姉貴風
姉は腕を取って引っ張ると、よろける僕に肩を貸してくれました。寄せて上げまくりの谷間から、『危ないバイト』後特有の『いかにもな』匂いがしてきました。
自分の香水で打ち消すように、この匂いをごまかしていましたが、妙に甘ったるいような、頭の中が痒くなるような、なぜかイライラしてくる、この匂いが僕は嫌いでした。
「『りっちゃん』にボコられたんだ~? あはっ、受けるぅ~~~(笑)。」
今の今まで、僕が味わってきた悲喜こもごものエロい事情を、何も知らないバカが僕をバカにしました。ムカつきます。
バカ姉は、僕を自分の部屋に連れていくと、冷蔵庫からキンキンに冷えた炭酸水のビンを出して、腫れて熱を持った僕の顔に当てました。ちょっと心地好くて快感でした。
「ほら、特別にご褒美!」
いつも見せびらかすだけの姉が、顔に当ててる分とは別に、炭酸水の栓を一本抜いてくれました。ノドがカラカラだった僕は、何でもよかったので、ぐいっと一口飲みました。
何の感動もないショワショワが、口の中で一通り騒ぎまくると、嘘みたいに消え失せて行きました。口の中を切ったのか、地味~な痛みがジワリとしみてきました。
「『あいこ』と泊まったんでしょ?」
「…うん。」
ようやく気持ちが落ち着いてきた僕に、姉の事情聴取が始まりました。
「そんなんで、浮かれてるから殴られるのよ。バカね。」
「…浮かれてないよ。」
僕は床に寝転がると、冷たいビンを顔に押し付け、痛さと熱さでボンヤリとした頭も冷やしながら、昨日の事を思い返しました。下半身の血流が股間に集結してきました。
「ちゃんと『練習』通りに出来た?」
そう聞かれて僕は、姉との『練習』と、『あいこ』との『試合』の記憶を思い出しました。イイ感じの場面が次々に浮かび上がってきて、チンポが嬉しそうに跳ねました。
ラブホに入った時の、期待感が甦ってくると、チンポはビンビンと唸り始めました。でも直ぐさま、『うしろ蹴り』で襲い掛かってくる足が『ド、ズバッ!』と現れると、一瞬で『クタッ』と萎えました。
「…ううん。ダメだった。」
「エエッ!? 何でよっ!?」
「………、怒っちゃった。」
「『あいこ』が~?」
「……………、う~ん。」
「何やってんのよォ~ッ! バカじゃないの? バッカじゃないのォ!? あ~んた、バ~カじゃないのォーッ!!!」
バカにバカ呼ばわりされまくりましたが、自分が情けなくて返す言葉がありませんでした。しょうがないので、失神前のやり取りを説明しました。『パシッ!』とお腹を叩かれました。
「何、くっだらないコト聞いてんのよォ~!?」
「…だって、」
「『あいこ』が銀色履いて来たんだから、ヤリたくて来たのに決まってるでしょお~っ? 『決まってるでしょ~~~がッ!!!』」
ああ…、姉さん。あの『あいこ』の銀色パンティーって、そういう意味があったんだ………。ふぅ~~~ん。
………分かるかっ(怒)!?
僕は怒りが『メロス』のごとく沸き上がりました。バカ姉の『決まってるでしょ~~~がッ!!!』の言い方…、ワザワザ『北の国から』の『ゴロウさん』の似てないマネで、言い直してから姉貴風を吹かしまくるところに、一番ムカつきました。
「だいたいさぁ、ラブホに居るのよ~? 『あいこ』より『ピザ』優先って、どうゆうコトよっ!? えっ? どうゆうコトなのよっ!?」
僕は頭に血が上ってノーガードでいるところに、真正面からバカストレートを喰らいました。何の力みもなく、核心を『ズドン』と打ち抜く鋭いパンチに、僕の怒りはノックダウンさせられました。
「あ、ああ…、う、…ん。」
「ラブホなのよ? 『あいこ』優先でしょうがっ? マンコにチンポ入れたいから行ったんでしょう? 入れてから食べなさいよ! 食べる前に入れなさいよっ!」
…胃腸薬じゃないです。
「で、お腹いっぱいになって、どうしたの? ぼーっとしてたんじゃないわよね?」
…結果的に、そうなってしまいました。
「『あいこ』、裸? それとも下着つけてた?」
…微妙だなぁ~。ノーパンヒップは丸出しだったけど、バスローブは着てたから、裸じゃあないです。厳密に言えば。…でも、限りなく全裸に近いけどなぁ。
「…まさか、そのまま、ずっと…? ぼーっと見てただけじゃ、なかったよね? ともゆき。」
……………、えっ?
「これからさ…、ラブホのベッドに入ってさ…、一番楽しいコトやろうってのにさ…、アンタ…、見てただけ?」
「見てただけじゃ、ないよっ!」
「じゃあ、『あいこ』にナニして上げたのよ?」
「…だから、何でウチに来たのか、聞い…、」
「ああっ、もおっ、バカ過ぎ! アンタが弟かと思うと情けないわ!」
「何だよっ!、バカばっか言うなっ!?」
もともと会話が噛み合わない姉弟ですが、この時、僕は姉の言ってる意味が全く理解不能でした。『あいこ』が怒ってしまった事は、僕のうかつな一言が原因だったかも知れませんが、『その全責任は僕にある』みたいな言われ方をされました。『違うだろ!』と思いました。
「バカだから、バカって言われるんじゃんよ~~~っ!」
「ウッセーーーーーっ!!」
「あっ、生意気…。もうかまってやんな~~~い。」
僕は『まだ戦ってるッ!』つもりでしたが、このバカレフリーは、ノーカウントで試合をストップさせました。納得出来ない内に『恋愛ボクシング』を止められ、改めて『負け犬』の判定をされました。
僕はレフリーの制止を振り切って、無理矢理『恋愛ボクシング』を続行させようとしました。
「何だよっ! 僕、蹴られたんだよっ! 失神させられたんだよ!? キックは反則だよっ!!」
「あ? イミフ~~~。」
負けは負けかもしれないけど、ある意味『誤審』です。再戦をするためにも、納得のいく説明が欲しいです。『反則されて負け』じゃ納得出来ません。
必死に説明を求めるボロボロの敗者に、事もあろうかレフリーが、トドメの一発を振り下ろしてきました。もう反則を通り越してルール無視です。
「…フラれるよ。」
まるで『死神の鎌』のような一言に、僕の脳みそは激しく揺さ振られました。倒れたサンドバッグのようになって、蹴って、蹴って、蹴りまくられる、『「ショウたん」の惨劇』がフラッシュバックしてきて、僕は吐きそうでした。
「あゥワッ、ウワッ、ウワッ、ウワーーーーーッ!!!」
「ぬおっ! 何なの、いきなりっ! ホントに、壊れた?」
「うあああ~~~~~ん。」
僕は情けないコトに、バカ姉にすがって泣いてしまいました。『あいこ』が怒った理由も解らず、全身全霊で困惑してるところに、さらに困惑する『フラれる』の一言を浴びせ掛けられて、全身全霊で恐怖しました。
「ねっ、ねっ、姉ちゃーーーん!?」
「…うるさいって。お腹の子に響くで『しょ~がっ』!」
混乱しまくってる僕の頭の中は、『恐怖』の感情しかありませんでした。やっと通り抜けてきた『あの戦場』に、また狩り出されれるかと思うと、恐くて怖くて泣く事しか出来ませんでした。
「姉ちゃ~~~ん、姉ちゃ~~~ん(号泣)!!!」
「うっとーしいッ、泣くなっ! 泣く前にやる事『あるでしょ~~~がっ』?」
「な、な、な、なにィ~?」
「『あいこ』に、謝ってくればいいでしょ~?」
「で、で、で、でもォ~~~っ、」
「…うっさいっ! すぐ謝りに行けって! とりあえず。」
「うあ…、うお~~~ん。」
「…もう、手~がかかるっ! うっさいっ! 静まれっ!」
姉は、情けなくひたすら号泣する僕の代わりに、『あいこ』に電話を掛けてくれました。僕はどさくさに紛れて、姉の生太ももに顔を埋めてました。最低です。