2021/11/07 22:10:57
(4fW/CS/r)
2日目の早朝・・・
朝食をとったあと、私はすぐにホテルを発っていました。
それからここまでずっと、すでに7時間近いロングドライブです。
(さすがに疲れた)
もともと運転は嫌いなほうではありません。
とはいえ、もうとっくに昼をまわっていました。
おなかも空いてきています。
(でも・・・)
(もうすぐ着く)
全身の血が沸き立つような高揚感がありました。
車窓の外は、すっかり見覚えのある景色になっています。
くねくねした山道を登っていくように国道を走らせながら、某キャンプ場の前を通過しました。
昨夜泊ったホテルのお風呂で、生涯2度目・・・
アンダーヘアをすべて剃り落としたのは誰にも内緒です。
ある場所から、わきにそれるような道に車を乗り入れました。
そのままショートカットするような感じで、どんどん山の中に入っていきます。
未舗装路を経由して・・・
(久しぶりだなあ)
やがて、道路沿いに1軒、2軒・・・
温泉宿が見えてきます。
そのまま通過して、さらに道路を曲がったわきのところ・・・
目立たない駐車場が現れました。
車を入れて、いちばん奥のところに停めます。
(やっと着いた・・・)
(遠かった)
森の歩道の入口が見えていました。
あそこから歩いて進んでいった先には、渓流沿いの野天温泉があるのですが・・・
今この駐車場に、私の車以外には何も停まっていません。
現時点では、このままそこに行ったとしても誰もいない可能性が大でした。
(食べよう)
(おなかすいた)
途中のコンビニで買っておいたサンドイッチとコーヒーでお腹を満たします。
食べながら、
(楽しかったな)
昨日訪ねた温泉郷でのことを思い出していました。
さすがの有名温泉郷・・・
お湯も雰囲気も最高でした。
そして、混浴も・・・
(心臓止まるほど)
(どきどきしちゃった)
脳裏に記憶をよみがえらせるだけで、何度でも胸がどきどきしてきます。
何よりも驚いたのは、居合わせた男性たちのほとんどが礼儀正しかったことでした。
ある意味、ああいう場にはそれなりにマナーや不文律が存在するのでしょう。
(ここの野天風呂とはぜんぜん違う)
かつては何度となくこの地を訪ねて来ていた私でした。
ここは、仮に名前を出したところでほとんど誰も知らないような超ローカル温泉です。
(景色は最高だし)
(お湯もいいけど・・・)
自分的には、いい思い出も、すごく嫌な思い出もある場所でした。
でも、けっきょく・・・
またこうして、この地に来てしまっている『私』です。
(のんびりお湯に入りながら)
(誰かが来るのを待つことにするかな)
トートバッグを持って、車から降りました。
外に出てみると、信じられないぐらいに空気が新鮮です。
(生き返る・・・気持ちいい・・・)
森の香りと土の匂いがしました。
両腕を天に突き上げて、
(んんーーーっ)
全身で伸びをします。
「ふう」
万一の紛失を警戒して、車のキーをある場所に隠しました。
胸が躍るような気分で森の歩道へと入っていきます。
(なんかもう、感無量・・・)
なぜなのかは自分でもわかりません。
別にここが地元というわけでもないのに・・・
こうして、また『戻って来た』という嬉しさがあるのです。
(遠かったけど)
(来てよかった)
私がもともとお風呂好きなのは、先にも書いたとおりです。
昨日の温泉郷での主目的は、あくまでも『温泉』でした。
混浴に入ったのは、旅先での冒険心からです。
(パパさんと1対1になったときとか)
(死ぬほど緊張しちゃった)
今日は、もう完全に『どきどき』そのもののほうが目的になっていました。
同じように温泉に行くにしても、昨日とは手段と目的が真逆です。
(どうしよう)
(やっぱり外国人作戦かな)
木の根がごつごつ出ているような森の歩道を、どんどん踏み入っていきました。
片側は山の斜面、もう片側は崖のようになっています。
(懐かしいな)
(最後にここに来たのはいつだっけ)
すでに水の音が聞こえてきていました。
この崖のずっと下には、谷川が流れているのです。
(わかってる)
(いま行ったって、どうせ誰もいない)
やがて朽ちた木の表示板が見えてきました。
『○○湯→』の文字が、かすれて消えかけています。
(昔と変わらないなあ)
表示板の指すほうに下りていきました。
急こう配の、階段道です。
崖に沿うようにカーブしていって・・・
(ああ・・・)
眼下に渓流が見えました。
川沿いにたたずむ無人の岩風呂が、鄙びた印象を深めています。
ここの野天温泉のお風呂は混浴ではありません。
いま見えているあの岩風呂が、男湯でした。
男湯スペースの中を歩いて突っ切った先にある、あの戸が女湯スペースの入口です。
(やっぱり誰もいない)
階段道を下りきって、男湯スペースに降り立ちました。
そこは、まさに無人の渓谷です。
清流のせせらぎと、彼方にそびえ立つ山々・・・
この季節にはこの季節の、最高の景色がそこにはありました。
辺りには誰もいません。
自然と涙が出ました。
なぜだろう・・・
昔を思い出して、からだが熱くなります。
(あの頃に)
(また戻りたい・・・)
輝いていた20代のあの頃・・・
その先に、まさかこんな孤独な日々が待っているとは思わなかった・・・
(でもこの場所は)
(何もかもがあの頃と同じ)
岩風呂の横を歩いていきました。
奥の戸を抜けて、石垣のようになっている部分を折り返します。
昔と変わらぬ女湯スペースがそこにありました。
(やっぱり)
(私ひとりで誰もいない・・・)
女湯スペースは、男湯のように広くありません。
岩に囲まれた狭いエリアの中央に、ただ小さな湯だまりがあるだけです。
正面に渓流の眺め・・・
外からの目隠しとして、すだれが左右に立っています。
あらためて正面の眺めを一望します。
数多の記憶がよみがえって涙がとまりませんでした。
まぎれもない・・・
ここは、かつての私の『勝手知ったる』場所です。
(何も変わらない)
(誰もいない)
服を脱ぎました。
下着もとって全裸になります。
トートといっしょに、手近な岩の上に置きました。
(私だけ・・・)
川の水面に陽の光がきらきら反射しています。
無人の渓谷に、
(誰もいない・・・)
清流のせせらぎの音だけがときを刻んでいました。
(きれい・・・最高に神々しい・・・)
露天スペースの端っこの部分は、護岸のコンクリートになっています。
わずかな平面部分でした。
真っ裸のまま、直にお尻をつけて座ります。
(最高・・・)
仰向けに寝そべっていました。
日差しのあまりの心地よさに、全身の筋肉が弛緩します。
澄み渡った空の青さ・・・
はるか上空に秋の雲がゆっくり流れていました。
目尻からにじんだ涙が、幾筋も耳側に伝い落ちていきます。
自然と手が股間に伸びていました。
そして、
(ああ、そうだった)
思い出したようにアンダーヘアが無くなっていることに気づきます。
いちばん敏感な部分に指先を当てていました。
(私・・・)
(・・・だめな女)
これを読んでくれている方たちに、たとえ信じてもらえなくても・・・
私は、人一倍『お堅い』性格の人間です。
そのくそまじめさのせいで、人生どれだけ損をしてきたことか。
いま私は、大自然の空の下にいます。
(どうせ誰もいない)
(誰も見てない)
指先を細かく震わせればいいだけのことでした。
そうすれば・・・
この大自然の開放的な空気に包まれたまま、私はひとりで自分だけの世界に酔いしれることができます。
でも、我慢しました。
(オナニーなんて、いつでもできる)
からだを起こしました。
置きっぱなしの古い木桶を使って、かけ湯をします。
(昨日みたいに)
(どきどきしたい)
お湯につかりました。
景色を眺めながら、贅沢気分にひたります。
(ああ、いいお湯・・・)
(独り占め・・・)
いつまででも待つつもりでした。
男湯スペースに誰か男性が現れるのを。
湯だまりのふちに腰かけたり、またお湯につかったり・・・
1時間ぐらい、のんびりすごしていたでしょうか。
ついにその瞬間がやって来ました。