あの場所へ②(続きです)車をスタートさせて、私は慎重に運転していました。林道を、のろのろ車を走らせます。もう何度も通ったことがありますから、道に迷うこともありません。やがて分岐点が見えてきます。ハンドルを切りました。何度も行ったことのある、あの野天温泉を目指します。バックミラーに、光が見えていました。(オートバイ?)はるか後方で、よくわかりません。普通だったら、気にも留めないところです。でも、今の私はすべてに敏感でした。温泉へと続く道に出ます。舗装されていない山道を、ゆっくり進んでいきました。やはりスクーターです。なにか、直感のようなものがありました。(美大くん?)違うかもしれません。でも・・・こんなところで、スクーターなんて・・・そうそう出会うものでもありません。1軒・・・そしてまたもう1軒・・・ひなびた温泉旅館の前を通過しました。道路わきの、目立たない駐車場が見えてきます。私の目指す目的地でした。スピードを落として、車を進入させます。いちばん奥に停めました。シートベルトを外して、リアシートからトートバッグを引き寄せます。「ヴいー・・・・」さほど待つまでもなく・・・そのスクーターが、道をそのまま通過していきました。走り去って、カーブに消えていきます。(やっぱり)乗っていたのは、『あの』美大くんでした。偶然でしょうか・・・彼の帰り道も、偶然こっちだった・・・もちろんその可能性はあります。車から降りました。(ちがう)なんとなく・・・釈然としない感じがあります。そもそも、同じタイミングになること自体が不自然でした。(まさか。。。)(後を、つけてきた?)林道の途中のどこかで、私の車が出て来るのを待ち伏せていたということでしょうか。トートバッグを肩にかけました。野天風呂へと続く、森の歩道へと入っていきます。確かめようと思いました。もやもやした気持ちのままではいられません。少し入ったところで足を止めました。木の陰から、顔だけ出して様子を見ます。(意図的に追いかけてきた?)もしそうだとしても・・・恐怖心はありませんでした。あの子の性格は、よくわかっているつもりです。彼の人見知りぶりを考えれば、なんとなく想像がつきました。はだかを覗いてしまった相手・・・『せめて、帰りの途中まででも』そんな気持ちで、そのお姉さんを少しでも見ていたかった・・・おそらく、そんなところでしょう。私に危害を加える気持ちなど、ないはずでした。絵を描きに、あの渓流に来るぐらいの子です。だったら、ここの野天風呂のことも知っていて当然でした。(たしか、スクーターも地元ナンバーだった)朝、この目で確かめたのですから間違いありません。そして、今・・・彼は、お姉さんがここに駐車したのを見てしまっています。そのまま通過していったものの・・・あの子の心は揺れているはずでした。(戻って来る)(たぶん、来る)私の直感が、そう訴えかけてきています。駐車場に他の車はありません。目指す『○○湯』は、いま行ってもおそらく無人でしょう
...省略されました。