私は、まもなく新しい生活を迎えます。年度末に会社を辞めてからは、とりあえず実家に戻っていました。6月からは海外で暮らすことになりますので・・・現在は、それらの準備に追われる慌ただしい日々を送っています。そんな中、ぽっかりと予定の空いた日がありました。来月下旬には日本を離れることになる私です。(これで最後だ)(行ってみよう)親の車を借りました。早起きをして実家を出発します。県境をまたぐ数時間のドライブを経て、ようやく目的地が近づいてきました。いつも、ただ前を素通りするだけだったキャンプ場・・・そして、山の中へと入っていく分岐点・・・舗装されていない細い道と、以前に一度だけ泊ったことのある温泉旅館・・・もう、一生この場所に来ることはないでしょう。すっかり慣れ親しんだ(?)このあたりの景色も、すべて今日で見納めでした。2軒・・・3軒と、小さな温泉宿の前を通過して・・・やがて目立たない駐車場が見えてきます。そのいちばん奥に車を停めました。時計を見ると、もうお昼近くになっています。ドアのウインドウを下ろしました。森の匂いがします。(清々しいな)山の空気を胸一杯に吸い込みました。爽やかに晴れ渡った、とても気持ちのいい天気です。途中のコンビニで買っておいたサンドイッチを、車の中で食べました。奥へと続く、森の歩道が向こうに見えています。あそこを行った先にある、渓流沿いの野天風呂・・・私にとっての、特別な場所・・・(今日で最後だ)コーヒーを飲みながら、少しだけ感傷的な気持ちになりました。いろいろな思い出がよみがえってきます。いい思い出も、そしてすごく嫌な思い出も・・・そのひとつひとつを、今でも鮮明に脳裏に思い浮かべることができました。(よかった)(こんなに天気に恵まれて)準備を整えて、車から降ります。あとは、祈るばかりでした。(今日は、誰かいるかな?)・・・いなければ、それまで。どう転んでも、次の機会はもうありません。森の歩道に足を踏み入れました。しばらく歩いていくと、朽ちた表示板が見えてきます。(どうか私に)(どきどきできるチャンスをください)脇に下りていく階段道・・・その急こう配を、(お願い、誰かいて)胸をときめかせるような気持ちで、一段一段下っていきました。山の谷間にある、渓流沿いの野天風呂・・・私の知る限り、どこよりも美しいその岩風呂が眼下に広がってきます。(わーお)予想していなかった展開でした。下に見えているのは男湯の部分ですが、お年寄りが10人ぐらい入っています。(なんで?)(どうなってるの?)こんなに多くの人が同時にここにいるのを見たのは初めてでした。階段道を下っていきながら、すぐにも決断を迫られてしまう自分がいます。(え、え・・・)(どうしよう?)
...省略されました。