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1:メディカルセンターにて…。
投稿者:
ずる
メディカルセンターにて…。
≪出逢い≫ その女性〈裕美さん〉と初めて出逢ったのは、3年位前に建て替えられた市内の総合病院の〈問診〉のブースでの事でした。 〈ガングリオン〉と言う病名をご存知でしょうか?。 手の甲を小指に沿って降りてくると、手首を過ぎたあたりに ポコッとした丸い骨の出っ張りが誰しも有ると思います。そんな様な物が手首のまわりなどに出来ます。正体は死滅した細胞などが排泄されずに、ゼリー状になって集まり留まってしまった物などらしいのですが、私の場合は、それが2ヶ所、親指の下の方 ちょうど〈脈をとる〉辺りの上の手首のあたりと、人差し指と中指の付け根 付け根と言っても手の平の中、の2ヶ所に出来てしまっていた。 出来た場所が良くなかったのか、痛みや痺れもあるし手首も曲げにくい、〈腱鞘炎〉か何かかと思って、よく行く接骨院にいったら 私の手を診るなり先生が〈紹介状〉を書きはじめた、「レントゲンなり何なり ちゃんと検査してからでないと…」と。 それを持って、初めてこの総合病院に受診にきていた。 大きな病院は 何をするにも 兎に角待たされる。 受け付けは行列、ようやく受け付けできても「初診の方ですね?、始めに診察券をおつくりいたします、少々お待ちください」と又待たされる。 ようやく呼ばれたと思ったら、診察券 番号札 紹介状の入ったファイルと問診表を挟んだバインダーを渡されて「問診表にご記入頂いてから、ファイルと一緒に整形外科の受け付けにお出し下さい」と…。 記入を終え、ファイルとバインダーを整形外科の受け付けにだすと今度は、紹介状を抜きとり問診表をファイルに入れて「これを〈問診〉にお出し下さい」と…。 接骨院の先生が言っていた「…連絡しておきました。9時半に行って下さい。」は何だったのか?、と思ってしまう。 この〈問診〉が また解らない。 どうやらカウンターの隅に置いてあるプラスチックの四角いザルの様な物にファイルを入れて順番をまつ システムの様だ。 ザルにファイルを入れて、カウンターの中にいる女性に「あの…」と言いかけるよりも先に「あっ、そこ(ザル)に入れて下さい、順番でお呼びしますから」と、さも忙しいそうに背を向けられてしまった。 私は聞きたい事も聞けず、そのままトイレに向かった。 トイレから戻り〈問診〉の前でイライラしながら待っていると、私のすぐ左前に1人の女性が立ち止まった。 バッグを左の肘に掛け、その上にカーディガンか何かを掛け、その左手でファイルを持って、辺りをキョロキョロとしている。 右足を半歩出してはキョロキョロ、その足を戻してはキョロキョロ。 私はその女性の右肩をトントンと軽く叩き 「あそこに入れて、順番。らしいですよ」 と、ザルを指差した。 「すみません、ありがとうございます」 と女性がファイルを出しに行った。 「ありがとうございます」 「(この病院)はじめてで…」 と、女性が戻って来て私の左にならんだ。 「私も初めてなんですよね」 「何か分かりにくいですよね?」 「何処行っても長いこと待たされるし…、何の為の予約なんだか?」 「…ですよねぇ。ホント分かりにくくて…」 私と女性がそんな話をしていると、〈問診〉から呼ばれた人が椅子から立ちあがり〈問診〉カウンターの椅子に座った。 椅子に座って待っている人、私達と同じ様に立って待っている人、回りには大勢の人がいる。全員が問診待ちに見えてくる。 私と女性は互いに顔を見合せてしまった。 女性も まだまだ待たされる と悟ったらしかった。 と、女性が「座りましょ」と、私の後方を指差しながら歩きだした。 見ると、何科からか呼ばれたのだろう、壁際の長椅子が空いていた。 先に座った女性に手招きされながら その隣に座った。 「お見舞いでは何度か来た事が有るんですけど、自分で診てもらうのは初めてで…」 「私もですぅ」 「混むとは聞いてましたけど…」 「ゴメンなさい、これ お願いできますか?、おトイレに…」 とカーディガンを長椅子の上に置いて女性が立ちあがった。 「…ああ、どぅぞ」 「まだまだ呼ばれないでしょ」 「…ですよね?、お願いします」 と、その女性はバッグを持ってトイレに向かった。 これが〈裕美さん〉との出逢いだった。
2019/10/23 01:44:24(F17WCevA)
投稿者:
浩二
恋の予感♪続きをお願いします。
19/10/23 02:45
(jmsacVyz)
投稿者:
ずる
メディカルセンターにて…。
〈出逢い 2〉 トイレに向かう彼女の後ろ姿を目で追いながら、ポケットからスマホを取り出した。 病院に着いてから もつ1時間以上経っていた。 私の左前に立った彼女は、バギーパンツとかガウチョパンツとか言ったかもしれない 太目のズボンをはいていた。 勝手な想像かもしれないが 本来なら〈ゆったり〉と着る物なんじゃないんだろうか? なのに彼女のお尻は それでも窮屈そうにしていた、その証拠に、うっすらとパンツの線も透けていた。 前だけズボンの中に入れて、後ろは垂らしてお尻を少し隠す。ここ最近は何処でも良く見掛けたスタイルだか、短目の彼女のカットソーは、より窮屈さを強調している様だった。 じきに49なる私より歳上にみえた、おそらく50は出ているだろう。 が、けして〈垂れている〉訳でもなく、ちゃんと主張していた。 そんな〈お尻〉に魅せられて、肩を叩いたのかもしれない。 胸にしても きちんと主張している。 〈トップ〉と言うのだろうか?、高い。 私の周りにいる同年代や歳上の女性のそれは、あばらに近いと言うか、若い娘に比べたら もう少し下の方に下がっている気がする。 が、彼女のトップは ちゃんと〈胸にある〉、そんなふうに見えた。 ガードルとか 何とかブラの成せる技なのか、はたまた体型維持の為に何かをしているのかは定かではないが、あの お尻に浮き出て見えた〈線〉は、ガードルとかでは無いだろう。 いったい〈主張〉の正体は何なんだろう? そんな事を考えながら、見てもいないヤフーのページをスクロールしていた。 「ありがとうございました」 トイレから戻った彼女が、そう言いながら 前かがみでカーディガンに手を伸ばした。 スケベおやじの性 とでも言うのか、彼女の胸元に視線が吸い寄せられる。 が、残念なことに〈谷間〉までは確認する事が出来なかった。 「今日は?、どうなさったんですか?」 私の右隣に座った彼女が聞いてきた。 「これ なんですけどね」 と、手の平を上にして彼女の前に差し出した。 「あっ。え~っと、ガングリオン」 「…ですよね?」 「ご存知なんですか?」 「えぇ。」 「私も右手なんですけど。だんだん痺れる様になってきて。最近では 何もしてなくても ずっと」 「で、怖くなって検索してたら…」 「もしかしたら、そちらも?」 「いえ、私のは……」 彼女が言いかけた その時に 「ヤマネさぁん、ヤマネ ケンイチさぁん」 と、〈問診〉から呼び出された。 「ごめんなさい、お先に…」 軽く頭を下げて『ったく!、ろくな病院じゃね~な』 そんな事を頭の中で ぶつくさ言いながら〈問診〉に向かった。 問診を終えて〈診察室3〉の近くのソファーに座った。4人掛け位だろうか、問診の所とは違い こちらのには ちゃんと背もたれがあった。 ヤフーのトップニュースか何かで暇を潰していた。 「ヤマネさん、ヤマネさん」 『早ぇぇ。』と思いながら顔をあげると、看護士さんではなく 彼女だった。 「ヤマネさんは?、(診察室)3番ですか?」 「えぇ。」 「同じです、よかったぁ」 2人のやり取りを聞いていた同席の老夫婦の奥さんが 「…どうぞ」と、旦那さんの方に詰めてくれた。 「ありがとうございます」 そう言いながら彼女が、今度は私の左隣に座った。 その彼女が 「私、(名前)こう言います」 と、問診から返されたファイルを見せてくれた。 受け付け番号の上に〈田中裕美〉と漢字で書かれていた。 「田中…、ヒロミさん?」 「はい」 「何処にでも居る名前でしょ?」 ニコッと微笑んでいる。 「私は(名前)こうです」 と、〈山根健一〉と書かれた番号札をファイルごと 裕美さんにみせた。 「私は さっき(山根さんが)呼ばれた時に…」 「なので、私だけ(知ってる)っていうのは失礼かな?、って」 「ありがとうございます」 「個人情報が漏れて かえって良い事もあるんですね?」 少し照れた様に裕美さんが 「…ですね」 〈ファァン〉 診察室の表示板に 新しい番号が表示される時に そんなふうな音が鳴る。 それを指差した裕美さんが 「あれ(番号)、山根さんじゃ?」 「そうです、ようやくでましたね」 「すぐ呼ばれると良いですね?」 「でも、あれですか?、(ガングリオン)痛いですか?、今も」 「今はそうでも…」 「でも、(手首)曲げると、どうしても…」 「あと、重い物持てないし、ペットボトルはあけらんないしで…」 「ビールなんかも。あける時は左であけるんですけど、つい右手で持ってしまって、何回落としたか」 「…わかります、それ」 「私はこれです、いつも携帯してます」 と、バッグの持ち手ついたキーホルダーをはずした。 小さな虫メガネのレンズの無いやつ、そんなふうな物が出てきた。 「こっち(レンズの無い部分)でペットボトル、で、こっちの持つ所でプルトップ」 「便利ですよ、あけやすいし」 「100均でも売ってます」 「でも、私のは(親指の付け根)ここだけじゃないんで」 「この中にも有って…」 と、手の平を上にして 〈頭脳線?〉と〈運命線?〉が1つになる辺りを擦ってみせた。 「えっ?、そうなんですか?」 「手の中にも?、(見せてもらって)いいですか?」 と、裕美さんの左手が 私の右手を下から支えた。 そして右手で私の右手を フワッと優しく包みこむ様にしながら 裕美さんが私の右手を引き寄せた。 ドキドキしていた。 年甲斐もなくドキドキしていた。 「…このへん、ですか?」 中指で、『この辺にもある』と言ったあたりを擦りだした。 「痛っ!」 たいして痛くもなかったが、大袈裟に痛いふりをして裕美さんの手を跳ねのけた私の右手が 裕美さんの右の胸に当たった。 「あっ、ごめんなさい。ホントごめんなさい」 「いえっ、私の方こそ(ゴメンなさい)」 「痛かったですよね?」 「痛かったですよね?、これから診察なのに ホントにゴメンなさい」 裕美さんはそう言いながら、自分の胸にかかえながら、優しく ゆっくりと擦ったり、『ふーっ、ふーっ』と吹いたりしてくれていた。 ドキドキしていた。 〈脈〉のあたりに触られようものなら、すぐにバレてしまいそうなくらいドキドキしていた。 そのドキドキは すぐに股間に伝り ムクムクと頭を持ち上げはじめた。 「大丈夫です」 「もう大丈夫ですから」 「ありがとうございます」 「ホントに?」 「ホントに大丈夫ですか?」 「ゴメンなさいね、私ったら…」 周りの人達には どう映ったのだろう? いい歳した男女が 中学生か何かの様にジャレあって、人目も憚らずに。 そんな事は意に介さない様に 裕美さんは まだ私の手を擦ってくれている。
19/10/24 01:03
(ragL5FE.)
投稿者:
ずる
メディカルセンターにて
〈出逢い 3〉 「ヤマネさぁん、ヤマネケンイチさぁん」 診察室3の開けた扉を片手で押えながら、看護士が呼んでいる。 「じぁあ、行ってきます」 「(撫でてもらって)すみません、ありがとうございました」 「いえ、私の方こそ」 「行ってらっしゃい」 裕美さんに そう送り出された。 整形外科の先生曰く 「手首のはガングリオンで間違いないでしょう」 「手の中にあるのはMRI撮ってみないとハッキリした事は…、痺れもあるんでしょ?肘くらいまでありますか?」 「◎◎さん今日(MRI)撮れる?」 すると先刻呼び出してくれた看護士さんが 「今日はもう…、午後も一杯です」 再び先生が 「じゃぁ、木曜日、(看護士さんに)どう?」 「山根さんは?」 私が答える前に「木曜日なら まだ大丈夫です」と看護士さんが…。 で、私も「木曜日なら、何時でしょ?」 「9時15分に撮って貰って、その後11時にMRIの結果と今日これからやって貰う検査の結果をお伝えします、それを踏まえて どうするか検討しましょう」 「それで大丈夫ですか?」 私は「はい」と答えるしかなかった。 どうやら今日は病院1Fの1番奥の検査室で、電気を使った〈伝達〉だか何だかの検査をやって、その後にレントゲンを撮って終わりらしい。 続けて看護士さんから、木曜日 受け付け~MRIまでの流れを説明された。 「では木曜日、宜しくお願いします」 と、頭をさげると「はい、宜しく、お大事にぃ」先生と看護士2人が声を揃えていた。 私が診察室から出てくるのを待ちかねた様に「どうでした?」と裕美さんが小走りに寄ってきた。 その後ろに、おそらく私の次の患者さんなのだろう 怪訝そうにしている。 私は裕美さんの腰に手を添え壁の方に促すと、その患者さんに頭を下げた。 心配そうにしている裕美さんに、 「これから検査なんですって」 「電気で伝達が どうとかって…」 「あっちの方で…」 「で、木曜日にまた(診察室)…、MRIやってからとかって…」と、要点だけをかいつまんで伝えて 「すみません、検査に…」と、頭を下げた。 「あっ、ゴメンない、呼び止めてしまって」 「(検査)そうですよね?、ゴメンなさい、どぅぞ」 と、深々と頭を下げていた。 私は正面入り口を背にして、中央の通路を突き当たりまで歩いた。 その突き当たりを左に曲がると、幾つかの検査室の扉があった。 その中央には小窓の付いたカウンターがあり、そこにファイルを出すらしい。 「お願いします」と、ファイルを置いた。 「座って お待ち下さい」 と、ファイルが小窓の中に消えた。 振り返ると診察室の前にあったのと同じソファーが幾つも並んでいる。 その1番奥には外国籍らしいカップルが座っていた。 夫婦だろうか?女性が男性に凭れかかっている。 暫く待つとそのカップルが呼ばれ、女性が中に入っていった。 『へぇぇ、案外死角なんだ』 『人もすくないし…』 都合のいい 良からぬ妄想をしていると 「山根さん、山根さぁん」 「山根さんも ここだったんですね?」 「私もMRIって。木曜日にしてもらいました」 裕美さんの言葉が止まらない、ファイルを抱えたままでニコニコしている。 「あ、そこに出すみたいですよ」 小窓を指差した。 「ありがとうございます」 とお辞儀しながら戻ってきた裕美さんが私の隣に座った。
19/10/26 12:28
(9xBOB8TZ)
投稿者:
ずる
メディカルセンターにて…
〈出逢い 4〉 先ほど外国籍の女性が入っていった隣の扉が『ガチャッ』と開いて女性の検査技師が現れた。 「ヤマネさん、ヤマネケンイチさん」 「此方にどうぞ」 「じぁ、行ってきます」 と、検査室に入った。 手前の小部屋にはソファーがあり、脱衣籠が置いてあった。 「ヤマネケンイチさん、右手ですね?」 「検査技師の◎◎です、宜しくお願いします」 「はい、宜しくお願いします」 「比較対照の意味もあって両手を検査していきます」 「はい」 「電極を付けた検査のあと、触診検査も行います。少し痛いことも有るかもしれませんが、必要な検査ですので…、よろしいでしょうか?」 「はい」 「ヤマネさん、下は半袖のTシャツか何かですか?」 「はい」 「ではTシャツになって頂いて、下は(下半身)はそのままで結構です、ネックレス 時計 携帯電話などはこちらにおいて、準備が出来ましたら検査室にお入り下さい。中に入られましたらベッドの上に仰向けに、頭はこちら側で横になって下さい。よろしいでしょうか?」 「はい」 「では、お願いします」と検査の中に入っていった技師さん、何と事務的なことか。それは検査が終るまで一貫していた。 一通りの検査が終わって出てくると裕美さんの姿はなかった。 しかたなくレントゲンにむかった。 ここにも幾つものソファーと扉があった。 そこそこの人数、誰もがレントゲン待ちの様だ。が、裕美さんの姿はない。 私はさっきの検査室の前に戻った、が、誰もいない。 1番手前のソファーに座り足を組み、「考える人」の様な格好でスマホを眺めていた。 『ガチャッ』っと扉が開いた、裕美さんではなかった、またスマホに視線をおとす。 それから何分待っただろう?、また『ガチャッ』っと扉が開いた。 私に気付いた裕美さんが「山根さん!」と。と、すぐに振り返り技師さんへ せわしなく頭を下げている。 「どうしたんですか?山根さん」 「まだ(検査)終わってなかったんですか?」 と、私の隣に座った。 「いえ、あとはレントゲンなんですけど、行ったら田中さん居なくて。で、戻ってきました。」 「(電気)結構ビリビリきたし、触診も結構痛かったんで、田中さん大丈夫かなぁ?って」 「そんなぁ、心配して下さったんですか?、ありがとうございます」 「良かったぁ、検査 痛かったけど時間がかかって…」 「でもアレですよ、私が先に帰ってたら どぉしたんですか?、ずっと待っててくれたんですか?」 「そん時はそん時ですよ。」 「田中さんも次はレントゲンだって思い込んでましたから、先に帰って…なんて考えもしませんでした」 「それより何より長くって、木曜日なんて」 「木曜日までなんて待てなくて…」 そこまで言ってしまって我にかえって しばしの沈黙に妙な空気になってしまった。 じっとファイルを見つめたままの裕美さんが 「私もです」 「(検査が終わって)身支度しながら、もうレントゲン終わっちゃったかなぁ?とか、まだ会計あたりに居るかなぁ?とか…」 「あのぉ…」 と、裕美さんが何か言いかけた時に私が 「(田中さん)レントゲンは?、今日はこれで終わりですか?」 「はいッ。ですッ。いえ、レントゲン、レントゲンです」とあたふたしていている。 「良かった、行きましょ」と、裕美さんの背中に手を添えた。 レントゲンの受け付けにファイルを出し、番号札をもらい、ソファーに座って順番をまった。 番号札は、裕美さん→私 の順。 待ってる間に裕美さんの症状を教えてもらった。 私と同じガングリオンではなく、手根幹症候群らしかった。最悪 手首を切開して、圧迫されているスジや血管を解放してあげる手術が必要なのだとか。 その判断の為の幾つかの検査らしい。 裕美さんが先に呼ばれた。 その裕美さんと入れ替わりで私。 終わって出てくると すぐに裕美さんが此方にやってきた。 最初の受け付けの時に渡された番号札だけを持って 会計で待った。掲示板に番号が表示されたら〈会計が出来ました〉と言うことらしい。 並んで座って待っているものの 微妙な空気に支配された、会話もなく 2人して掲示板とにらめっこをしている。 時計は12時を回っていた。 どうやって昼食に誘おぅか?、そればかりを考えていた。 『ファァン』と裕美さんの番号が表示された。 「(番号)出ましたよ」 「ええ…」 「(お先に)どおぞ」 「えぇ、じゃぁ」 ちから無く立ち上がった裕美さんが会計に向かった。 『ファァン』、すぐに私の番号も表示された。 歩みをとめて振り返った裕美さんが微笑んでいた。 私の隣の窓口で会計している裕美さんが バッグの中をゴソゴソと探している 「…やっぱり車に置いてきてしまったみたいです」 「そうですか、次はお持ち下さい、割り引きが受けられますから」 「はい」 どうやら駐車券の事を言ってるらしい、患者さんは何時間かかっても一律料金らしい。 会計を終え、駐車料金の精算機に駐車券を入れた、100円の表示。 裕美さんは その間も隣で待ってくれている。 「おなか、すきません?」 「誘われて もらえませんか?、お昼」 小銭入れから100円を出しながら言った私に 「何それ、可笑しい、『誘われて…』って」 「でも、ありがとうございます」 「『誘われて』差し上げます」 裕美さんがニッコリしていた。
19/10/27 02:07
(5BnfxFXt)
投稿者:
ずる
メディカルセンターにて…
〈出逢い 5〉 この病院から見えるのはラーメン屋か蕎麦屋ばかり。 車で10分程の和食系のファミリーレストランって事になった。 裕美さんも知ってると言うので それぞれの車でむかった。 先に駐車場に着いた、店の入り口で裕美さんの到着をまった。 生産終了の噂のある黄色いカブト虫から裕美さんは降りてきた。 「山根さぁん」と、手を振りながら駆けてきた。 銭湯の下駄箱の様に、靴を入れて、木の鍵を持って中へ、店員さんに2名と伝えた。 「テーブルとお座敷、どちらになさいますか?」 「お座敷を…」 掘こたつ式のテーブルのある座敷に案内された。 「お決まりになりましたら、そちらのボタンでお知らせ下さい」と、メニューとお冷やを置いて店員さんが戻っていった。 「ビール!。って訳にはいかないですよね」 そう切り出した私に 「残念ですけど!。ドリンクバーとか無いのかしら?」 「有るみたいですけど イチイチ取りに行くのも面倒なんで、私はノンアルで」 「じぁあ私もノンアルにしようかな」 店員さんを呼んで、レディース御膳 何とか御膳 川海老のから揚げetcとノンアルコールビールを2つ注文した。すぐにノンアルが届いた。 「お疲れ様です」とグラスを合わせた。 食事を待つあいだ 裕美さんが先に切り出した 「『座りません?』なんて 何だか〈逆ナン〉みたいな事してゴメンなさいね」 「とんでもない、おかげで 田中さん こうして誘われて頂けてるんで。」 「何か中学生みたいに はしゃいじゃって、山根さん 迷惑だったんじゃないですか?」 「迷惑だなんて そんな事ありませんよぉ」 「山根さんのガングリオン見せてもらった時に、何て言うんだろ?、『(私の事)解ってもらえる、この人 理解してくれる』何だか そんなふうに感じちゃって、勝手に嬉しくなっちゃって」 「私だって どれ程わかって差し上げあれるかなんて わかんないですよ?」 「でも同じように…、ペットボトルとか…」 「まぁ、不自由な事や何かは…」 「ところで田中さん、今日は1人でいらしたんですね?、その手で運転して」 「ええ、主人は仕事人間ですし、子供も居ないので」 「あのぉ、山根さんに お願いがあります、聞いて頂けますか?」 「なんでしょう?、私に出来る事なら…」 私がそう答えると 間の悪いことに『失礼しまぁす』と食事が運ばれてきた。 「食べましょ、温かいうちに、食べながらでも良いですか?」 うなずく裕美さんに 「何でしょう?、お願いって?」 一旦 箸を置いた裕美さんが 「すごく恥ずかしいんですけど、その「田中」って呼ぶの…、その、やめて頂けませんか?」 「そのぉ、主人の名前を呼ばれてるみたいで…」 「今は そんな(あまり上手くいっていない)関係なんです」 「そうですか…」 「… … …?」 「なら『裕美さん』、でいいですか?」 「はい、変な事 お願いしてゴメンなさいね」 「いえ、とんでもない、お安いご用ですよ」 「食べましょ」 「ただ、病院では『裕美さん』て訳にはいきませんよ、その時は勘弁して下さい?」 「その時は呼び捨てで構いません 裕美って(笑)」 「どうせ周りは知らない人達ですし、夫婦としか思わないでしょうし、「田中」って呼ばれるよりは…」 「それと、もう1つ、山根さん自分の事『私』って言うのも(やめて下さい)、何だか『距離』を感じてしまって、『俺』でも何でも良いです 普段 会社の人達と話す時にみたいに…、お願いします」 「それと もう1つ、敬語もやめて下さいね(笑)」 「敬語は お互い様 って事で…」 いささか緊張している様に見えた裕美さんに、ようやく笑顔が戻った。 「でも嬉しくかったぁ!」 「ようやく理解してもらえる人に会えた!って」 「包帯巻いてたり 湿布はってたりしたら どうしたの?、ってなるけど」 「痺れはね、本人じゃないと解んないしね」 「そぉお!、主人とは それで 何回喧嘩したことか」 「おかげで今は『田中』って呼ばれるのも嫌んなっちゃって」 「まぁ、そうなったのは それだけじゃ無いんですけどね」 「…辛かったんでしょうね?」 「… … …」 無言の裕美さんが『雄弁』に語っている様に思えた。 その裕美さんが堰を切った様に話しだした。 大手バス会社の社内恋愛で5つ上のご主人と結婚。 結婚後 間もなく 妊娠がわかり退社。 が、流産してしまい、以来 不妊治療の甲斐もなく 子供に恵まれなかった事。 ◎◎生命 派遣会社の事務 保険の◎◎でパート 等をしていたが50歳からは専業主婦。 手根幹症候群は半年前位から。 ご主人の 懲りない浮気。などなど。 結婚当初 ご主人は観光バスの運転手、裕美さんは『配車』等の事務方。 50歳から内勤になったご主人も、いまだに行楽シーズンの人手の足りない時季には運転手として かり出されるらしい。 どっかのTVドラマのような『運転手とバスガイドが…』という ご主人の浮気には何度も悩まされたらしい。 それでも離婚しなかったのは 子供を望んでいたご主人に『流産→不妊』という〈負い目〉があったから らしい。 そんなご主人も来年には定年らしい。 そのご主人が5歳上 と言う事は 裕美さんは 53か54 という事なのだろう? 「…でね、私の事を解ってくれる人に出逢えたのが ホントに嬉しくて…」 「で、バカみたいに、中学生みたいに はしゃいじゃって」 「でも、まぁ、余計な知識や経験なんかが邪魔してる分 彼女達みたいにピュアじゃないけど…」 「知識や経験 って?」 「こんな事?」 私は意をけっして テーブルの下で伸ばした右足を裕美さんの足に絡めてみた。 すると裕美さんは 両足で私の足を絡め取る様に 手繰りよせて 「これは 経験から来る『期待』かな」 と微笑んで首を傾げている。 「でもダメね、こんなオバァチャンじゃ」 「やだ、帰りましょ、こんな時間」 「帰って主婦の真似事しなくちゃ」 と、伝票とバッグを手に立ちあがった。 急な展開に あわてて私も立ちあがり 「それ(伝票)かして、誘われてもらったんだから、俺が…」 と、伝票をもつ裕美さんの腕をつかんで 「じゃぁ、木曜日に」 「でもやっぱり木曜日まで待てないから…」 つかんだ腕を 更に引き寄せ 裕美さんの唇を奪った。 バッグを離した裕美さんの手が 私の背中に回った。 レジで支払いをしながら気付いた。 『連絡先』を聞いてない。 裕美さんは下駄箱から私の靴を出してくれている。 裕美さんを車まで送った。 エンジンをかけ窓を開けた裕美さんに 「裕美さん 連絡先を…」 裕美さんは助手席のバッグからスマホを取り出した。 「あれ?、自分の(電話番号)って どうやると出てくるんだっけ?」 「ちょっと見てみて」 私は窓から頭を突っ込んだ。 その私の頬を裕美さんが両手で押さえた。 裕美さんの唇が近づいてくる。 濡れて光って 少しあいた唇が近づいてくる。 私の唇に触れたのは、唇よりも 裕美さんの舌の方が先だった。 その舌が 私の唇をこじ開けた。 私の頬を押さえたままの裕美さんが 「山根さんのに(電話)かけて」 一旦離れて そう言った唇で また私の唇が塞がれた。
19/10/28 03:03
(qACOA74I)
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