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夜にとけながら夢を見る
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:ノンジャンル 官能小説   
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1:夜にとけながら夢を見る
投稿者: はるまき
ジブリ作品をちょこっとイメージした短編集です。
H要素少なめですけど、良かったらのぞいていってください(*^^)


case1『魔女の宅急便』×明里


この作品を初めて見たとき、私の胸は大きく高鳴った。

女の子が箒に乗って飛んでいる。

なんて素敵なんだろうか!

次の日から私は家の箒にまたがり、庭のすみっこで何度もジャンプをしていた。

風が強い日には公園に行き、全速力で坂をかけおりた。

あの子がいたら飛べるはず、と黒猫を探し回ったこともあった。

そして私は一度も飛べることなく、しゃべる黒猫にも出会えないまま、大人になっていった。


********

「でさぁ、また取引先に色目使ってんの!」

「まじでぇ?あの人もう30も過ぎてんでしょ?大概イタイよね(笑)」

「何で男もひっかかるかなぁ?すぐヤラせてくれるけど、飽きたらポイ捨てするって噂だよ~」

「こわっ!もう魔女じゃん(笑)」

給湯室で20代の後輩たちが、私の悪口を言っている。

彼女たちの中では私は魔女みたいな女で、男を次から次へとたぶらかしているらしい。

「はぁ……」

冗談じゃない。

コンコンッ

「三田さんたち、休憩終わってるよ。もうすぐお客様いらっしゃるから、準備お願いね」

「あ~ごめんなさぁい」

「でもぉ、お客様のお相手は私たちよりも明里さんがした方が評判良いんですよ。やっぱ美人だからぁ(笑)」

可愛い笑顔のマスクをつけて、若い彼女たちはクスクスと給湯室を出ていく。

「ふぅ…傷つくなぁ…」

見た目だけは一人前に大人になっているが、私の心はまだまだ少女のままなのだ。

悪口を言われたら悲しいし、誤解されたらもどかしい。

たぶらかすどころか、好きになった人にはなかなか声もかけられないのに。

「おーい、誰かこれ営業1課に届けてきてくれない?」

部長の呼び掛けに誰も応えず、用事もないのにパソコンを開いている。

「…部長、私行ってまいります」

「あ~吉野くん助かるよ。いつも雑用までしてもらってありがとうね」

「いいえ、これくらい」

書類と分厚いファイルを受け取り部屋を出る。

「ぷっ出たよ(笑)」

「点数稼ぎ~」

耳を貸しちゃいけない。

胸がギュッとなるのを堪えながら、足早にエレベータに向かう。

廊下の窓には真っ青な空。

あの女の子のように、箒に乗ってずっと向こうまで飛んでいきたい。


「あの~すみません、お預かりしてた書類とファイルを持ってまいりました」

声をかけると、近くに座っていた男性が勢いよく立ち上がり駆け寄ってくる。

「吉野さん!これは…重いのに申し訳ないです」

「いいえ、よろしくお願いいたします。それでは」

「あっ、あの…えと、こないだのことですけど…俺、やっぱ…」

「仕事中なので。失礼します」

軽く会釈をして部屋を出る時、ちらりと彼に目をやる。

そんな哀しそうな顔をしないで。

彼、営業1課の橋元くんは、人当たりもよく仕事も真面目で女性たちにとても人気がある。

橋元くんによく話しかけられるようになったのは3ヶ月前の部署合同飲み会の後からだ。

何故か好意を持たれたようで、連絡先を聞かれたり食事に誘われた。


可愛い顔のハイエナたちがそれに気付かないわけもなく、あっという間に「みんなの人気者をたぶらかした女」というレッテルが貼られ、私は露骨に煙たがれるようになった。

そんな状況の中で、先週末橋元くんは私に告白をしてきた。

私は慌ててお断りし、走って逃げ出してしまったのだ。

怖かった。

誰にも見られていませんように。

誰にも聞かれていませんように。

どうせ飛んで逃げることはできなのだから、これ以上私の居場所を奪わないで。


********

ザーーーッ

「やだぁ~雨すごい」

「早く帰ろ」

「あ、ファイル整理がまだ…」

「じゃあお先でーす」

私の声は雨音に溶けるように消えていき、彼女たちは可愛い色の傘をそれぞれ手にして出ていった。

「じゃあ…俺たちもそろそろ帰るけど、大丈夫?」

「はい、あとはやっておきます」

「…吉野さん、真面目でよくやってくれるから助かるけど、若い連中も育ててあげてね。いつまで経っても学生気分のやつもいるからなぁ(笑)」

「吉野さんも仕事多くなって大変でしょ?じゃあお疲れ~」

「はい、お疲れさまでした」

ひとりになったオフィスは静かで冷たい。

こんな無機質な場所だっけなぁ。

「育てるたって…こっちが教えても無視するんだってば…」

ボソッと呟くと、無性に悲しくなってくる。


いつの間にか時計は20時をまわり、雨は止むことなく降り続ける。

窓にぶつかる強い雨を見ながら、このまま会社も何もかも全部流されれば良いのに、とぼんやり考える。

コンコンッ

「あの~まだ残って…あ…吉野さん?」

「あ、橋元くん…」

「あの、警報出たの聞いてないんですか?電車止まってるみたいですよ。警備が早く帰れって…」

「あ、そうなんだ。えっと…まだファイル整理が…」

「えっ!この量をひとりでですか!?他の人は…」

黙って俯くしかできない自分が情けない。

「…もしかして、俺のせいですか?俺が吉野さんにいろいろ言ったから吉野さんに迷惑が…」

「や、やだなぁ、違うから。私、後輩の指導が下手だから…」

うん、本当のことだもの。

嫌われたくないから強く言えなくて、すぐ舐められて、些細なことで結局嫌われた。

「これ、今日中ですか?」

「あ、いや…週明けでもなんとか…」

「じゃあ今日のところは帰りましょう。雨、どんどんひどくなってるし。下にタクシー呼んでるんで」

彼に半ば強引に帰り支度をさせられ、一緒に職場を出る。

雨風は強く、タクシーに乗り込むだけでも濡れてしまう。

「あの…飲み会の時聞きましたけど、吉野さんちって遠いんですよね?
えっと、もし良かったら…その」

あ、この人も私のことを「すぐヤラせる」女と思っているのか。

自分の体が冷たくなっていく感じがした。

「あの私」

「あの!良かったら…ご飯でも、食べませんか!?」

「え…」

「べ、別にうちに来て欲しいとか…失礼なことお願いするつもりないです!
えっと…あーファミレスでも良いです!
しばらくしたら雨も落ち着くかもしれないし…
と、とにかく…俺、吉野さんともっと話したいていうか」

暗がりで分かりにくいが、橋元くんの顔は真っ赤になっている。

「ゴホンッ…あーお兄ちゃんたち、どこのファミレスにする?」

タクシーのおじさんが目を細めて嬉しそうに聞いてくる。

「あっ!と、とりあえず…駅前のサイゼリアまで…」

「はいはい」

川のようになりかけている水溜まりの上を、タクシーは走り出す。

「はい」とも「いいえ」とも言えないままで、私は橋元くんと同じように窓の外の雨を見つめていた。


つづく
 
2018/01/23 16:04:09(6W9CyKbg)
7
投稿者: はるまき
都会の友だちとプリクラを撮ったり、カラオケに行くことはあまり楽しくなかった。

いつも同じような表情やポーズを撮っても、経験したことのない恋の歌を聴いても、全然ドキドキしなかった。

それよりも、いつ咲くか分からないキレイな花の蕾を見つけたり、ちょっと気持ち悪い虫を触ってしまった時の方が私の胸は忙しかった。

もちろんそんな子どもみたいなことはみんなに言えず、限られたお小遣いをやりくりして、周りと同じように笑うことを覚えた。

母親が仕事に就いてからは私が夕ごはんの当番になったので、友だちの誘いを断る口実ができたのはちょっとラッキーだった。

私の作った拙いご飯を母親が「美味しい」と言ってくれるのも嬉しかった。

誰かが喜んでくれるのって幸せだなぁと思ったんだ。

********

「おかわり」

「…おじさん、よく食べるねぇ」

「いや、普通にうまいから」

「太っちゃうよ~」

「うるせぇなー」

誉められたのが久しぶりで、ついニヤニヤしてしまう。

この人が良すぎるおじさんは、私のためにプリンをお土産に買ってきてくれた。

「女子は何が好きなのかよく分からん」

どこにでも売ってるプリンだけど、おじさんが悩んでいる姿を想像したら、私は可笑しくて嬉しくて笑ってしまった。


「いただきまーす!」

「そっちこそ、こんな時間に甘いもんなんか食ったら太るぞ」

「おじさんだってビール飲んでるじゃん」

「カロリーオフだから!糖質もオフだから!」

クスクスと笑い合う。

口の中が甘いカラメルの味。

寒いのは嫌いだけど、大寒波のおかげで明後日まで私はひとりじゃない。

明後日までは…


「それでね!あんまりは覚えてないんだけど、あの感触は絶対そうだと思うんだよね!どんぐりだって、あの時に握ってたやつを埋めてたら芽が出たかもしれないなぁ…
『夢だけど、夢じゃなかった!』ってさ~」

「ふふっ…」

「あっおじさん、信じてないでしょ。
いいもんね、どうせ今までだって誰にも信じてもらえなかったし…」

「いや…悪い、楽しそうに話すなぁと思って…
それに俺、そういうの結構信じる方だぞ。
ばあちゃんちが北関東の田舎の方で、家の裏なんてすっげぇ森だったんだよ」

「へぇ!一緒だぁ~」

「森には神様がいるから、中で遊ぶ時にはちゃんと挨拶してけよって、いっつも言われてたなぁ。
森の奥の方にな、バカみたいにでっかい木があってさ。俺はそれが神様なんだって、何となく思ってた。

姿は見えなくても、君は守り神に助けてもらったのかもしれないなぁ」

「へへっ…おじさんってばメルヘン~」

「なっ…君の話だろ!?」


神様、あの時助けてくれた神様。

私は明後日になったら、またひとりになってしまいます。

この優しいおじさんと、離れたくないなって思うのはいけないことですか。

「ほら、もう遅いんだから早く寝ろ」

「はぁい…おやすみなさい」

「おやすみ」


カチ、カチ、カチ、カチ…

眠れない。

日付が変わって、明日にはもうこの家を出ていかなければいけない。

「おじさん…」

小声で呼んでみるが返事はない。

「…おじさん、もう寝ちゃった?」

静かにソファから起き上がり、ベッドに近づく。

おじさんは背中を向けているので顔が見えない。

ゴソッ…

少しで良いからおじさんの温もりを感じたくて、手の先を布団の中に入れた。

布団の中はじんわりと温かくて、もう少しだけ近づきたくなる。

あとちょっとだけ…

そう思って手を動かした瞬間、指先がおじさんの身体に触れてしまった。

あっ…と思うと同時に、弾けるようにおじさんが起き上がり、固まる私と目が合った。

「…あの」

「そういうこと…するなって言ったろ」

「あ、違…」

「俺が…喜ぶと思ったのか?」

「おじさん、あの…」

「…どうせ男なんて、って思ってんのか!?
俺はっ…俺は…普通に飯食って、しゃべって、笑って…それで…良いって言ったのに…なんで…」

どうしよう、怒らせた。

いや…失望させて、傷付けた。

カーッと顔が熱くなり、涙が出そうになる。

どうしよう、どうしよう、もう…ここには居られない。

ガタンッ!ガサガサガサッ…

「…っ…ごめんなさい…」

「えっ…お、おい!?」

バタバタバタッ…ガチャンッ!!

うわっ…寒い。でも顔が熱い。恥ずかしい。悲しい。

…消えたい。

かき集めて来た荷物を抱えて、雪がちらつく夜道を私は泣きながら走った。

神様…助けて、神様。

あぁ、私はあの森を離れちゃったから、もう助けてもらえないかもしれない。


つづく
18/01/24 23:12 (QjPM/wJO)
8
投稿者: はるまき
行くあてもなく、私は誰もいないバスの停留所で立ち止まる。

ベンチの上に屋根があったので、何とか雪がしのげそうだ。

さっき布団の中で感じた温もりが嘘みたいに、指先は凍えそうなくらい冷たい。

おじさんに誤解された。

傷付けた。

呆れさせた。

「…嫌われちゃった…
っひ…ぐすっ…うぅっ…ふぐっ…」

容赦のないこの冬1番の大寒波。

やっぱり、寒いのは嫌いだ。

私は何だか、ものすごく疲れてしまった。


*********

『それでね!みかがないてるときに、たすけてくれたの!!どんぐりもくれたのにね…みかどっかにおとしちゃった…』

『そうかね。美花ちゃん、それはきっと森の神様だねぇ。美花ちゃんがいっつも森と遊んでくれるから、助けてくれたんだねぇ』

『おばあちゃん、もうあえないのかなぁ。みか、もっかいあいたいなぁ~』

『会えるさぁ。美花ちゃんが「ありがとう」って気持ちを持ってたら、いつでも神様はそばに居てくれるもんだよぉ』

『ありがとうっていうきもち?』

『そうだよ。そういう気持ちで、自然も人もみんな繋がってるんだよぉ』

『ふぅん……もりのかみさまっ!みかのことたすけてくれて、ありがとうございましたっ!!
おばあちゃん!これでまたあえるかな?』

「また…会えるかなぁ…」

柔らかくて温かい感触。

そう、あの時も…こんな…柔らかい…

「おい!起きろ!!おいって!!美花っ!!」

バチンッ!!

「っ…痛…」

頬を思い切り叩かれた。

「……え…おじさん?…あれぇ…おばあちゃんは…」

「お前っ…なに寝惚けてんだ!
こんなとこでうずくまって…死ぬ気かよ!
東京の冬舐めてんじゃねぇぞ、このバカッ!!」

目の前にはスウェット姿でガタガタと震えながら、私を怒鳴るおじさんの姿があった。

「お…じさん…なんで…」

「話はあとだ!死ぬっ!寒すぎる!!」

ぐいっと力強く手を引っ張る。

「立てるか?ほら、帰るぞ!」

寒い…死ぬほど寒い。

でも、おじさんの手があったかくて、私はまた泣いてしまった。

********

「ほら、飲め。早く!」

ゴクンッ

「っげ!?何これ、お酒?…ゲホッ…熱っ」

「雪山遭難と言えばブランデーだろ」

「うぅ…一気に飲んじゃった…ゴホッ…おぇ~」

「どうだ?熱くなってきたか?」

「のどだけ熱いけど…まだ身体が寒い」

「あんなとこで寝てるからだろ…ほらこれ着て、巻いて、こっち来い!」

おじさんは私に毛布をかぶせ、マフラーを2枚巻き、ストーブの前に引っ張った。

「はぁぁ…まじで死んでんのかと思って心臓止まりそうだったわ…」

私の両腕を後ろから何度もさする。

「…ごめんなさい」

「いや…俺も悪かった。
なんか…お前が自分の身体を差し出さないと、俺が満足しねぇとか思われてたのかなーと思ったら…悲しくなって。
そんなことしなくても、お前はちゃんと良い子だって思ってたから…
だけどあんな怒鳴りつけるみたいな言い方はなかったよな…悪い」

「おじさん悪くないよ!私が…私が、おじさんに…ちょっとでもくっつきたくて…あんな夜這いのような真似を…」

「ぶっ…夜這いってお前…」

「わ、笑わないでよ。だって…おじさんに触りたかったんだもん」

はぁ…とおじさんがため息をつく。

「あのね、いくら人が良いおっさんでも、そんなこと言われたら…」

ガバッ

思い切りおじさんにしがみつく。

「うわっ…ちょっと」

「…遭難した時、ドラマとかでは裸で抱き合って温め合うよね…あれって本当にあったかいのかなぁ?」

「…君はもう遭難してないでしょ」

「ねぇおじさん、試してみようよ…」

*******

冷たかった身体がどんどん熱くなっていく。

おじさんと私の体温が溶け合い、ひとつになっていく。

「あっ…やぁ…そこ、だめぇ…」

「すげぇな、もうトロトロになってる」

「んぅ…やだぁ…あっ…おじさんの指…長いからぁ…あぅっ…」

セックスって、こんなに温かいものだっけ。

「いいの?」

「うん、入れて…おじさんの…欲しいよぉ」

ゆっくりと、私とおじさんが繋がっていく。

「んぅ…あっ!あうんっ!あ…あぁ…おじさ…」

「あの…今さらなんだけど…俺の名前、よしひとだから。そのおじさんってのはちょっと…」

「よ…しひと…」

「うん…「ぜんにん」って書いて…善人」

ぶーっ!!と吹き出してしまった。

「あはっ!ぜ、ぜんにん…ピッタリ…おじさんにピッタリすぎ…ぶふっ…く…くく…」

「あぁー笑うなよっ!だから言いたくなかったんだよぉ…」

「ご、ごめ…はぁっ……んぅ…よ、善人さん…もっとぉ…もっとしてぇ…」

「……たく…可愛いな、チクショー」

もう、私の身体はどこも冷たくなかった。

*******

「よし、忘れ物なし!」

日曜の夕方、私は荷物をまとめて善人さんの家を出る準備を終えた。

「母ちゃん、連絡ついたか?」

「うん!まともに話したの1年ぶりくらいなんだけど…怒ったり泣いたり…あと、なんか喜んでた。義父さんまでさ、後ろで騒いでるんだよ。もううるさいっての…」

ポンッと頭を撫でられる。

「何が「ひとりになっちゃう」だよ。ちゃんとお前のこと心配してる人たち、いるじゃねぇか」

「えへへ…しばらくはギクシャクしちゃうかもだけど」

私は母親と義父が暮らす家に戻ることにした。

ちゃんと働くために、短大か専門に行きたい。

自分の力だけではそれが出来ないから、少しだけ助けてもらうことにした。

「全然ひとりじゃないんだから、安心しろ。
…まぁ、なんだ。どうしても不安になったり困ったりしたら…話聞いてやるから」

ペラッと渡されたメモ用紙には、電話番号とアドレスが書かれてあった。

「…ありがとう。連絡する。元気な時も連絡する!」

「困った時だけで大丈夫だから(笑)」

「…善人さん、昨夜は探しに来てくれてありがとう。
迷子になりかけてた私を…助けてくれてありがとう」

「…おう、元気に頑張れよ」

ガバッ

「…っ!」

チュッと頬にキスをして、私は善人さんから離れた。

「…ありがとう!またねっ!」

「…おう」


たった3日間だけだったのに、美花のいなくなった部屋はとても静かだ。

「まぁ…これが元々の姿だからなぁ…」

『おじさんのひとりごとって寂しい~』

「寂しい、か…」

ピロンッ

「ん?誰だ…」

『やっほー美花だよ!もうすぐ駅行きのバスが来るよ♪
善人さんが寂しがってると思ってメールしました!』

「……まだすぐそこじゃねぇかよ」

ピロンッ

『学校に行くとは言えしばらく暇なので、今度善人さんのお休みの時にデートしましょう♪

できたら善人さんの田舎に行ってみたいなぁ。
おっきな森の神様に、私も会いたいです。
善人さんと会わせてくれたお礼も言いたいです(^-^)』

「え、まじでこのペースで連絡してくる気か(笑)
ちょっとはセンチメンタルな気分を…」

ピロンッ

「わっ!また来た!」

『ところで、私は善人さんのことが大好きなんですけど、善人さんはどうですか?

今夜、電話しても良いですか?』


「……あぁもう……可愛いな、チクショー」


case2 おわり
18/01/25 02:47 (Gm73I4mS)
9
投稿者: 茶々
楽しく読ませて頂きました♪

次の話があれば、お願い致します!!
18/01/28 08:46 (fTiGf6ca)
10
投稿者: はるまき
コメント嬉しいですっ♪
ありがとうございます(*^^)



Last case 『天空の城ラピュタ』×陽大と碧


「事実は小説よりも奇なり」なんて言うけれど、こんな出来すぎた再会もないだろう。

「生ビールの人~?えっと、生6つと…」

もう二度と会えないと思ってたのに。

「あとは端の人から注文言ってくれる?」

いつまでも彼女のことが忘れられず、俺はあのペンダントを未だに捨てられないでいた。

『これ、あおいのお守り…あげるね。ひなた君を守ってくださいってお願いしたから。
ひなた君、絶対おうちに戻れるから…だから』

胸がチリチリと熱い。

いつかまた会えたら、ちゃんと伝えたかったんだ。

あの時に言えなかった言葉を。


「私はカシスオレンジで」

目の前でカシオレを頼む彼女と僕は、今から10年前の夏、ふたり一緒に誘拐されたのだった。


********

「あーおーいー!早くあけて!」

ガチャッ

「ひなた君!また窓から…危ないって言ったのに」

「だって玄関からだとお前の召し使いが出てくんじゃん。俺、あの召し使いにあんま好かれてなさそうだからな~」

「召し使いじゃないよ。お手伝いさん!」

彼女、四之宮碧(あおい)はこの地元では有名な大金持ちの娘だ。

あおいの曾じいさんは元々大地主だったそうだが、その息子が創設した四之宮グループは今や不動産、銀行、飲食店まで経営する巨大な財閥である。

彼女はその財閥に生まれた四人兄妹の末っ子だった。

「やっぱりうまい棒は、コンポタ味が1番好きっ!」

「かぁ~コンポタなんて女子供の食うやつたぜ。やっぱガツンと明太子味だろ!」

「どうせあおいは女で子供だもん」

「すねんなよ(笑)ほら、漫画も持ってきてやったから!」

「あっ!続き気になってたの~ありがとう!」

嬉しそうにあおいは、俺の読み古したジャンプを開く。

歳を取って出来た、それも待望の女の子だったあおいは、それはもう大事に大事に、まるで俗世間から隔離するように育てられていた。

小さい頃から私立の幼稚園、小学校に通っており、近所の俺たちとは顔をあわせることも稀だった。

大人たちに連れられて歩くあおいは、綺麗な洋服を着た人形のようだった。

そんなお人形さんと初めて話したのは小6の初夏。

あおいが可愛がっていたトイプードルが、庭で放している時に逃げ出したのだ。

それを通りかかった俺が偶然捕まえ、届けてあげたのが始まりだった。

お礼だと言って、俺は見たことのない豪華な飯やケーキを食べさせてもらった。

ほっぺを桃色に染めて笑っているあおいを見て、人形じゃなかったんだなって思った記憶がある。

それからあおいたっての希望で、俺はちょこちょこと四之宮家に遊びに行くようになった。

行く度に駄菓子や漫画、アニメDVDを持ち込むので、召し使いのおばさんにはよく嫌味を言われていた。

だって、あおいが喜ぶから。

あの時の俺は、そんな理由で動いていた。


「あおい!今日これ見ようぜ。俺が1番好きな映画!」

綺麗な青い宝石が印象的なその映画を勧めると、彼女は目をキラキラと輝かせながら、その世界にのめり込んでいった。

「…ひなた君。あおい、これと同じやつ持ってるかも」

「えっ?飛行石を!?」

あおいは机の中から小さな箱を取り出し、そっと開けた。

中には、まさしくアニメの中に出てくる飛行石と同じ色のペンダントが入っていた。

「うわ、すげぇ…」

「死んだおばあちゃんがくれたの…お守りだって。ラ、ラピ…ス?なんとかって石」

「えっ!名前まで似てるじゃん!すげぇー!!」

「ひなた君…あおいもこれがあれば、映画みたいに冒険ができるかな。もっといろんな世界を見ることができるかな」

ペンダントをぎゅっと握りしめて彼女は呟いた。

映画のように石は光らなかったけど、俺はあおいの手を両手で握った。

「俺がいつでも連れてってやる」

もうずっと最初から、彼女のことが大好きだったんだ。

********

「ドリンク揃った?じゃあカンパーイ!!」

あれから10年、こんな大衆居酒屋で再会するなんて思わなかった。

22歳のあおいは、ほんのり子供の頃の面影はあるものの、綺麗な女性になっていた。

でもどこか、また人形のように少し冷たい表情をしている。

「えっまじで、あの四之宮グループのお嬢様なの!?」

「すげー!本物のお嬢様だ!うわっすんません、こんな居酒屋で~」

「お前、あおいちゃんのお口に合う食い物用意してこい!執事が怒鳴りこんでくるぞ(笑)」

自己紹介であおいは名前を言っただけたが、飲み会のネタと言わんばかりに周囲の女性たちが彼女の素性をバラした。

「いや、あの…全然普通に居酒屋も行ったことあるんで」

「もうあおいってば優しいんだから~うちら庶民に合わせてくれなくても大丈夫だからねっ」

「そんなこと…」

「あおいってば、大学生になるまで枝豆食べたことなかったんだよ~」

「まじかよー!次元が違ぇ!!」

あおいは力なく微笑んだが、すぐに俯いてしまった。

どんな経緯でここに来たかは分からないけど、彼女たちとあおいは本当の友達には到底見えなかった。

あおいは、もっと楽しそうに笑う子だ。

「あ、ごめん。ちょっと電話…」

「なになに、メイドさんから?」

「お迎えに上がります~って??笑」

「あは、違うから」

あおいは電話に出ながらそそくさと店を出た。

「はぁ~ごめんねぇ、何かシラケさせちゃって。ひとりドタキャンしちゃって、人数あわせで連れてきたんだけどさぁ」

「あの子、住む世界が違うからね(笑)」

「え~でも可愛いじゃん。俺結構タイプ♪」

「やめときなって、どこにご飯連れてくつもりよ(笑)」

「あ、でも逆に奢ってくれるかもよ。うちら頼んでもないのにいつも出してくれんよのね。今日もお願いしたら出してくれるかもよ(笑)」

「まじかよ(笑)じゃあちょっと今日は贅沢しちゃう~!?」

なるほど、あおいのことを裏ではこうやってネタにして、金だけ出させるために良いように連れ回してんだな。

沸々と怒りが込み上げてくる。

「ねぇ、大久保くんだっけ?テンション低いじゃん~飲んでるぅ?」

「やばーい、大久保くん、由奈の結構タイプなんだよね~」

胸元が大きく開いたニットを着た女が、俺の方に谷間を見せつけてくる。

「わっ由奈ちゃん、やばっ!えろっ!おい、ひなたぁ、今日来て良かったなぁ~」

「下の名前、ひなたって言うのぉ?え~可愛いんだけどぉ」

「ひなた君って呼んでいい~?」

『ひなた君…また一緒に遊べる?』

「よ…な」

「え?なぁに、ひなたくーん?」

「寄るな、ブスどもが」

「…は?」

「さっきから気色悪いんだよ。頼んでもねぇのに胸ばっか見せつけやがって。それしか勝負するもんねぇのかよ!?」

「え、え?何?」

「ちょ、おい、ひなた…」

「お前らみてぇな女、頼まれてもヤリたくねぇわ!あー気分わりぃ…そんなにしたけりゃ、うまい棒でも突っ込んどけ!!」

バンッと万札を置いて立ち上がると、目の前であおいが呆然と立っていた。

「帰るぞ」

あおいのかばんとコートをつかみ取り、女たちがヒステリックに叫んでいるのをスルーして、俺は彼女を連れて店を出た。


つづく
18/01/29 22:03 (E1fZw/eA)
11
投稿者: 茶々
続きが益々楽しみです♪
18/01/30 07:41 (M.QuGCNe)
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