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春眠の花
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:ノンジャンル 官能小説   
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1:春眠の花
投稿者: いちむらさおり
まだまだ最後まで書けていませんが、見切り発車で載せていきます。
 けして万人受けはしませんので、ご了承ください。
2012/04/15 22:34:55(sBOolPf9)
2
投稿者: いちむらさおり




 臨月。

「なんだか今でも信じられない気分だけど、あなたの言うとおり、もっと早いうちに不妊治療を始めていれば良かった。だって私、こんなにも幸せなんだもん」

「ようやく授かった子どもだ、ぜったい大切に育てような」

「うん」

「あ、そうだ、もう男の子か女の子かわかっているんだろう?」

「その事なんだけど、じつはまだ訊いてないの。その方が楽しみが増えると思って」

「そうだな、無事に生まれてくれればどちらでもいいよな。それじゃあ名前も両方考えておかないといけないな」

「ねえ、電話じゃなくて、直接会って話さない?」

「よしわかった。もうすぐ仕事が終わるから、ええと、どこで待ち合わせしようか?」

「……」

「もしもし、奈保子?」

「うっ……、んん……、はあはあ……」

「どうした?大丈夫か?」

「ああ……、いい……、き……きたみたい……」

「まさか、陣痛がきたのか?奈保子!」

「ああ……、ああ……、き……救急車……、救急車……」

 あまりの激痛に意識を朦朧とさせながらも、私は必死で電話の向こうの彼に訴えた。
 苦痛の声をあげるたびに歯の隙間から唾が飛び、体重を支えきれなくなった私は、とうとうその場にへたり込んだ。
 左手から携帯電話がすべり落ち、もはや通話の相手をしている余裕もない。
 火にかけたままのヤカンの口から蒸気が吹き出している。火を消そうと手を伸ばしてみても、そこまで届く気がしなかった。
 全身に脂汗をかいているうちに、お尻のあたりを濡らす生温かいものを感じた。破水したのだ。
 こめかみのあたりで血管がピクピクと震え、酸欠になったように乱れた呼吸では、なかなか肺に酸素を溜め込むことがむずかしい。
 出産とは女性に苦痛しかあたえないのかと、この時ばかりは人体の摂理を恨むしかなかった。
 それでも女性が妊娠を望んで母親になりたいと願うのは母性を持っているからであって、それはきっと私にもあるはずなのだ。
 今を乗り越えることができたなら、新しい命と一緒に、私の第二の人生がはじまるのだ。
 そんなことを考えていても、相変わらず私の子宮は鉛のように重く、マタニティドレスを汚していくものも、びしょびしょに染みをひろげていた。

あなたに会いたいから、ママは頑張る。だからあなたも頑張って、元気な姿を私に見せてね。

 いつの間にか、意識の遠くの方から救急車のサイレンが聞こえてくるのがわかった。
 母子の命をつなぐ糸を、こんなところで切るわけにはいかない。
 そんな私の覚悟を感じ取ったのか、胎動はおさまり、子宮口の内側から小さな頭を押しつけられているような感じがした。
 ほどなくして、救急隊員と思われる白い人影が視界に入り、事態が迫っている私を抱えて救急車両の中へと運んでくれた。
 そこでは付き添いの女性看護師による処置が手際よくおこなわれ、もう大丈夫ですよ、私に合わせて呼吸してくださいと、やさしい声が聞こえた。
 まるでナイチンゲールのようだ。
 また別の声も聞こえた。どうやら私の受け入れ先の病院を探しているらしい。

「──そうですか、わかりました、他をあたってみます!」

「またダメだったんですか?」

「緊急の手術で手がまわらないらしい!」

「冷静になってください。病院ならまだあります」

「そうだな、母体と胎児を救えるのは俺たちだけだしな」

 そんなやりとりの空気を読んで、ナイチンゲールの彼女が落ち着いたその声を割り込ませた。

「あそこなら受け入れてくれるんじゃないでしょうか?」

 天使のような声、そんな印象だった。
 彼女が示した言葉の意味をすぐに理解した他の隊員たちはしばらく思案したあと、緊張した表情で次の行動をはじめた。
 おそらく今の私の表情は彼ら以上に緊張し、引きつっているはずだ。今にも産まれそうなのだ。

「安心してください」

 私を気遣う彼女の声が聞こえた。

「あそこなら医療設備も整っているし、優秀な産科医やスタッフがそろっていますから」

 私は唸り声の中で、二、三度うなずくのが精一杯だった。
 ナーススーツというものはとても清潔感があって、女性の魅力を生かすには都合のいい制服のように見える。
 しかし彼女の場合はそれだけではない。肌色や目尻の角度などによってある程度の年齢は読めそうなのだが、内側から匂ってくるミステリアスな色気が彼女の加齢を止めてしまっているような気がした。
 マスクの下で彼女は私に微笑みかけてくれているのだろう。
 私と同年代ならば29か、30か。女性としての盛りの時期なら薄化粧だけで足りてしまう、彼女はそういう人に違いない。
 おっと、こんな時に人間観察をしている場合じゃない。
 今日という日が特別になって、明日からは新しい家族との新しい生活がはじまる。
 季節もちょうど春だし、梅や桜が見頃になったら近くの公園まで子どもを連れて、うららかな日差しの中で授乳する自分を想像してみる。
 愛しい我が子と白い乳房をケープでくるみ、枝をしならせる満開の花の下で、母乳をあたえる喜びを表情に浮かべる。それが私のハピネスなのだ。

「もうすぐ病院に着きますから、あと少し頑張りましょう」

 その声で我に返った私は、ずっと手を握ってくれている看護師の手を握り返し、声にならない「ありがとう」を言ったつもりで口を動かした。
 そして彼女の女性らしい容姿を直視してみて、彼女が落ち着いている理由がわかった。
 ナーススーツのウエスト部分にはあるべきくびれがなく、わずかにお腹が膨らんでいる。

「じつは私も妊娠しているんです」

 私の視線に気づいて彼女が言った。

「妊婦が妊婦に付き添っているなんて、どういう巡り合わせなのかしらね。説明のつかない縁を感じてしまうのは私だけかしら」

 彼女は自分のお腹に手を添えて、それから私のお腹をまるく撫でた。
 それはもう医学の分野を越えた、人が人をいたわる自然な仕草だった。
 飴細工のように綺麗なつやを流し込んだ髪を肩から下ろして、メープルシロップを思わせるその色が甘く私の視覚を刺激した。

 警告を発しながら慎重に交差点を通過していく緊急車両の中は居心地のいいものではなかったが、彼女のおかげですべてが速やかに運んでいるのだと思った。
 やがて救急のサイレンが止み、ブレーキの揺れに到着を知った。
 ハッチバックを全開にすると数人のスタッフがせわしく私を取り囲み、鋭く指示を出しながら無駄のない動きを繰り広げていた。
 時刻はわからないが、外はすっかり暗くなっていた。赤色灯が辺りをめらめらと照らしている。
 深まった夜の中にそびえ立つ病棟は夜空を突き上げ、そのいちばん高い位置から赤十字が私を見下ろしていた。

「小村奈保子(こむらなおこ)、30歳、初産です。破水から40分ほど経過していると思われます」

 私の母子手帳の記録を誰かが読み上げた。
 出産予定日にはまだ余りあったが、お腹の子どもは外に出たくて仕方がないといったふうに頭を下ろし、骨盤をきしませながら産道を突いている。

「あああっ……、ううっ……、はあっ、はうっ……!」

 歯ぎしりを鳴らすほど歯を食いしばり、思わず赤面してしまいそうな声にも恥ずかしがっている場合じゃない。
 セックスの時はあんなに官能的で気持ち良かったのに、今はもうただ地味に痛いだけだ。分娩室はまだなのか。はやく産んで楽になりたい。

「小村さん、あなたのお腹の赤ちゃんは、たくさんいる女性の中からあなたを母親に選んだのですよ」

 ナイチンゲールさんの声が私の耳に飛び込んできた。いいかげん、彼女の名字だけでも知りたいところだが──。

「これは偶然なんかじゃなくて、前世から引き継いだものでもないし、ほかの誰でもないあなたじゃなきゃいけないんです。そう思いませんか?」

 私は首を縦に振って、彼女の優しさに応えた。

「私も立ち会いますから、リラックスして臨みましょう」

 私は陣痛の中休みに大きく深呼吸をしてみた。
 痛みが治まって気持ちに余裕が出来てくると、色々と気がかりな事が出てくるものだ。
 そういえば彼はどうしているのだろうか。あの時、彼と電話をしていたところに陣痛が来て、それから……、それから……。あれ?あの後、彼はどんな行動をとっていたのだろう。仕事を途中で切り上げて私のマンションに来ていた様子もない。定時まで残務をこなしてから直接こっちに向かうつもりかも知れない。出産の時には彼も立ち会ってくれると約束していたのだから。とりあえず彼と連絡が取りたい。

「すみません、あの、家族に連絡したいんですけど」

 家族というのは嘘だけれど、やっと普通にしゃべれたのだから、ちゃんと伝わったはずだ。滑舌には自信がある。

「そういえば、あの人が小村さんの旦那さんだったのかしら。この病院に到着してすぐに、若い男性の方が青い顔をして救急車まで駆け寄って来て。だけど妊婦の命が第一優先ですから、私は何も話しませんでしたけど。そうしたらいつの間にかいなくなってしまって」

「そうだったんですか。もし彼のことを見かけたら、私が会いたがっていたと伝えてもらえませんか?ええと、彼……主人の名前は篤史(あつし)です」

「あとで確認しておきますね。そこのエレベーターを上がって通路を渡ったところが産科病棟です。安産だといいですね」

 打ち解けた笑顔で彼女が言った。
12/04/15 22:54 (sBOolPf9)
3
投稿者: いちむらさおり




 私を乗せた寝台は迷わず分娩室を目指していた。
 途中のエレベーター内での医師や看護師との会話で、ナイチンゲールさんの名字が「さくら」だということがわかった。
 よく見れば彼女は首からストラップを提げていて、そこに顔写真入りのネームカードを付けていた。ほかのスタッフも皆そうだ。
 佐倉麻衣(さくらまい)、素敵なフルネームの横の顔写真は、どこをとっても美人の要素しか見当たらない。
 キャリアウーマンではないにしても、医療現場で働く女性の表情は生き生きとしていて、男性に負けないくらいの自信に満ち溢れていた。
 私には奈保子、彼には篤史、彼女には麻衣。名前でその人の人生が決まるわけではないけれど、命名という親としての責任の重さを感じずにはいられなかった。
 彼女のように自分に自信を持てる名前を、これから産まれてくる命につけてあげなくてはいけない。
 そう思っていた時、ふたたび私のお腹を陣痛がおそった。

「いっ……たぃ……、いいっ……」

 泣きそうなほど痛い……というか少し泣いた。

「小村さん、小村奈保子さん、もう着きましたからね、大丈夫、大丈夫」

 私をなだめる声は分娩室の扉をくぐって、次の瞬間にはもう厳しく指示が飛び交う室内にまぎれてしまった。
 私はそのまま分娩台へと移され、見たこともない医療機器に囲まれたまま両脚をひらいた。
 新しい点滴を追加し、母体や胎内の心音を聴く計器のコードが私の肌を這いまわる。

 いよいよだ。この日に備えて色んな事を我慢してきた。
 マタニティ教室ではヨガや胎教、食事制限のほかに性生活のことまで学んだ。
 体の中まで甘く溶けてしまいそうなスキンシップも、大人の色恋話で内股を疼かせることも、妊婦である私には無縁なものだと言い聞かせてきた。
 なるべく遠ざけておいた方が子宮への負担は少ないのだから、女性としてではなく、母親としての自分を磨きながら10ヶ月を明るく暮らしてきたつもりだ。

「産科医の出海(いずみ)です」

 足もとから太い声が聞こえた。
 大きく膨れ上がった自分のお腹越しに、日焼け顔の若い医師の姿が確認できた。
 惜しくも顔の下半分はマスクで隠れているが、声の雰囲気が美男子というのか、恵まれた器量の持ち主であることが充分つたわってくる。
 さぞかし名のある名医の家系に生まれて、それなりに経験も積んできたことだろう。それを見積もっても若い。

「僕が小村奈保子さんを担当しますので、そうですね、初産の方はだいたいみんな緊張しますからね。産後もふくめて、奈保子さんのお産を全力でサポートさせていただきます」

 若い医師は私の目から視線を逸らさずに言った。
 その彼に対して私は両脚を大きくひらき、汚れた性器を差し出す格好になっている。
 これから出産するのだからあたりまえなのに、今さら女の部分を捨てきれずに恥ずかしさが込み上げてきた。
 不安材料はほかにもある。
 私のまわりを忙しく動き回るスタッフや、インターンの学生らしき男女数人の姿も見える。
 ここにいる全員に体をいじくりまわされ、長時間に渡って恥部をさらし続けるというのだから、これほど恥ずかしいことは生まれてから一度もない。
 顔から湯気が立ちそうなくらい頬が熱い。みんなが私の股間に注目している。
 その目は感情をなくしているのかと思うほど冷静で、苦痛に顔を歪める私とは対照的に見えた。
 温度がない、そんな様子だった。

「小村さん、呼吸はこうですよ、いいですか?ひっ、ひっ、ふうぅ……」

 この中で唯一の温かい存在、佐倉さんが私のそばにいた。

「ひいっ……、ひいっ……、んふうぅ……」

 彼女にならって私は下腹部に力を入れ、長い息を吐いた。
 あまりの痛さに、目の前で火花が散る。

「大丈夫ですよ、ちゃんと子宮が下りてきて、産道もひらいてきていますから」

 握りしめた手首にすじが浮き出て、爪が手のひらに食い込む。
 汗、鼻水、涙、唾液、水分という水分が私の顔を台無しにして、そうとう酷いことになっているのがかわった。
 帝王切開はやらないにしても、会陰切開は──やっぱり痛いのかな。陣痛とどっちが痛いだろう。健康な皮膚にメスが入るのだから、それはもう──。
 想像したくないけれど、想像してしまってから後悔した。
 不快なものが膣から垂れ流されているのを、初対面の目が注意深く覗き込んでいる。
 剃毛も済ませてあるから、ヒクヒクと痙攣する陰唇の具合までもがはっきりと見えているはずだ。

「点滴、もう少し強くして!」

 出海先生の語気が強くなり、現場に緊張がはしる。
 自分よりも年上の看護師らに次々と指示を出す。

「膣鏡ください」

 金属製の挿入器具が彼に手渡され、繊細な手つきでそれを私の膣の奥深くまで差し込んできた。

「子宮口の状態を確認させてくださいね、異常があるといけませんから」

 その瞬間だけ、別の声色が喉まで出かかっているのに気づいて、膣粘膜を切なくさせる冷たい器具の感触に堪えようとした。
 性器は左右にひらききって、お尻の穴までもが拡張されたような錯覚に責められる。

「シリンジ──」

 差し出した彼の手に、針のない注射器が渡る。
 満たされた透明な液体を私の体内に滴下すると、「女性ホルモンを増やすために、ホルモン剤を塗布するわけですよ」と子ども相手に話す口調で私をあつかう。
 これが生理の時なら、ひとのあそこを好き放題さわっておいて、この変態!──となるところだが、彼は性器をあつかう前に命をあつかっているのだと思うと、医者の前では聞き分けのいい患者を演じ続けるしかなかった。
 それが絶対条件なのだ。

「カテーテル、吸引して──」

 指の感触が、器具の肌触りが、彼の思惑どおりに私を悩殺しようとしていた。

「あぁっ……、あいぃっ……、せっ……先生……いっ……、はあ……はあ……」

「痛みを抑える施術をしますからね、いいですよ。声を出した方が気分が紛れますから」

 ミンチ肉を手でこねて粘りを出したように、私の下半身からネチャネチャという音が排泄されている。
 それにつられて膀胱がくすぐったくなったり、尿が漏れる感覚に武者震いしたりで、私の体はいそがしい。
 そんな私の反応を目で追いながら、研修医や学生らはメモを取る手に力を込める。

「小村さん、痛みはどうですか。落ち着いてきました?」

 看護師の佐倉さんが私の顔色をうかがう。
 そういえばあの時、私の受け入れ先を探していたところに彼女がこの病院の存在を匂わせ、それに対して救護員が即答できないでいた。
 それは何故か。常識人を寄せつけない逸話や、異常な経営体質などなど、テレビドラマ上でしかやり取りされていないと思っていたことが、ここでは常識として通っているのだとしたら──。
 そうやって疑い出すと、ここにいる全員が白装束をまとった性犯罪者集団に見えてくる。
 いま私の頭の上に漫画の吹き出しがあるとすれば、そこには大きなクェスチョンマークが描かれているだろう。
 何かがおかしい。私の体もどこかおかしい。
 出海医師が私の膣内に注入したのは麻酔だったのか、それとも鎮痛薬の類いか。
 その効果は明らかに私の子宮の痛みを散らしはじめていた。
12/04/16 23:11 (ufrajrti)
4
投稿者: 出産経験者 ◆A4LVAuV8To
こんな風に細かく描写するなら、出産や陣痛に関する知識を仕入れてから書いてくれなきゃね(苦笑)

12/04/17 14:51 (.aIRMWT9)
5
投稿者: ThirdMan
むわってましたあああぁ!!!!!!!!!!!

出産の知識なんかどうっっっでもいい!!!

いちむらワールドを最後まで楽しめ!


過度な期待は負担になるから気長に待ってま~す

頑張ってください!
12/04/18 21:32 (twE2roxf)
6
投稿者: いちむらさおり




「あっ……、ああぅ……、あの……先生……」

「小村さん、どうしましたか?」

「いえ……、あの……、陣痛は治まってきたんですけど、えっと、痛くない出産て、なにか変……じゃないかと思って」

「かかりつけのクリニックでパンフレットを読んでいないのですか。無痛分娩というのは、最近ではめずらしくないのですよ?」

「えっ、そうなんですか?」

「陣痛が緩和されてきたということは、さっきの薬は小村さんと相性がいいようですね」

「薬……ホルモン剤ですか?」

「ええ、女性ホルモンの分泌が活発になってきているはずです。それが何を意味するのか、おわかりですか?」

 彼の問いかけに口ごもっていると、遠慮のない言葉を浴びることになった。

「あなたの性欲を刺激しているのですよ、小村奈保子さん」

 私は開いた口が塞がらなかった。出産と性欲にどんな関係があるのだろうか。
 すると今度は佐倉さんが大人しい口調で言う。

「小村さんの妊娠は、想像妊娠ですよ。信じてもらえないでしょうけどね」

 この佐倉麻衣という人物は、可愛い顔をしてなかなかおもしろいことを言う人だ。
 臨月を迎えたこの大きなお腹が、私の思い込みとでも言いたいのだろうか。ありえない。

「どういうことなのか、納得がいくように説明してください。これって……、このお腹は何なんですか。不妊治療は失敗だったんですか。ねえ?」

 私は妊娠10ヶ月分のストレスを吐いた。
 発散させたいのに発散できないものが、泌尿器あたりで疼いていた。
 私のクリトリスは情けないほど不満を溜めて、甘く危険な状態だ。

「このへんではっきりさせておきましょうか。あなたの不妊治療はまだ終わっていないのです。いいですか?ここからが本当の意味での治療ですからね」

「先生の言っている意味がまったくわかりません。もう帰ります。お金は払いますから、はやく私の体を元通りにしてください」

 出海医師はマスクの裏で溜め息をつくと、佐倉麻衣さんにアイコンタクトを送り、その鋭い眼球をまた私に向けなおした。

「彼の名前、確か……篤史さんて言いましたね」

「彼がなにか……?」

「小村奈保子さんのご主人ではないことは僕も知っています。驚きましたか?」

 私は、まんまと驚かされてしまった。

「あなたの個人情報はすべて僕の手元にあるわけで、否定的な態度はやめておいた方が安全だと言っておきましょう」

「まさか……、彼にもひどいことをしようとしているんじゃ──」

「その逆です、勘違いしないでください。人体にはまだまだ謎の部分が多い。そして僕は医師だ。今回の実験が成功すれば、東洋医学の歴史に新たな風を吹き込むことになります。きっとあなたはそれに関われたことを誇りに思うでしょう」

「……、実験……?」

 私はようやくすべてを理解した。
 女性向けのアダルトビデオなんかよりもよく出来た話だが、どうにも笑えない。
 分娩台の上の私は、もはや生きた標本なのだ。

「小村さんの子宮内に満たされているのは、人の体液の塩分濃度に近い水溶液です。それを吸引してしまえば自然にお腹がしぼんでくるでしょう」

 彼の言うとおり、私の体格は妊婦とは呼べないほどのくびれを取り戻しつつあった。
 器具で開かれたままの私の性器は粘度を増やして、思いとは正反対に快楽を求めて女の姿に変わり果てた。

「いや……、気持ちわるい……。ねえ佐倉さん、あなたなら助けてくれるでしょ?だってそのお腹には──」

「ごめんなさいね、あなたと代わってあげたいけれど、私にもこの研究を見届ける義務があるから。海外にくらべると、日本の不妊治療技術はまだまだ遅れているのよ。あなた一人の協力で、日本の少子化が改善されるかも知れない。少し大げさだけど、そういうことなんです」

 女らしい声ではあるけれど、それは紛れもなく救いの声ではなかった。
 これで私の逃げ道は完全に途切れてしまった。
 心が折れて、悔し涙がこめかみから耳までつたっていく。唇は小刻みに震えて合わさらない。

「学会という場で学者たちを口説く為には、とにかく正確なデータが必要になります。しかも生データでなくてはいけない。小村奈保子さんは年齢も若いし、容姿も優れている。僕が必ず妊娠させてみせます」

 彼の熱意だけが一人歩きしていて、私の胸にはぜんぜん響いてこなかった。

「女性が純潔をまもる時代はもう終わったのです。それでは始めましょうか──」

 私の体からカテーテルと膣鏡が取り除かれ、出海医師の無駄のない指使いが女性器のしくみを調べ上げていく。

「はっあっ……、んん……くぅん……、やっ……んっ……」

 どうしようもなく下品な声が、こらえた口から漏れた。
 それは普段しゃべっている声よりもずっと上の方で、「気持ちいい」と言っているのと同じ意味を含んでいた。

「なかなか良質なサンプルが採取できそうだ。そうですね、外側からだけじゃなく、今度は内側からも女性ホルモンを増やしていきましょうか」

 その言葉にまわりのスタッフ全員が揃って頷く。なんとも奇妙な光景だ。
 その時、佐倉さんは自分のマスクをはずし、上品な笑顔を私だけに向けた。私は思わず見とれてしまっていた。
 されるがままに私は全裸に剥かれ、室内をぐるりと見渡せば、私を中心にして淫らな雰囲気の円陣ができあがっていた。

「もうやめてください……、おねがい……、ゆるして……」

 そこにいる者はそれぞれの手に何かを握り、それは医療とは関係のない形をしているように見えた。
 そして出海医師は私にこう言う。

「あなた自身が性的欲求を高めていけば、自然に妊娠しやすい体質に変化していくのです。かなりの確率でね」

 私はもう何も言い返せない状態にまで落ち込んでいたが、久しぶりに目覚めた性欲はドクドクと血管を通り、乳首を火照らせ、膣を沸騰させていた。
 私を取り囲む円陣の輪がしだいに小さくなって、男の人の荒い鼻息と、女の人の興奮気味な咳払いがすぐそばまで迫ってきた。
 ここは病院なんかじゃなくて、無菌状態の研究施設と呼ぶべきだ。だとしたら私はいったいいつから騙されていたのだろうか。
 騙す方がわるいのか、騙される方がわるいのか。これから私は何をされ、どうなってしまうのか。
 尽きない疑問をめぐらせているうちに、ついに理不尽な治療が再開された。
12/04/19 11:25 (A9Nm5kPl)
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