2016/01/17 00:36:46
Saoさんへ
そうです、これは犯罪です。でも、毅君がこうしてしまった原因は私にあるのです。
10年前のことを書かせていただきます。
私は東京のA大学英文科を卒業し、何度か採用試験に挑戦して関東のある県に採用されました。郷里の県と関東と両方受験したのですが、当時も教員採用の門は狭く、ましてや、郷里の採用数は若干名で、合格した関東の学校に勤務することにしました。新規採用教員は初任校には4年しかいられず、私も4年を初任校で過ごして2校目に異動しました。その学校が事件のあった中学校です。
私は、2年生の担任として着任し、翌年3年3組の担任になりました。3年の担任は前任校でも経験していたので、仕上げの学年として、この子たちと2年間しか付き合わないけど頑張ろうと思いました。
2年の3月に学級編成を行うのですが、生徒のマークの付いたカードの中に猛君のカードがありました。マークというのは学校によって学級編成のやり方は違うのですが、その学校では(L)はリーダー、(SL)はサブリーダー、(M)は問題児(非行)、(X)はいじめっ子、(Z)はいじめられっ子というふに決められていました。猛君には(M)と(Z)がついていました。彼はすらっとしていて背も高く、ジャニーズ系の顔をしていました。ただ、喫煙とか深夜徘徊などの問題行動もあり、ややきざっぽく、学年の中で目立つ連中からも嫌われていました。それでも、2年生のときは、上級生の中のグループにいたため、同級生は何も言わなかったようです。(M)でありながら、(Z)が付いていたのはそういう背景があったからだと思います。
上級生が卒業して3年になってからは、同級生から疎んじられ、仲間外れや陰で小さな暴力もあったようで、6月くらいから学校にあまり来なくなってしまいました。私は、友達に朝、誘ってくれるように頼んでみましたが、誰も彼を誘いにいくことはありませんでした。それが、彼の学校での市であり、そういう人間関係の子でした。私は何度も家庭訪問をしましたが、効果が上がらず、2学期以降は、とうとう不登校になってしまいました。
11月には三者面談があったのですが、彼が学校に来ることはなく、母親だけとの面談になりました。母親は周りの目を気にして、全日制の高校に行かせたいという意向でした。12月には、最終の進路を決める三者面談があるのですが、猛君の意向を聞いて、生徒がいない時間で、先生方も休暇をとって早めに帰る人が多い終業式の夜7時から、学校で面談することにしました。もちろん、教頭先生は残ってくれていました。場所は保健室、三者面談のあと、親に先に帰ってもらって、二人でじっくり話しました。友達のことや今後のことなどいろいろ話しました。話を聞いていた私の方が、彼に同情してしまい、彼のことがいとおしく感じていました。うまく、周りに受け入れてもらえないカッコつけの気の弱い男の子がそこにいました。気が付くと、彼を抱きしめていました。彼も、私を抱擁をかえしてきて、私は彼の耳元で、どんなことがあってもがんばるんだよって励ましました。彼も、「はい」といいながら強く抱き、いつのまにか唇を重ねていました。頭の中ではいけないと言いながら、なかなか離れられず、少しの間そのままでいました。彼がさらに強く抱いてきたので、私はその腕から逃れて面談を終えました。
結局彼は、地元の定時制高校に進路を決め、残りの3学期も登校することなく卒業していきました。
私は自分のこの行為について、今でも罪悪感を感じています。この行為が、のちの行為につながったんだと思っています。
定時制高校に進学した猛君は、いわゆる「高校デビュー」をしたらしく、卒業生の間でも評判になっていました。定時制高校は、1年間続けば4年まで続き、卒業できるといわれています。つまり、多くの生徒は、1年生の途中でドロップアウトしてしまうということでもあります。猛君には、悪い仲間からの誘惑も多かったようですし、彼自身もそういうのが嫌いじゃなかったので、安易な道を選択してしまったようです。
それから1年が過ぎ、私も中2の担任としての夏休みを迎えました。この学校も4年目になり、夏休みも部活以外は、休暇を取ることもできるようになりました。たまたま、日直で学校に行っているときに、猛君から電話がありました。「定時制を中退した。今後の進路のこ
とで相談にのってほしい」というものでした。その日は15日のお盆の日で、ほとんどの先生方は出勤していませんでした。電話でいろいろと話したのですが、一度会ってから、詳しいことを決めようということになりました。中学校には恥ずかしくて来られないといい、私のアパートでいいかと聞かれ、私は「学校に顔が出せないって言うなんて、やっぱりまだ子どもだな。まだまだ、かわいいところがあるじゃない」と思い、次の日が土曜日だったため、私の部屋で午後から話すことに決めました。