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39
投稿者: コウジ
その夜、事前に遅くなりそうといっていた妻の由
美が帰宅したのは十一時過ぎでした。
 生徒の苛め問題で今学校が紛糾しているとかで、
疲労の色を濃くしての帰宅でした。
 しかしそんな妻には申し訳ないことでしたが、僕
は病院から持って帰った義母のまだ湿りの残ってい
た下着と、例の写真十数枚を居間のテーブルに置き
並べ、彼女が帰宅するまでの間、不埒で卑猥な妄想
の世界に浸りきっていたのでした。
 病院で義母の口の中に思うさま放出して絶頂を極
めて、まだ一、二時間も経過していないのに、僕の
下半身は興奮の兆しを顕著にしていたのでした。
 こんな状況に自分自身が陥るのは、これまでには
一度も経験のないことでした。
 由美と結婚して義母の亜紀子と同居するようにな
ってから、おそらくずっと叶うことはないと思って
いた清楚で清廉な義母への淡い思慕が、まるで大き
な津波のようにこの数日間で、図らずも現実化され
ているのは自分自身でも驚き以外の何ものでもあり
ませんでした。
 そして平凡で可もなく不可もない、ありきたりの
ごく普通の人間だと思っていた自分の心の中に、こ
れだけの悪魔的な嗜虐性が潜んでいるとはついぞ想
起していないことでした。
 居間のソファにどっかりと腰を下ろしながら、僕
は淫靡で邪淫な偏執狂のような思いで、義母のどこ
でいつ誰に撮られたのかまだ不明のままの淫らな写
真を食いつくように見ながら、片手にまだ湿りがし
っかりと残っている薄水色のシルクのショーツを握
り締めていました。
 白いシーツの上であられもない開脚状態で男を迎
え入れ、深い愉悦に浸りきっているかのような恍惚
の表情の義母の顔を僕は飽くことなく凝視しました。
 つんと尖った鼻先から上品に細く通った鼻筋、濃
い眉の下の切れ長の目の中で、濡れて光る黒真珠の
ような瞳。
 そして白過ぎる艶肌が、それほど濃く引いたわけ
でもない紅いルージュをさらに紅く際立たせて見せ
ています。
 いつの間にか僕の手はズボンのベルトを外し、忙
しなげにトランクスの中に潜り込んでいました。
 これまでの自分のどこにこんなにも旺盛な性欲が
潜んでいたのかと、心の中で驚きを大きくしていた
のですが、手は休むことなく動き僕の股間ですでに
固く屹立していたものを強く握り締めていたのでし
た。
 それこそ何年ぶりかの自慰行為でした。
 テーブルの上のティッシュボックスを引き寄せ、
義母から奪い取ったシルクのショーツを厭らしく
鼻腔に翳し、卑猥な写真を凝視しながら、僕は強
く握り締めた自らの屹立を激しく擦りつけ、やが
て低い咆哮の呻き声と共に果て終えたのでした。
 それは妻の由美が帰宅する一時間ほど前のこと
で、さすがに帰宅後の妻の顔は妙な後ろめたさも
あり正視できませんでした。
 次に僕が義母を訪ねたのは翌々日の夕刻でした。
 明日が退院ということなので、僕は妻の由美から
もいわれていたので担当医師に会い、病状の経過と
退院後の養生を一通り聞いた後で、義母のいる病室
に入りました。
 ノックもドアを開けると、義母は驚きと狼狽の表
情を露わにして、逃げるように視線を逸らしました。
 濃紺のパジャマ姿でベッドに座って、細い銀縁の
眼鏡をかけ何かの本を読んでいたようでしたが、僕
が近づくと慌てたような素振りで本を閉じて、背を
向けるようにして身を横たえました。
 「先生にね、退院後の養生を聞いてきたら、やっ
ぱりしばらくは松葉杖生活になるっていってたよ」
 不快感を露わにしたような義母の素振りを無視し
て、僕はつとめて明るい声でいいました。
 背中を向けて布団を深く被ったまま、義母は寡黙
を通していました。
 「聞いてると思うけど、由美は今夜もPTA総会が
あり遅くなるといってた。明日の退院の前に今日の
内に持って帰れるものは持ってきてほしいというこ
とだけど…」
 やはり義母からの応答はありませんでしたが、見
回すとベッドの下と横の棚あたりに、膨れたバッグ
や物を包んだビニール袋が整理されて置いてあるの
がわかりました。
 義母がつい今しがたまで読んでいた文庫本を見る
と、太宰治の短編集のようでした。
 棚に置かれていたその文庫本を手に取り所作なく
と頁を捲りながら、
 「亜紀子、こちらを向いてごらん」
 と僕は短く声をかけました。
 義母を覆った上布団が小さく震えるように動いて
いました。
 「亜紀子―」
 寡黙なままの義母に少し業を煮やしたような響き
で呼びかけると、間もなく布団が大きく動きました。
 義母がむっくりと上体を起こし、そばにあった毛
糸のカーディガンに静かに羽織りながらベッドに座
位の姿勢をとってきたのです。
 銀縁の眼鏡の奥の瞳が何か強く光り輝いているよ
うに見えました。
 「浩二さん―」
 か細い指を眼鏡の淵に当てながら、短くそういっ
た義母の凛とした強い響きのある声でした。
 「これまでのあなたとのことは、改めてはっきり
いいますけど、足を挫いて怪我をしてしまいあの一
夜を過ごしてしまったことは、私にも責任の一端が
あります。そのことはご迷惑をかけたあなたにお詫
びします」
 理性に満ち満ちた低く重みのある義母の声に、僕
は少し驚いた目で彼女を見据えました。
 「…私も恥ずかしい話ですが…男のあなたを強く
拒めずにきてしまったことを、とても今後悔してい
ます。娘の由美のことを思うと、死にたいくらいの
気持ちでいます。…あなたを、あなたを今責めるつ
もりはありません。…だから」
 そういって義母は一度言葉を切って、姿勢を僕に
正面向くように直して、
 「だから浩二さん、昨日までのことは私も全て忘
れます。忘れますから…あ、あなたもどうか」
 と息せき切ったような声でいって、両手を膝につ
き頭を深く下げてきたのでした。
 顔を上げて僕に強い視線を投げてきた義母の顔に
は、何ものも受け入れないという強固な意志のよう
なものが感じられ、さすがに僕もたじろぎを余儀な
くされたのです。
 「…これまでのあなたとのことは私も悪夢だった
と区切りをつけます。そして忘れます。だから、浩
二さんも」
 義母のあまりの強固な毅然さに、正直なところか
なりの驚きと衝撃を受け、たじろぎの気持ちになっ
た僕でしたが、その次に自分のとった行動は思いも
寄らないことだったのです。
 僕は背広の胸ポケットからゆっくりとした所作で、
黙ったままあるものを取り出し義母の前に置いたの
です。
 少し色褪せた、白い封筒でした。
 しばらくは訝しげな眼差しをしていた義母の顔が、
唐突に大きな驚きと激しい狼狽の入り混じったよう
な複雑な表情を露呈したのを見て、僕の心の中で邪
淫で淫靡な悪魔が冷酷非道な笑みを浮かべていたの
でした…。

      続く



※元投稿はこちら >>
15/06/16 16:58 (0fev/9G7)
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