ベンチで見ていた勝宏が｢出たっエグいレイアップ｣と言った。｢あのレイアップ…ホントエグいわぁ｣と沼田も言った。Ｈ高のメンバーは知っていた。晃のレイアップはノーマークで打つ時は、なんの変哲もない普通のレイアップだが、マークされてる時に打つのは違う。ボール一つ分遠い所にあるのだ。普通のレイアップなら、誰でも簡単にブロック出来る。だがエグいレイアップだと普通にブロックに行くと、ボールが遠い為どうしても当たらない。無理して腕を伸ばすと体が流れ、必ず腕を叩くか体がぶつかりＦになってしまう。しかも晃は手首が強く、その強さを生かして手首だけで打ってくる。メンバーはそれを｢エグいレイアップ｣と命名した。長野と古河がＦの餌食になったのは、まさにそのエグいレイアップだった。晃は無意識の内にそのレイアップを身に付けていて、中学の時、遊びで勝宏と川口とやってた時に｢晃君のレイアップって、普通の人と違うからブロック出来ない｣と言われ、そこで初めて知った。

忍は２人に｢あのレイアップ無理に止めに行くな…Ｆ貰うぞ｣と注意した。忍も中学の練習中に何度もやられた。｢無理に止めに行かずに真っ直ぐ跳べ…そうすれば落とす事もある…無理に行ったらアイツの思う壺だ｣とアドバイスした。晃はボーナスも決めた。晃は忍に｢アドバイスしたか？｣と言いニヤっと笑った。そして｢今日の俺絶好調だぞ？｣と言った。Ｓ高はＴＯを取った。｢くそっ｣と忍は言った。｢アイツにボール持たせたらダメだ｣と北条が言った。｢じゃぁどうする？｣｢アイツにパス出す丸山にＷチーム付くのは？｣｢アイツがボール運んだらどうする？Ｇも出来るんだぞ？｣｢かといってアイツにＷチームに付けばパス捌かれるし…｣｢じゃぁどうすんだよ？｣とＳ高ベンチは具体案が出ずパニクっていた。Ｈ高ベンチはイケイケだった。作戦に変更はなく監督が｢このままで行くぞ｣と言ったが晃は異を唱え｢次は俺のポストプレーで行こう｣と言った。｢何でだ？｣と監督が聞いた。｢さっき忍が２人に俺のレイアップに対してアドバイスしてた｣と言った。

晃は続けて｢多分ドリブルからのレイアップだと、もうＦは取れないと思うから、パワープレーで３点を取りに行く｣と言うと｢分かった…それで行こう…外が使えそうならパスを出せ…いいな？｣と言われ晃は頷いた。Ｓ高の方は対策が出ずにＴＯが明けた。晃がＬＰに入ると｢えっ!?｣と忍が言った。晃はパスを受けると背中で忍を押しながら、ドリブルしてポジションを取った。晃は振り向いてシュート体制になると、忍は両手を挙げて跳んだ。跳んだ瞬間(しまったっ)と思ったが後の祭りだった。晃はタイミングを見計らい跳んで、忍のＦを貰いながらシュートを決めた。｢くそっまたっ｣と忍は悔しがった。３連続でカウントを許した。たった２分弱でＳ高は９点穫られた。第２Ｑを終えて３９－２２とした。Ｓ高は第２Ｑの後半は晃１人にやられた。夕貴は第２Ｑが終わりホッとした。晃がコートに転がる度に、ドキッとして顔を青くした。Ｈ高控え室では控えメンバーが、出てる選手達をマッサージしたり、飲み物を渡したりして忙しく動いた。

晃の消耗が激しかった。真田がマッサージをしながら｢先輩…大丈夫ですか？｣と聞いた。晃は｢まだ大丈夫だ｣と言って笑った。やった事はあるが慣れないポストプレーがこんなに大変だと思わなかった。改めて体をぶつけ合い４０分間戦う、インサイドの連中の凄さを知った。晃は(あいつ等の為にもしっかりシュートを決めてやろう)と心からそう思った。…ハーフタイムが終わり後半が始まった。Ｓ高のメンバーが代わった。松井田を外し松山(Ｇ、１年、１７３)が入った。松山は晃に付いた。晃は(何で忍じゃない？)と疑問に感じたが、忍をマークから外した意味がすぐに解った。晃はボールを貰った。松山が構えた。晃はその腰の低い構えを見て(コイツいいＤＦするな)と思った。晃は松山の実力を見る為に、少し強引に突っ掛けてみた。珍しく晃がＦをした。(なるほどな)と晃は思った。Ｓ高の攻撃になった。松山にボールが入ったが、すぐにボールを捌いた。晃は(？)となり(何でだ？)と思った。

松山は攻撃に絡んで来なかった。晃は(あれ？もしかして…)と思った。長野に決められＨ高の攻撃になった。晃はボールを貰うと、すぐに切れ込んだ。ペイントエリアに入る手前で松山、古河のＷチームに遭った。晃は徹にパスを出した。徹はシュートを打ったが、長野の上手いブロックに遭い外し、そのこぼれ球を忍が拾った。Ｓ高の攻撃になった。松山はやはり攻撃に絡まなかった。晃は(コイツＤＦだけか…)と思った。忍が上手くフリーになり３Ｐを決めた。忍が松山に何か言った。内容は聞こえなかった。次のＨ高の攻撃で松山は晃にフェイスガードをして、パスを貰えないようにＤＦした。晃は振り切ろうと動いたが、松山は晃の動きに付いて来た。晃は(なる程な)と思った。このＤＦでＨ高のリズムが悪くなり出した。誠が強引に切れ込んだがシュート前にブロックされ、ボールを失った。晃は松山にボールが来ないと思い、マークを緩くした。しかしそれがＳ高の作戦だった。北条は晃のマークを引きつけ松山に出した。