暴露
僕は母の笑顔の中で、ただただ『困惑』していました。僕は母の笑顔の中に、僕の『母親』としての『顔』だけではない、ひとりの『女性』としての『顔』を見ていました。
それは僕の日常の中で知らぬ間に整理され、記憶の中から排除されていた『顔』でした。それが急に目の前に掲げられて、『ホラッ』て感じで見せつけられました。
その『顔』を僕はすぐに思い出せなくて、異質で異常な『他人の顔』のように感じてました。つい、ちょっと前までは至極当然に、時々見せられていた『顔』だったのに、僕はすっかり忘れてました。
それは姉にとっても同じ事のようでした。チラッと横を見ると、僕以上のマヌケ面が『ポッカ~~~ン』と口を開けていました。
「ともゆき、『まさみ』、アンタたちに、兄弟(正しくは弟妹)が出来ま~す。」
母が満面の笑みで説明する『大事件』を、僕たちはようやく飲み込めました。母は母親なんだから、女性として『妊娠』出来て当たり前でした。なのに僕たちは、その『一面』をすっかり忘れていました。
僕たちはハッと我に返り、『困惑』の意識の中から肉体的『反応』を、大急ぎで掴み出しました。
『ぅがっむんグっどぅエ~~~~~~~~~~っ!?』
僕と姉の驚愕の叫び声が、けたたましくハモりました。
僕たち姉弟はいつの頃からか、日常生活の中で勝手に『母親役』だけを母に押し付けて、母を『女性』として見ないようになっていました。
僕なんか『母親』=『女性』の意識すら『凍結』し始めていました。それが『当たり前』だと勝手に思い込んで、自分たちに都合よく母の事を考えていました。
僕は『あいこ』が言ってた言葉を、ふと思い出しました。
(親だって、『男』と『女』だろ? ヤッてんのが当たり前だよ。)
あの時は、理解したくもなかった母の『セックス』でしたが、『あいこ』がホントに言いたかった事を、この時の僕は何と無くですけれど理解する事が出来ました。
『ヤッてたよ…。しかも、ガッツリ。』
『あいこ』の言葉を思い出しながら、『そうだよ、当たり前だよ』と頭の中で僕に言い聞かせる、もうひとりの『僕』がいました。
セックスを覚える前の僕だったら、照れ臭くて恥ずかしい気持ちで一杯にでもなってたでしょうか。姉のと違って『母の妊娠』は、僕にとってやけに『リアル』でした。
(俺の大事な娘だ。無責任に『妊娠』なんかさせるなよ。)
耳元で『あいこ』のお父さんの声が響きました。セックスが『スポーツ』だとか『あいこ』は言ってましたが、やっぱり『生殖行為』でしかない事を、母の笑顔は僕に証明していました。
『そうだよ…、出来ちゃうんだよ…。』
僕の頭の中にはバカ姉と、『あいこ』のマンコに思いっ切り精液をぶっかけてる光景が浮かんでました。ヌラヌラしながら卑猥にうごめくマンコに、白濁液をドクドク漏らしながらピクピクするチンポが、射精時の『恍惚感』を蘇らせました。
悲しい習性でチンポがムクムクと動き出してきました。でも、目の前の母の笑顔が、一瞬でチンポの充血をストップしました。
「だっ、だっ、だだっ、だ~~~っ、誰の子なのっ!?」
いきなり、トチ狂ったバカが愚問を叫びました。
『お父さん「の」、だよっ!!』
と、今度は僕と母のツッコミがハモりました。僕はチンポの冷却とともに冷静さを取り戻しつつありましたが、バカはまだ『困惑』の中の『混沌』の中にいるようでした。
「何でっ? え~~~っ!? 何でぇ~~~っ!?」
「何でってコトはないでしょう!? お母さんだって、『女』だもん。『現役』ですっ!!」
「うっそ…、マジで~? と、年じゃん? お母さん、今、いくつよ~!?」
「バカ言うんじゃないわよっ!! 40歳は立派に『現役』ですっ! 40歳でも妊娠したからには、立派に産んでみせますっ!!」
母はドヤ顔で出産を宣言しました。ちょっとバカっぽかったけど、その顔は新しい命を授かった女性として自慢げで輝いてました。何よりとっても嬉しそうでした。
「もっと、ちゃんとした形で、アンタたちに教えたかったわ…。なんで、二人とも裸でゲロしてたのよ?」
「だから~、それは、『リッちゃん』のせいなんだってば。」
「ともゆき…、この娘、さっきから何を言ってるの?」
母は英語の翻訳以上に面倒臭い、象形文字の解読作業を命じてきました。姉の『横顔』が入った『古代マヤの神聖文字』みたいな『バカ文字』を、僕はさっき姉が『鍋焼きうどん』を食べながら会話した内容から推測して、母に説明しました。
「姉ちゃん、お母さんが倒れて入院したから、自分の『体調管理』をしっかりしなくちゃって、思ったらしいよ。」
「あ~~~、そう、そう! 『麻生…たっ』、」
「『麻〇太郎』は、言わなくていいっ!!」
「だから『食生活』から改めてみる事にして、『鍋焼きうどん』を食べるコトにしたらしいよ。」
「…何で、このクソ暑い中で『鍋焼きうどん』なのよ…。」
「夏場は冷たい物に偏りがちだから~。」
「そんなに冷たい物ばっかり食べてたの?」
「…そこは聞かずに、スルーしておいて。」
僕はバカ姉がバカなりに母の急変を真面目に考えて、自分自信の事として受け止めていた(と希望的推測が出来る)事を説明しました。
「…ふ~ん、何か良く分かんないけど、お姉ちゃんなりに、お母さんを心配してくれてたんだね…? ありがとう。悪いコトしたわね。」
「そうよ。あたしだって、気遣うトコは気遣ったりして、ちゃんとしてんだから。」
ちゃんとしてる人は、裸になったついでに近親相姦をヤラないと思います。
「それじゃあ、これからはアンタもちゃんとしなさいよ? お母さんの手を焼かせないようにっ! お腹の子の面倒だけでも大変になるんだから。」
「大丈夫~ぅ。ともゆきにも面倒見てもらうから~。」
「え~~~っ!? 何で僕が~~~!?」
「だからぁ、『リッちゃん』も、妊娠したんだからさ~? ともゆきも協力しなきゃ、ダメじゃあ~ん!?」
「そうよ~~~ん。……………??? へっ!?」
「ん?」
「…『まさみ』ぃ? アンタ、今、『も』って言ったわよね? 『「リッちゃん」・「も」』って?」
「んん~?」
「何よ、それ………? 誰『が』っ、他に妊娠してるって~のっ!?」
「んんん~~~~~っ!?」
母の楽しげに晴れ渡っていた表情が、見る見る内に掻き曇りました。暗雲が垂れ込める中に稲光が走り出しました。僕の隣では必死に平静を取り繕うために、ガチガチに表情を固めているバカが、夕立のような冷や汗を正に降らしていました。
「えっ? アンタ、アタシが倒れたの見て『体調管理』とか思ったって…?? お母さんの言う事も聞かずに真冬にローライズ履いて、『ヘソ出し』『尻出し』で『ガリガリ君』かじって、お腹壊してたアンタが…???」
得意満面で調子に乗っていたバカが、『助けてっ!』とでも言いたげな情けない目で、都合良く僕を見つめてきました。勿論、そんな『救助能力』なんか持ち合わせていない僕は、その上をいく情けない顔をあさっての方向に背けました。
「何でアンタが急に『体調管理』なんて、真面目なコト考え出したワケ? えっ?」
母の追求は急に無茶苦茶鋭くなって、僕たちが掘ってしまった『墓穴』をザクザクと掘り下げてきました。
「ま、ま、まま、まさか…、『まさみ』、アンタ、妊娠して…、」
母が『爆弾』の『導火線』に着火しました。その火を消し去る『テク』も、その爆発から逃れる『チャンス』も、もう僕たちには残されていませんでした。
「とぼけないで言いなさいっ!? 妊娠『してる』のっ、『してない』のっ!? どっちなのっ!?!?」
バカは強いです。こんな崖っぷちに追い詰められても、逃げごまかせる避難場所を探してました。長い沈黙の後、バカな頭でそれが『不可能』だと悟った姉は、作り固めた表情を崩し出しました。
「う~~~ん、…『してる』ぅ~? ………っぽい、……………かなぁ~?」
苦し紛れのバカが取り繕った、精一杯の『ごまかし』は何の効果も無く、贅沢部屋の中に、強烈な爆発が起こりました。
「なっ、なっ、なななっ、ナニやってんのよォ、アンターーーーーッ!?!?」
母の飲みかけだった瓶から、怒りの振動を受けた炭酸水が勢い良く『ボシューッ』と噴き出しました。その泡がなぜか僕にだけ吹き掛かってきました。
母の怒りは僕たちへの『近親相姦疑惑』から、姉だけへの『未成年妊娠』に方向転換してしまいました。母の怒声は感情の高まりのまま甲高い『騒音』になり、僕には全く聞き取れない『轟音』になりました。
戦闘機の『爆音』のような、もしくは『爆撃』のような母の怒声が、容赦無く姉にガンガン降り注ぎました。でも、バカは開き直ったのか、涼しい顔をして炭酸水を口に含みました。
母の怒りの『爆風』を一身に受ける『墓穴を掘ったマヌケ面』を横目で見ながら、自分に火の粉が降り懸からないように、僕はじっと息を殺してました。
『ゲぇブぅ~~~うフっ!』
バカは突然、母の怒声を掻き消すほどの、デカ過ぎる音量のゲップを放ち、怒りの猛火にハイオクをなみなみと注いでました。