大学を出てまあそれなりの会社に入ってはじめての赴任先
は地方の工場を兼ねた事業所だった。独身寮があるという
ことだったが、ワンルームのマンションという感じで賄い
とかなく、食事は自炊するか事業所の社員食堂でとるか、
通勤途上のどこかで調達するしかなかった。そんなわけで
外食が多くなり、飲み会の誘いも断ったことがなく、自然
に他の部署の女子社員やパートさんとも親しくなった。若い
女子社員とは話が合わなかったりして次第に疎遠になったが、
パートのおばちゃん受けはよく、何かにつけて誘われた。
ほとんどが自分の母親に近いようなオバちゃんで、こっちも
安心感があった。そんな中、一人、あまり目立たない、
カラオケなんかでもおとなしく聞き手にまわっていた一人の
女性がいた。数人のおばちゃんとカラオケに行くときは、
必ずいたが、彼女が歌ったのを見たことはほとんど無かった。
とある平日に休暇があって、お気に入りのステーキ屋で
ランチを摂っていた。昼間からワイン飲みながらちょっと
いい気分になっていると、一人で座っていた方をトントン
とたたき、「あら、T君、T君じゃない。一人でお食事?」と
声をかけてきたのが物静かな若いパート女性だった。
どう対応していいのかわからなくて、とりあえず、空いてる
席にどうぞといってしまった。今思い出してみると、顔は
拾人並み、現在の女優でいえば木村多江みたいな普通の感じ。
でも、話が妙にはずみ、ステーキを食べながら、ワインを
三本も空けてしまった。店を出る時はふらついていた。
木村多江さん似の彼女、名前はしほといった。二人で
ぶらついて駅まで来た時、しほさんが言いだした。
「お隣の駅からちょっと行ったところにある高台の公園
から町が一望できるの!」
酔っていた勢いもあって、是非、行きましょう!と息があった。
息は合ったが、高台の上に着いたときは息が切れた。たしかに
町が一望できた。すごい!と私は歓声をあげた。するとしほさん
「ここから見える夕日、とってもきれいなの。」
まだ、日没には時間があったが、夕陽が見えるベンチに
並んで座って雑談。時間は瞬く間に過ぎ日没。しほさんが
僕の肩に頭をもたげてきた。僕はどうしたらいいのかわからず
硬直していた。辺りは薄暗く、人気がほとんど、いや、皆無に
なっていた。緊張していた。すると多江さんが、姿勢を変えず
そのままの形で、言った。
「こういう時、男の人は優しく女性の肩に手を回すものよ」
「い、いいんですか?」
声が裏返ってしまったのが自分でもわかった。
「もしかして、こういうことはじめて? 彼女さんとかいたでしょ?」
「い、いえ。そういうのは・・」
「もしかして、経験、ないの?」
焦った。なんか、ヤバイ!週刊誌のエロネタ的展開じゃないか!
しかし、酔いは冷めてなかった。しほさんもそうだったと思う。
酔った勢いっていうんだなと妙に冷静。でも、体は反応していた。
「な、無いです!一度も」
「そうかあ、童貞だったのね。そうだと思った。」