後日譚 最終話「推薦状(内定書)をめぐって」
以前の押し入れの出来事から翌日は、すでに書いた通り何の代わり映えもしない日常だった。
愛美は、いつも通りに俺に接してくるし、葉月は俺を無視するだけ。職場のドロドロ感はまったく変わらなかった。しかし、それからほどなくして、この派閥のドロドロ闘争の主軸であるオバハンが会社を辞め、そしてまた派閥の中軸だったオバハンが会社を辞め、自然と派閥みたいなものは消えていった。覚える限り、押し入れの出来事から4か月くらい経過した頃。
そして、そのまま2年が経過した。
一方、俺はこのけやきの中での一番の若手であり、自分の立場を言うのも変だけど、期待のニューフェイスであったことは確かだと思う。会社はどんどん資格を取るチャンスをくれたし、会社でもやっぱり男だから。っていう事で管理職候補として、現場ではなく運営の仕事のチャンスもたくさんくれた。
押し入れの出来事から2年たって、俺は「管理職」になっていた。もちろん上には上がたくさんいたが。
そしてみなさんは覚えているだろうか。推薦状という餌をもって葉月と愛美を争わせ、二人の肉体をもてあそんだAとBという管理職たち。
俺が管理職の仕事をする頃、AかBかどちらかもう忘れてしまったが、一人は糖尿病になり、もう一人はどういう理由かわからないが、やめてしまっていた。
そのころの俺は介護の国家資格をとるのに、推薦状というのはあったほうがいい。という認識ではいたが、一つの施設に1枚しか書けないっていうのは、やはりガセネタだった。正直、有能な人がいるなら2枚でも3枚でもかいて、国家資格持ちをどんどん施設に放り込むのが会社の発展にもなるというのだ。
それを1枚しか書けない。なんていって餌をちらつかせ、愛美や葉月をもてあそんだAやBの狡猾さを思い出していたその頃である。
推薦状になりかわる、職場の内定書のようなもの。(その人間の品行、勤怠、あらゆる事が書かれている)の存在を知ったのだった。ある意味、推薦状は職責持ちしか書けないので、職責持ちは、この内定書をもとに推薦状を書くという仕組みになっている。また、この推薦状は、本来の介護の専門学校で先生が書くものと全く同じ。
そして事もあろうに、俺が望んだわけだではないが、管理職の上司から「〇〇は確か、入ったころから愛美や葉月と同じだよな?同期みたいなモンでしょ?だったら内定書書いてあげてよ。俺はあいつらの事知らないんで、それがないと推薦状かけないんだわ」と俺に一任されたのだった。
確かに俺は、葉月も愛美も同期みたいなものだから、彼女らの性格、長所、短所まで知り尽くしているとは思っている。だが、(今でこそこの職場で鍛えられて文章制作とはお手の物になったが)そのころはたいしてパソコンも使えないようなレベルだった俺に、文章を書け。等と言われてもなぁ。等と思っていた。
俺はそこで、直接、葉月と愛美を順番に、夜勤の時にでも、「俺が内定書書く事になったんだわ。なんて書けばいい?」と聞こうと思っていた。いちおう、介護業界で通用するテンプレみたいなものも教えてもらったが、やはり本人がどういう意気込みでこれからの介護業界の事を考えているのかを知らないと俺も書くにかけないし、あとあとその内定書に、本人が考えてもいない事を勝手に書かれた。と言われても困るのだった。
しかし、葉月とはあの押し入れ事件があっていらい、最低限の言葉しか交わしていない。業務にかかわる必要最低限の言葉を交わすだけで、一切挨拶もない。
夜勤になっても、正直、驚くべきことにこの2年間、同じ空間で、「見回りいくわ」 「おう」 との会話以外やったこともないのだった。
(正直、葉月はめんどいな・・・・)と思っていた。
だから俺は、最初は愛美と夜勤が一緒になるときを選んだ。愛美も最初の頃は俺と体の関係を持つにいたる事もあったが、今はもう彼氏と結婚を控えており、俺とも一切の体の関係はない。
ただ、これから愛美との夜勤を書いていくのですが、俺の方には「まったくAやBがやったように、推薦状、今では内定書をチラつかせて、体を求めようなんていう意図はこれ微塵もなかったという事をあらかじめ言っておきます」
その日、愛美と夜勤の時、俺は声をかけた。「そろそろ資格試験の時だろ?(そうだね)内定書あるじゃん(うん)あれ、俺が書く事なったんだわ。(え?そうなん?)うん」
愛美「で・・・私に何をしろと?」(へ?)「そういう事を、わざわざこの夜勤で一緒に時になって言い出すっていう事は、何かあるんでしょ?」(俺はこの時、まったく分けわからなかった。何をこいつ、勘ぐってるんだ?と思った)
そんな事をしていたら、利用者さんの部屋からコールがなった。そして俺は「行ってくるわ」と部屋を出た。
そして利用者さんのトイレに付き添い、また事務所に戻る前に喫煙所でたばこを吸っていると、(あ、そうか!あいつ、何年か前にAかBに、推薦書をチラつかせてどうのこうの。ってのあったな!)と思い出したのです。
(別に俺はあんな悪徳代官みたいな事するつもりないけどな)と思いながら部屋に戻った。
そして、「さっきの話の続きなんだけどさ」と切り出した。
すると愛美は「私にその話が来てるってことは、葉月にも来てるんだよね。で、〇〇的には、サービスしてくれたほうに内定書を書いてあげよう。という筋書きね」(と、わけのわからん事を言っている。そして、こいつは推薦状も内定書も1枚しか書けないっていまだに思っている)
(また、愛美がその勘ぐりを持ったのにも、俺のこの2年間での言動に原因もあった。俺は冗談で夜勤が一緒の時に、愛美に、「やらせろwww」とか、冗談で言ってたりしていたのだった)
しかし、俺は最初から体を求めるなんて気はなかったし、何も気ごころの知れた愛美である。これも冗談のつもりで、「だとしたらどうするんだ?w サービスしてくれるの?www」と聞いてみたのだった。
愛美は「お前なぁ・・・w」と半ば、あきれたようなそんな不敵な笑みを浮かべた。
俺は「冗談だよwww」といった。すると愛美は、「おまえなあああwwww」といきなり安心したのか、内定書に書いてほしいことは、あれだこれだと話し始めた。
俺は最初からこうするつもりだったんだ。別にAやBと同じ事をしようと思ったわけではない。
そして、次の、葉月と夜勤が一緒になるときになった。
そして葉月にも、愛美に切り出したように内定書の話をし、(俺は、あれだけ無視しつくしてきた葉月なので、この時はちょっとAやBがやったみたいに、ゆすってやろうかと思っていた。もちろん冗談で。なぜ冗談か、俺はあれから管理職の仕事もまかされ、セクハラの概念も覚えていた。だから、マジで体をどうこうで、と思った事はない。)
すると葉月も同じように、「愛美には書いてあげるんでしょ?」と言ってきた。俺は「それはまだわからん」と答えた。
すると葉月は、意外な事を返してきた。「書いてあげるなら、愛美にも書いてあげて。私一人だけとかはいらんわ。」と言ってきたのだった。
この言葉の意味は、愛美と葉月は当初こそ、AやBという上司の問題。そして派閥の問題でいがみ合ってたが、今はもう、それらいがみあう理由もないので、3年という時間を一緒に過ごしてきた盟友。というような気持ちでいるらしい。(愛美はその点、幼かったのか葉月が落ちて、私が受かればいいとくらいに思っていた)
また、葉月はこの間に結婚もし、30手前ともなって社会の酸いも甘いも味わったというのか、いたって冷静な対応だった。
(葉月はけっこう大人なんだな)と思った。
しかし、葉月は何を覚悟していたのか、思いもよらない事を言ってきたのだった。「どうせ、あんたの事やから、ヤらしてもらおうってもってんでしょ?」と。
どうやら葉月が俺を見下しているのは、おそらく地球が崩壊しても、ずっと見下したままなのだろうと思った。
俺にも考えが変わってきた。どうせ内定書を書く暖推薦状をもらう暖資格試験暖合格暖退社暖もっといい施設への転身 という筋書きになることを。
どうせなら、もうこの際、悪徳代官になりきってみるのもアリか。って。
冷静に考えれば、俺は一言もいってない。「やらせたら書いてやる」なんて。相手の方から、もうその前提で話してくるのだから、これはこれでいいか。とも思った。俺は2年前の俺に戻ることにした。というか、葉月の中では俺は2年前のままなんだ。
俺はこういった。「最初から、内申書は葉月に書いてあげようと思っていた。なぜなら、愛美は勤怠のとこで問題があってな、お前も知ってるよな、あいつ当日になって休みますの連絡が多いことを」(うん)
「しかし、考えも変わった。職権乱用っていうわけじゃないけどさ、お前がいつまでたっても俺の事を見下しているし、正直、お前の性格に難があるとしか思えなんだわ。挨拶もしないし。」
「もう、今回はどっちにも書くのやめようかな。ありのままを上司に報告。っていう事で」といった。すると葉月の顔色が変わった。
さらにつづけた「お前は愛美と一緒に。とか言ってたけど、愛美はそうは思ってないらしいぞ。葉月は落ちて、私が受かればいい」ってなもんだったよ。
すると葉月は言い出した。「けっきょくさ、ほんま変わってないよね。早い話、なんなん?ヤらせたら書くの?どうなん?」と結論を急いできたのだった。
さてどうこたえるか。
「愛美と二人で考えて。」 と。俺はその日から、また葉月と話さなくなった。
そして1週間後の話。その日は夜勤が3人体制の時だった。もちろん、俺がそのメンバーを葉月と愛美と俺の3人になるように細工したのはいうまでもない。
そして当日・・・。
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