「いつも悪いね、真理奈ちゃん。助かるよ」
義父のその声を聞くたびに、胸の奥が少しだけチクリとするようになったのは、いつからだっただろうか。
夫が地方に転勤となり、単身赴任してからもうすぐ半年。
その間、私は週に一度、義実家を訪ねていた。義父の一人暮らしが心配だと、夫が気遣ってくれたのがきっかけだった。庭の手入れや掃除を手伝い、昼食を一緒にとって、夕方には帰る。最初のうちは「嫁として当然」と思っていた。でも、今は違う。
私は、義父に会うたび、妙に意識している自分に気づいていた。
「暑い中、わざわざ悪かったな」
「いえ、いい運動です。家にいると、じっとしてるだけなので」
「お茶でも飲んでいけ。麦茶しかないけどな」
義父はそう言って、縁側に座り、少し汗ばんだ額をぬぐった。
その日、私は庭の草むしりをしていて、しゃがんだ拍子に足元の土で滑り、尻もちをついた。
「あっ…」
「おい、大丈夫か!?」
すぐに駆け寄ってきた義父の腕が、私の腰を支えた。
その瞬間、指先が――腰骨に、ほんの一瞬触れただけで、身体がびくりと反応してしまった。義父もハッとした顔をして、すぐに手を引っ込めたが、その空気の変化は確実だった。
「す、すみません…ちょっと、尻もちを…」
「そ、そうか…でも、腰、強く打ったんじゃないのか?」
「いえ、大丈夫です。少し汚れちゃいましたけど…」
私は立ち上がり、スカートの裾をパンパンと叩いた。
でも、内腿にまとわりつく汗が、妙に肌を意識させる。
「中で着替えていったらどうだ?Tシャツくらいなら貸せるから」
「え…でも、義父さんのなんて、大きすぎるし…」
「いや、それでも風邪ひかれたら困る。遠慮せずに」
その目は優しいけれど、どこか私の身体を測るような視線があった。
私はなぜか、それに逆らえなかった。
浴室の脱衣所で着替えながら、鏡に映る自分の身体を見て、深いため息をついた。
夫が出ていってから、触れられることもなくなった。
肌の温もりが恋しい、と思う夜もあった。
でも、それを義父に求めるなんて――。
義父のTシャツを着ると、膝上まで隠れるほどの丈だった。
まるで部屋着のようなその布に、自分が包まれていることが、奇妙な興奮を呼び起こす。
リビングに戻ると、義父が二人分の麦茶を準備していた。
「濡れた服、洗濯しとくから置いといてくれ」
「…すみません、ありがとうございます」
座敷に正座して、二人向かい合って麦茶を飲む。
空調の風が足元を撫で、裾が少しめくれる。
「…その格好、なんだか新婚さんみたいだな」
「ふふ、変ですよね。サイズ合ってないし」
笑いながらも、義父の目が私の太ももあたりに向けられていることに、気づかないふりをした。
沈黙。
長い、少し重たい沈黙のあと、義父がぽつりと呟いた。
「真理奈ちゃん…」
「はい…?」
「俺はな…ずっと我慢してた」
心臓が跳ねる。私は、麦茶のグラスをぎゅっと握った。
目を逸らすこともできず、そのまま義父の言葉を待った。
「嫁に、こんなこと思っちゃいけないって、自分に言い聞かせてきた。でも…今日の姿見たら、もうダメだと思った」
「……義父さん…」
「お前の、汗ばんだ肌も、無防備な脚も…全部、目に焼きついて離れないんだ」
その声は震えていた。
そして、それに反応している自分がいた。
理性が止めろと叫ぶ中で、欲望がその上を上書きしていく。
私は立ち上がり、義父の隣に腰を下ろした。
膝と膝が触れ合い、互いの呼吸が重なる。
夫の父。
それでも、私はこう言った。
「……触ってもいいですよ」
義父の手が、そっと私の太ももに置かれた。
震えていた。私と同じだった。
ゆっくり、膝から腿、そして腰へ。
布越しに撫でられるたび、背筋がぞくりとした。
「本当に…いいのか?」
「……ええ。私も、ずっと寂しかった」
座敷の畳の上に、二人並んで横たわる。
義父の指が私のボタンを一つ一つ外していく。
夏の午後の光が、障子越しにやわらかく差し込み、汗ばむ肌を艶めかせた。
「真理奈ちゃん…こんなに綺麗なのに、あいつ…何してんだか…」
「言わないでください…夫のこと…今だけは…」
唇を塞がれた瞬間、心の中の罪悪感がかき消される。
私は、抗わなかった。
肌と肌が重なり、畳の香りに混じって、湿った吐息が部屋に満ちていく。
動くたびに畳がきしむ音が、まるで背徳のメロディのようだった。
「もっと…ください」
自分で言ったその言葉に、自分自身がいちばん驚いていた。
告白の終わりに:
あれから、週に一度の訪問は「義務」ではなくなった。
私の中で義父は、ただの“家族”ではなくなってしまった。
「来週は、天気が良さそうだな」
「そうですね。庭、きっとまた草が伸びてますよ」
私たちは、また同じように芝生を抜いて、また同じように、畳の上で罪を重ねるのだろう。
私は、それを止めようとしない。