2015/06/29 23:47:53
(Rvp7o/9y)
義母と二人で室に戻ったのはそれから一時間ほど
後のことでした。
浴槽の湯の中での交わりはおそらく二人とも初め
ての体験のはずで、絶頂の後、僕も義母もしばらく
動くことができず、長く抱き合ったまま茫然自失と
していました。
二人ともにパジャマ姿で布団に入ったのですが、
この室に入るまでに、また僕と義母の間に小さな悶
着めいたことがありました。
僕のほうが先に出て室に戻っていて、義母が小柄
な身体の腋の下にバスタオルを巻いて、重い足取り
で足を少し引きずりながら入ってきたのですが、い
きなり僕の前に神妙な顔をして座り込んできて、
「浩二さん…ここを出ていって」
と唐突に切り出してきたのでした。
平静な心と理性を取り戻している顔でした。
間髪を入れず、
「亜紀子、僕はもう説教は聞きたくないといった
はずだよ。そういうことをいえる権利は亜紀子には
もうない」
といい返して、少し厳しい顔で彼女を睨みつけた
のでした。
僕の厳しい声色と顔つきに圧倒されたのか、湯上
りの仄かに上気した顔を哀しげに曇らせて、義母は
いおうとしていた次の言葉を断ち、諦めたようにそ
の場を立ち上がり小股歩きで鏡台の前に身体を移し
ました。
鏡台の前のスツールに義母は力なく座り込み、悄
然とした暗い表情で鏡に目を向けていました。
やはりこういう時でも女の身だしなみなのか、化
粧水のようなものを顔に手早くつけ、それから横の
箪笥の前に立ち、小引き出しからショーツを取り出
しバスタオルのまま穿きました。
続いて大きい引き出しを開け薄水色のパジャマを
取り出し、明らかに義母は背後にいる僕の視線を意
識しているかのような、上着の裾に手を通しズボン
も穿いてからバスタオルを脱ぐという所作なのでし
た。
寡黙なままの義母の仕草を、僕は布団に座って目
で追いかけていたのですが、ふと妻の由美が寝室で
同じような所作をするのを思い出し、何となく母娘
は似るものだと思いました。
仕方なくというおそらくは忸怩たる思いで、義母
は僕のいる布団に近づいてきました。
湯上りの女の仄かで艶かしい匂いが、また僕の鼻
腔を妖しく擽るのですが、少し前に置時計を見たら
もう十一時を過ぎていたし、義母の疲れも考えて、
今夜はこのまま彼女の香しい匂いの中で寝ようと僕
は思ったのでした。
明日は夕方まで仕事でしたが、それからはまた義
母との長い時間が過ごせると思い、おずおずとした
仕草で、僕の横に背中を向けて身を横たえてきた彼
女を抱き込むように腕を回しながら、僕は目を閉じ
たのでした。
そして翌朝、目を覚ますと義母は布団にはいませ
んでした。
昨日の午後からの義母との飽くことのない熱い情
交の疲労感が、さすがに若い僕の全身にまだ残って
いるようなけだるさで室を出て洗面所に向かうと、
台所のほうで人の動き回る気配がありました。
義母が片足を引きずらせながら、僕のための朝食
と弁当の用意をしていてくれました。
「おはよう―」
と声をかけてやると、視線を合わせることなく聞
こえないような声で、
「おはよう…」
と返してきました。
薄いピンクのニットのアンサンブル姿で、白く整
った顔も薄く化粧されていて、ルージュの赤さが際
立って見えました。
山小屋の件以来昨日の夜まで、義母を義母として
ではなく一人の女として淫靡で邪淫な世界へ、図ら
ずも引き入れた僕への怒りや憎悪があって当然のこ
とですが、不機嫌そうな表情ではあっても台所で、
僕の朝食と弁当のために動く彼女の小さな背中を見
ると、少し複雑な気持ちになる僕でした。
「六時には帰るからね」
といい残して、妙な未練の少し残る思いで僕は勤
務に出かけました。
出勤途中の車中で、妻の由美に朝の挨拶メールを
送り、ふと義母のことを思いました。
もしかしたら、夕方に帰ったら義母は家にいない
のではないかというかすかな不安が頭を過ぎりまし
た。
出がけの玄関口で、僕は妻にも一度もしたことの
ない所作をしました。
彼女の肩を抱き寄せ唇を奪ったのです。
唐突な動きだったので、義母は逃げることができ
ずそのまま僕の唇の餌食となり、さしたる抵抗もす
ることなくされるがままにしていました。
理知的で賢い義母のことです。
今夜もまた娘の夫である僕に抱かれ、恥ずかしい
つらぬきを受け、はしたなく喘ぎ悶えさせられるこ
とを享受できるかどうか。
明日には娘が帰宅します。
今夜一晩なら足は悪くても、義母ならどこへでも
行けるはずです。
昨日みたいにまた昼から休暇願いを出して帰宅し
ようかという気にもなったのですが、やはりそれも
少し気が引け、そうならそうで仕方がないと思い直
し夕方を待つことにしました。
そして昼休みの時、僕はほうりっ放しにしていた
野村加奈子にメールを入れました。
(二度ほどしか会っていなく、親しく話してもい
ない僕に突然の長文のメールに驚いています。しか
も内容もあまりに驚愕的で返答のしようもありませ
ん。よければ一度お会いして話が聞けたらと思いま
す)
勿論、彼女からのメールを熟読した上でのメール
でした。
すぐに彼女から返信がありました。
(ありがとうございます。こちらこそ不躾な失礼
をお許しください。恥ずかしい内容ですが書いた
ことは嘘ではありません。ご連絡をお待ちしてい
ます)
自分の母親が再婚して半年も経たないある日の夜、
母が夜勤で不在の時に、高校二年の野村加奈子は
義理の父親に自宅で襲われ犯されたということでし
た。
必死に抵抗はしたようですが、四十代そこそこの
狼と化した男の力の前に適うことはなく、母が夜勤
で帰らないのをいいことに、長い時間、陵辱を受け
続けたようです。
そしてそのことを母に告白もできず、それから二
人きりになると、義理の父親に犯され続けるという
日々が長く続いたということなのでした。
当時まだ少女の野村加奈子は、当然義理の父親を
深く憎悪し、殺してやりたいという思いにも駆られ
たようですが、天罰が下ったのかどうか、その男は
一年後、高速道路で飲酒運転による衝突事故を起こ
しあっけなく即死したとのことでした。
加奈子のメールにはそのことも含めて、義理の父
親との情交のことでもう少し生々しいことが書かれ
ていました。
(…義父に犯されて二ヶ月ほどが過ぎた頃のある日
の夜でした。母は夜勤でした。義父が一人で家にい
ることはわかっていたので、私は友達と夜遊びをし
て帰宅したのは十二時過ぎでした。鍵を開けてこっ
そりと家に入ると、どの室も明かりが消えていたの
でほっと胸を撫で下ろした時でした。いきなり母の
寝室の戸が開き、義父に強い力で母の寝室に引き込
まれました。愕然とした気持ちで室に敷かれた布団
の上に倒され、私は衣服の全てを剥ぎ取られ、酒臭
い義父に覆い被さられたのでした。その時が義父と
五度目くらいの時でした。私は義父に犯される時は
いつもそうしてきたように、目を固く閉じ木偶の坊
のようになりひたすら時間の過ぎるのだけを待ちま
した。義父は私の身体に酒臭い息を吐き散らしなが
ら、私の唇を奪い粘々とした舌を口の中で這い巡ら
せ、乳房を揉みしだき、唾液にまみれた口で吸って
きたりしてました。その時でした、というか、私自
身にもよくわかってはいなかったのですが、突然、
身体のどこかに痺れみたいな熱い電流のようなもの
が流れるのを感じました。それは私には生まれて初
めての体感でした。閉じていた目を開けると、義父
の舌が私の乳房を這い巡っていました。身体のどこ
かが感じた痺れのような感覚が、自分の意思に関係
なく大きくなってきていることに気づかされ、私は
内心で狼狽え動揺しました。そして初めて感じる快
感のような熱い痺れは、義父に舐められている乳房
のあたりに集まり出してきているのがおぼろげにわ
かりました。義父の手が私の下腹部に下りていまし
た。何かに気づき、少し驚いたような表情をして顔
を上げてきた義父と目が合いました。「お前、すご
く濡れてきてるぜ」と義父が私の顔の前に、下腹部
に下ろしていた手を翳していきました。指の先が何
かで濡れているのが見えました。それが私の下腹部
からのものだと義父に知らされ、私はただ狼狽える
しかありませんでした。…そして私は義父のつらぬ
きを受けて、恥ずかしくも感じてしまい、しがみつ
いてしまっていました…)
野村加奈子は僕が義理の母親と、あってはならな
い肉欲の関係に陥っていることを知っていて、敢え
て自分の過去の、他人には話すことのできない体験
を僕に告げてきているのでした。
まして僕が関係した義理の母というのは、昔の自
分の恩師という奇遇も相俟っての、生々しい心情を
吐露したのだと思うしかありませんでした。
野村加奈子の、年齢よりは若く見える初々しくて
健康的で可愛い顔を思い浮かべながら、同時にもう
家にいる義母のことを気にし出していました。
夕刻に職場の同僚から誘われた飲み会も固辞して、
僕は早々に駐車場から車を出し家路への道を急ぎま
した。
団地内の道路に入り、中央の広い通りから細い道
に曲がると自宅の灯りがすぐに見えます。
台所の窓が煌々と明るくなっているのが見えまし
た…。
続く