乾いた冷たい風、園内に植えられた紅葉樹が訪れる者に晩秋を告げている。遊具の騒音や子供の嬌声がそこかしこから聞こえてくる。
少年期から人に囲まれて育った卓にとって、人の集まる場所は気持ちが落ち着く場所だといえた。
普通の人は自然の中だったり、手短な所なら公園なんかがいいのかも知れない。
人に囲まれていたといっても絶えず卓の周囲にいた人達は、望むまいが夜の世界に生きる女性ばかりだったけど。くる日も来る日も生きるために望まぬ男と体を重ね、心をすり減らしていた彼女達にとって純粋な少年の卓は癒やしだった。
それも自分たちの雇い主、卓の父親の表向きは願いという鶴の一声に従わざるを得なかったのだろう。つまりは将来その時が来ても恥をかかないように、セックスを覚えさせられたのだ。
お姉さんたちは当初、事実上の命令を胸を痛めながら実行に移していたが、無垢な卓を抱くことに夢中になった。そして自分たちと対等に渡り合えるまでに成長させたのだ。
いや………、並の女ならば、太刀打ちできないであろう。いつしかセックスがライフワークとなった卓は、相手を外に求めるようになった。それも誰でもいいわけではなく、同年代や20代の女性では物足りない。30代半ば以上の経験豊富な相手を求めるのだった。
生活の中で満たされなくなった女性というのは、卓にはすぐに嗅ぎ分けられた。不特定多数の人が集まる通勤電車の中は見つけるのに都合が良く、もう何人もの相手をセックスの虜にさせてきた。
でもそうなると卓の興味は失せ、相手の前から姿を消す。いきなり卓にいなくなられた相手の女性は堪らなかったが、経験値の高い大人の女性なのだ、卓の代わりはすぐに見つけるだろう。
セックスに飢えた男はこの世に履いて捨てるほど存在しており、性に興味津々の若い子ならすぐに大人の女体に夢中になるだろう。電車内で痴女に見初められたら、騒ぐどころか願ったり叶ったりなのだから。
相手とひと区切りをつけた卓は、新たなる明日に向けて気分のリフレッシュをしたいときにここの遊園地に足を向ける。絶えず笑顔を浮かべる人の中にいると落ち着くのだ。まぁ……家族サービスに疲れたパパの姿を見ると、気の毒にならないでもないけれど……。
ひとりベンチに座り、温かいココアを啜る卓を気にする者は誰もいない。それはありがたかった。
飲み干した紙コップをゴミ箱に捨てて、園内を歩き出す。入口にヒーローショウが行われる時間が記されており、それを思い出したのだ。
もうここへは何度も足を運んできたから、場所は知っている。併設された舞台を中心に半円状になった場所、そこで繰り広げられるショウに子供たちは釘付けになる。一段づつベンチが高くなそのそこは、すり鉢状にもなっている。卓が着いた頃には、もう座る場所はほとんどが埋まっていた。
卓は仕方なく最上段のさらに上の立ち見スペースに向かうと、危険防止のための柵の前に立った。
柵といっても大人の腰の高さしかなく、すぐ前のペンチと離れてもいない。席にあぶれた親が子供だけでも座らせ、自分たちは柵の後ろに立つ光景が目に浮かぶ。
いや、卓の目の前に母親らしき女性が、まさにその様子で柵の目の前のベンチに座る我が子たちに話しかけていた。取り立てて絶世の美女ということはなく、小学生低学年の子のいる30代半ばくらいの普通の主婦といった感じだ。
特段にお洒落でもない眼鏡をした事務職のパートが似合いそうな、どこにでもいそうな女性。やや生活に疲れを滲ませた顔は、中低所得者のそれを思わせる。着ているものも量販店で販売している一般的な物で、そんな暮らしの中でも細やかな幸せを楽しむ善良な人なのだろう。
日曜日も仕事に出ているのか夫の姿は見えないが、サービス業か運送業か、今日も家族のために稼いでいるのか。卓たちのいる場所は背後に垣根が配置されており、この場所との区別化が顕著になっている。
卓は女性との間に1人分の距離を取り、柵に両肘を置いて先に広がる舞台に目を向けた。
何となく気になった女性が卓を見たが、線が細い体にアイドルのような顔立ちの彼に、不信感は抱かなかったようだった。
………駄目だよ、そんなに満たされていない空気を表に出しちゃ……
卓は人目見たときから、この主婦が欲求不満であることを見抜いていた。仕事が忙しく疲れているであろう夫は、夜の営みを満足に果たしていないらしい。あるいは妻であるこの女性も仕事と子育ての疲れから、セックスをする余裕を持てないのかもしれない。
ヒーローショウが始まった。子供たちは買ってもらったお菓子を手に舞台上の演出に釘付けとなって、はしゃいでいる。
卓は静かに主婦との距離を詰め、柵に置かれた彼女の手に小指を触れさせた。ハッとしたように卓を見た彼女に、卓も同じような仕草をして小さく頭を下げる。はにかんだ卓の笑顔に主婦も思わず恥ずかしそうな笑顔を向けた。
綺麗な顔立ちの卓を相手に、久しく忘れていた胸のときめきがそうさせたのか。その後も事あるごとに接触させる指。さすがに主婦のほうは手を引っ込めたが、長い時間を置かずにまた柵の上に手を乗せる。本当に警戒をしていたり嫌悪していたら、しない行動である。
いつしか卓の小指は主婦の手に接触したままになり、彼女もその手をどかそうとはしなくなっていた。細やかなドキドキを味わいたいのか、一時の緊張に動けないだけなのか。
やがて卓の手が主婦の手に重ねられ、彼女の指の股に卓のすべての指が埋められていた。非日常の罪悪感と母親としての嫌悪感、今更に感じる卓へと不信感に緊張が走る主婦。
声を出しさえすれば、この状況は打開出来る。でも皆に注目されること、子供たちへの影響を考える。何より今日この日の遊園地を楽しみにしていたこの子達を、不安にさせたくない……。
そんな保守的に考える主婦の背後に立った卓は、彼女を抱き締めるように体を包み込む。誰も2人を気にする者はおらず、主婦は緊張で体を強張らせていた。
それは恐怖でなのか、美しき青年の色香に魅せられたからなのか。
それは主婦本人にも判断がつかず、よく分かっていなかった。
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