オーナー夫妻や愛莉にすっかり信用・信頼された俺だが,相変らずオーナーは更に
忙しくなり,殆ど1時間位しか店に来なくなり,そのぶん睡眠時間を削る事になったが,
逆に考えればそれだけ長く一緒に居る事になり,愛莉はラブラブモードになれるのが
楽しいらしく暇さえあれば直ぐにくっつきたがる。一寸でも冷たくあしらうと,直ぐスネて
綺麗な瞳に涙を浮かべて訴える仕草を見せる。そんな愛莉が愛しく,誰も居ない事を
いい事にギュウ~と強く抱き締めてやると,それが愛莉は嬉しいらしく,俺が本業で遅
くなろうものなら,携帯は鳴り止む事無く続き,店に行ったら〈暫く口も聞かない〉という
可愛らしいイタズラをしてくる。俺も同様に黙ってると,心配そうに俺の顔を覗き込んで
「ねぇ,もしかして怒っちゃった [俺無言] ゴメンナサイ」と直ぐに抱き付いて来て,
「私,飯村さんか来るまで心細かったの、寂しかったの。だから・・・」
〈強く抱き締めてもらいたいが為〉 という愛莉の心中を察し,強く抱き返しながら,
「判ってる。俺の方こそご免な。こんな仕事してなければ何時も傍に居てやれるのに」
「それってホント」 「ああ出来る事なら愛莉に心細く寂しい思いはさせたくないよ」
そう俺が言うと,何故か愛莉は嬉しそうな顔に変わってった。それが何を意味するのか
その時は判らなかったが、後にその意味を知る事となった。