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1:夜にとけながら夢を見る
投稿者:
はるまき
ジブリ作品をちょこっとイメージした短編集です。
H要素少なめですけど、良かったらのぞいていってください(*^^) case1『魔女の宅急便』×明里 この作品を初めて見たとき、私の胸は大きく高鳴った。 女の子が箒に乗って飛んでいる。 なんて素敵なんだろうか! 次の日から私は家の箒にまたがり、庭のすみっこで何度もジャンプをしていた。 風が強い日には公園に行き、全速力で坂をかけおりた。 あの子がいたら飛べるはず、と黒猫を探し回ったこともあった。 そして私は一度も飛べることなく、しゃべる黒猫にも出会えないまま、大人になっていった。 ******** 「でさぁ、また取引先に色目使ってんの!」 「まじでぇ?あの人もう30も過ぎてんでしょ?大概イタイよね(笑)」 「何で男もひっかかるかなぁ?すぐヤラせてくれるけど、飽きたらポイ捨てするって噂だよ~」 「こわっ!もう魔女じゃん(笑)」 給湯室で20代の後輩たちが、私の悪口を言っている。 彼女たちの中では私は魔女みたいな女で、男を次から次へとたぶらかしているらしい。 「はぁ……」 冗談じゃない。 コンコンッ 「三田さんたち、休憩終わってるよ。もうすぐお客様いらっしゃるから、準備お願いね」 「あ~ごめんなさぁい」 「でもぉ、お客様のお相手は私たちよりも明里さんがした方が評判良いんですよ。やっぱ美人だからぁ(笑)」 可愛い笑顔のマスクをつけて、若い彼女たちはクスクスと給湯室を出ていく。 「ふぅ…傷つくなぁ…」 見た目だけは一人前に大人になっているが、私の心はまだまだ少女のままなのだ。 悪口を言われたら悲しいし、誤解されたらもどかしい。 たぶらかすどころか、好きになった人にはなかなか声もかけられないのに。 「おーい、誰かこれ営業1課に届けてきてくれない?」 部長の呼び掛けに誰も応えず、用事もないのにパソコンを開いている。 「…部長、私行ってまいります」 「あ~吉野くん助かるよ。いつも雑用までしてもらってありがとうね」 「いいえ、これくらい」 書類と分厚いファイルを受け取り部屋を出る。 「ぷっ出たよ(笑)」 「点数稼ぎ~」 耳を貸しちゃいけない。 胸がギュッとなるのを堪えながら、足早にエレベータに向かう。 廊下の窓には真っ青な空。 あの女の子のように、箒に乗ってずっと向こうまで飛んでいきたい。 「あの~すみません、お預かりしてた書類とファイルを持ってまいりました」 声をかけると、近くに座っていた男性が勢いよく立ち上がり駆け寄ってくる。 「吉野さん!これは…重いのに申し訳ないです」 「いいえ、よろしくお願いいたします。それでは」 「あっ、あの…えと、こないだのことですけど…俺、やっぱ…」 「仕事中なので。失礼します」 軽く会釈をして部屋を出る時、ちらりと彼に目をやる。 そんな哀しそうな顔をしないで。 彼、営業1課の橋元くんは、人当たりもよく仕事も真面目で女性たちにとても人気がある。 橋元くんによく話しかけられるようになったのは3ヶ月前の部署合同飲み会の後からだ。 何故か好意を持たれたようで、連絡先を聞かれたり食事に誘われた。 可愛い顔のハイエナたちがそれに気付かないわけもなく、あっという間に「みんなの人気者をたぶらかした女」というレッテルが貼られ、私は露骨に煙たがれるようになった。 そんな状況の中で、先週末橋元くんは私に告白をしてきた。 私は慌ててお断りし、走って逃げ出してしまったのだ。 怖かった。 誰にも見られていませんように。 誰にも聞かれていませんように。 どうせ飛んで逃げることはできなのだから、これ以上私の居場所を奪わないで。 ******** ザーーーッ 「やだぁ~雨すごい」 「早く帰ろ」 「あ、ファイル整理がまだ…」 「じゃあお先でーす」 私の声は雨音に溶けるように消えていき、彼女たちは可愛い色の傘をそれぞれ手にして出ていった。 「じゃあ…俺たちもそろそろ帰るけど、大丈夫?」 「はい、あとはやっておきます」 「…吉野さん、真面目でよくやってくれるから助かるけど、若い連中も育ててあげてね。いつまで経っても学生気分のやつもいるからなぁ(笑)」 「吉野さんも仕事多くなって大変でしょ?じゃあお疲れ~」 「はい、お疲れさまでした」 ひとりになったオフィスは静かで冷たい。 こんな無機質な場所だっけなぁ。 「育てるたって…こっちが教えても無視するんだってば…」 ボソッと呟くと、無性に悲しくなってくる。 いつの間にか時計は20時をまわり、雨は止むことなく降り続ける。 窓にぶつかる強い雨を見ながら、このまま会社も何もかも全部流されれば良いのに、とぼんやり考える。 コンコンッ 「あの~まだ残って…あ…吉野さん?」 「あ、橋元くん…」 「あの、警報出たの聞いてないんですか?電車止まってるみたいですよ。警備が早く帰れって…」 「あ、そうなんだ。えっと…まだファイル整理が…」 「えっ!この量をひとりでですか!?他の人は…」 黙って俯くしかできない自分が情けない。 「…もしかして、俺のせいですか?俺が吉野さんにいろいろ言ったから吉野さんに迷惑が…」 「や、やだなぁ、違うから。私、後輩の指導が下手だから…」 うん、本当のことだもの。 嫌われたくないから強く言えなくて、すぐ舐められて、些細なことで結局嫌われた。 「これ、今日中ですか?」 「あ、いや…週明けでもなんとか…」 「じゃあ今日のところは帰りましょう。雨、どんどんひどくなってるし。下にタクシー呼んでるんで」 彼に半ば強引に帰り支度をさせられ、一緒に職場を出る。 雨風は強く、タクシーに乗り込むだけでも濡れてしまう。 「あの…飲み会の時聞きましたけど、吉野さんちって遠いんですよね? えっと、もし良かったら…その」 あ、この人も私のことを「すぐヤラせる」女と思っているのか。 自分の体が冷たくなっていく感じがした。 「あの私」 「あの!良かったら…ご飯でも、食べませんか!?」 「え…」 「べ、別にうちに来て欲しいとか…失礼なことお願いするつもりないです! えっと…あーファミレスでも良いです! しばらくしたら雨も落ち着くかもしれないし… と、とにかく…俺、吉野さんともっと話したいていうか」 暗がりで分かりにくいが、橋元くんの顔は真っ赤になっている。 「ゴホンッ…あーお兄ちゃんたち、どこのファミレスにする?」 タクシーのおじさんが目を細めて嬉しそうに聞いてくる。 「あっ!と、とりあえず…駅前のサイゼリアまで…」 「はいはい」 川のようになりかけている水溜まりの上を、タクシーは走り出す。 「はい」とも「いいえ」とも言えないままで、私は橋元くんと同じように窓の外の雨を見つめていた。 つづく
2018/01/23 16:04:09(6W9CyKbg)
投稿者:
はるまき
ありがとうございますっ!
******** 「『まじサイテー』『勘違い野郎』『クズ男』…えーと、あなたへの誹謗中傷LINEが鬼のように来てるんですけど… これ以上は、読み上げるのにちょっと憚られる内容なので、どうぞご一読を…」 「いらねぇ…っておい、ニヤけてんじゃねぇよ」 「ぶふっ…だって…うまい棒って…あれは確かにサイテーだわ…ふふっ…」 「…笑ってんじゃねーよ、あおい!」 「ごめ…ひなた君、だっておかしくて…普通、あんなこと言う!?相変わらず口が悪いんだから~そりゃみんな怒るよぉ」 笑いすぎて涙目になっている。 ちゃんと桃色のほっぺのあおいだ。 「…いつから気付いてたんだよぉ」 「え?最初からすぐに分かったよ。でも自己紹介しても何も言ってこないし、ひなた君も苗字しか言わないから、忘れてるのかスルーしろってことかなぁと思って…」 「そんなわけないだろ…」 「ふふ、ひなた君だ」 あおいが俺を見て目を細めている。 「本当にひなた君だ…また、会えた」 俺だって、ずっと彼女に会いたかった。 ******** 忘れもしない、2008年の8月4日。 俺はあおいを連れて、高台にある廃神社に来ていた。 町の小さな花火大会がある今夜、俺はどうしてもあおいに取って置きの場所から花火を見せてあげたかった。 「すごーい!町が見下ろせて…あ、向こうに川も見える!」 「すげぇだろ!ここなら視界に邪魔がないから、花火がバッチリ見えるんだぜ!まぁ30分しかないけどさ、チャリがあるから15分くらいは見れるだろ」 あおいが子供だけで外出するなんて許されるわけもなく、俺たちはこっそり家を抜け出してきたのだった。 だからすぐに戻らないといけない。 それでも、あおいに外の世界を見せてあげたかった。 外はこんなに広くておもしろいんだぞって。 まさか、俺の子供じみたお節介があんなことになるとは思わなかったけれど。 ヒュルルルル… ドーンッ!ドドーン!! 眩しいほどの大輪の花火が夜空にあがる。 あおいは隣で「ひゃあ!」とか「はぁ~」とか変な声を出すのでおもしろい。 花火が上がる時にこっそりあおいを見ると、少し汗ばんたおでこがキラキラと光って可愛かった。 「ひなた君、これ前に見せた飛行石。つけてきちゃった!」 「あっ、ほんとだ!すげぇ、首につけてると本物みたいだな」 「こないだ調べたら、これね『ラピスラズリ』って石なんだって。昔から魔除けだったり、幸せをもたらす効果があるの。あと持ち主の願いを叶えてくれたり…」 「ラピっ…スラ…なんかすげぇ石だな…」 「私の名前の「碧」っていう字、このラピスラズリの色を表すって言われてるんだって。深くて濃い青色… だからおばあちゃん、私のお守りにこれをくれたんだと思う」 「そっか、これあおいの名前の石なんだな。じゃあ絶対守ってくれるな!」 「そうだね」 ふたりで笑い合った瞬間、あおいは背後から知らない男に羽交い締めにされた。 俺は別の男に突き飛ばされ、腕を思いきり擦りむいた。 泣き叫び俺を呼ぶあおいが、林の奥に停めてあった車に乗せられそうになる。 俺は必死で走って男に突撃すると、何度か蹴り飛ばされてしまった。 腹も蹴られて吐きそうになったけど、絶対に離すもんかと足にしがみついた。 そこからの記憶はないが、気がついたらあおいとふたりで、殺風景な部屋の中にいた。 俺たちは縄で縛られていたが、幸い口は封じられていなかったのでしゃべることが出来た。 あおいは死んじゃうんじゃないかってくらい泣き続けており、何度も「ごめんなさい」と俺に謝っている。 俺が気を失っている間に、誘拐犯は自分の父親が経営する会社をリストラされた職員であることを聞いたらしい。 リストラへの復讐のため、身代金を要求するためだ、と。 最近は近所のガキ(俺)とよく遊んでいるようだから、そのうち屋敷の外に出るのではないかと、ずっと監視されていたようだ。 あおいは「ひなた君を巻き込んだ」と泣いているが、俺は「神社なんかに連れてこなければ」と後悔で潰れそうになった。 ドーン…ヒュルルルル…パンッ…パラパラパラ… 窓のカーテンの隙間から、花火が見えた。 俺が…余計なことをしたから… 腕がヒリヒリと痛い。 情けなくて、悔しくて、怖くて、涙が出た。 必死で声を殺したけど、すぐ気づかれてしまった。 くそぉ…かっこ悪い。 あおいは俺にそっと寄りかかり「花火、きれいだねぇ」と言って、静かに泣いた。 「…なた君…」 どれくらい時間が経ったんだろう。 俺は泣き疲れて眠ってしまっていた。 花火も終わり、外は静かだ。 「ひなた君、起きて?」 「ん、あおい…」 「さっき、犯人が電話してる声が聞こえたの。たぶんお金の渡す場所とか相談してる」 「お、俺たち…殺されちゃうのかな」 蒸し暑いはずなのに、背中が冷たくなる。 「…させないよ。絶対そんなことさせない。私のせいで…ひなた君を死なせたりしない」 「…あおい」 「ひなた君、聞いて。これは完全にお金目的だから、お金さえ手に入れば私たちは帰れる可能性が高いよ。 お金がうまく奪えたら、お父さんに復讐できたも同然だもん。だけどさすがに殺しちゃったら、あの人たちだって「ザマーミロ」なんて呑気に思えないはずだよ。 だって、普通のサラリーマンだった人たちだもん…普通に頑張って働いてた人たちだもん… …だから、私たちはじっとしてよう。 怖いけど、それが1番助かる確率が高いはず…」 「…あおい、おれ…」 「車に連れ込まれた時にチェーンが切れちゃったけど…これ、あおいのお守り…あげるね」 縛られたあおいの手の中には、ラピスラズリのペンダントが握られていた。 同じく縛られた俺の手に、無理やり持たせようとする。 「これは…お前のお守りだろ」 「持ち主の願いも叶えてくれるって。 あおい、ひなた君を守ってくださいってお願いしたから。 ひなた君、絶対おうちに戻れるから…だから…」 彼女の手が震えているのが伝わる。 手の中の石がドクドクと動くような感覚に陥る。 「だから、ひなた君…また一緒に遊べる?」 その後は映画のようなドラマチックな展開もなく、日本の優秀な警察によって俺たちは無事保護され、犯人たちは捕まった。 大人たちが騒がしくあれこれ聞いてくるが、俺は脱け殻のようになってしまい、あおいがどうなったかも覚えていない。 そこから後は本当に大変だった。 あおいを無理やり連れ出したことが誘拐のきっかけになったことは事実で、俺と俺の両親は四之宮家に何度も謝罪に出向いた。 最初こそ門前払いされていたが、必死であおいを守ろうとして痣だらけになった俺の姿を見て、あおいの両親は謝罪を受け入れてくれた。 ひとりで誘拐されていたら、あおいはパニックを起こしていたかもしれない。 あの子に大きな怪我がなかったのは、君が盾になってくれたからだろう。 最後は、無事に帰ってきてくれたことへの安堵と感謝まで伝えてくれた。 しかし「もう二度と、あの子には近づかないで欲しい」と、厳しい口調で言われてしまった。 それから四之宮家の周辺は高く頑丈なガード柵で囲まれてしまい、俺はあおいの家に近づくことも出来なくなった。 怪我の治療や警察からの事情聴取、カウンセラーとの面談など慌ただしくしている内に夏休みは終わり、俺はあおいと出会う前の日常に戻ってしまった。 まるで一緒にいた日々が夢のように思える。 時々俺は、あおいのお守りの石を箱から取り出して眺めた。 この石だけが、あおいは夢じゃないって教えてくれるものだった。 そして彼女の姿さえ見れないまま、父親の仕事の都合で俺は遠くに引っ越すことになった。 もう、二度と会えないって思っていた。 「ひなた君、明日休み?…うち、ここから近いんだけど…」 また会えたら、あの時に言えなかった言葉を。 つづく
18/01/30 10:31
(thsKD6YK)
投稿者:
はるまき
「なんじゃこれは…」
「あは、ごめんね。ちょっと散らかってるけど上がって」 「いや、ちょっとじゃねぇだろ…」 意外にも1DKの小さなアパートに住んでいるあおいの部屋は、大量の本や漫画、ゲーム、DVD、CDなどで溢れていた。 「お前の実家の部屋とは大違いだな」 「だって10年前は、こんなに楽しいものがあるって知らなかったんだもん」 散らかったテーブルの上を慌てて片付ける。 「ひなた君がいつも私の知らないことばっかり教えてくれるから、すっごくワクワクしてたんだ。 会えなくなった後も、ひとりの世界に籠りたくなくて… いっぱい本や漫画も読んだし、名作って言われてる映画もたくさん見たよ。 音楽もいっぱい聴くようになって、すごく心が癒されたんだ」 あの鳥籠みたいな屋敷の中で、彼女は一生懸命に外の世界を知ろうとしてたんだろうか。 「でもやっぱり、ひなた君のことばかり考えてた。一緒に見たいなぁ、お話したいなぁ…ずっと思ってた」 「あおい…」 「…大袈裟に聞こえるかもしれないけど、今まで生きてきた中で、ひなた君と遊べた2ヶ月ちょっとが…私は1番楽しかった。ずっと…忘れられないでいたの」 あおいは恥ずかしそうに前髪をいじっている。 「俺だってお前のこと…忘れたことなんかなかった」 「えぇ~本当かなぁ…ふふ」 「…会えないのに、忘れられなくて…あれ、見るたびに辛くて…でも捨てられなかった」 「…あれって」 俺の財布の中には『厄除守』と書かれたお守りが常に入っている。 その中には 「また会いたいって気持ちの方が強くて…未練がましくずっと持ってたんだ」 深い、濃い、青色のペンダント。 「これ…あの時の…」 「これは、お前の名前の石だから…いつかまた会えたら、ちゃんと返したかった」 俺の手の中で静かに光る石に、あおいは手を乗せて笑った。 「やだ…懐かしい。持っててくれたんだ…」 「うん」 「嬉しい…あ、よくふたりであの呪文言ったよね」 「あぁ、滅びの呪文?」 あの時の彼女は、映画の真似をしてよく呪文を口にしていた。 『…唱えたのに、何にも変わらないよ』 『バカ、当たり前だろ。あれは映画の世界なんだから』 『そうだけどさぁ…この家がどーんって崩れちゃったら、もっと自由になれるかなぁって』 『物騒な奴だなぁ。別に崩れなくたって、俺がいつでも来てやるから…それでいいだろ』 『本当に?約束だからね』 そう言えば…指切りしたのに、俺は約束を守れなかったんだなぁ。 「俺…あおいに会えたら言おうと思ってたんだ」 「えっ、滅びの呪文を? ひなた君、口の悪さに拍車がかかってるから、本当に何か起こりそうで怖いんだけど(笑)」 「バカ、違うよ…」 そっとあおいの手を両手で包む。 「大好きだよ」 最初から、ずっと。 「ずっと、言いたかった」 ******* 実家の私の部屋は2階の西側にあり、大きな窓からは近所の公園が見えた。 夕日がキラキラ輝く中で、自分と歳の近い子たちがキャーキャー言いながら遊んでいる姿をよく見ていた。 「いつまで遊んでるの!ご飯出来てるわよ!」と、子どもを叱る母親の声もよく聞こえていた。 両親は食事会だ会議だと言って留守が多く、私に「ご飯が出来たよ」なんて声をかけてくれたことはなかった。 歳の離れた兄さんたちは優しかったし、お手伝いさんが用意してくれるご飯も美味しかった。 キレイな服を着て、欲しいものは何でも買ってもらえる子どもだった。 端から見たら恵まれ過ぎていたことだろう。 だけど私は、1度で良いから泥だらけになって遊んでいるところを、母親に迎えに来てほしかった。 『これ、お前んちの犬?』 逃げた愛犬を泣きながら探していると、まだ初夏だというのに日焼けした男の子と出会った。 彼は私の知らないことばかり教えてくれて、それは楽しかったり、面白かったり、感動したり…私の気持ちはこんなに動くのかと驚いたものだ。 彼が1番好きだという映画を見て、私は祖母のくれたお守りを飛行石と重ねた。 これがあれば、いろんな世界が見れる気がする。 彼が8月の暑い日に「ここを抜け出して、花火を見に行こうぜ」と言ってくれた時、私は嬉しすぎて鳥肌がたった。 初めて自転車の後ろに乗ったが、バランスがうまく取れず彼にぎゅっとしがみついていた。 家を抜け出したドキドキとは違う、知らない感情が私の胸をいっぱいにしたのを覚えている。 彼は口が悪いけど優しい人だから、私を喜ばせようとして神社に連れていってくれたのだと分かっていた。 だからこそ、自分のせいであんな怖い思いをさせてしまったことを、私はずっと悔いていた。 いっぱい怪我もしていた。大人に蹴られて痛かっただろうなぁ。 どうか彼を…ひなた君を守ってください。 私にたくさんの気持ちをくれたひなた君を、どうか助けてあげてください。 お守りの石に、私は強く強く願った。 次に会う時、彼に何て言おうか。 怪我はもう大丈夫? 私のせいでごめんね。 また来てくれて嬉しい! いろいろ考えていたが、いつまで待っても彼は来てくれなかった。 父親が彼に「二度と近づかないで欲しい」と言ったことを知ったのは、事件から半年以上たった冬の終わり頃だった。 愕然としたけど、両親に詰め寄ることはできなかった。 あの事件の時、大泣きして私を強く抱き締めてくれたお母さん。 「良かった、良かった…」と何度も撫でてくれたお父さん。 私は初めて、ちゃんと愛されていると感じた。 そこから両親は私となるべく過ごすようになったし、一緒に話をしたり映画を見たりすることも増えた。 相変わらず同じ学校の上品な友達としか遊ばせてくれなかったけど、忙しい中で一生懸命愛情を注いでくれたんだと思う。 そんな人たちを、私は責めることが出来なかった。 ひなた君は同じ町内にいるんだから、ほとぼりが冷めたら何とか会うことくらいできるはず… そう思っていたら、彼はいつの間にか遠くへ行ってしまっていた。 もう二度と会えないと思っていた彼が、今まさに目の前にいる。 あの時のお守りを、ずっと持っていてくれた。 今まで見てきたどの映画よりも、それはすごく夢のようなお話に思えた。 つづく
18/01/31 21:06
(L.L4LkXA)
投稿者:
茶々
ほのぼのと…
青春時代を思い出すなぁ~♪ 続きをお願い致します!!
18/02/05 09:14
(aF.eZ8Um)
投稿者:
はるまき
ほのぼのしてもらえて嬉しいです♪
次回でラストですっ ******** カチコチカチコチカチ… 静かな部屋の中で、時計の音だけが響いている。 俺の言葉を受けて、あおいは俯いたまま動かない。 「…あの、あおい?えーと…何かリアクションを…」 10年ぶりの再会、変わらない恋心、彼女に誘われて部屋でふたりっきり。 出来すぎたシチュエーションに舞い上がってしまい、ひとりで突っ走ってしまったのだろうか。 やばい、なんだこれ、すげぇ恥ずかしくなってきた… 「あ、あおいさん…その、聞いてる?」 俺はいたたまれず、あおいの顔をそっと覗きこむ。 「……それ、どういう顔…?」 あおいは真っ赤な顔で、目を何度も瞬きさせている。 「…だ…急にそんなこと言うから…」 「いや…だって、ずっと言えなかったから」 「えぇ…こ、こういうのってもっと…ムード?がある所で言うもんじゃないの?こんな…散らかった部屋で急に…」 「いやいや…正直、部屋でふたりっきりなんて…ここで言わなくていつ言うんだって感じっていうか…てか、散らかってるのはお前が悪いんだからな! う~まぁ…部屋入れてもらって、ちょっと期待しちゃったっていうか…」 「うえぇっ!!?」 俺の言葉に驚いたように、あおいは目を見開いてこっちを向く。 「あ、あの…私…久々に会えて嬉しかったから、もっと話したくて…でも外寒いし、うちならすぐ近いからちょうど良いかなーって… え、その…私…さ…さ、誘ってるみたいだった…?」 …この世間知らずの箱入り娘め。 俺が呆れながらこくりと頷くと、あおいはさらに顔を真っ赤にさせて「ぎゃー」「ごめんなさい」「恥ずかしい」など顔を覆って叫んでいた。 恥ずかしいのはこっちの方だ。 「…映画みたいに甘々な演出できなかったのは悪かったけどさ…」 もう一度あおいの手にそっと触れる。 「もう…言えないまま会えなくなるとか…嫌だから」 ぐいっと手を引っ張り、あおいを抱き締めた。 「ひっ、ひなたく…」 ドクンドクンとうるさいくらい心臓が鳴っている。 「…好きだよ、ずっと…好きだった」 言い足りない。 10年分の気持ちが。 全部伝えたい。 俺が何回も思いを口にする度に、あおいは俺の胸の中でピクッと反応する。 顔は見えないけど、抱き締めた身体はどんどん熱くなっている。 「…あおいは…どーなの」 「えっ!わっ…わら…わ、わたしっ…」 盛大に噛みながら、あおいはガバッと俺の顔を見る。 「…私も…」 俺は好きだよ、あおい。 「す、す、好きだよ…私だって、ずっと言いたかった…」 やっと聞けた、あおいの気持ちが。 「また会えたら絶対言うんだって思ってたのに…ひなた君、いなくなっちゃうんだもん…」 目の前で真っ赤になっているあおいを見て、俺は我慢できなくなった。 「っ…ごめん…」 「え?…あっ」 バフッ 「ひなたく…んっ」 「……もう限界、ごめん」 くちゅ、ちゅっ…ぷちゅ… 「んっ、あ、ちょっと待って…んっ!やぁ…み、耳…だめっ」 びくんっ!とあおいは身体を震わせた。 「んんっ…うぅぅ…」 くちゅ、ちゅうっ…ペロッ…つつ… 細い首筋がキレイで、舌を這わす。 「んああっ!あ、や…だめ、ひな…たくん…」 あおいは俺の腕をぎゅうっと掴むが、その手はピクピクと震えている。 ごめんな、あおい。でも… 「可愛い…」 「ひ、ひなた君…ま、待って…お願い、ちょっと本当に…」 ぐいっとあおいは俺を止める。 熱を帯びた顔のあおいと目が合う。 「…なに?」 「………初めてなの」 「え?」 「わ、私…こういうの初めてなの… だから、その……や、優しく…して…」 あおいは恥ずかしさのあまり涙目になっている。 「……努力、します…」 突っ走りそうな気持ちを必死で抑えながら、あおいに何度もキスをした。 「んむっ…ちゅぱっ…ちゅぷ…ひなたくん…はぁっ…す、好きぃ…ひなたくん…」 あおいの肌は白くてキレイだ。 大事に育てられたって感じがする。 この身体を誰も見たことがない。 誰も触ったことがない。 俺だけが… そう思うとものすごい高揚感が押し寄せてくる。 「あっ、や…そ、そんなとこ…指…んぅぅ…」 「だってあおい、もうすっげぇ濡れてる」 あおいの中に出来るだけ優しく指を入れると、溶けてしまいそうなくらい熱い。 「っ!…そんな、恥ずかしいこと言わないでよぉ。や、優しくしてって言ったのに…」 「優しくしてる」 くちゅんっ…ぐちゅっ…ぐちゅ… 「あおいの中、ぐちょぐちょだよ」 「っうぅ…んん…だ、め…やぁ…」 恥ずかしさに耐えられない様子のあおいは、顔を隠して必死で声を押さえている。 「声、我慢しなくていいんだよ」 「やっ…恥ずかしい…」 「…そ、じゃあ出させてあげる」 「え…えっ!えっあ…やっ!ひ、ひなた君!?だめっ!汚いよっ」 ぷちゅ…クチュクチュ…ジュルッ…チュプッ… あおいの熱くなった中に舌を入れると、甲高い声をあげ始める。 「んっ!やあっ!あっあぁ!んぅぅ…やぁぁ…」 「…あおい、ここ気持ち良さそう」 真っ赤になった突起を摘まむと、あおいはビクビクと反応している。 「や、あっ…ひ、ひなたく…あっあぁぁ!!」 あーやばい…可愛い、限界だ。 「あおいの中…いれたい。だめ…?」 あおいは整えるように深く息しながら「…いいよ」と小さく返事をした。 「あ、でもっ!や、優しくしてよっ!」 「……努力します」 つづく
18/02/08 15:37
(KbLMFCua)
投稿者:
トマト
楽しく読ませてもらっています♪
続きを宜しくお願い致します!!
18/02/15 08:18
(R5i2YxCP)
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