(2)
「待てよ!」
追い駆けるように指導室をとび出したが、香澄の鞄を取りに戻らないといけないことに気付く。急いで教室に戻り、香澄の鞄を手に玄関に走る。
うわっ! スカートって、思った以上に頼りない。
えーと……。香澄の下駄箱は。香澄のローファーを履き、俺の身体に入った香澄を追い駆ける。行き先は、分かる。俺の家だ。
あっ! 居た! 今まで見たことは無かったが、俺だと分かる後ろ姿。
「待てよ」
やっと追い付いた俺に……。
「あれ? 菊池の家、こっちだったか?」
香澄は、もう俺のつもりになってそう訊いてきた。
「俺の身体、返せよ」
そう訴えた俺だが、香澄はこう返してきた。
「花の女子高生が、俺……なんて言うもんじゃないぞ」
蛙の面に小便だ。
「あのなぁ!」
食い下がる俺に、香澄は耳打ちをしてきた。
「私みたいな浮いた女と一緒のところ、見られたら。不味いよね?」
こ……、この! 悔しさに顔をしかめる俺に、俺の身体に入っている香澄は言う。
「家に帰ってから、ケータイで話そうよ」
「俺、おまえの家、知らないんだよ」
「大丈夫だよ。鞄に、地図を入れておいたから」
計画的犯行かよ! おい! 呆然と立ち尽くす、香澄の身体に入っている俺。その俺に構わず、俺の身体に入っている香澄はさっさと立ち去った。
鞄の中には、住宅地図のコピーと、ここが私の部屋……と注釈付きの簡単な家の見取り図、それに家族紹介が入っていた。
何で、こんな目に遭うんだよ! 地図を頼りに、何とか香澄の家に辿り着いた。
「お帰りなさい。香澄」
「ただいま」
香澄の母親と挨拶を交わし、二階にある香澄の部屋に入る。早速、ケータイを取り出し、俺のケータイに電話を掛ける。
「はぁい。もしもし」
香澄は、かなりご満悦らしく。ハイテンションな俺の声が、ケータイを通して聞こえてきた。
「どういうつもりだよ? 一体……。俺の身体、返せよ!」
「返してあげるわよ。一週間か十日、経ったら……ね」
「どういう意味だよ?」
一週間か十日? 何だ? それ……。
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