「じゃあ、とりあえず君の名前を教えてください」
「ヤスオです」
「あ、そう」と助監督が言った。「こちらが美紗子さん。それから、息子さん」
ヤスオが僕達二人に向かって会釈した。
助監督が、もうどれくらいセックスしていないのか尋ねると、４年と答えていた。あと、ハンディーカメラの説明をしていた。どんな時も、とりわけ、セックスする時は、かならずハメ撮りすること。
1週間、君が監督なんだからね！
そんな風に、ヤスオにはっぱをかけていた。

ヤスオが、ぞっとするような笑みを浮かべて言った。
「俺、生まれつき金玉が３つあるから、もの凄く濃いマヨネーズみたいな精液が出るんですよね」
ヤスオの悪臭が鼻をついた。狭いバンの中は息苦しかった。
ヤスオの瞳の奥は、憎しみを募らせていた。そして、その憎しみは母に向けられようとしていた。

ヤスオの持ち物は、バック一つだった。それを持ってうちに連れて来た。スタッフ達は、一週間ぶんの生活費10万を置いて、引き上げていく。
「それじゃあ、企画をスタート！美紗子さんがんばってくださいね！」とか言いながら。「主導権は、あくまでもゲストのヤスオさんと言うことで、ここからはヤスオさんが監督ね！面白いの楽しみましたよ」

ヤスオが、ビデオカメラをテーブルに置いて、席についた。で、母と僕に監督ぽく、偉そうに話してきた。
「じゃあ、決めたいと思うのでとりあえず座ってくれますか？」
なんだか、ホームステイしてるが、僕達のようになり、言われた通りに座った。
「えーと、自分がここに来た理由として、汚いと思われるホームレスだからだと思うんです。でしょ？なので、汚いままじゃなきゃ、見る人の期待を裏切ってしまうんじゃないのかと、思うので、1週間は、美紗子さんも自分もお風呂には、入らないんです。あ、もちろん息子さんは、入ってください。それから、食べるものなんですけど、自分が、スーパーのゴミから何か探して調達してくるので、美紗子さんも一緒にそれを食べるようにしましょう。ゴミと言っても、期限切れの弁当などの綺麗なものですので、御心配なく。あ、それから、冷蔵庫は、電源を切りますね！なるべく、ホームレスに近い生活の方が面白いかと。ルールを破って風呂に入ってるとこなんかは、小型カメラに映ってしまいますから、それはなさらないでくださいね！抜いてる男どもがみたら、失望しますよ。美紗子さん、わかった？」
そこには、母の意見を挟み込む余地はなかった。
母は、絶句にも似た表情で、「はい」と言わざるおえなかった。

それでも、「とりあえず、ヤスオさん最初だけシャワーを浴びてきてください」と母がお願いした。
「何言ってるの？俺入らないよ。今さっき言ったばかりでしょう？
自分がここに来れたのは、ホームレスだからだって、だから、このまま汚い格好で暮らしますから。美紗子さんに、臭い男を味わっていただきます。まあ、いずれは、臭い男が忘れられない身体にさせて、この企画が終わったあとも、夜な夜なブルーシートの小屋を求めてうろつき回るように美紗子さんをさせることができたら、自分の勝ちです」