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1:輪廻第1章
投稿者:
モト・恭斗
◆u.rpvKYEa6
第1章 10年後①
玲子がこのCDを小樽に住む母親から受け取ったのは1か月くらい前のことだった。それ以来、部屋の片隅にずっと置かれていた。玲子は見る気にもならなかった。 CDのケースには「つくば根市立筑西中学校卒業10周年記念同窓会の記録」の文字。玲子が10年前まで勤めていた茨城県の中学校の同窓会を記録したCDだった。表紙には参加者全員の集合写真が写っていたい。懐かしい先生たちも写っていた。それでも、玲子はこのCDを見る気にはどうしてもならなかった。 それは、彼女が天職だとも思っていた教職を辞める原因となった、あの忌まわしいレイプ事件の張本人が、この学年の卒業生だったからだ。 (でも、どうして実家の住所がわかったんだろう・・・) 玲子は不思議に思った。退職のときに事務の職員には実家の連絡先を誰にも教えないように頼んでおいたのだ。玲子は筑西中の次に津久葉根台中に2年間在職した。その中学校にも同じように依頼していおいたのだ。 (もう、あれから10年近く経っているし、事務室の職員も変わっちゃったから、引継ぎもうまくいってなかったのかな・・・)と思った。 それからしばらくして、玲子の住む北広島市のマンションに卒業生の中西玲奈から手紙が届いた。 (小樽の実家だって教えてないのに、どうしてここがわかったの?)玲子は母親に聞いてみた。 すると、母親はあっけらかんとして、同窓会の招待状の返事を書くときに、玲子の北広島の住所を記入して返送したというのだ。玲子は3か月ほど前に、母親から電話で同窓会のはがきが来ていることを知らされた。その時は安易に「行かない」」と言っただけだったが、まさか、母親がここの住所を書いて送っていたとは思わなかった。でも、それも仕方のないことだ。玲子は、母親にもレイプ事件のことは話してなかったのだから。いや、話せるわけなどなかった。 麗奈は玲子が3年生の担任をしたときのクラス委員で、この同窓会の女性の代表をしていたようだ。手紙には卒業生の容子や同窓会の模様が細かく記されていた。 そして、最後に、「先生が突然退職されたと聞いてびっくりしました。中学校に聞いても、先生の帰省先はわからないって言われてしまって、私たちは先生に見捨てられたと思い悲しかったです。でも、今回、初めての同窓会を開催することになり、再度中学校に問い合わせたところ、なんと、小樽のご住所を教えてもらえました。先生は北海道出身だったんですね。今度、夏休みに遊びに行きたいです。先生とお会いできることを楽しみにしています。」と結ばれていた。
2019/08/19 17:45:41(m8L6uqPj)
投稿者:
モト・恭斗
◆u.rpvKYEa6
はじめまして。
初めて三人称で文章を書いてみました。過去に「犯された私」などに一人称で投稿したことはあっつたのですが、小説って難しいですね。 何かコメントをいただいたり、アドバイスを頂けたら嬉しいですし、励みになります。構想はできているのですが、文にすると稚拙だったり、情景が浮かばなかったり、脚本みたいに言葉の応酬だけになってしまい苦労しています。 今後ともよろしくお願いします。
19/08/19 22:23
(m8L6uqPj)
3
削除済
2019/08/19 23:21:22(*****)
投稿者:
モト・恭斗
第1章 10年後②
玲子はその手紙を読みながら、涙がにじんできた。子どもたちと楽しく過ごした日々が蘇ってきた。玲子は思い切ってCDを見ることにした。見れば、きっと退職前の半年間の忌まわしいい出来事を思い出してしまうことはわかっていた。それでも、勇気をもってCDを自分のノートパソコンにセットした。 そこには25歳になった卒業生が同窓会を楽しんでいる画像が写っていた。生徒会長だった岡部君、野球部の菊池君、体育祭で女性団長だった相場さん、大人になった懐かしい顔、中には誰だろうと思い出せない顔もあった。 (あっ!) 玲子は会場全体を写した1枚の画像を見て、思わず目を背けた。そこには、あの忌まわしいレイプ事件の張本人といってもいい新田薫が写っていた。 (やっぱり、来ていたんだ・・・) 一時期の荒れていた頃とは違い、髪の毛も黒く、今どきの若い子たちがする普通のファッションだった。 玲子はファイルの最後にクラス別の名簿ファイルが保存されているのをみつけた。そこには卒業生38人の名前と住所、そして担任だった玲子の小樽の実家の住所も記載されていた。新田薫は、隣町の千代田町に住んでいるようだった。気にはなったが、玲子にはどうでもいいことだった。これ以上CDを見る気にはなれず、書棚に立てかけてしまった。嫌な胸騒ぎもあったが、CDのことは早く忘れて日常に戻ろうと思った。
19/08/19 23:30
(m8L6uqPj)
投稿者:
モト・恭斗
◆u.rpvKYEa6
第1章 10年後③
だが、その思いは突然踏みにじられた。麗奈の手紙が来てから3週間後に、1通の封書が届いた。差出人を見ると稚拙な文字で「新田薫」と書かれていた。玲子は読む気にもならなかったが、胸騒ぎがして封を切った。手紙は便せん1枚だけで、ひらがなの多い文章だった。 「先生はきっとこの手紙を読んでくれないかもしれないし、もしかしたらふうとうもあけてくれないかもしんない。でも、いいんです。いつか、きっと先生の前であやまりたいんです。許してもらえないかもしれないけど、あやまらないわけにはいかないんです」 たどたどしい文章ではあったが、謝りたいという文字が並んでいた。玲子に、この手紙に応える気持ちなど湧くわけがなかった。 それから2週間おきに薫から手紙が来た。2通目も読むことはしなかったが、4通目になると、さすがに封を開けて読んだ。そこには、元教師としての思いもあった。どんな過ちを起こした生徒でも、立ち直ることを信じてあげることが大切。これが玲子の教員時代の信念だった。 その手紙には、今度北海道に行って直接会って謝りたいと書いてあった。5通目には、北海道に来る日まで書いてあった。 「先生が来られるかはわからないけど、自分は必ず行き、先生が来てくれたら、土下座してでも謝りたい。」と丁寧な文字で書かれていた。6通目には、エクセルグランドホテル札幌に部屋を予約し、1階にあるノーザンテラスバルーンという喫茶室で待っていますと、具体的なホテル名やお店の名前まで書かれていた。玲子は、どの手紙にも返信をすることはなかったし、一方的な内容に憤慨もした。だが、返信をしなくても、何度も何度も手紙を書いてくることに玲子は思うのだった。 (薫君は、本当に反省しているのかもしれない。彼もずっと、あのことを引きずっているのだろう。行ってあげたほうが、彼のためにもいいのかもしれない) エクセルグランドホテル札幌は、札幌駅の近くにある五つ星の高級ホテルだ。玲子がいま非常勤で勤務している南区役所サウザン通りセンターの近くにあり、地理的にもよくわかるところで安心できると思った。玲子は行くべきか、行かない方がいいか、毎日、悩み続けた。だあ、次第に何通も手紙を書いてきた薫の気持ちに応えたいと思うようになっていった。 薫が指定してきた日はあっという間に来た。十月の札幌は大通公園のイチョウも色づき、晩秋の気配が感じられるようになっていた。玲子はコートを着て行こうか迷ったが、指定の時間が4時であったのでフレアコートを持っていくことにした。 ホテルにはやや早めに着いた。喫茶室は全面がガラス張りになってるので、外側から薫の雰囲気を見たかったからだ。もし、以前と何の変化もないようだったら、会うことなく帰ろうと思っていた。柱の陰から喫茶室の中をのぞくと、端の方のテーブルに下を向いて座っているスーツ姿の薫がいた。テーブルにはスマホが置かれていた。玲子からの連絡を待っているのかもしれない。 玲子は髪の色がちょっと茶色っぽかったが、まじめに更生した感じの薫に安心した。玲子はお店の中に歩みを進めた。 「西田薫くん」 玲子は下を向く薫に、昔のようにフルネームで呼びかけた。薫は驚いて顔を上げた。 「せ・・・先生!」 そこには、白のブラウスに青のフレアスカート、腕にコートを持つ、昔とちっとも変っていない「玲子先生」の姿があった。玲子は、意を決して薫の前に座ると、ボーイがさっそくオーダーに来た。オレンジジュースを頼みボーイが下がると、薫は突然、立ち上がりすぐに床に頭をこすりつけるようにして土下座をした・ 「先生、ごめんなさい!ほんとうにごめんなさい!」 周りの客がびっくりしてこっちを向いている。 「薫君、何をしてるの・・・、やめて、こんなところで」 「でも、俺、こうでもしないと気が済まないんだ」薫は頭をこすりつけたまま謝り続けた。 「わかったから、落ち着いて、薫君。もう、座って・・・座りなさい、薫君」 玲子はつい、以前のような指示口調になってしまった。 玲子には周りの視線が痛いほどだった。そんなことは気にせずに薫は 「だって、せ、先生・・・」と語りかけた。 玲子はすぐに小さな声で 「大きな声をださないで、薫君」と薫の声をさえぎるように話しかけた。 薫は周りをきょろきょろと見渡し、初めて周りの客が自分たちを見ていることに気が付い た。 「薫君、私は・・・・薫君が本当にあの時のことを反省し謝ってくれるなら、それでいいの。いま、一生懸命頑張っているのなら、私もそれで嬉しいわ」 薫は下を向いてまま、顔をあげようとはしなかった。 「それがわかったから、もういいわ。安心もしたわ。これで帰るわね。ありがとう、わざわざ北海道まで来てくれて。」と言って、バッグとコートを持って立ち上がろうとした。 「ま、まって、先生。」今度は小声だった。「それじゃ、まだ、俺の気がすみません。おれ・・・・、ここの25階に部屋を予約してるんです。」 「えっ・・・」玲子は驚いた。このホテルの25階から29階まではVIPルームになっていて、1泊15万から20万はする部屋で有名だった。 「おれ、先生が本当に来てくれるとは思ってなかったんだ・・・。だから、深夜までまってだめだったら泊まって帰ろうって思って、それで・・・・、先生に少しはおれ働いて金もらってるよって報告したくて・・・・見え張って、すげぇ高い部屋を予約しちゃったんだ・・・」 玲子は立ったまま、目をキラキラと輝かせながら自慢するように話す薫を見て、なんだかこどもっぽく、昔とちっとも変わってないなって笑ってしまった。 それをみて薫もニヤッと笑い、「先生、ここでだめなら、25階のルームで、一度だけ、一度だけ、真剣に謝らせてください」今度はテーブルに頭をつけて懇願するのだった。
19/08/19 23:51
(m8L6uqPj)
投稿者:
モト・恭斗
◆u.rpvKYEa6
第1章 10年後④
一刻も早くこの場を立ち去りたかった玲子は「わかったわ、薫君。早く行きましょう」と、薫の提案を受け入れてしまった。ただ、薫の誠実さあ伝わってくるような気がした。 ボーイも二人の異様を光景を察知してか、オレンジジュースを持ってきた。玲子は「ありがとう」と立ったまま一口飲み、出口へ向かった。財布からお金を出そうとすると、薫がルームキーを出して支払った。ボーイは二人の顔を怪訝そうに見比べたが、何も言わずにルームキーを薫に戻した。 「無理になくてもいいのよ・・」と玲子が言うと、「ちょっと格好つけたくて」とはにかんだ。 (この子は10年まえのままだわ・・・)そう思いながら薫の後からついていった。 エレベーターは24階までしかなかった。そこから上は専用のカードを差し込んで上がるのだった。 玲子にとっても、このホテルのVIPルームは興味があった。市内が一望できる展望ルームもあり、ある外国のアーティストはミニオーケストラを呼んで演奏させたとニュースになっていた。 専用エレベーターの扉が開くと、そこは別世界だった。大きな門扉があり、両側を花に飾られた石段を進むと重厚な扉があった。まるで高級マンションの入り口のようだった。薫は先に一度部屋に来ていたのか、慣れたようにカードを差し込み暗証番号を押して重たそうなドアを開けた. 「先生、どうぞ」と、玲子を先に部屋に招き入れた。 「ずいぶん紳士ね」と、玲子は笑いながら玄関に入り、部屋をぐるりと見まわした。それは興味でもあったが、警戒感でもあった。リビングには大きなシャンデリアに、黒を基調とした、これまた重厚なソファにテーブルが置かれていた。 (ここがオーケストラが演奏したってところなんだ・・・)そんなことを思っていたら、背後から薫が声をかけた。 「先生!ほんとうにあのときはごめんなさい!」 振り返ると、薫がふかふかの絨毯の上で土下座し謝っていた。 「もういいのよ、薫君。頭をあげなさい。あなたが、ほんとうに反省してくれているのはよくわかたわ、だから・・・」 と言いかけた時に、背後の部屋のドアがガチャっと音を立てて開いた。 「かおるが一生懸命あやまっているんだから、そんな言い方はねぇだろう・・・」 玲子は驚いて振り返った。「だ、だれ?」 「ふふふ・・・、先生、お久しぶり・・・。剛志だよ、青木剛志。忘れちゃった?」 忘れるはずがない。薫が進学した定時制の高校で、薫の2学年上だった男だ。この男がレイプの首謀者だ。 「ど、どういうこと?」 玲子はあとずさりしながら、薫の方を見た。薫は床に正座したまま動かなかった。 「薫君、だましたのね!」 玲子はきっと薫をにらんだが、そのスキにも剛志が玲子に近づいてくる。 「やめて、近寄らないで!」そう叫んだ瞬間、玄関入り口の横のドアが開き、もう一人の男が出てきて、玲子を後ろから羽交い絞めにしたのだった。 「ひぃっ・・・だ、だれ・・・?」 それは身長180センチを超える大柄な男だった。 「先生は覚えているかなぁ・・・・、力也だよ。高久力也。覚えてないか、あの頃はまだ中学生だったからなぁ、力也も。」 玲子は思い出した。力也は中学2年のときに主婦を暴行して逮捕され、少年院に送致されていた生徒だった。玲子の顔を見て、剛志が声をかけた。 「思い出した、先生?あん時とは見違えるほどでっかくなったから、わかんないかもね。あの時の中坊も、いまじゃ、りっぱな極道なんだぜ。俺たちだって頭が上がらない」といって剛志は笑った。
19/08/20 22:33
(BhBH35td)
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