医療従事者の履く樹脂製のサンダルの音が、廊下を通り過ぎていく。あの音が聞こえるということは、実紅が声を上げようものなら、向こう側にも声が聞こえてしまうというでもある。それだけは防がなければと、実紅は必死に自分の口を手で塞ぐ。
違和感だらけのこの検査は、やっぱりおかしいのではないか……。でもそれを誰に対して訴えればいいというのか、全て赤裸々に説明するなんて出来るはずがないではないか。声が出そうに足る度にうっ……!……んっ……!……っと、声を詰まらせて、どうにかこうにか凌ぎ続ける……。
早く終わって……お願い、早く………。
そんな実紅の願いは無情にも、叶うことはなかった。廊下を歩くサンダルの音がまた聞こえて来る。何の疑いもなくこの部屋の前を通り過ぎるものとばかり、漠然とそう思っていた。それなのにその歩く音がこの部屋の横開きの扉の前で立ち止まり、開く音が聞こえてくるなんて………。
そういえばこの部屋の中に看護師の姿をまだ見ていないし、声もまだ聞いていない。その足音の主が医師に対して話しかけ、若い男性だと分かって実紅に緊張が走る。看護師だとしても普通、こういった検査に同行するのは女性ではないのか……。
うん、うん、そうだね………。
向こう側に回って、問診をしてくれるかな……?
実紅はたった今聞こえた医師の言葉に、耳を疑った。聞き間違いでなければ彼は今この場で問診をしようと、背丈の短いカーテンで身体を隔てたこちら側に来るというの?恥ずかしい検査を堪えている最中だというのに…………。戸惑を見せる実紅がこちらに近づく足音に、何の心の準備もないままに絶望的な気持になった。
あっ…こんにちは、医師の○○といいます……。
こんな時に申しわけありません、問診をしますのでお答えいただけますか……?
なるべく早く、終わらせますので………。
実紅は恥ずかしさから努めて笑顔を作り、その作り笑顔が自分でも引きつってしまっているいるのが分かった。なだらかに続く快感が不意に強い波となって、押し寄せてくる。破顔しそうになるのを必死に痩せ我慢で堪え、平静を装いながら震えそうな声で一つ一つ答えていく。
そうなんですね……では生理のときに重い症状なことはあるますか………?
個人差があることなので、貴女の場合はその時々でどんな具合になりますか………?
これまでははい、いいえで答えれば良いだけだったのに、具体的に答えることを要求される。
え…と、う〜ん……そう…ですね………あの…んっ……と、お腹がズ〜ンっという感じ……んっ……です……
なるほど……具体的には重苦しいとか、キリキリするとか、貴女なりにどう感じますか……?
思考にすることに集中しようとすると、意識がそこから引き離されそうになる。どうしていつまでも指を出し入れさせるのか、それにこれは何?……吸われている………?やめて…あっ……やめて………。
下半身から伝わる快感から無理やり意識を集中させ、オウム返しに医師の言葉を繰り返す。
えっと、はい……ええっと……んっ……重苦しい感じです………
肩に力が入って怒り肩になり、抑えきれない快感が身体をぴくぴくと反応させる。表情を崩さないでいられているか、自信がない……。
問診を続ける医師の若い彼には引き攣らせた笑顔の眉間に皺を刻み、身体の反応を最小限に留めながら、なんとか踏み留まる実紅がいじらしく見えていた。
不意に下半身から伝わる衝撃に息を呑み、間違えようのない感覚を覚えて戦慄が走る。下半身に肌が打ち突かれるような感覚に身体が揺さぶられているのに、問診を続ける彼は涼しい顔をして実紅に、次の質問を出してくる。
どうして、こんなのやっぱりおかしい………。
次の問診に答えたくても、言葉にならない。
体裁を繕うためにも気持応えようとする実紅。
んっ…んんっ……はっはっはっ…んっ…んっんっんっあのっ…あっ…んっんっんっ………
容赦のないピストンで打ち込まれる快感が実紅のなけなしの余裕を奪い取り、頭の中を白く染めていく。今ではおかしいと実感しているのにこの期に及んで女の羞恥心が、普段の顔で仮面を作ろうと悪足掻きをする。成功からはほど遠い顔をしているのに、だたひたすら恥ずかしくて喘ぐことだけはどうにか踏み留める。
滑らかで甘い波が、緩やかに上下する。何度も唾液を飲み下し息を吸って、勢いよく吐き出す。
熱にうなされたように目を閉じた顔をゆらゆらと左右に倒し、思い出したように顎を跳ね上げる。切なくて気持ち良くて、逃げ出したいのに手放したくない。現実と夢が交錯し、意識は頭を抱えたくなる現実よりも堪らない世界へと身を躍らせる。
……さん、美山さん、美山実紅さん、どうされましたか……?
苦しいですか……?気持ち悪いとか痛いとかはありますか……?
美山さん、美山実紅さん、大丈夫ですか………?
薄目を開けて彼を見るけれど、言葉を返す代わりに熱い吐息しか出ない。ずんずんと絶え間なく注がれる快感が頭を痺れさせ、手足も口も、言うことを聞いてはくれない。本音とは裏腹にやめて……と、言ってはみたけれど、曖昧に口が動くだけで言葉に変換されることはない。
胸が苦しそうですね、少し楽になりましょう……。
ブラジャーを身に着けていたならば、背中のホックを解除するというのは理解できる。でも検査着を着ている実紅はマンモグラフィを受けるためにブラジャーを身に着けてはおらず、下半身の検査着を受ける今はショーツすら脱いでいる。検査着を止めるために結んだ紐を彼に解かれ、前を開けた若い医師は豊かな乳房に顔を埋めてしまった。
もう何が何だか分からずに乳首を舌で転がされる快感と、ピストンが織りなす快感の二重奏が実紅に襲い掛かる。鰻のようにぬるぬるとしたペニスが出入りを繰り返し、親指が絶えずクリトリスを撫で回す。若い医師の舌が乳首を押し倒しながら唇で吸い上げ、もう片方の乳房を空いた手が容赦なく揉み解す………。
ひとりカオスに陥った実紅だけが官能の波に飲み込まれ、その女を酔わせる狂おしい快感を享受していく。
いや……いく……イッちゃう……イッちゃう…………
口を開けた実紅が背中を反らせ、浮いた背中が胸を張らせて乳首を愛撫する彼の顔を持ち上げる。
硬直した身体が腰を躍動させるゲスな医師の男根を締めると、唸り声を上げた彼が射精してしまった。実紅も電気刺激を受けたように身体を震わせながら、オーガズムの波に飲み込まれてしまった。
だらりと脱力した実紅の膣口から白い精液が流れ落ち、床に卵の白身のような水溜りが出来上がっていく。最初に実紅を犯していた医師よりも乳房を弄んでいたより若い医師が、屹立したペニスを出して、下半身の前に立つ。硬く熱を発しながら勃起をしたペニスを、実紅の中に静かにゆっくり沈めていく。背中を仰け反らせた実紅が艶めかしくあぁ~……っと声を上げ、身体を揺らし始めた。
パンッ「ぬちゃっ」……パンッ「ぬちゃっ」……
肌と肌が打つ音に卑猥な水音が重なり、女性のための目隠しカーテンの向こうとこちら側で、男女それぞれの卑猥な息遣いが聞こえ始める。実紅の隠しきれない羞恥を含んだ控え目な喘ぎ声が、その上体を捩らせる姿に見合わぬ淑やかさを見せて、若い医師の彼を興奮させる。
絡みつく実紅の膣壁が彼を酔わせ、腰の躍動を加速させていく。熱く硬く逞しい彼のペニスが実紅を翻弄させ、もう他の何物も気にならないほどに酔わされていく。
奥を突かれる、実紅の腰が浮き上がる、背中が浮いてブリッジを形成する、息を吸うことも吐くこともなくなった口が開く、身体が硬直する………。
そして…………。
生温かい精液が、放たれた……。
カーテンが退けられた実紅の身体の上に、若い医師が突っ伏して荒い吐息で肩を揺らす。
数分の静寂を消化した2人は次第に回復を遂げ、実紅は自分の身に起こった現実に両手で顔を覆い隠していた。
ムクリと身を起こした彼は羞恥とやるせなさに沈む実紅を見て、興奮すると繋がったまま中に取り残していたペニスに生気が漲るのを感じた。
再び乳首を口に含むと両手首の間に見える実紅の口から甘い吐息が漏れ出し、顔からその両手を引き剥がすと横に背ける実紅。
腰を動かす度にその身体を揺らし、彼に応えるように締め付けてくる。下火になった小さな炎が激しく燃え上がり、上下に揺れる乳房の上の顎が少しづて持ち上がる。
もう何もいらない、何も必要ない。
あぁ〜…気持ちいい……きもじ…いぃ〜っ……
ぬっちゃんっぬっちゃんっぬっちゃんっ………
汗と卑猥な音と男と女の怪しい息遣いは、まだまだ続いていく。
実紅の手が若い医師の背中に回され、ドクターのユニフォームに立てられた爪に痛みを感じて呻き声を上げる。彼の腰の躍動に合わせて実紅の腰が動き、ペニスを迎えに行くように浮き上がる。
羞恥も体裁もすべてを捨て去った実紅が、秘めた貪欲さを表に出して女になる。
彼が顎から汗を滴り落とし、次の汗の粒を顎の先にぶら下げたのを見て、そっと頭を浮かせる。
舌先に触れた瞬間、舌の全体に広がって消えた。
次々に押し寄せる快感の波に、実紅は意識が遠のいていくのに身を委ね、新たなオーガズムを迎える準備を身体が始めていく。
そしてその後もきっとまだ、終わらない………。
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