格だな)
お湯につかりながら、
「はあー」
大きなため息をついていました。
ひとたび悩みはじめると、きりがありません。
いつものことですが、自分の将来が想像できなくて気が滅入ってきてしまいます。
(こんなのが)
(いつまでも続くんだろうか)
お風呂のあとは、ひとりで夕食をいただきました。
『明日帰らなきゃいけないんだ』という気持ちと『まだそんな気分になるのは早い』という気持ちが入り混じって、なんだかリラックスできません。
お料理をいただきながら、ビールがすすみました。
そのうち・・・
ふわーっと気持ち良くなってきて、いつまでもウジウジしている自分が馬鹿馬鹿しくなってきます。
(別にいいじゃん)
(明日のことは明日になってからで)
部屋に戻ってから、いろいろと思い出していました。
なぜだかわからないけど・・・
特に昨日の温泉郷での『パパさん』の目が印象的で忘れられません。
(あのとき)
(どきどきしたなあ)
そして、
(あのおデブさん)
禿げた課長おやじといっしょになって・・・
(はだかの私をじろじろ見てた)
『カワイコちゃん』
『お尻の穴が見えてるよ』
恥ずかしさで死にそうになっている私をからかうあの言葉が、脳裏をぐるぐるします。
馬鹿・・・
(女のそんなとこ見ないでよ)
おじさんたちの馬鹿・・・
そんな現実逃避の非日常とも、もうお別れでした。
おデブさん、
(よかったね)
こんな私の四つん這いを見られて。
(切り替えて)
(明日からまた頑張ろう)
ようやく気が晴れたような心境でした。
時計を見ます。
20時半をまわっていました。
もうすぐ貸切風呂を予約した時間です。
お風呂道具一式を準備しました。
浴衣姿で部屋を出ます。
貸切風呂は棟続きの別館(?)側にありました。
通路の突き当たりを左に曲がります。
奥まったところに狭いスペースがありました。
(ここか)
引き戸の取っ手の横が、使用中を示す赤色表示になっています。
腕時計を見ました。
私の予約時間まであと5分ぐらいあります。
そこにあった長椅子に腰かけました。
引き戸の向こう側に人の気配を感じます。
やがて、
「カチャッ」
カギの開く音とともに、表示が青色に変わりました。
同時に戸が横にスライドして、中から年配のご夫婦が出てきます。
「どうも」
お互いに軽く会釈を交わしました。
髪を濡らしたおふたりが、
「おさきに」
笑顔で角を曲がっていきます。
入れ替わるように、今度は私が中に入りました。
内側から引き戸を閉めます。
滑りよく『すーっ』とスライドする戸でした。
つまみをまわして、
「カチャッ」
カギをかけます。
狭い脱衣場でした。
スリッパを脱ぐスペースを除けば、正味2メートル四方ぐらいといったところでしょうか。
急いで服を脱ぎました。
貸切時間は、45分間しかありません。
内戸を開けると、そこがお風呂場でした。
家庭用お風呂をひとまわり大きくしたぐらいのスペースです。
窓越しに、中庭を望むことができました。
かけ湯をして、湯船に入ります。
肩までつかって、ぎりぎりまで足を伸ばしました。
(ふうー)
いい気持ちでした。
でも・・・
ただそれだけのことです。
お湯につかって、ぼーっと壁を見ていました。
もうメイクも落としてあったので、特にすることはありません。
入る前は『45分しかない』と思っていたけれど、時間的にはじゅうぶんすぎるほどでした。
ほどほどにのぼせたところで、
「ざばっ」
お湯からあがります。
脱衣場に戻って、バスタオルで全身を拭きました。
前かがみ気味に脚を拭いていると・・・
心の中に記憶の声がよぎります。
『カワイコちゃん』
『お尻の穴が見えてるよ』
よりによって、
(ひいん)
そんな恥ずかしいところを他人に見られてしまっている、あのときの『私』・・・
(イヤぁ)
(そんなとこ見ないでよう)
昼間の興奮がよみがえっていました。
そして、瞬時に何かもう・・・
いてもたってもいられないような感情にかられます。
(どきどきどき)
(どきどきどき)
脱衣カゴの中から腕時計を拾い上げました。
文字盤を見ると、私の貸切時間はまだ15分以上残っています。
(どきどきどき)
緻密な計算なんてありませんでした。
ほとんど衝動的ともいえる行動です。
「カチャッ」
引き戸のカギを解除しました。
そして、
「すっ」
ほんの少しだけ戸を開けます。
その細い隙間に目を寄せました。
(どきどきどき)
長椅子が見えます。
人はいませんでした。
さらに少し戸を開けて、首だけ外に出してみます。
(どきどきどき)
通路には誰もいません。
頭の中で、
(どきどきどき)
・・・このまま裸で、あのあたりまで歩いてみる?
悪魔の声が囁きかけます。
(どきどきどき)
なんでそんなことを思い立ってしまったのか、自分でもわかりません。
でも、みるみるうちに衝動に憑かれていました。
もし、このまますっぽんぽんでこの通路を闊歩したなら・・・
そう考えただけで、ものすごいスリルです。
(この私が、だよ?)
(すごくない?)
ただし、そのリスクの大きさは計りしれません。
(ばくばくばく)
(ばくばくばく)
でもたとえば、あの角のところまでなら・・・
ほんの10数メートル、行って帰ってくるぐらいなら・・・
(無理だよ)
(怖いよ)
でも、でも・・・
何度も時計に目をやりました。
(次の人の時間まで、まだ15分もあるんだから)
(今なら、きっとまだ誰も人は通らない)
あのあたりまで行くぐらいなら、
(戻ってくるまで)
ほんの20~30秒ですむんだから・・・
(ばくばくばく)
(ばくばくばく)
心臓が破裂しそうでした。
戸の隙間から首だけ出したまま、
(もしいま行ったら)
頭の中で想像してしまいます。
(もしいま本当に行ったら・・・)
ばくばくばく・・・
(たぶん今、あのあたり)
おっぱいまる出しを恥じ入ることもなく、モデルみたいにランウェイ歩きして・・・
ばくばくばく・・・
(今、折り返す)
無人のままでした。
ああ、
(今なら誰にもみつからずに行って戻って来られた)
行けばよかった・・・
(どうせ人なんて来ないよ)
(行く?・・・行っちゃう?)
引き戸を全開にしました。
一見重たそうに見えますが、音もなく『すーっ』とスライドしていきます。
行こうと思えばいつでも行けました。
足がすくんだまま、
(ばくばくばくばく)
一糸まとわぬ、全裸のままの『私』です。
(う・・・う、ぅ・・・)
どうしても足が出ませんでした。
もし、
(いきなり人が現れたら)
どう考えても言い逃れできない・・・
(ばくばくばく)
(ばくばくばく)
無理でした。
なんとか思いとどまった・・・
というか、やっぱり私にはそんな無茶をする度胸はありません。
再び、
「すーっ・・・びたっ」
元どおりに入口の戸を閉めていました。
でも、いちど火がついてしまったアンモラルなこの気持ち・・・
(どきどきどき)
宿の人が予約表に書き込んでいたときのことを思い出していました。
次の21時30分に、この貸切風呂に来るのは・・・
チェックインのときに見かけた、あのライダーさんに違いありません。
つまり、男性ひとりだけの可能性が大でした。
(どきどきどき)
イメージが浮かんでいました。
時計に目をやります。
もう私の貸切時間の残りが5分を切っていました。
あの男性の気が早ければ・・・
さっきの私みたいに、そろそろやって来たとしてもおかしくありません。
(どきどきどきどき)
戸に耳をくっつけて、通路の音に神経を研ぎ澄ませます。
胸の鼓動がどんどん早まっていました。
待つ1秒が、それこそ1分にも感じられるようないたたまれなさです。
そのハラハラ感に、気持ちがどんどん高揚していました。
脳内で何度もイメージをシミュレートします。
時計を見ました。
もう21時27分・・・
(どきどきどき)
(どきどきどき)
そして、
(来た)
聞こえてきました。
わざわざ耳を澄ませるまでもありません。
「ぱたっ、ぱたっ、ぱたっ・・・」
通路に響くスリッパの足音が遠くから響いてきています。
あの人以外には考えられません。
戸にくっつけていた耳を離しました。
(ひいん)
脱衣棚の前に戻って、手に持っていた腕時計を置きます。
すさまじいプレッシャーでした。
興奮の息苦しさに押しつぶされそうです。
私は悪くありません。
ただ、入口のカギの施錠をちょっとミスしただけ・・・
あとは何ひとつ隙のない、完璧な女です。
(どきどきどき)
一瞬の勝負でした。
脱衣カゴからボディクリームの青いボトルを取っていました。
手のひらに出します。
戸のほうに背を向けました。
立ち姿勢のまま、思いっきり前かがみになって・・・
ふくらはぎにクリームを伸ばします。
無造作に足幅を開きながら、立ち位置を計算しました。
前屈姿勢をキープして、『恥部』がまる見えの後ろ姿になるようにします。
(ばくばくばく)
(ばくばくばく)
「ぱたっ、ぱたっ・・・」
緊張感がMAXです。
外から見れば、取っ手の横は青色表示のはずでした。
とにかく狭い脱衣場です。
この戸を開けようものなら、その2メートル先には・・・
課長おやじたちの、
『おーい、聞こえないの?』
からかうような声がまた聞こえたような気がしました。
『お尻の穴が見えてるよ』
実際、はしたないほど肛門がまる見えのポーズです。
女の私がそんな恥ずかしいところをお披露目状態にしたまま・・・
(いやんいやん)
(こんな格好)
その一瞬を待ち受けながら、
(ひいいい)
ふくらはぎの同じ場所にクリームを伸ばし続けています。
足音が止まって、
(来るっ)
実際には2~3秒の出来事にすぎません。
でも、あたかもスローモーションの世界に入りこんだかのような感覚でした。
背後で、
「すーっ」
おもむろに引き戸がスライドしています。
その瞬間、
(ひいいいん)
はっと息をのむような気配とともに・・・
反射的に、すぐまた閉じられようとしている引き戸・・・
同時に、
「きゃ」
蚊の鳴くような声を発しているこの女です。
後ろを振り向きかけたときには、
「すみません!」
慌てた男性の声とともに、戸が『びたっ』と閉まっていました。
私は入り口に駆け寄って、
「カチャッ」
きちんとカギをかけます。
(ばくばくばくばく)
(ばくばくばくばく)
現実の出来事としては、ただそれだけの一瞬のことでした。
それだけのことかもしれませんが・・・
私にとっては、
(イヤああん)
今こうして立っているのがやっとなぐらいの恥ずかしさです。
完全に涙目でした。
(絶対に視界に入ってた)
急いで下着を身につけます。
浴衣をまといました。
羞恥の興奮に、ひざの震えがおさまりません。
(いやん、いやあん)
完璧に『ハプニング』として成立していました。
この女は悪くありません。
たまたま、カギをかけ損ねてしまっていただけ・・・
よりによってあんな姿勢のときに戸を開けられるなんて、気の毒すぎるぐらいです。
時計を見ました。
1分前です。
出ていかなければなりません。
あの男性も、まったく悪くありませんでした。
予約した時間の2~3分前に来て青表示が出ていれば、もう空いていると思って当然です。
(う、うう・・・)
羞恥の極みでした。
今からあの人に、自分の顔を晒さなけらばなりません。
手荷物やタオル類を持ちました。
自分のスリッパをはいて、カギを外します。
「カチャッ」
おそるおそる戸を開けました。
長椅子に腰かけていた男性と、瞬間的に目が合います。
やっぱり、あのライダーさんでした。
出てきた私の容貌を目の当たりにして、大きく目を見開いています。
逆に、私は・・・
(ひいいん)
もう顔を上げられませんでした。
視線を逸らしたまま、恥ずかしそうに立ち去るのみです。
(ひいいい)
無言でその場をあとにする私・・・
背後で、
「びたっ」
お風呂の入口が閉じる音がしました。
顔を上げて振り向きます。
もうライダーさんの姿は中に消えていました。
私は、足音を消して再び引き戸の前に戻ります。
(ばくばくばく)
すべて演技でした。
いえ、恥ずかしいのはもちろん本当です。
男の人にあんな後ろ姿を見られてしまって、死ぬほど胸苦しい私・・・
でもそれ以上に自虐の快感にしびれていました。
いまこの戸の向こうでは、
(どんな顔してニヤついてるの?)
偶然にもお尻の穴まで見えちゃってた女・・・
出てきたその女が、
(こんなに『美人』で)
あの人、目がまんまるになってた・・・
(今夜ぜったい)
(私を思い出しながらオナニーするでしょ?)
まさに自虐的思考としか言いようがありません。
最初から計算して『わざと』棚の上に腕時計を置き忘れてきた私です。
あの男性が中に入って、まだ15秒・・・20秒?
今なら、あの彼もまだ服は着たままのはずです。
「コン、コン」
戸をノックしながら、
「すみません」
中に声をかけました。
「はい?」
すぐ向こうから男性の声が返ってきます。
「すみません、忘れものをしてしまって」
「取らせてもらえませんか」
遠慮がちに問いかけます。
どきどきして、
(ひいいん)
頭の中が真っ白になりそうでした。
「カチャッ」
引き戸がスライドして、ライダーさんが現れます。
無言ながら、
『あ・・・』
そんな表情で彼の鼻の穴が膨らんでいました。
まだTシャツとスウェットパンツのような姿です。
(私のあそこ見たんでしょ?)
よりによって、あんなことがあった直後の相手なのに・・・
そんな引け目いっぱいの顔で、
「すみません」
中に入らせてもらいました。
いそいそと脱衣棚に歩み寄ります。
(ねえ、こんなに)
(キレイな子の)
・・・見たんでしょ?
気まずいなんてもんじゃありません。
露骨に顔を見られているのを感じながら、棚にぽつんと置き去りにされていた腕時計を取りました。
(ねえねえ、この子の)
(『お尻の穴』どんなだった?)
湯上がりですっぴんの私です。
おそらく耳まで真っ赤になっているはずでした。
この彼が、あとで気持ちよくオナれるように・・・
一瞬しっかり相手と目を合わせてやって、
「すみません」
そしてすぐさま戸の外に出ます。
(ひいん)
(ひいいいん)
ひとりで顔を火照らせながら・・・
自分の部屋へと逃げ戻る、恥ずかしさでいっぱいの『私』でした。
(PS)
翌日、帰途について旅行は終わりました。
長文に最後までお付き合いいただいてありがとうございました。