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2015/07/17 16:06:18 (895bltZd)
小さな足音が聞こえ、襖戸の開く音に目をやると、朝
の服装に戻っている義母が顔を俯けて入ってきました。
 薄いピンクのアンサンブルと濃紺のタイトスカート姿
で、眼鏡をかけた顔の化粧もし直したのか、赤いルージ
ュが鮮やかでした。
 「…お腹空いてるでしょ。何もないけどお握り作った
から、ダイニングに…」
 やはり僕とは目を合わそうとはせず、色白の顔を俯け
たまま、呟くような声でいってきました。
 「ありがとう―」
 とだけ言葉を返して、そそくさと下着を穿きジャージ
ー姿に戻り、僕はダイニングに向かいました。
 テーブルの上には丸い皿に何個かの海苔で巻かれた小
さな握り飯が並び、横の皿には僕の好物の卵焼きが置か
れていました。
 僕より少し遅れて入ってきた義母が調理台に向かい、
鍋から湯気の立った味噌汁をお椀に入れて、椅子に座っ
た僕の前に置いてくれました。
 こんな時に義母にどういう言葉をかけたらいいのかわ
からず、
 「いただきます―」
 とだけ照れ隠しのような声でいって、僕は味噌汁を口
に運びました。
 そのまま居間のソファにでもいくのかと思っていた義
母が、どういうわけか僕の真正面に座ってきました。
 「浩二さん…食べながらでいいから聞いて」
 眼鏡の細いフレームに手を当て、義母が神妙な顔つき
で徐に切り出してきました。
 「もう、六時には由美が帰ってくるけど…私たち…こ
れからどうなるの?…あなたを…あなたを、私…拒めなく
なってきてる。…それが、とても怖いの」
 蒼白に近い顔と眼鏡の奥の目に、不安と慄きの表情を
深く漂わせて、言葉を少しいい澱ませ気味に義母がいっ
てきていましたが、僕はそんな彼女の切実そうな声を無
視するかのように食べることに専念していました。
 道理に満ちた理性がまた義母の心に蘇っているのだと
思っていました。
 義母の悔恨と慙愧の言葉はしばらく続き、
 「…このままでは私たち…地獄に堕ちるわ」
 とか細い肩を沈ませて気弱くいった時、
 「お尻の穴まで犯されてよがり狂った女がよくいうね」
 と途方もない下品な言葉を吐いた僕に、彼女は信じら
れないという驚きの表情で目を大きく見開いていました。
 義母のまたしても目覚めた理性を一気にへし曲げるた
めに、故意的にいった言葉でした。
 「でも、好きだよ。亜紀子のあの時の顔。死ぬほど好
きだ」
 それは僕の本当の気持ちでした。
 「いっただろ、前にも。…地獄に堕ちる時は僕も一緒
だって」
 「…こんな年で…それにもましてあなたの義理とはい
え母親なのに…あなたを好きになっている私が…私が本
当に怖い」
 「ごちそうさま、お腹空いてたから美味しかった。卵
焼き最高だったよ」
 明るくそういってから、
 「亜紀子、こちらへおいで」
 と唐突に言葉を続け足しました。
 え?という表情を浮かべた義母でしたが、少しの躊躇い
の後、彼女が椅子を立ち上がりしずしずと僕の側に寄っ
てきていました。
 近くまできた義母の細い手首を捉え、そのまま自分の
ほうへ引き寄せると、彼女の小さな身体は他愛もなく椅
子に座った僕の胸に倒れ込んできました。
 そのまま両腕で包み込むようにして、僕は義母を抱き
締めました。
 間髪を入れることなく義母の唇を奪い重ねました。
 「ううっ…むむぅ」
 と慌てたように小さく呻く義母でしたが、すぐにその
全身から力が抜け、両腕を自分から僕の首に巻きつけて
きていました。
 僕の太腿の上に腰を落とし身を預けながら、義母は自
分の心の中の何かを消し去りたいかのように、首に巻き
つけた手に力を込め、自分の舌を激しく僕の舌に絡みつ
けてきていました。
 まるで愛し合う恋人同士のような抱擁は長く続きまし
た。
 お互いの息が感じあえるくらいに顔と顔を寄せ合って
いる時、
 「亜紀子、もう一度いうけど、二度と悔やみの言葉は
僕の前でいわないでくれよ」
 と義母に向かっていいました。
 「…はい…でも、ほんとに」
 「亜紀子の身体だけじゃない。全部、好きなんだ」
 「…私も…こんな年なのに…浩二さんが好きに」
 「そういえばさ、さっき食事の時、居間のテレビで歌
番組やってたけど…誰だったかな?三味線持ってて演歌
の…長山なんとかって人、亜紀子にそっくりだなぁって
思ってた」
 「気がつかなかったわ…」
 「亜紀子が若い頃、由美と一緒に写ってた写真見せて
もらったことあるけど、似てたよ」
 「…そう。あ、そういえば、あなたが寝ている時、自
治会長さんから電話あったの」
 「自治会長から?…何て?」
 「明日ね、この辺が選挙区の国会議員の候補の方が集
会所に来るので、急で悪いんだけど出てくれないかって
頼まれたの。それが午前と午後の二回もあって、夕方ま
で拘束されそうで」
 「そうなんだ…」
 僕が少ししょげた顔すると、
 「…断わり…ましょうか?」
 と義母が思い直すような表情で言葉を返してきました。
 「あ、いやっ、いいよ。町内のお付き合いも大事だか
ら行ったらいいよ。…ぼ、僕もそういえば出かけるかも
知れないから」
 義母の言葉を聞いて、僕の頭の中は目まぐるしく機転
を働かせていました。
 それならそれでいいと僕は考えていました。
 これからも土日には、いつでも義母と一緒にいれると
いう確信めいたものが僕の胸にありました。
 義母が留守の間に、彼女のあの日記を読もうと思った
のです。
 そしてもし時間がまだあれば、あの野村加奈子に連絡
を取ってみようとも考えていました。
 「あ、それともう一つ…」
 「何、もう一つって?」
 「昨日、居間のソファの下にね、あなたにこの前玄関
で…口紅拭うのに渡したハンカチ落ちてたのよ」
 「ああ…背広のポケットに入れたままだった」
 「それが落ちたのね…見つけたのが私だからよかった
けど」
 「そうだね、亜紀子でよかった」
 お互いがほんの少しだけひやりとする会話で終わり、
僕は義母から離れ居間に移ったのでした…。

        続く
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12
投稿者:コウジ
2015/07/21 16:16:22    (pHZanuN2)
あの山小屋での時の義母の苦しく切ない心情の吐
露を、僕は二度読み返した後、肩を揺らせながら大
きな息を吐き出していました。
 あの雨風の強い暗闇の中で寒さに堪えようとして
いた僕を、義母は自身の胸の中で少なからずの葛藤
と迷いがあったとはいえ、血の繋がりもない僕を、
まるで我子を思う気持ちで狭いシュラフの中へ入れ
てくれたのかと思うと、心が少し折れて傷む思いで
した。
 そんな義母の優しさもわからず、不埒千万な欲望
に負け、結果として僕は彼女を闇に乗じて犯し陵辱
したのです。
 しかし義母はそんな僕を責め詰るのではなく、全
ての責任を年長者である自分の心の脆弱さのせいに
してくれている優しさが、身勝手ないいかたですが
かすかな救いではありました。
 病院内のことでも日記は書かれていました。
 同時に僕は義母のまるで知ることのなかった何十
年も前の、屈辱の出来事まで窺い知ることになった
のでした。

    十月三十一日
 
 危惧していたことだったが、浩二さんにまた身体
を求められる。
 しかも今いるこの病室でだ。
 山小屋でのことは一度だけの過ちとして看過する
つもりだったのが、若い彼の魔の手はまたしてもど
す黒い毒牙となって、私の肌だけでなく心にまで癒
えることのない傷の刻印を残していったのだ。
 ベッドの上で襲われた時、当然私は抵抗した。
 しかし病院の病室ということが、私から抗う声を
奪い、拒絶の力を半減させていた。
 足の自由も利かず両手だけの抵抗では、若い浩二
さんの強い力に勝てる道理もなく、私の身体はまた
しても彼の欲望の餌食となった。
 もしここで人でも入ってきたらという気が気でな
い思いもあり、私は浩二さんのなすがままになるし
かなかった。
 まさかこのような場所でという予期せぬ驚きと、
人が入ってくるかも知れないという恐怖感の中で、
私は浩二さんに衣服のほとんどを剥ぎ取られ、身体
の至る部分への愛撫を受け続け、そしてまたしても
だが、彼の前に愚かにも女としてはしたなく反応し
喘ぎの声を上げてしまっていた。
 失くしてはいないつもりだった自分の理性の心も
抑制の気持ちも、結果としてはしかし哀しいくらい
の脆弱さだった。
 女としてはもう早くに枯れたはずの年齢でありな
がら、私の身体は義理の息子の浩二さんの時間をか
けた手管の前に脆くも屈していったのだった。
 剥き出しにされた乳房への舌の愛撫と、乳首への
歯での甘噛み。
 そして私の下腹部に伸び下ってくる彼の手で、敏
感な箇所を捉えられくぐもった声を上げるしかない
私。
 感じてはならない愉悦に次第に薄れかけていく意
識の中で、どうしてかわからなかったが、唐突に私
は何十年も前の自分の屈辱の記憶を思い起こしてい
た。
 私はそして浩二さんの前に、はしたなく愚かな女
の部分のほとんどを曝け出し、最後には彼の身体に
しがみつき悶え果てたのだった。
 彼が病室から去って一人になった時、私の目から
涙が溢れ出た。
 悲嘆と悔恨と慙愧の涙だった。
 明かりを消したくらい闇の中で、当然のように私
は寝付けない時間を過ごした。
 自分は本当に浩二さんの男の力に屈しただけなの
だろうか?
 彼の魔の手が私に伸びてきた時、私は強く抗った。
 義理の息子の暴走を強く叱る声も出した。
 本当にそうだったのだろうか?
あってはならないことだが、どこかで女として浩
二さんの男としての欲望の行為を、心密かにはし
たなく期待している愚かな自分がいたのではない
か?
答えの見つからない自問自答を、眠れぬまま私は
長く続けた。
 そして答えの見つからない苛立ちで混乱する私の
頭の中に、浩二さんに抱かれている時に唐突に思い
起こした、何十年も前の屈辱の記憶が勝手にめらめ
らと湧き上がってきていた。
 長く自分の心の中に封印してきたことで…このこ
とを書き記すのは初めてのことだ。
 大学を出て教職の道に進んで二、三年の頃だった。
 教師としての最初の赴任先は、県内の奥深い山村
の小学校だった。
 その頃からもう過疎化の進んでいる小さな村で、
学校の生徒数も一年から六年まで合わせて八十人足
らずだった。
 そこで私は四年生の担任として社会人の第一歩を
踏み出し、二、三年があっという間に過ぎた。
 そして忌まわしい事件に私は図らずも遭遇してし
まったのだ。
 当時、村の山奥のほうで小さなダム建設がもう何
年かに渡って行われていて、その工事に携わる人間
が村の外から何十人も入ってきていた。
 彼らは村から一時間以上も山奥に入ったダム工事
現場近くに、プレハブの飯場のような建物を幾棟か
建てそこで集団生活をしていた。
 そして事件は起きた。
 私は村の小高い丘の上にある小学校の運動場の横
に立つ教職員宿舎での生活だった。
 建物は長屋式の平屋建てで二棟あり、そこに私を
入れて三人の教師が寄宿していた。
 男性教師二人と女性教師は私一人だった。
 夏休み前の大雨の降る週末だった。
 私もバスで二時間ほどの実家へ帰る予定でいたの
が、クラスの子供一人が急性肺炎にかかり診療所に
入院していたので、日曜日に見舞いに行くつもりで
帰郷を断念したのだ。
 宿舎に入っている男性教師二人はともに帰郷して
いた。
 風はなかったが雨の音がすごく大きく聞こえる夜た
で、少し心細い思いでいた時だった。
 玄関戸を激しく叩く音がした。
 時刻は九時頃で、私は身を竦めるようにしてひど
く緊張した面持ちでいた。
 戸を叩く音は止むことなく続き、次に人の声が聞こ
えた。
 「すみません…すみません」
 という男の声だった。
  玄関口の明かりを点け、中から外を窺うと、硝子
戸越しにヘルメット姿の男が身を屈めているのが見え
た。
 「どなたですか?」
 と恐怖の少し入り混じった声で私は尋ねた。
 「すみません。ダム工事の現場の者です。この下の
道で車の事故起こしちゃって」
 運動場の下に、車一台が通りかねるような道が山に
向かってあるのは知っていた。
 「すみません、こんな時間に。事故で足を怪我して
しまって」
 私は止む無く玄関戸の鍵を開けてやった。
 四十代くらいの髭の濃い男が合羽も着ずにずぶ濡れ
で立っていた。
 右足の作業ズボンが大きく裂けていて、血のような
ものが雨に混じって流れ出ていた。
 玄関口までその男を入れて、私は居間に戻り救急箱
を持ってきて、取り急ぎその場で止血処置をしてや
った。
 「すみません、夜遅くに。血さえ止まれば帰れま
すので」
 とヘルメットを外し、殊勝な恐縮の声を出してい
たその男が豹変したのは、それからすぐのことだっ
た。
 怪我した足に包帯を巻き終えて、救急箱を持って
室に戻ろうとした背後から、男にいきなり飛びかか
られたのだ。
 救急箱が廊下に落ち、中のものが廊下に散乱した
のを、何故か今も覚えている。
 何が何だかわからないまま、私は男の強い力に引
きずられるようにして、明かりの点いた居間に連れ
込まれた。
 私は必死になって喚き、泣き、叫んだ。
 しかし激しい雨音がその全てを消し去り、私は居
間の畳の上で全裸にされた。
 身を竦めるしかなかった私の横で、男が無言で雨
に濡れた衣服を脱いでいた。
 何をどうされたのかの記憶がそこで途絶えていた
が、畳に仰向けにされ、両足を大きく拡げられて男
のつらぬきを受けた時の生まれて初めての衝撃は、
今も私の身体のどこか奥底に痛みとなって残ってい
るような気がする。
 私の男性体験の最初だった。
 「すまんかった。あんたの匂いに負けてしもうた。
もう二度と来んよ」
 少し訛りの混じった声で男はそういって雨の外に
出ていったのは、十一時過ぎだった。
 今も定かな記憶ではないが、男は私を一度犯した
後にも、
 「すまんかった…」
 といった。
 やがて男は立ち上がり台所にいき、脱ぎ捨てたシ
ャツのポケットから煙草とライターを取り出し、ラ
イターを何度も擦るのだが火が点かず、調理台のガ
スを点火して煙草に火を点けた。
 私は男に犯されている途中のどこかで意識を失く
していたようで、茫漠とした目を開けた時に男がそ
うしているのが見えたのだ。
 男も素っ裸だった。
 足の太腿から胸にかけてが黒い毛に埋め尽くされ
ている大柄な男の、あまりにも突発的で直情的な強
襲に、小柄で華奢な女の私が勝てる道理もないこと
だった。
 畳に俯伏せになったまま、私は声を出すこともで
きず、涙を止め処なく流すしかなかった。
 しばらくしてその男は再び私に迫ってきた。
 私は壁の隅まで這うようにして逃げ惑うのが精一
杯だった。
 男に苦もなく両腕を掴み取られ、私はその場でま
た畳みに仰向けにされた。
 男は私の上に覆い被さるようにして、髭だらけの
顔を私の乳房に擦りつけてきた。
 乳房の上で男の舌が蠢いているのがわかった。
 長い時間そうされていたような気がする。
 下腹部に何か固いものが当たっているような気が
したと思った矢先だった。
 「ああっ…」
 私は思わず高い声を上げていた。
 男の固いものが私の下腹部にめり込むように侵入
してきたのだ。
 最初の時の、あの生まれて初めての衝撃だった。
 身体の中に何かを深く呑み入れたという実感めい
たものを私は感じた。
 私の体内の深い部分にまで入った男のものはその
まま動きを制止した。
 私の乳房を這い巡る男の舌だけが忙しなげに動い
ていた。
 目を深く閉じているしかなかった私には途方もな
いくらいに長い時間だった。
 気持ちがどうにかなりそうになりかけていた時、
男のほうが私の身体を抱え込むようにして上体を起
こしてきた。
 男が畳みに胡坐座りをしていた。
 上体を起こされた私はそのまま男の胸の中に包ま
れるしかなかった。
 両足を男の腰に巻きつくようにして座らされてい
た。
 そして私の下腹部には男のものが突き刺されたま
まだった。
 「ああっ…こ、こんな」
 屈辱の姿勢だった。
 男の毛むくじゃらの太い腕が私の背中を抱いてい
る。
 顔の目の前にやはり毛むくじゃらの男の厚い胸が
あった。
 「ああっ…は、恥ずかしい」
 男の熱い胸の中で私はどうすることもできなかっ
た。
 男の片手が俯いていた私の顎を掴み、顔を上に上
げさせた。
 間髪を入れずに私は唇で唇を塞がれた。
 異性とのそういう行為は大学時に交際していた男
と一、二度くらいの経験だった。
 髭が肌に痛いと感じる間もなく男の舌が強引に、
私の歯と歯を割って押し入ってきていた。
 私は目を大きく見開いて驚きの表情で、声を呻か
せるだけだった。
 男に裸のまま座位の姿勢で密着させられている時
間のどこかで、何か気持ちと心に初めてのような感
覚が出てきているような気がした。
 これまで一度も感じたことのない不安定な感覚に
取り込まれそうになっていた時、私はまたそのまま
畳みに仰向けにされ、そして再びのつらぬきを受け、
私は男の前で二度目の意識喪失に陥ったのだ。
 この時の本当の気持ちをいうと、意識を失う直前、
私は女としての快感めいたものを身体と心の奥底の
どこかで感じていたような気がした。
 男が外に出る前の言葉は、意識を取り戻して間も
ない時だった。
 それからの私は男の影に怯え慄く日が何日も続い
た。
 誰にも告白することのできない恥辱だった。
 そうして何ヶ月から一年、二年と日は過ぎた。
 幸いといっていいのか、暴行による妊娠はなかっ
た。
 次に転任した海辺の町の小学校で、私は亡くなっ
た夫と知り合い、恋に堕ちた。
 本当に実直謹厳を絵に描いたような人で、言葉で
語るより手紙での告白が多く、私へのプロポーズも
連綿とした封書に依るものだった。
 言葉で直接いってほしいという前に、私は彼に正
直に過去に不幸な過ちがあったことを告白した。
 彼はそのことを意に介する素振り一つ見せず、ぎ
こちない言葉で私にプロポーズしたのだった。
 私は彼と結婚し由美を出産した…。

 義母が二十代の頃に男からの陵辱を受けていたこ
とは驚きの事実でした。
 どんな人間でも表裏一体とはなかなかいくもので
はなく、表と裏があり、生きてきた過程の中では触
れられたくないことや、知られたくないことがある
のは当然です。 
 長く子供を教え導く教職員として生真面目に生き
てきていた義母にも、それはやはりあったのです。
 小柄で華奢でたおやかな体型となよやか過ぎるく
らいに色白の肌。
 清楚で清廉な身のこなしと、素養豊かでどことな
く気品の漂う顔立ち。
 外形的にも内面的にも崩れとか歪みとかいうもの
が一切見受けられない人だと思っていた義母に、こ
れだけの屈辱の過去があるのは、正直なところ大き
な驚きでした。
 六十三という年齢を重ねて尚、女としての妖艶と
はまた違う艶やかな魅力を、自然のかたちで保持し
ている義母であるだけに、表裏の落差は見た目以上
に深く大きなものなのかも知れません。
 そして彼女の女としての屈辱の過去はまだあるの
でした。
 時計を見るともう正午に近い刻限でした。
 野村加奈子との約束もあり、僕は少なからずの未
練を残して、義母の日記を元通りの場所に戻し置き
ました…。


     続く
 

 


13
投稿者:kkk
2015/07/23 05:27:58    (RIUs78Gl)
義母さんの過去を覗き見て・・・いろいろとあったようですね。
そして野村女子との秘密めいた展開がどうなるのか?
更に、日記の続編、義母さんの町内会行事の展開・・その後とまだまだ続けていただきたいです。
お待ちしています。
14
投稿者:コウジ
2015/07/23 23:10:51    (T3iywrJo)
野村加奈子の住むアパートは、郊外に出てすぐの
田園地帯に新しく造成された団地の一画にありまし
た。
 ここへ来るまでの道すがら、野村加奈子が僕と会
いたいという目的が何なのかをもう一度考えようと
しましたが、昼までに読んだ義母の日記が断片的に
思い浮かんできて、結局は何も掴めないまま、彼女
の室のドアの前に立ちました。
 チャイムボタンを押すと中からすぐに返事があり、
内から外にドアが開きました。
 ショッキングピンクのような鮮やかな色に白の太
い横縞の入ったざっくりとしたセーター姿の加奈子
の白い歯を見せた顔が見えました。
 セーターの胸が大きなVネックになっていて、乳
房の割れ目が少し覗き見え、僕は少し驚き慌てたよ
うな顔をしたのだと思いますが、
 「こんにちは」
 と加奈子は屈託のない笑顔を満開にして迎え入れ
てくれました。
 少したじろいだ気分で急な訪問の詫びをいうと、
 「来てくれて嬉しいです」
 と加奈子はまた明るく微笑むのでした。
 室は洋間のワンルーム形式になっていて、畳八畳
ほどの室全体が薄い黄色のクロス壁で統一されてい
ました。
 手前がダイニングと流し台で、右側の壁に沿って
ベッドがあり、反対側に若い女の子らしい洒落た鏡
台と机が並び、中央に少し長めのソファとガラス製
の小さなテーブルがありました。
 ソファもベッドカバーの色も壁の色を基調に合わ
されていて、室のあちこちに動物の縫いぐるみが置
かれていたりして、室内に漂う甘酸っぱい香りと共
に、若い女の子の室らしい雰囲気は充分に出ていま
した。
 若い女の子の室に招かれるということはこれまで
にほとんど経験のなかった僕は、中央のソファに座
らされてからも、目を何度もしばたたかせて落ち着
きのなさを露呈していたのだと思います。
 「綺麗にしてるんですね。やっぱり女の子の室は
違うな」
 「今日は朝から早起きして一生懸命お掃除したん
ですよ。男の人子の室に入れるの初めてですから…」
 加奈子はダイニングでコーヒーの用意をしながら、
悪戯っぽい笑顔を返してきました。
 まだ少し落ち着かない気分で加奈子が淹れてくれ
たコーヒーを口に運びながら、
 「…それで、加奈子さん。この前から僕と会いた
いといっていたのは、何だったのかな?」
 と少し改まったような口調で尋ねました。
 「ごめんなさい、私のほうこそ。それほど面識も
ない人に、突然無理なお願いしちゃって」
 ソファに座った僕の斜め前で、薄黄色に毛羽立っ
たカーペットに座り込んだ加奈子が、かすかに顔を
曇らせ気味にして、薄く栗毛色に染めた少し長めの
髪を揺らせながらぺこんと頭を下げてきました。
 「…いつだったか、君からの告白メール読ませて
もらいました。随分、大変な経験してるんだね」
 そういいながら僕は少しこそばゆく面映い気分に
なっていましたが、
 「そのことの相談なのかな?」
 とかまわず問いかけました。
 「いえ、もうあれは随分昔のお話で、いつまでも
引きずってはいませんから…でも、そのことも少し
は関係あるかも…です」
 加奈子の愛くるしい顔が何かをいい澱んでいるよ
うに見えました。
 「…病院でのこと?」
 「………‥」
 「僕と義母のこと見たんだ?」
 「…見るつもりは」
 「何か誰かに見られているような気が少ししてた。
隠すつもりはないから、何かいいたいことあったら
いっていいよ」
 「何も…なにもありません。ごめんなさい…」
 「謝ることじゃないさ。じゃ、何なの?」
 「あの…怒らないで聞いてくれます?」
 「うん―」
 「あの時の…少ししか見れなかったんですけど…
先生のお顔と白いお肌、とても綺麗に見えました」
 「見られてたんだ、やっぱり」
 「あ、あなたと先生がどういうご関係なのかは知
ってます。でも、それはいいんです。私もいえる立
場ではないですし…」
 何かまだ加奈子の話は核心に届いていない気がし
ていました。
 彼女の驚愕の真意がわかったのは、それから数分
後のことでした。
「えっ?…き、君が僕を?」
 飲みかけていたコーヒーを思わず吹きこぼしそう
になるくらいの、加奈子からの突然の告白でした。
 「あなたのことが好きです…」
 全く予期していなかった言葉でした。
 「ど、どういうこと?…だって君とは」
 鳩が豆鉄砲をくらう以上の、加奈子のあまりに唐
突過ぎる発言に、平静心を完全に失くした僕は戸惑
いを大きくしながら、そう聞き返すのがやっとでし
た。
 僕の記憶では、加奈子とこれまでに言葉を交わし
たのは二、三度くらいで、それも挨拶程度のやり取
りだけで、印象に残るようなものは何もありません
でした。
 初対面の時、ああ、制服姿のよく似合う可愛い子
だな、とそう思ったのは事実です。
 小ぶりな愛くるしい顔と、あまり化粧っ気のない
健康的な肌が魅力的だとは少し思いました。
 それはしかし、普通の男なら誰にでもある一見的
にかすかにときめいた程度のことでした。
 それに何よりも、普段の自分は今風のイケメンと
いうタイプで全くなく、どこにでもいるただの普通
の男だということは、僕自身が一番自覚しているこ
とでした。
 「一番最初は、病院の廊下ですれ違った時でした。
恥ずかしいんですけど、私その時、自分の足が金縛
りにあったように止まってしまったのを、今でも覚
えています。そしたらあなたが、私の恩師の室に入
っていくのが見えて」
 「そうなの…」
 「…ほんと、自分でもわからないんです。あんな
にひどくときめいたのは、生まれて初めてです」
 「ちょっと待って。嬉しい言葉だけど、何か買い
被られているようだね」
 「私、真剣ですっ。…今でもあなたのどこがとか
何がとかはわからないんですけど、全部が好きなん
ですっ」
 男としては嘘でも嬉しい愛の告白の言葉でしたが、
その時の僕の心には、まるで想定も準備もされてい
なかった彼女の発言だったので、僕はすっかりあた
ふたと動揺してしまっていました。
 「あ、ありがたく嬉しい言葉だけど…で、その僕
にどうしろと?」
 「何もしてほしいことはありません。あなたに奥
様がいらっしゃって、あんな素敵なお義母様がお見
えだということも承知で、無理なお願いなんですが、
私とお付き合いしていただくわけにはいかないでし
ょうか?」
 と加奈子に思い詰めたような表情でそういわれ、
僕の困惑と動揺は益々増大するばかりでした。
 真剣な面持ちで目の前にいる加奈子はまだ二十代
そこそこの年齢のはずで、僕とは十年くらいの年の
差だと思いますが、その当事者でありながら、若い
彼女のエキセントリックで感覚的な言葉が、僕には
まだほとんど理解できていませんでした。
 一目惚れという言葉があり、他人のそういう話も
過去に何度か耳にしたことはありますが、不肖なが
ら僕のこのどこにでもあるような普通の顔と、背も
それほど高くもない普通の体型の男が、若い娘から
いきなり愛の告白を受けるという、その対象になる
こと自体が信じられませんでした。
 しかし今、若い加奈子が真剣な表情で僕にぶつけ
てきている、何か思い詰めたような視線の強さは、
男の僕のほうが少したじろぐような真剣さがあり、
僕は息を一つ大きく吐いて、
 「君も見てたように、僕は義理の母親でも、ああ
して平気で抱ける厭らしい男だよ。若い君に好かれ
る要素は、多分どこにもないと思う」
 と卑下的に切り出すと、それを遮るように、
 「そういうことは問題じゃありませんっ。そうい
うあなたでも好きなんですっ」
 加奈子は腰を少し上げ身を乗り出すようにして、
真剣な眼差しをまた僕にぶつけてきていました。
 僕のその時の目は加奈子の強い視線からすぐに
逸れ、不埒なことでしたが上から覗き見える彼女
の乳房の谷間に目をやっていました。
 「今だってね。若い君の室に入って僕は少し興
奮してしまっている。そのセーターの下の若い君
の身体を想像してた。…こんな男だよ、僕は」
 加奈子の胸の谷間を垣間見て咄嗟に思いついた
言葉を僕は吐きました。
 心のどこかで、若い子によくある狭窄な視野だ
けで、ただの凡人にしか過ぎない僕を勝手に偶像
化している加奈子の気持ちを目覚めさせたいとい
う思いも少なからずありました。
 「君にも見られてるんだろうけど、僕は義理の
母親に対しても、卑猥で厭らしい行為や言葉を要
求して虐めている。昨日も妻のいない家で義母を
抱いたりしてる。君が誰かにこのことを話したら、
そこで僕の人生は終わる。そういう瀬戸際にいる
どうしようもない男なんだよ、僕は」
 半分以上は僕の正直な気持ちでしたが、それで
若くまだ先のある加奈子が、自分に愛想をつかし
離れてくれればいいという、今の僕にはおよそ不
似合いな、仏心めいた心情もありました。
 「私はかまいません。あなたにいわれることは、
どんなことでもできます」
 またしても予期していない加奈子の返答に、つ
たなく賢くもない僕の心は右往左往するだけでし
た。
 それだけでなく、間近にいる加奈子の、今日は
少し濃いめかも知れない化粧をした顔を見ていて、
今彼女にいった言葉とは間逆の、卑猥で黒ずんだ
欲望が僕の心の中に、愚かにも沸々と湧き上がっ
てきているのがわかりました。
 「…ここで、そのセーター脱げる?」
 いいながら、僕は自分でも少し驚いていました。
 加奈子から平手打ちの一つも飛んできかねない
言葉でしたが、それならそれでいいという思いで
した。
 しかし彼女からの返答は、
 「はい…」
 の短い一言でした。
 「僕の前で、ほんとに裸になれるか?」
 「あなたが、そうしろというなら…なれます」
 「なってごらん。一枚ずつゆっくり脱ぐんだ」
 僕の心から理性や良心が消えていっているのが、
おぼろげにわかりました。
 加奈子は正座する姿勢になり、紅く引いたルー
ジュの唇を噤むようにして、胸の前で両腕を交差
させてセーターの裾を掴んでいました。
 そのままセーターは加奈子の手でたくし上げられ、
彼女の頭を通り抜けました。
 ワインレッドのような鮮やかな色のブラジャーが
露出しました。
 前に突き出るような膨らみと若々しい張りのある
乳房が、ブラジャーの下で窮屈そうにしていて、真
ん中で意外と深い谷間を形成していました。
 三十代半ばの妻にも、そしてあの義母にもない張
り詰めたような肌質に、僕は心の中で小さく感嘆の
声を上げていました。
 加奈子の手が躊躇いをそれほど見せることなく背
中に廻り、ブラジャーのホックを外しにかかってい
ました。
 彼女の乳房がそれまでの窮屈さから解放されたよ
うに、ぷるんと小さな乳首とともに前に顕われ出ま
した。
 脱いだブラジャーを下に置くと、若い加奈子はさ
すがに両手を胸で交差させて、少し気恥ずかしげに
顔を俯けました。
 「か、加奈子って呼んでいいかな?…若くて素敵
な身体してるけど、加奈子の体型教えて」
 展開の予期せぬ大きな変動に、僕の内心はまだ少
し動揺と戸惑いの中にいて、声もやや上ずり気味で
した。
 「えっと…身長は百五十八センチで、体重は四十
六、七キロです」
 「スリーサイズは?」
 「八十六、六十、八十八…くらいです」
 「前の手を下ろして…おっぱい意外と大きいんだ
ね」
 「そうですか…」
 「下も全部脱げる?」
 「…はい」
 「室、暖房入れてくれてるから寒くないよね?…
そこで立って脱いで」
 加奈子の下はジーンズの半ズボンのようなものを
穿いていました。
 上半身裸のまま彼女はその場に立ち、正面を向い
たままズボンのホックを外し取りました。
 脱ぎ捨てたブラジャーと揃いの色のショーツが見
えました。
 かたちよく窪んだ腰の下で、ワインレッド色の小
さな布地がはち切れそうに肌に喰い込んでいました。
 加奈子はかすかに羞恥の表情を浮かべ、かたちよ
く尖った顎から首筋のあたりを仄赤く染めながらも、
小さなショーツの後ろに手をかけて下げ下ろしまし
た。
 栗毛色に染めた柔らかそうな髪とは少し不釣合い
な感じの濃い茂みが、細い足の付け根から見えまし
た。
 「いい身体してるね。…恥ずかしくないの?」
 と僕は故意的に冷静な口調で尋ねました。
 「は、恥ずかしいです。…男の人の前で、こんな
こと」
 「今ならまだ止めれるよ。僕は君が思っているほ
どのカッコよくて素敵な男じゃないかも知れないよ。
…多分もっと悪い男だ。君をもっと辱めるかも知れ
ない」
 「…あ、あなたがそう望まれるなら」
 「わからないなぁ。君のように若くて綺麗な女の
子が、どうして僕みたいな男を…」
 「あ、あなたのお好きに…」
 「そこに座って。両手を後ろについてこっちを向
いて。…両足拡げてね」
 ここへ来る車の中ではまるで想像していなかった
出来事が、強姦魔のように暴力的に強制するのでも
ないまま、僕の言葉で思う通りに進行していくのが
不思議な気がしていました。
 この娘はどこか頭がおかしいのではないのか、と
いう気持ちを抱きながらも、室内の暖かさや女性の
室らしい艶かしさが、凡人の僕の精神を毀しにかか
ってきていました。
 加奈子は僕の命令通りの姿勢をカーペットの上で
とっていました。
 両手を後ろにつき、両足を折り曲げたまま少し開
いていて、その奥の漆黒の茂みがはっきりと見えて
いました。
 「こ、これでいいですか?」
 と朱色に染まった顔を俯けたまま、加奈子は蚊の
鳴くような声で僕にいってきました。
 「恥ずかしいだろ?…もっと、恥ずかしい質問す
るけどいい?」
 そう聞くと、彼女は首だけを恥ずかしげに小さ
く頷かせました。
 「そんなに恥ずかしい恰好してるけど、加奈子
は恋人はいないの?」
 「いません…」
 「これまでセックスはどうしてた?」
 「…ず、ずっとしていません」
 「そんなにいい身体してるのに、勿体ないなぁ
…オナニーはしてる?」
 「………‥」
 「正直に―」
 「…と、時々は…」
 「どんな風にしてるの?…そうだ、ここで今から
見せてくれる?」
 「ああ…それは」
 「こんなこと聞いて、ひどい男だろ?…嫌ならい
いよ」
 「は、恥ずかしいです…」
 「何でもするっていったのは?」
 「加奈子の全身に舐め回すような視線を向けなが
ら、僕はもうすっかりここに来た時の気持ちを喪失
してしまっていました。
 卑猥な言葉の責めを繰り返しながら、僕は自身も
少し驚いていました。
 前から企んでいたものではなく、これまでにほと
んど使ったことのない下品で卑猥な言葉が、意識的
にではなく次から次へと勝手に湧き上がってくるの
でした。
 獲物を捕らえる蜘蛛の糸のように、僕は野村加奈
子という女を、自分から狙っていたわけではありま
せん。
 今でも信じられないことですが、凡人以外の何も
のでもないこの僕を、理由も明確にわからないまま、
感情だけで好きだと一方的に告白してきたのは加奈
子なのです。
 そしてただの凡人の僕の理性は時を長く置くこと
なく、脆くも消滅していたのです。
 「ああっ…」
 若い女の子のはしたない声が黄色く飾られた室内
に、断続的に響いていました。
 僕の目の前で加奈子の片手が、自分の股間の濃い
茂みの中に潜り込んでいました。
 茂みの真ん中あたりで、彼女の細長い指が妖しく
動いているのが見えました。
 初め小さくくぐもっていた加奈子の声が、今はは
っきりとした女の喘ぎの声となって聞こえてきてい
ます。
 「随分、濡れてそうだね?」
 「ああっ…ほ、ほんとに恥ずかしいです」
 「濡れてるかどうかを聞いてるんだよ」
 「は、はい…濡れてます、とても」
 「こちらへおいで―」
 「…はい」
 加奈子は肩を揺らせ大きな息を一つ吐いて、のそ
のそと起き上がり、僕のいるソファに近づいてきて、
恥ずかしそうな表情で真横に座ってきました。
 「あっ…」
 両腕で包み込むように強く抱き締めてやると、加
奈子は力なく僕のほうに倒れ込んできました。
 加奈子の張りのあるすべすべとした肌の感触を僕
は心地よく感じながら、手を彼女の股間にいきなり
伸ばし下ろしました。
 つい今しがたまで加奈子が指を這わせていた股間
の茂みの中は、僕も少し驚くくらいに滴り濡れてい
るのがわかりました。
 「加奈子、ぐしょぐしょだよ、もう」
 「ああっ、恥ずかしいっ…」
 いつの間にか彼女の細い両腕が僕の首に巻きつい
てきていました。
 加奈子の股間に伸ばした僕の手が茂みの中で左右
の肉襞を割り、指先が滴り濡れた柔らかい肌肉を撫
で回すと、彼女は切なそうな顔で僕を見上げ、荒い
息を吐いて喘ぎの声を間断なく洩らし続けました。
 「キスしてほしい?」
 そう聞くと、加奈子は泣きそうな顔をして首を縦
に何度も振り続けるのでした。
 唇を強く重ねてやると、加奈子は待ち望んでいた
ように可愛く小さな舌を、僕の舌に激しく絡めてき
ました。
 唇を重ねたまま手を加奈子の乳房にやると、丸く
盛り上がった膨らみは、まるで少し固めのゴム鞠の
ような張りと弾力を僕の手全体に伝えてきていまし
た。
 乳房だけでなくその周辺の肌も滑らかな感触で、
あの義母の艶やかで妖艶な肌とはまた違った新鮮さ
で、僕の昂まりをさらに強く助長してきました。
 ソファの後ろのベッドまで僕は加奈子を抱いたま
ま運び、自分も忙しなく衣服を脱ぎ捨て、彼女の若
い裸身の上に覆い被さりました。
 「ああっ…好きっ」
 僕の昂まりに呼応するように、加奈子は両腕をま
た首に強く巻きつけてきて、自分のほうから顔を上
げるようにして唇を求めてきたのでした。
 そしてベッドの上で、僕と加奈子は深く密着しま
した。
 激しく濡れそぼった加奈子のその部分は、固く屹
立した僕のものを心地よい狭窄感と、熱く燃え上が
った体熱で深く包み込んできていました。
 若い女の身体の気持ちよさというものを、ひしひ
しと僕に体感させてくれる抱擁感に僕は酔いしれま
した。
 「ああっ…き、気持ちいいっ…ほんとに気持ちい
いっ」
 「僕もだよ、加奈子っ」
 「ああ…な、名前呼んでいいですかっ?」
 「ああ、いいよ、加奈子」
 「こ、浩二さんっ…好きっ…好きですっ」
 加奈子を突き立てている僕の腰の律動が早まって
きていました。
 さすがに若い加奈子の体内への放出はまずいと僕
は瞬時に考え、激しい勢いで二度、三度強く突き立
てた後、彼女の体内から屹立を抜き取り、ぜいぜい
と激しく波打つ彼女の腹肉の上に僕は迸りの飛沫を
浴びせたのでした。
 目を深く閉じ愉悦の表情をおし隠すことなく、加
奈子は僕の顔の下で充足感に浸りきっていました。
 「もっと…もっとあなたといたい」
 数分後、ベッドに胡坐をかいた僕の背中にしがみ
つくようにして、加奈子は間もなくの別れを惜しみ
哀しむ声を出していました。
 「加奈子、僕という男がどんな男かよくわかった
ろ?…君を抱いた後でこんなこというのも何だけど、
嫌いになってくれていいんだよ」
 と僕の肩に置いていた手に手を重ねてそういうと、
 「いやっ、嫌ですっ。…別れたくなんかないっ」
 と加奈子は声を荒げてきました。
 「僕の…僕の都合のいいだけの女になってもいい
のか?」
 「いいの、いいんです。…こうして一緒にいれる
時間が少しでもあれば」
 「わからないなぁ…今度また会ったら恥ずかしい
こと一杯されるかもわかんないよ」
 「…どんなことでも、あなたの命令なら何だって
します」
 まだはっきりと加奈子の真意が掴めないままなの
か、或いはもう彼女を征服したのか、よくわからな
い気持ちで彼女の家を出たのは、それから三十分後
のことでした。
 会いたくなったらこちらから連絡するという約束
をしての別れでした。
 車の中で僕は、義母の亜紀子と若い加奈子を何気
に比較していました。
 今抱いたばかりの加奈子の若い身体は魅力的な体
感でした。
 しかしそれだから年齢の深い義母の亜紀子がどう
だという思いは、僕には毛頭ありませんでした。
 今のところは妻の由美も含めてですが、誰も見限
るつもりはないと僕は思っていました。
 凡人でありながらつくづくと身勝手な僕でした。
 時計を見ると四時半過ぎでした。
 義母の携帯にダイヤルすると、二度ほどのコール
で彼女が出ました。
 「亜紀子、予定より早くこちらが終わったんだ。
まだ集会所?」
 「そうなの…後三十分くらいかしら?」
 心なしか義母の声が嬉しがっているように聞こ
えたので、
 「後十分くらいで着くから、集会所の駐車場で
待っていてやるよ。一緒に帰ろ」
 「ありがとう、助かります」
 義母の声は少し弾んで聞こえました。
 そして義母との電話を切ったすぐ後に、学校の部
活に出かけている妻の由美から連絡が入りました。
 部活が終わってから、また緊急に夜の七時からPT
A総会が開かれることになったので、帰宅は九時を
過ぎるかも、という連絡でした。
 母親にも今から連絡するとのことでした。
 娘からのその連絡を聞いた後の、義母の顔と表情
を僕は車の中で思い浮かべていました…。

   続く


 



 

15
投稿者:コウジ
2015/07/24 16:55:55    (O8.CVxac)
集会所の駐車場で十分ほど待っていると、車のフ
ロントガラスに小柄な義母が、まだ少し足を引きず
るようにして、こちらに向かってくるのが見えまし
た。
 と、その義母の背後から口に手を当て声を出しな
がら、小走りに駆け寄ってきている初老の男がいま
した。
 その男は義母を呼んでいたようで、彼女は立ち止
まり振り返りました。
 男が義母に追いつき、そこで立ち話が始まりまし
た。
 見るともなしに二人の身振りを見ていると、初老
の男のほうが義母に何かを懇願しているのか、ペコ
ペコと頭を下げたり、彼女の服の裾を引っ張ったり
していました。
 逆に義母のほうは困ったような顔をして、胸のあ
たりで手を何度も横に振り、相手に対し断わりの所
作を見せていました。
 やがて義母は男を振り切るようにして、僕の車に
向けて歩いてきました。
 「今、亜紀子に頭を下げてた人、たしか自治会長
の小村さんだったよね?」
 心なしか嬉しげに顔を綻ばせながら助手席に乗り
込んできた義母と、二言三言の言葉を交わした後、
僕が彼女に尋ねると、
 「そうなの。この後役員だけの食事会があるので
出てくれって」
 「あの人の次男が僕と高校の同級生でね。家にも
一、二度遊びに行ったことがある。お金持ちですご
く立派な家だったな」
 「そうね。どこか大手の建設会社の役員か何かを
してらして、定年退職なさって悠々自適の方だって
聞いてるけど」
 「そうみたいだね。僕の同級生も大学中退してか
ら、長く定職にもつかずプータローみたいにしてて、
今は何かあまり名前のよく知らない芸能プロダクシ
ョンかに入って、映画の監督してるとかいってたな
ぁ。…高校卒業してからはあまり付き合いはないん
だけどね」
 「私…あの小村さんって人、あまり好きじゃない」
 普段から他人の悪口など一度もいったこのない義
母が、小さな顔を少ししかめながらそういったので、
 「何?…何かあったの?あの人と」
 と僕は少し気になったので問い返しました。
 「ううん…何も…何もないわ」
 車はあっという間に自宅に着き、駐車場に車を入
れた時、僕は思い出したように、
 「由美から電話あった?」
 と義母に聞きました。
 「あったわ…緊急なPTA総会があるので遅くなる
って…」
 「僕にもあった。苛め問題で今学校も大変みたい
だね」
 「身体毀さなければいいのに…」
 時計を見ると五時過ぎでした。
 妻の由美の帰宅まで四時間ほどの時間がありまし
たが、その場は二人とも何故かそのことには触れな
いまま、玄関戸を開けて中に入りました。
 「お買い物できなかったから、ある物でいいかし
ら?」
 エプロンを腰に巻きダイニングに入った義母は、
冷蔵庫を開け食材の幾つかを取り出し、調理台や
流し台付近を小まめに動き回り出しました。
 三十分も経たない間に、食卓に色鮮やかな料理
の盛られた皿が幾つも並び、二人きりの静かな食
事が終わったのは七時少し前でした。
 昼間の若い加奈子との思わぬ情交の疲れもあっ
たのか、居間で半分居眠り加減でテレビを見てい
た僕に、洗い物を済ませた義母が、
 「浩二さん、疲れてるの?」
 と背後から優しく声をかけてきていました。
 「ああ、いやっ…そうでもないんだけど」
 「…お昼はどこに?」
 「ん?…どうして?」
 「ううん…何もだけど…でも」
 「でも、何?」
 「さっき車に乗せてもらった時…あなたから…い
つもと違うような匂いしたから」
 「えっ?…あっ、ああ…昼間は仕事の関係で女の
人何人かと会ってたから」
 「…そう…ごめんなさい、嫌なこと聞いて」
 「四十代の奥様連中四、五人と会ってたから」
 「もういいの。…私、お室にいってるわ」
 義母が居間を出ていった後、自分の両腕に顔を当
て鼻で息を吸いながら、内心で女の直感的な感覚に、
少し肝を冷やしていました。
 それにしても義母はどういう気持ちで、僕に疑念
の言葉を向けてきたのかが不思議でした。
 まさか、あの義母がこの僕に嫉妬なんていうこと
はないはずでしたが、彼女は僕の身体から間違いな
く異質の、それも女の匂いを敏感に嗅ぎ取っていた
のです。
 野村加奈子のアパートを出る前、彼女がシャワー
浴びていきますか?と聞いてきたのを僕は断わって
いたのでした。
 このことはもしかしたら、義母から僕への暗黙の
忠告だったのかと思いました。
 僕の鈍感さや不注意で、もし義母との関係が妻の
由美に知れたら、救いようのない事態になります。
 そのことへの対応策など何一つ持ち合わせていな
いまま、僕は本能と感情の赴くまま義母の身体を求
めていました。
 現に今も由美の帰宅が遅くなるということを知り、
僕は残された時間の中で義母を抱こうかと、不埒な
考えを巡らせていたのでした。
 これだけのことを仕出かしている僕は、もっと全
てにおいて細心の注意を払うべきなのでした。
 義母の言葉を馬鹿みたいに嫉妬などと思わず、忠
告と理解するのが僕の急務でした。
 それが僕だけでなく、義母もそして妻の由美も含
めたこの家族を幸せを維持する唯一無二の手段なの
でした。
 肩で大きな息を吐きながら何気にテーブルに置い
た携帯に目をやると、着信を告げる赤い小さなラン
プが点いていました。
 開けるとあの野村加奈子からのメールが入ってい
ました。
 着信時刻は帰宅してすぐのことでした。
 マナーモードにして服のポケットに入っていたの
で、僕が気づかなかったようです。
 (今日は素敵な一日をありがとうございました。あ
なたと過ごせた何時間で、私はまた仕事も一生懸命
できます。実は、最近仕事の人間関係で悩み、気持
ちがへこんでいました。でも、あなたが私に会いに
来てくれて、そして抱いてくれました。それだけで
加奈子はとても幸せです。またいつかきっと会える
ことを信じています。さようなら)
という文面でしたが、義母の忠告の言葉もあり、自
分自身も反省の気持ちに深く浸っていたので、その
まま気持ち的にも感慨するものはなく、僕はそのメ
ールを急いで削除していました。
 そして少し思うことがあったので、僕はソファか
ら立ち上がり、義母の寝室に向かいました…。


      続く



 


16
投稿者:(無名)
2015/07/24 19:32:27    (NLwvyeq9)
早く続きを読みたいのですが、御自分のペースで今後も秀作をお願いします

17
投稿者:kkk
2015/07/25 05:18:33    (xObrVjb5)
野村女史の件は後に尾を引きそうですね~、それにしても若い女性との情交が勝手に舞い込んでくるなんて・・羨ましい。
義母さんの御指摘はもっともですね、匂いはご注意くださいな。
義母さんも、コウジさんに思いを寄せているような状況ではないでしょうか?
会長さんに何か言い寄られたような感じもありますが・・・気になりますね。
普段の生活での団らんの様子も書いて頂けると良いですね、どの様な振る舞いかを想像してみたいです。
18
投稿者:コウジ
2015/07/25 23:14:34    (d2/8H6qb)
「亜紀子、入っていい?」
 僕は義母の寝室の襖戸の前に立ち、少し神妙な声
でいうと、中から少しだけの間があって、
 「どうぞ―」
 という短い声が返ってきました。
 戸を開けると義母は机に向かって座っていました。
 少しばかりやつれた感じの小さな顔を横に向けて、
かすかに身構えるような視線を僕に投げつけてきて
いました。
 「さっきの話もだけど…それと少し話したくて…
いいかな?」
 この時の僕はおそらく子供が親に悪戯を見つかっ
た時のような、バツの悪い顔をしていたと思います。
 畳の上にゆっくりと腰を降ろして胡坐座りをして、
手で頭を掻きながら、
 「昼間だけど…実は若い女の子と会ってた。…亜
紀子も知ってる子だ」
 「…野村加奈子さん?」
 「うん…前から何回も連絡あって」
 「私の昔の教え子って、もう知ってるんでしょ?」
 「うん。言い訳でも何でもないんだけどね、長い
身の上話のメールや電話もらったりして、向こうか
ら一方的にいい寄られてしまって」
 義母は椅子から立ち上がり、僕の前に少し距離を
置くようにして正座してきていました。
 「私が入院中にもね…あの子、あなたのこと色々
聞いてきてたの」
 それは僕には初耳の話でした。
 「…もうあなたも聞いてると思うけど、あの子も
高校の頃に家庭のほうで、色々大変なことあったみ
たいね」
 「恩師だからやっぱり相談受けてたんだ…」
 「聞いてあげただけで、何も力にはなってあげて
いないのだけど。でも、あなたとのことは…あの子
の、女の子としての個人的な感情の問題よ」
 「…よくわからない子だ」
 「あの子と…関係したの?」
 「それを告白しにきた」
 「今の私があなたからそれを聞いて、どうこうす
るとかは…もうできないでしょ?」
 「亜紀子に正直に話しておきたかっただけだ」
 「だって…私自身がもう、あなたとこうなってし
まっているのだもの。彼女をどうこうとはいえない
わ」
 「後悔してるんだね…」
 「してるわ…でも、あなたを責めているのじゃな
いわよ。何度もいってるけど、仮にもあなたの親で
ある私が愚かなだけなの」
 「亜紀子とのことは失くしたくないっ」
 「野村加奈子さんのことは、今は私が気づいただ
けだから、まだいいの。…でも、私とあなたとのこ
とを娘に知られたら、私はきっと生きていない。い
え、今こうして生きていてはいけないのかも知れな
い」
 「亜紀子、僕は君ほど賢くない。難しいいいかた
しないでくれ。亜紀子が僕を好きかどうかだけいっ
ておくれ」
 「そうだわね…。もう、何をいっても…私も浩二
さんを…好きになっているのだと思うわ。今日の夕
方、集会所に迎えにきてくれただけで嬉しかったわ。
…それに」
 「それに…何?」
 「あなたから…加奈子さんの、いえ、他の女の人
の匂いがした時の私は…少し嫉妬していたのかも知
れないわ」
 「そういってくれると、僕は単純だから嬉しいな。
亜紀子、これからは僕もきっと気をつける」
 「そうしましょ…前に浩二さんがいっていた、
『美しい嘘』っていう言葉を信じるしか…」
 「亜紀子、もう一つ…いい?」
 「何…?」
 「今日さ、集会所で会った自治会長の小村さんだ
っけ、あの人と最近で何かあった?」
 「どうして?」
 「いや、ずっと前っていうか、亜紀子と山登りす
るちょっと前かな?…たしか町内のドブ掃除の出合
いの日、あの人とたまたま一緒になったことがあっ
てね、少し話し込んだことがあるんだ」
 「…そう」
 「その時は何も気にはならなかったんだけどね。
ほとんどが亜紀子の話ばかりで…綺麗な人だとか、
自分と同年代なのにとても若く見えて聡明な人だ
とかね…亜紀子の息子の僕も嬉しい気分では聞い
てたんだけど…」
 「そんなことあったの…」
 「その時の最後にね、何かを亜紀子にお願いし
てあるとかっていってて…途中で自治会長が誰か
に呼ばれて、尻切れトンボみたいに終わっちゃっ
たんだけどね…何か頼まれてた?」
 「…町内行事の何かかしら?」
 「ごめん、今までいうの忘れてた僕も悪いんだ
けどね。…帰りの車の中で、滅多に人のことを悪
くいわない亜紀子が、あの人好きじゃないってい
ったもんだから、ちょっと気になってね」
 「何もないわよ…」
 義母とこれだけの言葉のやり取りは、その内容は
別として、おそらく由美と結婚してこの家に入って
から初めてのことでした。
 不埒な欲望に負け、義母の身体を抱く時の心地よ
さとはまるで違う、妙に心が洗われるような気持ち
のよさを僕は感じていました。
 しかし、野村加奈子の話の頃は理知的で澱みのな
い口調で、僕との視線も逸らすことはなかった義母
でしたが、終わり頃の自治会長の話のくだりあたり
では彼女の表情が何故か曇りがちになっていたのが、
僕には少し気になることでしたが、それをおし隠す
ように明るい声で、
 「先にお風呂入るよ」
 とそういって僕は立ち上がり、義母の寝室を出ま
した。
 妻の由美が帰宅したのは十時前でした。
 ジャージー姿で疲労困憊の表情のまま、ダイニン
グの椅子に倒れこむように座った由美の顔を、僕は
少し眩しい気持ちで見ながら、労を労う言葉をかけ
ました。
 疲れて帰宅した娘のために食事の用意をする義母
も、僕と同じ思いでいるのだと思いました。
 「…苛めの問題はどうにかカタがついたと思った
らね。今度は女子生徒の援助交際問題が出てきたの」
 化粧もすっかり落ちた顔をさらにげんなりさせて、
義母の出した味噌汁を啜りながら、誰にいうともな
く話していました。
 「中学生でかい?」
 と僕が聞き返すと、
 「この頃の子は発育がいいから三年生にもなると、
もう大人とは見境がつかない子もいるんだから。ま
だ疑いだけで表沙汰にはならないんだけど、ほんと、
今の親御さんって大変ね」
 「そうだね…」
 「あなたも気をつけてね」
 由美の冗談口調の言葉でしたが、僕は今日の野村
加奈子のこともあり、少し心を抉られるような思い
になりましたが、
 「若い子には興味ないね」
 と素知らぬ顔でいいましたが、自分でいったその
言葉にも僕は内心でドキリとしていました。
 それから一週間があっという間に過ぎました。
 週の半ば頃に、僕の携帯に野村加奈子からのメー
ルが入っていました。
 (…あなたと会えない日が何日も続くと、私、気
が狂いそうになります。でも、あなたに抱かれた日、
私はどんなことがあっても、あなたには迷惑をかけ
ないようにしようと誓いました。加奈子はいつまで
も待っています)
 義母に釘を刺されたこともあり、心が不安にざわ
めくような文面でしたが、僕は返信をしないまま
で済ませました。
 それよりも残念なことが義母のほうに起こり、週
末の二人きりの逢瀬の時間が消滅したのです。
 町内会行事で土曜も日曜も、義母が外に出かける
ことになったのです。
 土曜日は市役所の住民課が主催する主婦を対象と
した買い物バザーに出て、日曜日は町内のバスでの
日帰りの小旅行で、近場の温泉に行くとのことでし
た。
 どちらも前から決まっていた行事のようでしたが、
身勝手な僕からすると残念この上ないことでした。
 土曜日の行事は別として、日帰りの温泉旅行は、
三人での食事の時に、義母は気が進まないといって
いたのを、由美が足の治療のためにもなるから行っ
てきたら、と強く勧めたので決まったことでした。
 野村加奈子のことをほんの少しだけ気にかけなが
ら、僕は義母の日記を読むことに専念すると決めて
いました。
 そして土曜日の朝、由美は早くに学校の部活に出
かけ、僕が義母を車でバザー会場まで送り届けるこ
とになりました。
 会場は家から二十分ほどのところにある市民会館
でした。
 「ああ、亜紀子のいい匂いがする」
 亜紀子を助手席に乗せ車を出してすぐに、僕は鼻
先をわざとクンクン鳴らしていいました。
 洗いざらしのジーンズに、白のざっくりとしたタ
ートルネックのセーター姿が、色白の小ぶりの顔と、
少し薄めの赤のルージュの色と相俟って、義母の年
齢をさらに若く見せている感じでした。
 「若く見せ過ぎかしら?」
 と義母がはにかんだような声でいってきました。
 「そんなことないよ。センスのいい着こなしだ」
 「ありがとう…」
 「ああ、あ…今日は一緒にいたかったのになぁ」
 とハンドルを両手で握り締めながら、僕は本音
の言葉を吐きましたが、義母からの返答はすぐには
なく、市民会館の駐車場に着き車から降りる時、
 「ありがとう、助かったわ…私もよ」
 と顔を少し朱色に染めていったのでした。
 義母が車を降りる間際にいった言葉に、単純な僕
は気分をよくして帰宅しました。
 義母の寝室の机の一番下の引き出しから、何冊か
のノートを取り出し、僕は椅子にどっかりと腰を下
ろしました。
 机の隅に冷蔵庫から持ってきたペットボトルを置
いて、下から三冊目のノートを捲りました。
 義母の日記は毎日を書いているのではないという
ことはわかっていました。
 日常の出来事で印象に残ったことを短く書いてい
るのもあり、家族のことも、当然娘の由美のことが
多いようでしたが、気づいたことや思ったことを、
綺麗な字体で淡々と書き記しているのがほとんどで
した。
 その中から僕は義母の、女としての出来事の人に
は話せない部分を探すのでした。
 五年前に亡くした夫のことや、僕との結婚前後の
時の娘のことも書かれていました。
 因みに、由美との結婚の承諾を求めに僕が初めて
この家を訪ねた時の、義母の感想は以下の通りです。
  
     九月二十五日
 
 由美の彼氏と初めて対面する。
 木下浩二。市役所に勤務する三十二歳。
 由美よりも三つ年下。
 公務員らしく男性にしては物腰の柔らかそうな青
年。
 緊張からか私への挨拶の言葉は、噛んだり詰まっ
たりだったが、おとなしそうな性格で、我儘なほう
の由美には丁度いいのかも知れない。
 「由美さんを必ず幸せにします」
 という言葉だけは噛むことも詰まることもなくい
ってくれたのが印象的だった。
 こちらの条件の婿養子でという問題もクリアでき
るなら、娘の希望は叶えてあげたいというのが母親
の私の結論。
 夜、一人で座敷の仏前に報告する。

 と書かれていました。
 そして何冊目かのノートをペラペラ捲っていて、
青木という文字が何度も書かれている頁を発見しま
した。

     十一月五日

 四日前の夜、学校側の犯した不始末のお詫びのた
め、青木良太という児童の家を訪ねる。
 午後八時前、市営住宅団地の一室のチャイムボタ
ンを押す。
 両親が離婚していて、建設業に従事する父親との
二人暮らしとのことだった。
 チャイムボタンを押す少し前、私の胸にかすかな
不安が過ぎっていた。
 自分も行くといっていた児童の担任も同行させる
べきだったか、という後悔が少し湧いた。
 ただ、担任が行くと不始末の細かい説明まで求め
られたりするとまたやっかいな話になり、今夜は女
教師の自分がいって丁重に謝辞を尽くすのが至当と
考えたのだ。
 責任転嫁するつもりはないが、事前に校長からも
できるだけ波風の立たないようにとの内命が私にあ
ったのだ。
 ドアが開いてすぐに父親の青木が出てきた。
 短く刈り上げた頭とぎょろりとした大きな目が特
徴的で、赤ら顔の男だった。
 ドアが開くと同時に、酒臭い空気が私の鼻をつい
た。
 夜分の訪問の詫びと趣旨を、酒の臭いが強くする
赤ら顔の父親にいった。
 父親は児童が近くに住む祖母の家に行っていて不
在だといった。
 この時に私は、そこで児童の家から無理にでも辞
するべきだった。
 学校側の詫びの趣旨は納得したが、子供のこれか
らのことについてどうしても話しておきたいことが
ある、と父親の強い口調に圧倒され、私は中に入っ
たのだ。
 着ているコートの中の背筋が、十一月の夜の底冷
えのせいだけでなく、うすら寒くなる思いだった。
 そして私の予感は的中した。
 雑然とした居間に通されてすぐだった。
 座ろうとした私の背後から青木が襲いかかってき
たのだ。
 青木の固く引き締まった筋肉の両腕に包み抱かれ
るようにして、私は居間から引きずられ布団が敷か
れている六畳間に連れ込まれた。
 布団に仰向けにされて、青木に腹の上に跨り座ら
れ、コートから衣服の全てを私は剥ぎ取られた。
 抵抗は当然強くした。
 声も大きく叫ぶように出した。
 泣き、叫び、喚きながら手に拳を作って力の限り
抵抗したのが全て徒労に終わり、私は青木のつらぬ
きを受けてしまった。
 私の身体の中に青木のものが侵入し、酒臭い息を
吐き散らす彼の口で口を塞がれた時、私のかすれか
けようとしている脳裏に、もう何十年かも前の雨の
夜が小さく宿り出してきていた。
 田舎の教員宿舎で、豪雨の中、地方訛りのある名
前も知らない男に犯された時の光景だ。
 事情はどうあれ、私は愚かにも同じ轍を踏んでい
るのだった。
 青木につらぬかれながら、そう思うと哀しさが込
み上げ、涙が止まらなかった。
 酒臭い青木の息がまるで毒ガスのようになって、
私はあるところから意識を失くした。
 どれくらいの時間、意識を失くしていたのかわか
らなかった。
 布団の上に全裸で仰向けにされていた私の真横に
青木が酒の臭いを強くさせて寝そべってきていた。
 何が起きていたのか、すぐにはわからないくらい
に、私の意識はまだ茫然としていた。
 青木の手が私の乳房をまさぐっているのが茫然と
した意識の中でどうにかわかり、私はその手を払い
除けようとした。
 しかし青木の手の力は強く、払い除けることは叶
わなかった。
 「先生、あんた年繰ってる割りには、すげぇいい
身体してんな」
 私の乳房を揉みしだく動きを続けたまま、青木が
顔を起こしていってきていたが、次第に意識が回復
するにつれ、陵辱された哀しみが込み上げてきてい
る私に言葉を返す気力はなかった。
 「あそこは若い娘みたいに小さくて、締まりもよ
くて、五十は過ぎてるだろうに湿り気も充分だった
ぜ」
 青木のそんな下卑た言葉は無視して、私は早々に
ここを出るために身体を起こそうとした。
 すると青木の身体が素早く動いてきて、私の身体
の上に覆い被さってきた。
 身動きの取れなくなった私の顔に青木の赤ら顔が
近づいてきた。
 唇を強引に塞がれた。
 酒臭い青木の息が私の口の周りに充満した。
 一瞬、歯を閉じるのが遅く、青木の舌が私の口の
中に勢いよく飛び込んできていた。
 青木の上から押さえつける力が強く、私は顔も動
かすことができず、ただ声にならない声で呻くしか
なかった。
 長い時間、唇を塞がれ、口の中で舌を縦横無尽に
這わされた。
 酒の臭いの混じった唾液が、幾度となく私の喉の
奥に流れ落ちた。
 青木の片手が私の乳房を長く揉みしだきまさぐっ
たままだった。
 私の意識がまだ失くなりかけようとしていた。
 身体の中のどこかから、無意識的に熱い何かが湧
き上がろうとしているのが、おぼろげになりかけて
いる気持ちのどこかでわかった。
 不覚なことだが、身体全体が知らぬ間に熱くなり
かけていた。
 私の狭い口の中で縦横無尽な動きを続ける舌と、
乳房を飽くことなく揉みしだく青木の前に、私の理
性の心が脆弱を飛び越えて、一気に消失しようとし
ていた。
 強引な力で乱暴に恥ずかしく犯されたはずの自分
なのに、それとは真逆の女としての妖しい官能の炎
が燃え上がろうとしてきていることを、私は自ら認
知し始めていた。
 そしてついに青木の執拗な愛撫の前に、私は恥ず
かしくも屈した。
 しばらくして青木が布団に立ち上がり、私も腕を
掴まれ座らされた。
 私の顔のすぐ前に青木の股間があった。
 青木の手が私の髪を乱暴に掴んできた。
 顔の前に青木のものが勃起状態で真横に突き出し
ていた。
 何を望まれているのかが、女の官能の炎が点火
状態になった私にはおぼろげにわかった。
 私の手が自然な動きで青木のものに添えられ、顔
がその部分に近づいた。
 青木の固く怒張したものを含み入れるために、私
はゆっくりと口を開いた。
 青木のものは私の口の中には入り切れないくらい
の大きさだった。
 私は何度もえづきむせ返った。
 それでもどうにか顔を前後させて、私は青木のも
のを愛撫した。
 青木にこの室に連れ込まれ犯されてから二時間も
経っていないはずだった。
 ほとんど暴力的に犯されたはずの自分が、犯した
男の前で隷従に近いかたちで、卑猥な奉仕を続けて
いる自分が自分自身でわからない状態に、私は陥っ
ていた。
 長い時間その行為を続けさせられ、私の口の周り
は涎と唾液にまみれ滴り濡れきっていた。
 やがて男のほうが私から離れ、前に屈み込んでき
た。
 「入れてほしいか?」
 と青木が聞いてきた。
 私は頷いていた。
 「そこに這え」
 そういわれ、私はいう通りにしていた。
 四つん這いになった私の背後で、青木が膝を立て
た。
 青木がいきなりつらぬいてきた。
 股間を引き裂かれそうなくらいの痛みが走った。
 その後にすぐに気が狂いそうなくらいの快感が、
私の全身を襲った。
 一年ほど前に私は夫を亡くしていた。
 亡くなる前、夫は病気を長く患い、夫婦の生活は
何年も途絶えていた。
 そして私は五十七歳だった。
 もう女であるはずがなかった。
 もう女であるはずのない自分が、初対面のしかも
つい何時間か前に暴力的に犯された男に、屈辱的な
姿勢でつらぬかれて、女として恥ずかしく喘ぎ、悶
え狂おうとしているのだ。
 好きとか嫌いとかではない。
 男と女の恋や愛でも当然ない。
 私の女という動物の本能の部分の、どこかに狂い
が生じてきているのかも知れなかったが、私は青木
という初対面の男の前で、淫らな痴態を晒し、はし
たなく喘ぎ、悶え狂い、脆くも陥落したのだ。
 それだけではなかった。
 私はあろうことか青木に、今後も隷従することを
誓わせられたのだ。
 死にたい気持ちで青木の家を出た私に、十一月の
夜風はことさらに冷たく吹いた。
 唯一の救いは、青木のほうから児童のことで今後
一切、学校側には苦情の申し立てはしないと約束し
てくれたことだった。
 あくる日、学校長にはこのことだけを、私は事務
的に報告した。

 僕が以前に、例の卑猥写真を見せて義母から自白
的に聞き出し、想像的に書き記した内容と似ている
ところもありましたが、彼女の青木に対する心理の
微妙な変動は、僕の想像よりもう少し飛躍した生々
しい記述になっていました。
 それから十日後の日記にも、青木の名前が幾度と
なく羅列されていました…。

     続く
19
投稿者:kkk
2015/07/26 06:36:16    (DKjqjtTh)
義母さんんはコウジさんに思いをはせるようで良かったですね。
心配なのは奥様の悟られないかどうかだと思うが・・・。
日記の件は楽しみであり、嫉妬の材料になるのかもね・・・でも、ストーリーには欠かせなくなりましたね。
野村女史との関係が尾を引きそうではないでしょうか?
楽しみに次作もお待ちしています。
20
投稿者:コウジ
2015/07/27 16:28:25    (xPLGHgmw)
十一月十六日

 青木から電話があったのは、一昨日の二時過ぎだ
った。
 学校の用務で市の教育委員会に出かけて、帰りの
車中で一人だったのが幸いした。
 青木に力づくで犯されたあの日、屈辱と慙愧の思
いで彼の家を辞する前、
 「俺は機械物に弱いから、俺の携帯にあんたの名
前と番号入れてくれ」
 といわれ、まるで意思のない夢遊病者のように茫
然自失状態だった私は、逆らうことなく自分の手で
彼の携帯に自分の名前と番号を入力させられていた
のだ。
 それまでにも一度、青木から電話はあった。
 あの日から三日目の夜遅い時間で、私はお風呂上
りでパジャマに着替えて、自分の室の鏡台の前に座
っている時だった。
 発信者の名前の出ない着信に、私はすぐに青木と
直感した。
 運悪くマナーモードにしていなく、その携帯音を
私はしばらく無視したが、無情の音はいつまでも長
く続き鳴り止まなかった。
 着信ボタンを押すと、やはり青木の声だった。
 「先生、夜分に悪いね」
 という言葉とは裏腹の身勝手さがあからさまな、
低く大きなダミ声が耳をついてきた。
 「困りますっ…」
 私は押し殺すような強い声で、不快感を露わにし
て短くいって携帯を切ろうとした。
 「少しだけ付き合ってくれ。おい、電話切るなよ」
 青木の低いダミ声は、酒を飲んでいるのか呂律が
少し廻っていない感じだったが、声は鋭く、私に有
無をいわせないような強い響きだった。
 それからの青木の言葉は、私が思い出したくもな
いあの夜の陵辱をクドクドと独り言のように、下品
で卑猥極まりないものだった。
 「先生、あんた聞いてくれてるのか?」
 ほとんどこちらから言葉を返すことのない会話に
青木もさすがに苛立ったのか、怒ったような声が返
ってきた。
 「はい…」
 「…あんたがもう少し若かったら、俺はどんなこ
としてでもあんたを俺の嫁にしてるな。いや、今だ
って俺はその気でいるぜ。女としては、あんたは最
高の上物だよ」
 「………‥」
 「残念ながら、ほとんどがまだ未開拓のままみた
いだけどな。勿体ねぇことだ。…先生よ、あんた自
身もそのことにはまだ気づいていないようだな」
 「…気づきたくも。…あの、もういいですか?」
 「あの時、二度目の時よ。あんた、どこでどう変
わったのか知らねぇが、俺にしがみついてきていよ
なぁ」
 「…もう、切ります」
 「もう少しだ。…最後の時、あんた、俺の背中に
爪立ててよ、好きっていったぜ。くくっ…いい顔し
てたよ、あの時は」
 酒に酔った青木との下品で卑猥極まりない言葉の
やり取りは、三十分近く続いて終わった。
 そして一昨日の彼からの電話は、今夜の六時に駅
裏公園の駐車場に来い、という一方的な通告だった。
 彼の目的が一目瞭然とわかる、下卑た笑いを含ん
だ声に私は声を噤んだ。
 コンビニの広い駐車場に車を止めた私は、無論断
固とした声で強く拒絶したのだが、結果としては青
木の脅迫じみた強引さに屈し、拒むことはできなか
った。
 駅裏公園の駐車場の街灯の明かりが際立ち始めた
刻限に、私は青木と会い、彼のワンボックスカーの
助手席に乗せられた。
 青木は仕事帰りか、ニッカポッカの太いズボンに
セーターとベスト姿だった。
 娘の由美に、学校行事で帰宅が遅くなるから夕食
もいらないと、苦しい嘘のメールを送信したのが死
ぬほどに哀しかった。
 青木の車は、薄暮から薄闇に変わろうとしている
道を郊外に向けて走った。
 私のほうから話しかける言葉は当然になかったが、
青木のほうも最初の軽い言葉だけで、黙々とした表
情で車のハンドルを握り締めているのが逆に不気味
に思った。
 やがて青木の車は郊外の国道の信号のあるところ
を左折した。
 薄闇の田園が広がる道の先に、幾つもの色の派手
なネオンの点いた黒い大きな建物が見えてきた。
 「いやっ、嫌よっ」
 その建物に近づく直前に、私は叫ぶようにいった。
 しかし青木の車はそんな私の声を無視して、高い
塀に囲まれた建物の入り口に入った。
 シャッターの中に青木は黙ったまま車を入れた。
 「降りろっ」
 車のエンジンを止めると青木が、私に有無をいわ
さないような厳しい目を向けてすぐにいってきた。
 止めた車の後ろにあるドアを開けると、薄暗い照
明の廊下が続き、少し明るいホールのようなところ
で室番号が写真付きで示されたボードがあり、青木
が手馴れた手つきでボタンを押した。
 ここがラブホテルと称される建物だということは
わかっていた。
 無論、私自身には初めての体験である。
 車を降ろされてから生きた心地のしないまま歩か
された私は、狭いエレベーターに腕を引かれるよう
にして乗せられ三階に止まり、ある一室のドアを潜
らされた。
 カビ臭いような暖房の空気が最初に鼻をついた。
 薄赤い扇情的な照明の広い室内の中央に、丸いか
たちをした大きなベッドがあった。
 ベッドの正面の棚に大きな画面のテレビが置かれ、
右側の壁一面が透明のガラス貼りになっていて、ガ
ラスの向こうの浴室が丸見えだった。
 息が詰まるような怖気と絶望を感じたまま、私は
床に立ち竦むしかなかった。
 青木はさも手馴れた動きで、浴室のほうに入って
バスタブに湯を入れにいったり、冷蔵庫から缶ビー
ル取り出し、隅にある椅子にどっかりと腰を下ろし
てビールを旨そうに一気に喉に流し込んでいた。
 「コートぐらい脱げよ、先生よ」
 喉に唾液も通らないくらいに緊張し、怖気に肩を
震わせて立ち竦んだままの私に声をかけてきた青木
が、やおら立ち上がりこちらに近づいてきた。
 「先生よ、あんたを車に乗せた時から、俺のもの
はもうびんびんよ。早速で悪いがズボン脱がせて舐
めてくれるかい?」
 「わ、私…こんなことするために来たのではあり
ませんっ。…か、帰りますっ」
 それだけをいうのがやっとだったが、立ち竦んだ
身体は言葉とは裏腹に、まるで金縛りにでもあった
ように、そこから一歩も動けなかった。
 それどころか、青木の手が私のコートにかかり脱
ぎ下ろしてきていることにも、私は何一つ動けない
でいたのだ。
 青木の男の体臭と、つい今しがた飲み干したビー
ルの入り混じった臭いが私の鼻腔をついてきていた。
 コートとスーツの上着を、薄ら笑みを浮かべなが
ら脱がせてきている青木の精悍な赤ら顔が、私の耳
元に近づいていた。
 仄熱い青木の息が、私のその耳元にそよぐように
靡いた時、自分を動けなくしていた金縛りが何故か
解かれたような気がした。
 情けなく愚かなことだが、私はそこであっけなく
陥落した…。
 セーターとスカート姿で、私は青木の前に膝まづ
いていた。
 彼のニッカポッカのズボンの太いベルトのバック
ルに、私は手をかけていた。
 青木のズボンが足元に落ち、派手な色のトランク
スが見えた。
 そのトランクスの中央の布が、テントを張るよう
に真横に突き出ていた。
 そこに私は手を添えた。
 青木の固くいきり立ったものの感触が、トランク
スの布越しに私の手に淫靡に伝わってきていた。
 トランクスをゆっくりと下に下ろすと、青木の固
くいきり立ったものは跳ね上がるようにして飛び出
てきた。
 赤黒く反り返った青木のものは、弓矢の先端を何
十倍にも太く大きくしたもののように見えた。
 青木の脅迫じみた電話で呼び出され、否も応もな
くこのようなところへ連れ込まれた私だった。
 青木が私に電話してきた魂胆はわかってはいた。
 その邪淫で卑猥な魂胆に、私は最初から屈したの
では決してない。
 青木だけでなく、人間なら誰にも必ずあるはずの
良心を私は信じて、彼に改心と改悛をどこかで諭し
求めようとしたのだ。
 しかしその機会を一度も得ることなく、私は青木
にこの不浄の場へ連れ込まれた。
 その過程のどこかで、原因もわからないまま私は
崩れた。
 心も身体も自分の本意に反するように崩れ落ちた
のだ。
 つい今しがたの青木の体臭と、酒の臭いの混じっ
た息のせいなのかも知れないと、然したる根拠もな
く漠然と思った。
 私はトランクスの中から飛び出てきた青木のもの
に唇を添えていた。
 例えのない異臭が私の鼻にきつく刺激した。
 臭い汗と汚物の入り混じったような、普通の精神
なら不快に感じる臭いだった。
 その不快な臭いが、何故だかその時の私には逆効
果的に淫靡な昂まりを助長する臭いとなっていた。
 口の中に固くて太い大きな矢の先端を私は含み入
れていた。
 正常な精神と理性が消滅してしまっているのが、
自分自身でわかった。
 この太くて固いもので、私はまた犯されるのだ、
という思いに私は知らず知らずの内に浸りきってい
た。
 青木のものを口で愛撫する途中で、彼が私のセー
ターをたくし上げてきて頭から脱がした。
 ブラジャーのホックも外された。
 青木が上体を屈めてきて、私の乳房を手でまさぐ
るように揉んできた。
 しばらくして私は青木に抱え上げられ、丸いベッ
ドの上に放り投げられるように転がされた。
 スカートのホックが外し取られ、パンティストッ
キングとガードルとショーツが、青木の手で一気に
脱ぎ下ろされた。
 いつの間にか青木もベストとセーターと脱ぎ捨て
ていて、赤黒く日焼けした贅肉のない上半身まで露
わにしていた。
 仰向けにされた私の目が天井を向いた。
 自分のあられもない裸身が全面鏡張りの天井に映
し出されていた。
 口に手を当て驚く私の身体の上に、青木の赤黒い
上半身が覆い被さってきた。
 「ああっ…」
 高く昂まった声を上げ、私は青木にしがみついた。
 「犯してっ…ああっ…あ、青木さんっ」
 「そうだよ、先生。その声とその顔だよ。あの時
と同じだっ」
 「抱いてっ…もっと強くっ」
 そこからはもう私が私で完全になくなり、自分で
もわからないくらいの熱い忘我の境地に堕ち、淫ら
な女としてはしたなく喘ぎ、悶え狂っていったので
した。
 青木に要求されることは何でもした。
 ベッドの上で、犬のように四つん這いにもなった。
 精液にまみれ濡れた青木のものを、私は口と舌で
きれいに拭い取った。
 浴室のバスタブの中で、青木のものを口で丹念に
愛撫した。
 強く吹き出すシャワーを自分の股間に当てられ、
はしたなく声を上げて悶えた。
 タイルの上に腰を下ろして座らされ、小便をしろ
といわれ、私はその言葉にも結果的に忠実に従った。
 「俺が好きになったか?」
 と聞かれ、私は頷いていた。
 「また会いたいか?」
 と聞かれた時も、首を縦に振っていた。
 これまでの女としての人生で、ただの一度も体験
したことのない愉悦に私は酔い痴れた。
 青木という男といる間中、私は自らの人生の全て
を失くしていいとさえ思った。
 その夜遅く、青木と別れる時でさえ、理性の大半
を戻した私の心の中の、妖しい女がどこかで寂しい
と呟いているのを何気に感じていたような気がする。
 もうどうにも救いようのない愚かではしたない女
だと、私は痛切に思い、深い悔恨の渦に沈み堕ちて
いた…。

       続く

(筆者付記)
 長らく飽きもせずお読みしていただいている皆様
には、感謝以外の言葉もありません。
 鋭い洞察力と理解力を発揮されて、拙文の端々から
推測をしてくださる皆様のご期待に、どこまで応えら
れるか戦々恐々の思いですが、もうしばらくの連載を
どうかご容赦願います。
 それと、私の信頼すべき知人の薦めもあり、次回か
らはここのサイトではなく、『官能小説の館』という
サイトにて、「義母・亜紀子」の主題名は変えず、啓
上させていただきますので、併せてこのこともご容赦
願います。
 今後ともご意見ご感想をよろしくお願いします。
  



 
  
21
投稿者:kkk
2015/07/28 05:43:39    (LWP0dIGj)
>私の信頼すべき知人の薦めもあり、次回か
らはここのサイトではなく、『官能小説の館』という・・・

失礼ながら、半信半疑で読ませて頂いています。
実話の様でいて、創作の様な・・・でも、うまく書かれており引き込まれますね。
亜希子さんの女の2面性と思慮深く、Mなところと性格がたまらないですね。

次回以降は、『官能小説の館』で、期待してお待ちしています。
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