ルームミラーで何度も後方を確認してしまう自分がいます。
まさに逃げるような気持ちでした。
心臓がばくばくしています。
ハンドルを握りながら、胃がきゅうきゅうしていました。
今は早く、
（町に戻りたい）
その一心でアクセルを踏んでいます。

（もうだいじょうぶ）
（わかってる、大丈夫）

わかってはいますが、気持ちが落ち着きませんでした。
いろいろな光景が繰り返し頭の中をフラッシュバックしています。

（どきどきどきどき）

一本道のあの山道で、自分の気づかないうちに後ろから追い抜かれるなんてことはありえませんでした。
でも根暗くんのバイクは、
（もう、とまってなかった）
じゃあ、野湯で服がなくなってたのはなぜ？

（どきどきどきどき）

それとも・・・
あのバイク自体が、そもそも根暗くんのものではなかったの？
でも、
（あの人）
ヘルメットを持ってたし・・・

まだ戸惑いの気持ちでいっぱいでしたが、とりあえずなんとか無事にあの場を去ることができたのです。
だからもう大丈夫だとわかってはいるのですが・・・
漠然とした困惑の『余韻』を完全に引きずっている感じでした。
なにかこう、
（あのときのオートバイ）
それが突然ルームミラーに現れるんじゃないかと心配してしまうような、もやもやする心理状態です。

（どきどきどきどき）

それでも、時間の経過とともに頭が働きはじめていました。

私が泣きそうな顔で山道へと消えていったあと・・・
やはり根暗くんは置き去りになっていた私の服を持ち去ったに違いありません。

私が山道からそれて一心不乱にひとりでしていたとき、私は彼がすでに自分より先を行っているんだと思いこんでいました。
だから私は、
（もう山道の様子に気を払ってなかった）
（絶頂に向けて没頭してた）
大の字になって空を見上げていたあのときだったら・・・

（そのタイミングで彼が通り過ぎていったなら）
（お互いに気づかなかったかも）

非常にシンプルですが、そう考えればすべてにおいて整合性がとれます。
ただし、あくまでも推測にすぎませんでした。
実際のところを確かめるすべはありません。
あ、でも、確か・・・くしゃくしゃにしたメモ紙・・・

（後でいい）
（何か考えよう）

町に入ってしまう前に、どこかでまともな服に着替えなければなりませんでした。
不安な気持ちが続いていたせいで、
『きゅうぅ』
胃が痛くてなりません。
とはいえ、最高にいい気分でした。

（あの子、私を本当に女子アナだと思ってた）

アナウンサーだと告げた私のことを、
（憧れの眼差しで見てた）
いっしょに歩いてたとき・・・
あんな羨望の目を向けてくれてたのに・・・

（その男の子の前で）

素っ裸の私は、
（あんな前屈みになって）
靴ひもなんか・・・

（ぜったい見られてた）
（きっと食い入るような目で）

いまさらながらに赤面しそうでした。
もやもやしているのに・・・
気持ちはどこかまだ、演技していたあのときのままです。
が・・・

（あっ）

どきっとしました。
はるか前方に赤い光が揺れているのが見えてきます。
検問かと思いました。
べつに検問だったとしても問題はないのですが・・・
山の中であんなことがあった後なので、なんだか不自然におどおどしてしまいそうです。

（あ、なんだ）
（ちがう）

接近していくにつれて、はっきり見えてきました。
道路工事（？）で片側車線のみの通行になっているようです。
赤い光は、誘導員をしている人の誘導棒でした。

（ふー、焦った）

指示されたとおりに停止します。
先に向こう側から車が来るようでした。
それを待ちながら・・・
（なんか）
どきどきしてしまいます。

ひざ丈のスカートに、Ｔシャツという姿でした。
車内にいるからあの誘導員さんにはわかりませんが・・・
どちらも下着をつけていません。

（どきどきどき）

誘導員の方は初老のおじさんでした。
かたちだけ申し訳なさそうにお辞儀してくれていましたが、心がこもっているわけではありません。
運転席で、ちょっとだけ腰を浮かせました。
隙をみてスカートのすそをおなかまで捲り上げます。
そして、そのままウエストに挟んでいました。
もちろん見えてはいないのですが、
（ああ、あ）
下半身まる出しでシートに座っている私・・・

（どきどきどき）

おじさんが私を見ました。
上半身しか視界に入っていませんから、そのことに気づかれることはありません。
ああ、
（だけど）
上半身だって・・・

紺のＴシャツだから透けることはありませんでした。
でも、もしかしたら乳首のポッチが浮いてしまっているかもしれません。

（どきどきどき）

対向車が走り抜けていきました。
おじさんがお辞儀して誘導棒を横に振り流してくれます。
小さく会釈して、発進しました。
片側走行区間を抜けて、また元どおり走りはじめます。

（どきどきどき）

あらためて感じていました。
私は、
（馬鹿だから）
こういうことが好きなんです。
長年ずっと真面目に頑張ってきたからこそ築くことのできた、日々の自分があるのに・・・

（私だって人見知りだし）
（内気な性格だから）

だからいつもひとりで・・・
こっそりこんなことばかり・・・

いつのまにかけっこうな距離を走ってきていました。
少しずつ交通量も増えてきてしまっています。
自分の前後にも車の姿がありました。
対向車が、
「びゅん・・・びゅん・・・」
数秒おきにすれ違っていきます。

（着替えなきゃ）
（周りがまだ山のうちに）

表示が出ているのが見えました。
本当はぜんぜん違う名前の固有名詞でしたが、それをここには書きません。
例えるなら『見晴らしの丘』的な感じの看板標識でした。
まもなく行くとそちらに向かう側道があるようです。
カーナビのマップで確かめると・・・
いま走っているこの本道を迂回して、でもまた再びこの道（本道）に戻ってくる感じでした。

（トイレぐらいあるかもしれない）
（そこで着替えよう）

その側道への分かれ道が見えてきます。
ハンドルを切りました。
一車線分しか幅のない一方通行を登っていきます。
けっこうな急坂で、
「ギュオオオオ」
エンジンが変速しながら唸りを上げていました。
いくつかのつづら折りを経て、数分走ったところで見えてきます。

（ここのこと？）

道路わきの路側帯が広くなっているというだけの見晴らし場がありました。
車３～４台分のスペースがあるだけです。
駐車して、車から降りました。
こんなところでこの時間ですから、だーーーれもいません。

（ちょうどよかった）

まあ、着替えるにはうってつけでした。
とりあえず眺めを見てみようと、数メートル歩いてガードレールの際まで近づきます。
丘の上から町の方角を見渡すような景色でした。
真昼だったら、また違うのかもしれませんが・・・
夕方になりかけつつある今、これといって感動はありません。
でも、
（ふー）
ほっと息をつくような安らぎを感じました。
できれば、ホットコーヒーでも飲みながらちょっと休憩したい気分です。

（水しかない）

車内からコンビニのレジ袋を取りました。
中にはまだ開けていないミネラルウォーターのペットボトルが入っています。

景色を眺めながら、水を口にしました。
下のほうに目を向けると、先ほど走っていた本道が見えています。

（さっきの分かれ道が、あそこか。。。）

標高差では数十メートルしか違わないと思いますが、丘の上からだとぜんぜん見えている景色が違いました。
走ってきたつづら折りも見下ろすことができます。

（やっぱり）
（コーヒーがよかったな）

町はまだはるかに彼方でした。
それでもいくつかの家に明かりがつきはじめているのがわかります。
あたりまえだけど・・・
あのひとつひとつの明かりの中に、それぞれの人の生活があるんだと思いました。
そして、ちょっとせつなくなります。

（孤独。。。）

私はひとりぼっちでした。
親や家族や、近しいといえる親族もいません。
ときどき思うことがありました。
自分の性格からして、もう結婚することはないと思いますが・・・
もしそうなったときには、
（家族の顔合わせとか）
みじめだろうな・・・

（その代わり私には）
（失うものがない）

そういうひねくれた僻みが、常に心のどこかにありました。
その感情は、
（どきどきどき）
つまらない強がりに変化して・・・
いつも私自身を現実から自己逃避させようとするのです。

（私にだって）
（誰も知らない『私』がいる）

スカートをまくり上げました。
その場にしゃがみます。
道ばたでいきなり、
「しゅぁー」
何時間かぶりのおしっこをする私・・・

（ああ・・気持ちいい・・・）

許されるべきではないその行為に、アンモラルな快感を噛みしめていました。
世の中の男たちに言ってやりたい気持ちです。
ねえみんな、
（私、いま・・・）
こんなにお行儀悪いことをしてる・・・

（見ないで・・・）
（こんな私なんかを）

おしっこが終わると同時に立ち上がっていました。
レジ袋の口を広げて、
（許して、それは許して）
地面に置きます。
スカートをまくり上げたまま、またぐようにしゃがみました。

（ああ・・・だめえ）
（そんなことしちゃイヤあ）

踏ん張るまでもありませんでした。
眼下に見える車の流れを目で追いながら、
「ぽとっ・・・ぽとっ」
少しだけう〇ちが出ている私がいます。

（ああああ）
（気持ちいい。。。）

自分で自分を抑えられませんでした。
立ち上がって、
（だめえ、だめえ）
スカートをおろしてしまいます。
同時にスニーカーも脱ぎ捨てていました。

（だいじょうぶ）

誰もいない丘の上です。
あの分かれ道から側道に入ってくる車がないことを見張っておけば安全でした。
もし現れても、
（ここまで３～４分はかかる）
私を見咎めることはできません。

（ばくばくばく）

こんなところで下半身まる出しでした。
ガードレールに両手を置いて、お尻を後ろに突き出します。

（やめて・・・見ないで）

すぐにも出そうでした。
少しだけ足幅を開き気味にして意識を集中します。
立ったまま、あっ、あっ、
「ぼとっ・・・」
う〇ちをする私・・・

（ああ・・・こんな格好で）
（見ちゃいや・・・）

全身を震わせながら、
「ぼとっ・・・ぼとっ」
後ろにまる見えになるよう背中をのけぞらせる私・・・

背徳感に恍惚としました。
こんなにも後ろめたい行為だけど、
（でも）
ここにいるのは、私だけ・・・
なんだかもう自分が自分でないような感覚です。

（ああ）

最後は腰を落として、
「ゆらーっ、ぼとっ」
長いのを出した『彼女』・・・
意識がふわふわになったまま、車に戻ってドアを開けます。
ポケットティッシュを取りました。

（片付けなきゃ）

う〇ちしたお尻を拭きもせずに歩いている自分が快感です。
汚れているのに、
（どきどきどき）
そんなのは後まわしにして、ガードレールのところにひざまずきました。
地面に落としたものをティッシュでつまんで・・・
レジ袋の中に捨てていきます。

（嫌っ、くさい）

はたから見れば、みじめすぎる姿でした。
拭いてないお尻の穴を後ろに向けた格好で・・・
下半身まる出しのまま、ひざまずいています。

（あああん）

その姿で、ひととおり自分のう〇ちを拾い終えました。
ティッシュも袋の中に捨てます。

新しいティッシュを１枚出して、四つん這いになりました。
誰かに拭いてもらう姿を想像しながら、
（いじわる・・・いじわる・・・）
自分のお尻の穴を拭きます。
ああん、拭くだけじゃキレイにならない・・・

（汚いままは、嫌あー）
（ウォッシュレットしなきゃイヤあー）

丘の下に目をやりました。
分かれ道のところを見ます。
だいじょうぶ、
（誰も本道からは曲がって来ない）
Ｔシャツを脱ぎ捨てました。
一糸まとわぬオールヌードになって、ペットボトルを手に取ります。

（あああああ）

アスファルトの上で仰向けになっていました。
路側帯の真ん中で、
（あああー）
左右の脚を宙に浮かせる私・・・
そのまま両方のひざを胸まで引き寄せます。
まるでオムツを換えてもらう赤ちゃんのような格好で、お尻の穴を洗いました。

ひいいん、
（見ないで）
恥ずかしいよ・・・

何度かに分けてペットボトルの水をかけながら、
（ひいいん）
指先でなぞります。
言葉にできないみじめな感情・・・
その自虐の思いが快感でした。
ちゃんとお尻をキレイにした私は、からだを起こして立ち上がります。

帰ろう、
（どきどきどき）
もう帰らなきゃ・・・

車のドアを開けました。
ボストンバッグから明日着て帰る予定だった分の服を引っ張り出します。
きちんと着て、身なりを整えました。
ドアミラーに顔を映して、髪の乱れを直します。

（だいじょうぶ）

忘れ物がないか周囲を確かめて車に乗り込みました。
エンジンをスタートさせて発進します。
宿泊予定のビジネスホテルに向かう『私』でした。


翌日・・・
飛行機で羽田に降り立ちました。
そこからは電車を乗り継いで帰ります。
混んでいたので座ることはできませんでした。
網棚にボストンバッグを載せて、吊革につかまります。

日常の世界でした。
何もかもが普通の光景です。

正面の車窓に、吊革につかまっている自分の姿が映っていました。
いつも通りのまともな私の姿です。

時計を見ました。
昨日の今頃は、ちょうど△△温泉のロビーで・・・
（ソファのおじさん）
あの人の強烈なニヤニヤ顔が浮かんできます。

（たった１日前。。。）

白髭のジイさんに・・・
お尻を撫でられて泣きそうだったのも昨日の朝・・・

なんだか現実感がありませんでした。
ガラスに映っている自分を見ていると、すべてが遠い昔のことのように思えてきます。

目の前に座っているスーツのおじさん・・・
その隣りの人も、あっちの人も・・・

いま自分の前にいるこの女にあんな裏の一面があると知ったらどう思うことでしょう。
教えて驚かせてやりたい気もしますが、そんなことはできません。

（書いてみるかー）

久しぶりに、しっかり腰を据えて体験談にしてみようと思いました。
実質的には昨日１日だけの体験談になるとしても・・・
それでも、きっと膨大な長さになってしまうに違いありません。

そしてこのとき決めた『私』でした。
とりあえず根暗くんのくだりまで書き終えたら、
（メールを送ってみよう）
いちどはくしゃくしゃにしたメモ紙ですが、捨てずに持ってきてあります。

（そのためにやるべきことは）
（えーと、えーと）

乗換駅が近づいてきていました。
ドアが開いてホームに降り立ちます。
長いようであっという間だった２泊３日の旅が終わりました。


（ＰＳ）
最後まで長文にお付き合いいただいてありがとうございました。
今日、３週間ぶりにやっとお休みです。
１２月は忙しかった・・・疲れた・・・まだぜんぜん疲れが取れてない・・・
そして、大掃除はいつやればいいのだー！