(8)
家に戻って、香澄の母親に祖母の住所を訊いてみた。
「何、言っているのよ? 神社のお向かいじゃない。変な子ね」
神社のお向かい……か。タッパを手に、その神社のお向かいにある家にやって来た。玄関の前に立ち、ピンポンを鳴らす。
「はぁい」
返事をして戸を開けたのは、ひとりの老婆。白い和服を身に纏い、首に大きな数珠を掛けている。
「おお。香澄か」
「あ……、あのぅ。これ」
バレないかな? そんなことを考えながら、俺はタッパを差し出した。
「いつも、済まんのぉ」
そう言って、老婆はタッパを受け取った。しかし……。
「えっ!」
その老婆は、俺の顔……じゃなくて、俺が入っている香澄の顔をじっと見据える。
「お主、香澄じゃないな。誰じゃ?」
「わ……、分かるんですか?」
キョトンとして訊いた俺を、老婆は家の中に招き入れた。お茶を出してくれた老婆に、俺は今に至るまでの経緯を話した。
「ほお。香澄が、変幻合一を会得しおったか」
感心したように、そう言った老婆。香澄の家は、拝み屋の家系だそうだ。ただ……。その力は隔世遺伝となっていて、この老婆の跡目は香澄が継ぐことになっているらしい。
「しかし……。そんなことのために、変幻合一を使うとは。まったく、けしからん!」
「そ……、そうですよね!」
この人は、俺の味方かも。そう思った俺は、嬉しそうに相槌を打った。
「青年よ。自分の身体に、戻りたいか? 戻してやっても、よいぞ」
「はい。お願いします! 出来れば……。生理痛がまだ来ない、今のうちに」
老婆の言葉に、俺は縋るように訴えた。しかし……。その老婆は、条件を出してきた。
「分かった。ただし……、条件がある」
「はい。何なり……と」
「そなたと、房事がしたい」
「えっ? セックス……ですか?」
キョトンとした俺を、老婆は意地悪な目で見る。
「何じゃ? その態度は。ワシだって、女じゃぞ。じいさんが死んでから、ずっとご無沙汰での。イヤなら、ずっと香澄の身体に入っておれ」
「わ……、分かりました。分かりましたよ!」
背に腹は変えられない。俺は、仕方なく首を縦に振った。老婆は、両手を合わせて叫ぶ。
「変幻合一、解くぞ! 魂よ! 本来の拠り所に戻れ!」
一瞬、目の前が真っ白になった。
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